新製品批評



 ダクタイルが奏でる洗練された音
 
Mk1 (MB)
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今回試聴に使用したのはMk1のMB(ミッドナイトブルー)。その塗装の美しさは特筆に値する。
 金属は「冷たい」「硬い」というイメージが強い。もしや響きを吸い取られたようなスカスカな音か……と思うと、それがまったく肩透かしを食うから痛快なのだ。このニュートラルなクセのない音調には驚いた。ムダな音がしない、と言いかえてもいい。いわゆる箱鳴りに伴う音の濁りやカラーリング(色づけ)といった要素が極めて少なく、音楽そのものがすっと出てくる手応えは他にはちょっとない。レスポンスが早くキレ味スムーズ。ひとつひとつの音がキチっと明晰なのに、分析的過ぎたり無気質に陥ることなく、ミュージカリティ豊かなサウンドを楽しませるのである。ボーカルやピアノにほのかな体温感もあって、なるほどこれがキャストロンの音と感じさせる。ダクタイルという素材は音速が早い。空気中の17倍近くあるとも聞くし、一体成型の剛体構造に加えてこの振動処理のスピーディさも効を奏しているのだろう。
 
 高音質へのこだわりは専用スタンドにも現れている
 
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試聴風景
 さて、今回で3度めの試聴になる私だが、Mk1のサウンド傾向の変化にすぐ気がついた。あの、少し音場をひきぎみにした「箱庭的な美しさ」といった感じから、より開放的なチューンへ……である。低音にまず厚みと力感、密度感が増した。ボーカル域もハリがいい。高域リズムも鮮明だ。より音楽のテンションが上がり、エネルギッシュに前へも出てくるような変化であり、ハードなロックでもフュージョン系でもイケるという、ソースへの対応の広さである。これは頼もしい進化ではないか。
 
スタンドの天板部
Mk1の裏面
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ベタ置きから3点支持になり劇的な変化をもたらした
臼井氏に確認すると、実はスタンドを改良したのだという。一番の違いは天板の3つの突起である。スピーカー側にも3点のウケが見えるが、これで以前のベタ置きに比べ、支点が明確になってサウンドにより実体感やリアルさが加わるということか。ともかく変化は劇的だ。ではダクタイル鋳鉄はどこに使用しているかといえば、この天板と底板である。

支柱については異種金属という配慮からだろう、ここは通常のスチール材を採用しているが、内部に詰めた充填材に隠されたノウハウがあった。オリビンサンドという日高産の火山岩の一種で、これを細かく砕いたものを充填しているのだが、実は鋳造の砂型用に使っていた。何せ鋳造ならお手のものである。使い慣れた素材で、しかも音質向上に効果があるとなれば一石ニ鳥というわけだ。

 ここで手持ちの木のスタンドを使って聴き比べたが勝負にならない。ウッドはどうも輪郭に甘さが出て、持ち前のクリアーな透明さが薄れる。ボーカルの口元も大きくなる印象なのだ。やはりMk1の素姓を生かすなら、キャストロンのオリジナル品を奨める。私が気に入ったのは、リジッド系のスタンドでありながら、実に開放的な、溌剌としたサウンドステージが得られるからで、PMCからも引き合いがきているとか。今後オーディオマニアの話題になるのは間違いない。カラーはMk1と同じく4色を用意。この美しいウレタン塗装の高級スタンドが一般向けにも販売されるとは嬉しい配慮だ。天板などのサイズ、形状の違うものが用意される。

 
 ■Mk1の実力を徹底的に検証する
 
Mk1の背面
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背面には鋳出文字によるシリアルナンバーが刻まれている。
 さて、ベストパートナーを得てますます快調なMk1。かたっぱしから愛聴ソフトをかけてみよう。テラーク盤の「カルミナ・ブラーナ」は、くっきりとコントラストが効きキレがいい。ティンパニーの強打で音像やエッジが崩れないのは、このクラスの小型モニターではなかなか立派。声楽と管弦楽のかけあいもフォルテで混濁しないからぐんと透明度が深いのだし、めくるめく色彩感とダイナミックな空間描写が壮麗だ。XRCD2は新録音の「ロメオとジュリエット」でミュンシュ/ボストンの灼熱の名演奏で熱くなったあと、新フォーマットのXRCD24サンプラー盤を試聴。これはもうサンサーンスの「オルガン交響曲」が圧倒的で、風圧のような低音のエアー感が凄まじい。音量的にはもう少し欲しいところもあるのだが、バランスがよく破綻のない再生だ。澱みが足もとからすっとヌケるように、クリーンな音場再現である。

Mk1の背面
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写真はバナナプラグで接続した様子
 久々のエディット・マティス(ソプラノ)で、シューマンの「リーダークライス」。ビブラートの絶妙のデリカシーはMk1の得意とするものだが、さらに音場のプレゼンスや感情移入まで伝わるから素晴らしい。XRCD2のジャズ新録なら「Ko-Ko」だろう。これと山本剛の「ミスティ」のさわりを聴いてみると、ジャズのグルーブ感や歌心は一聴瞭然だ。録音の生々しい鮮度や、血の通うピアノプレイには思わず聞き惚れる。デジタルビートを効かせたビョークの「ヴェスパタイン」も同様。打ち込み系でもダンス系でも、何でもコイだ。こうしたタフなパンチ力のある音楽もいいノリで聴かせ、ちょっと苦手なソースがないような感じである。
 

ここで思いついたのが、ケーブルの交換試聴だ。これだけ多彩でシビアーなサウンドの描き分けができるスピーカーなら、きっとスピーカーケーブルの個性といおうか、個体差やクオリティを見抜けるはずだ。これは正解。手持ちの数本で試すと、見事にその差を描き出した。

スタビライザーADS730
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ダクタイル鋳鉄のスタビライザー。林氏も愛用の製品だ。
 最後にぜひアナログも聴いておきたい。スタビライザーADS730はダクタイルの削り出しだ。これを乗せる。やはり音をシメ過ぎず、悠々と開放する方向に効果があるようだ。不思議だがトレース能力が安定すると同時に、サウンドに内側から躍動感が生まれている。

 キャストロンの製品はいずれも、マインドと探究心の成果である。Mk1をはじめ、ぜひ多くの方に実際のキャストロンサウンドに接して欲しいと思う。耳からウロコ……を私は約束する。
 

 


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