ダイヤトーン(DIATONE)は三菱電機が製造するオーディオ機器に冠されたブランド名で、1946年に開発されたフルレンジスピーカーP-62Fが端緒といわれる。オーディオ全盛期にはスピーカーのみならずアンプ、テープデッキなどを製造・販売し総合音響メーカーへと変貌を遂げたが、やはりダイヤトーンブランドはスピーカーブランドというイメージが強い。そして我が国のスピーカー界のリーダー的存在となっていったのだ。

そんな同ブランドではあるが、オーディオ市場の低迷が長引いた1999年から民生用スピーカーの製造を停止していた。しかし一昨年、三菱電機エンジニアリングがダイヤトーンブランドとして民生用の高級スピーカーDS-MA1を登場させ、多くのファンを喜ばせた。ここでは、DS-MA1の誕生に至るまでのダイヤトーンブランドの輝かしい軌跡を辿ってみようと思う。

P-610A 昭和35年
BTS(放送技術規格)6121という名誉が与えられプロの絶対的信頼を育んだロングセラーフルレンジユニット。写真は当時のカタログ
2S-305 昭和33年
NHK向け放送局用モニター。“プロのためのダイヤトーン”という信頼を得るきっかけに

同ブランドの製品で個人的に思い出深いのは、「ロクハン」の愛称で親しまれた16cm口径フルレンジスピーカーユニットP-610。学生の頃、プレーンバッフルに取りつけただけのP-610はP-62F直系であるだけに、自然な響きを聴かせ音楽を十分に楽しませてくれた。また、NHK技術研究所との共同開発により1958年に誕生し、ロングセラーを続けた業務用2ウェイモニター機2S-305にも憧れたものだ。ウーファーの高域は電気的にカットせず、トゥイーターは1基のコンデンサーでローカットしただけというシンプルなネットワーク構成により、音声帯域の充実したナチュラルな質感を実現していた。決してワイドレンジではないが、バランスの良いサウンドは普遍的であった。


1960年代末からはコンシューマーフィールドへも積極的な展開を図り、1970年に発売された小型3ウェイシステムDS-251は、あっという間にベストセラーを記録、多くのダイヤトーン愛用者を生み出した。中高域ユニットが現在主流のドーム型ではなくコーン型ユニットを採用していたのは、2S-305に共通する特徴といえるだろう。

DS-505 昭和55年
初めてボロン(ボロン化チタン)を振動板に採用。2年後に発売開始されたCDの再生を先取りしたようなデジタル対応スピーカーであった
DS-10000 昭和60年
ダイヤトーン40周年記念モデル。キャビネットにDS-MA1と同じピアノ材(シトカスプルース)を採用している。この時代のDIATONE技術の集大成的存在

1980年には来るべきデジタルオーディオを見据えたと思える4ウェイ構成の中型システムDS-505をリリース。32cm口径ウーファーと16cm口径ミッドバスにアルミハニカムのコア材をアラミッド繊維のスキン材でサンドイッチした新開発のアラミッドハニカム振動板を採用、ミッドハイも新開発のドーム振動板とボイスコイルボビンを一体成形したD.U.D.(DIATONE Unifigied Diaphram)方式による40mmボロン(ボロン化チタン)ドームユニット、そして23mm口径トゥイーターにもD.U.D.ボロンドームユニットを搭載するなど、新素材の採用が大きな話題となる。また振動板の軽量・高剛性化を一気に推進すると同時に、多くのファンやメーカーにデジタル対応を意識させることになった。

その翌年に発売された3ウェイシステムDS-503はDS-505の技術や素材を受け継ぎ開発され、高抗張力ポリアミド繊維をスキン材にした32cm口径ハニカムコーンウーファーを搭載。スコーカーはDS-505直系といえる65mm口径D.U.D.ボロンドームユニット、23mm口径トゥイーターにもD.U.D.ボロンドームユニットを搭載。レンジが広く解像度の高い現代的なサウンドを実現、ジャズフュージョン系ソフトを快活に再現してくれた本機は、個人的に好きなモデルだった。

1980年代初頭、そのDS-500シリーズを発展、高性能化したDS-1000シリーズを展開する。その系列で同ブランドの40周年のアニバーサリーモデルとして生み出されたのがDS-10000だ。キャビネットに今回のDS-MA1と同じピアノの響板に使われるスプルース材を採用、美しい光沢を放つピアノ塗装を施した高級感のあるシステムであった。ユニット構成はDS-1000と同じであったが各ユニットは改良が加えられ、より精緻さを増していた。

1990年になると、2ウェイモニターの原器2S-305に変わる新時代のモニターシステム2S-3003が登場する。本機も2S-305と同様、NHKと共同開発され、3軸織りアラミッド繊維をスキン材にした32cm口径ハニカムコーンウーファーを搭載、トゥイーターにピュアボロンのB4C振動板の5cm口径コーン型ユニットを採用していたのが特徴だ。物理特性に優れた2基のユニットにより、2ウェイながら39Hz〜30kHzという周波数レンジを実現、しかも94dB/mという能率を確保していたのが素晴らしい。そして色づけのないナチュラルなサウンドを聴かせていたのがモニター機として設計されたシステムならではといえるだろう。

DS-V9000 昭和63年
理想値をうたうダイヤトーン頂点の音を目指し、ピュアボロンB4Cを振動板に初めて採用。プロもオーディオファンもうならせる究極のシステムとして話題に
2S-3003 平成元年
ピュアボロンB4Cコーントゥイーターを採用した放送用モニター。現在でもNHKの各放送局の第一線で活躍中のスピーカーである
DS-20000B 平成9年
ダイヤトーンの究極を目指したハイエンドモデル。20000B形は平成4年に途上したスーパーデジタルに対応した20000形をグラントピアノ同様の光沢黒仕上げにした限定モデル

1998年には1992年にリリースされたDS-20000に大幅な改良を施した限定モデルDS-20000Bが発売された。本機もDS-20000のユニットを継承し、27cm口径ウーファーはアラミッドハニカムダイヤフラムを採用、7・5ch口径ミッドレンジユニットはピュアボロンのD.U.D.ドーム型、そしてトゥイーターもピュアボロンD.U.D.ドーム型ユニットが搭載されていた。各ユニットは細部にわたり改良が施され高性能化を実現。エンクロージャーはDS-10000やDS-20000と同じスプルース材を採用。グランドピアノと同様の手間のかかるブラック光沢仕上げが施されていた。

今回、採り上げたスピーカーたちはダイヤトーンブランドのほんの一部のスピーカーといえる。しかし、こうして振り返ってみると同ブランドは常に最先端の技術や素材を投入し、純粋に性能を追及してきた感がある。それぞれのモデルに専用ユニットを開発し、最適に設計された精度の高いエンクロージャーを与え、モニターライクな精密感のあるサウンドを実現していた。ダイヤフラムの軽量・高剛性化、エンクロージャーの剛体化などスピーカー作りの基本をおさえ、奇をてらうことのない手法で高性能化を果たしてきた同ブランドが復帰したのは、とても喜ばしい出来事といえる。

九段下にあるDIATONE試聴室で、スピーカーシステム「DS-MA1」の試聴会が毎月開催されている。試聴会は予約制で1回の定員は6名。しかも、Phile-web読者には特別にDIATONE特製ストラップがプレゼントされる!ふるって参加しよう!

【DIATONE 専用試聴室】
 三菱電機エンジニアリング株式会社 本社
 〒102-0073 東京都千代田区九段北1-13-5(日本地所第一ビル)
 地下鉄九段下駅 (東西線7番出口を出てすぐ、都営新宿線、半蔵門線3番出口からは3分)

【試聴可能時間と予約方法】

 月曜日〜土曜日 10:00〜12:00,13:30〜19:30 完全予約制

【予約受付】

 DIATONE@www.mee.co.jp
 TEL:03-3288-1754(休日を除く月曜〜金曜の9:00〜17:00受付)
 FAX:03-3288-1576

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