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CM1をじっくり聴き込んだ後、CM5の試聴を行う山之内氏。特に低音の制動力が進化していると評価 |
コンパクトな2ウェイブックシェルフのCM5の最終的な追い込みは、800シリーズやSignature
Diamondの開発でもおなじみのベテランエンジニア、ジョン・ディブ博士が担当した。CM5の音調は、低音の質感に対する同氏のこだわりをはっきりと聴き取ることができた。
CM1も低音がよく伸びるスピーカーであり、その周波数バランスにはなんの不満もないが、その良さを受け継ぎつつ、CM5はすっきりとした制動感のある低音に進化している。
ヤルヴィのベートーヴェン交響曲第7番で低音の余韻に余計な付帯音が残らず、すっきりとした演奏の特徴をとても素直に引き出していることがその進化の証だ。低い音域にたっぷりエネルギーが乗っているマリンバの演奏でも、その素直な低音のメリットを実感することができた。
一つひとつの音の粒立ちがクリアで、打点が明瞭な点はCM1と共通だが、CM5はそこに密度と芯の太さが加わり、それだけ音の実体感が増す印象を受けた。それにしてもCM1の音はいま聴いても鮮烈な響きをまったく失っておらず、藤田恵美が歌うギター伴奏のボーカルでは、そのリアルな質感とアコースティック感の描写のうまさに舌を巻く。聴き比べればCM5の方がギターのアルペジオがさらにクリアで発音にゆとりがあり、声のトーンもより幅が広いと感じるのだが、それは今回のように完全な同一条件で厳密に比較して初めてわかること。そこまでシビアな比較でなければ、音調が近い姉妹機として両機種に共通点が多いことの方が記憶に残るだろう。
そのことを前提に、あえて両者の違いをもう一つだけ紹介しておこう。低音は量感自体には大きな差はないが、同じ音域の楽器同士が重なったときのセパレーションや和音の響き具合はCM5の方が精度が高い。たとえば、ヘンデルのオペラアリア集(ソプラノ:ダニエル・デ・ニース)の伴奏音形にときおり出てくるテオルボ(ギターの仲間)とチェンバロが同じ音を演奏する部分では、CM1よりもCM5の方が2つの楽器の響きの違いをはっきりと鳴らし分け、それによって厚みと広がりのある響きを作り出していることがよくわかるのだ。
ベートーヴェンの交響曲で低弦の動きにスピード感が乗るのは、CM5が弓のスピードや奏者の息遣いまでリアルに描写することに理由がありそうだ。ネットワークの回路構成がさらにシンプルになって、空間の見通しや微細な情報が従来以上によく聴き取れるようになったのであろう。
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