エッジの立ちやたっぷりとした胴鳴りなどは鳥肌の立つスリリングさだ

試聴は音元出版試聴室で行った

次に「TD510」である。「TD508II」よりもひとまわり大きく、重量もほぼ3倍の8.5キロだ。さすがに音の余裕というか、声や楽器の生々しさに加えて、演奏のスケールに見合ったサイズ感で、音楽が楽しめる印象である。

比較はやはり「512」と、ということになるだろう。まず2チャンネルソースだが、一聴してハイが伸びやか。すっきりとした質感で、音がまとわりつくことなく、ヌケだしも上々。ホールトーンのような倍音域までニュアンスよく再生する。シングルユニットとしての情報量不足を感じることはもはやない。 サイズダウンしたことで低音域を心配する向きもあるかもしれないが、これも全くの杞憂だ。45Hzまで-10dBで保証しており、恐ろしく速い反応だから空気のグリップが正確で、太鼓の「バツン」というエアー感を忠実に再生するのだ。「鬼太鼓座」は躍動感にあふれ、バチの動きが見えるような瞬敏な低域再現力だ。ジャズベースもすごい。「ホンモノの低音」といった趣で、気持ちのよい伸びと安定感、そこに質感が加わった三位一体のベースプレイである。この盤は録音によって、低音を20Hzと10Hzでカットしているが、その差が克明にわかる表現力だ。生音に親しんでいる方ならすぐに気づく、打てば響くような空間表現力と言えよう。また60年代に録音されたオスカー・ピーターソンの「プリーズ・リクエスト」を聴いたが、これが驚きの低域情報量。ベースの弓弾きは唸りを発する。エッジの立ちやたっぷりとした胴鳴りなど、鳥肌の立つスリリングさである。

オルガンは東京カテドラル教会での収録と、もう一枚はタッド・ガーフィンクルの録音で、宮崎の小さい教会でのオルガン演奏を比較してみた。後者は残響を抑えた素朴な品格が好ましく、また天井の高いカテドラル盤は音色が華麗で輝かしい。その多重エコーのような波面の重なりが、ホールの違いを際立たせたている。楽器の違い、それを演奏する場である空間(ホール)の違いにこのスピーカーなら、ついつい耳がいく。そこまで耳をすませたくなる高度な再現力ということだ。


マルチチャンネル試聴ではその圧倒的な精度に驚く
「TD510」を試聴中の筆者

最後に「TD510」を5本使ってのマルチチャンネルである。当然ながら精度がすごい。ひとつひとつフォーカスのばっちりあった音像描写と、スムーズにつながるリアルな音場の感触はTDシリーズならではのものだ。

ソースはハイスペックなSACDやDVDオーディオ。そして映画の立体音響である。管弦楽は「新世界」ほかを聴いたが、管、弦、打それぞれの楽器群はスピーカーから離れ、広々としたステージをつくりだしている。遠近の再現が抜群で、はるか奥のところでティンパニーが打ち鳴らされている。ジャズもホットなステージ感とそこに生楽器があるような、リアルな音色に思わずノリだした。

映画のサラウンドもみごとなクオリティだ。試聴盤によく使う「オペラ座の怪人」は、空間の高さの表現に感嘆する。ファントムの歌声が、確かに頭上から聞こえてくるのだ。また「マスカレード(仮面舞踏会)」のシーンは、もみくちゃにされそうにぐるぐるまわる包囲感、「マスター・アンド・コマンダー」は帆船同士の距離感がぴたっと決まり、砲撃音の軌跡も生々しい。まさに制作者の意図どおり、サウンドデザインを忠実に再現している。

さて、これだけの表現力を備える「TD510」と「508II」が、天吊りに対応したのはうれしい。マルチチャンネルがぐっと身近になるのはもちろんだが、今手持ちの2チャンネルスピーカーがあるのなら、メインはメインで置いたまま、セッティングを変えずにマルチとの共存ができるわけだ。その際、3色のバリエーションが用意されているので、部屋のインテリアとのマッチングが図れるのもポイントだ。ぜひ高性能でスタイリッシュなECLIPSE TDシリーズで、マルチチャンネルオーディオの門を叩いて欲しい。