私のレファレンスソフトの一つに『オペラ座の怪人』があります。既に2年以上観続けているディスクですが、同じ作品を定点観測的にチェックすると、いちブランドの製品の真価が如実に分かるのです。

大橋 林さんの場合は、実際に仮面を被ったファントムの心情の機微を観ているわけですね。

 はい。この作品では例えば、クリスティーヌに対する彼の気持ちの揺れを、微妙な光の変化等で表現しています。今回の新製品では、そのあたりのニュアンスの描きわけが完璧に出来ていると思います。同じソフトでチェックすると、HD1からの進化が良く分かりました。

貝山 はい。

 解像感も飛躍的に増しています。スクリーンという二次元映像でありながら立体感、奥行き感が手に取るように感じられました。

貝山 映画の場合はやはり空間性をいかに表現できるかが鍵となりますね。単なる平面画の連続と思って映画を捉えていると、そこは永久に分かりませんが。

 その通りですね。

貝山 空間の中で何かを表現することを徹底すれば人間同士の距離感が示せます。さらに、優秀な解像度を有していれば微妙な心の機微も良く分かります。

 最終的に視聴を通じて分かったことは、結局、映画そのものに良い内容と作品性があっても、それを受像機側でしっかりと再現できなければ意味がないということでしたね。作り手の狙いを表現できてこそ、初めて観る人を感激させることが可能となります。ソフトの存在価値はそこにあるわけですから。本機の場合は、映像の作り手にさらなる制作意欲をかき立てるだけの実力を有していると言っても良いと思いますね。

大橋 私が最近注目しているソフトに『ジェイン・オースティンの読書会』があります。この作品は家族や恋人、友人同士の心の葛藤や軋轢をいかに表現できるかが鍵なのですが、監督であるロビン・スウィコードは「心の浄化」という難しいテーマを、光線に変化を付けることで描ききっています。落ち着いた光もあれば、くすんだ光もある。そしてキラキラした輝かしい光もある。バラエティに富んだそれぞれの光を、プロジェクター側で原画情報に忠実にバランス良く描ききる必要があります。ビクターはそれができているのです。ダイナミックアイリスに頼ってしまうと、これらの微妙な光線の違いの描き分けは不可能です。

 そうですね。

大橋 新搭載のTHXモードも日本映画『ザ・マジックアワー』で試してみました。深津絵里の白い肌のリアリティや、佐藤浩一の涙を流すときの表情が非常に良かったですね。それから、『巴里のアメリカ人』も観ました。この作品の場合は、MGMミュージカルならではの華麗な色彩の洪水を力強く、ゴージャスに表現する必要があります。デフォルトでも良く出ていましたが、ガンマモードに入ってRの中域付近を持ち上げてみると、赤の明るさがさらに増して激しい色になり、Bとのバランスが非常に良くなります。また、この映画の場合は影の表現もテーマとなりますが、HD750であればキリリと濃くて深い影が出せます。まさに反射型液晶でなければ出せないレベルです。透過型液晶方式の中でも深い影を出すことができる優秀な製品はありますが、柔らかくて甘い印象となります。黒の沈み込みという点においては、ビクター機の質感はその他のモデルと明らかに違いますね。もちろん柔らかさや甘さがプラスに働く場合もありますから、一概には言い切れませんが。

貝山 はい。

大橋 DLA-HD750には映像のユニフォミティーがあります。そして大きなダイナミックレンジで映像を描き出します。そして、仮にデフォルトでは物足りなくても、調整していくとさらに画質が向上するという柔軟性も有しています。

 そうですね。

大橋 映画というものは光の芸術です。それをいったん分解して再度まとめ上げる手法をビクターは確立したと言っても良いのかもしれません。

 
 


大橋 現在プロジェクター市場で地位を得ているブランドは、一部の例外はありますがほとんどが3管式を手がけてきたメーカーです。ビクター製品の醍醐味は、そのプロセスを経ずに現在の高評価を得ているという特異性にあります。ブラウン管テレビは昔から手がけてきましたが、CRTのプロジェクターには取り組んでいない。

 D-ILAは業務用のILAがベースになっていますね。

大橋 つまり、家庭用テレビの画をいったん解体し、プロシューマー分野で新たな大画面世界の創造に取り組んできた成果が今現れているということだと思います。

 なんといっても一昨年のDLA-HD1の成功が大きかったですね。ネイティブコントラストという潔い新概念を打ち出し、未知の映像世界を切り開いたわけですから。絞りをいじらずに黒と白のレンジを幅広く確保したのは衝撃的でしたね。

大橋 D-ILAデバイスの使いこなしが確立されたのはさらに一世代前のDLA-HD11だと思います。HD1の意義は、そのノウハウを家庭用製品として通用する値付けができたことにあります。

 高クオリティでありながら、100万円を大幅に切る価格を実現したのはインパクトがありました。

大橋 ええ。

 ビクターの場合は、ILAの時代から400インチを越えるようなサイズでの投影実証に取り組んできました。それを100インチクラスの家庭用製品に高クオリティに落とし込むのは容易だったはずです。

大橋 HD1以降3世代目となる本機の画を観ると、ビクターがさらに次ステージを見据えていることが感じられます。

レンズ部はED(低分散)レンズを含む15群17枚のオールガラスレンズを搭載した新開発「高性能2倍電動ズーム・フォーカスレンズ」を搭載。フォーカス性能の向上とともに、色収差や色にじみを大幅に低減している
映像処理回路はHD100まで搭載されていたジェナム社製プロセッサー「GF9351」から、Silicon Optix社製のHQV Reon-VXに変更。高精細なI/P変換やノイズ制御によるフルHD映像を実現した
RGBに加えC(シアン)Y(イエロー)M(マゼンタ)の各色について、独立して「色相」「彩度」「明度」が調整できるカラーマネージメント機能は上位のHD750だけに設けられた

貝山 ビクターというブランドで特に評価したいのは、技術面に対する徹底的なこだわりです。それがなければ、例えば実際の製品でこれほどまでに光漏れを抑えられなかったはずです。技術的な根拠をしっかりと確立して、手間とお金をかけて製品に落とし込む。それができるのがビクターなのです。

 ビクターは独自技術にこだわる会社です。だからこそD-ILAという他にないデバイスを搭載した製品がナンバー1の評価を得ているわけです。いったん確立したアドバンテージに対してはなかなか他社は追いつけません。仮に追い付いても、ビクタープロジェクターはさらに進化するはずです。製品作りのテーマを高いレベルで自らに課し、迅速にしかも丁寧に対応する。それがビクターの素晴らしさでしょう。

貝山 まもなくやってくる4Kスペック製品は、家庭用においてはフラットテレビではなくプロジェクターが主役になるはずです。ビクターの場合は、既に次世代製品用のパネルや各種デバイス、そして回路の作り込み等の研究開発に取り組んでいますから、その備えは万全と言えるでしょう。

大橋 ポストフルHDをリードしているのは間違いなくビクターですね。実際にコンシューマー製品が登場するにはまだ時間がかかるでしょうが、今回のDLA-HD750には、既に4K製品の片鱗がうかがえます。

貝山 4K映像の時代が来たとき、ビクター製品の質はさらに向上するはずです。

 
DLA-HD750 SPECIFICATION

D-ILAプロジェクター
DLA-HD750
¥735,000(税込)

●表示デバイス:フルハイビジョン対応D-ILA デバイス ●パネルサイズ:0.7インチ×3(16:9) ●解像度:1920×1080 ●レンズ:2倍電動ズーム・フォーカスレンズ f=21.4〜42.8mm  F=3.2〜4 ●レンズシフト:上下80%、左右34%(電動式)●投影サイズ:60インチ〜200インチ ●光源ランプ:200W超高圧水銀ランプ ●輝度:900lm ●コントラスト:50000対1 ●ビデオ入力端子:HDMI2、コンポーネント1、S映像1、コンポジット1、PC入力1、トリガー端子、RS-232C ●騒音レベル:19dB(ランプ標準モード時) ●消費電力:270W(スタンバイ時1W) ●外形寸法:365W×167H×478Dmm ●質量:11kg ●カラーバリエーション:ブラック、 プレミアムパールホワイト(台数限定生産モデル/¥756,000・税込)

>>ビクターの製品情報