スピードが上がったぶん、溌剌さとリアル感がさらに向上した

「TD508II」のセッティングを行う筆者。「小ささを感じさせない再現力」とその性能に満足の様子

まずは「TD508II」の2チャンネルから聴いてみた。コンパクトだからと言ってあなどれない。ピンでついたようなフォーカスの鋭さは「508」譲りだ。F特上は55Hz〜20kHzとほぼ変わらないのだが、スピードと感度が上がったぶん、さらにヌケるような溌剌さとリアル感が伴ってきたような印象だ。

リアル感、すなわち場の空気の生々しさである。「ジェーン・モンハイト」はジャズらしい乾いた響きの中に、ピアノの立ち上がり、ドラムのアタック感やシンバルの波面などが生楽器のような自然な質感で再現された。ベースはあっさりした響きだが、それは当然。低音が出ないのではなく、ベースの低域をカット気味な盤の特徴を忠実に引き出している証拠だ。試しにボトムまでフラットな録音のジャズをかけると、サイズを感じさせないスムーズな低音が出てくる。これには感心する。

クラシック系は表情が深く、余韻や弱音域がきれいだ。古楽器による「三つのヴァイオリン」では、弦のハモリがみずみずしい。重なりや微妙なズレが醸し出す演奏の面白さを味わう。チェンバロに付帯音がつかず、繊維な感触が浮かび上がるのもS/Nが優秀な証拠だ。

“高さ”を表現できる稀有なコンパクトスピーカー

大型楽器のサイズ感やオーケストラなどのスケール感は求めづらいのだが、音量を欲張らければ、これまでよりもピークはよく伸びるし、演奏の熱気やニュアンスを過不足なく再現する。「カルミナ・ブラーナ」は管弦楽に2台のピアノまで登場する大編成の声楽曲だが、スピーカーに余分な響きが乗らないから、音がモジられず、スコアの細部までしっかりと分解して見せる。指揮棒の動きまで見えるような反応のよさである。

パイプオルガンは無理だろうかと思いながら再生すると、低域へかけての持続音が非常に心地よく、音階の変化を的確に表現する。数百本のパイプの共鳴も、妙な濁りがなくふわっと包囲して生々しい。

一歩前へ出るニアフィールド試聴や、5.1マルチチャンネルシステムでクセのない音場感に身を委ねたいスピーカーである。マルチチャンネルについては、A&Vフェスタなどで体感された方もいるだろう。私もその場で試聴を行ったが、シームレスなつながりに加え、天井の高さを表現できるスピーカーと感心した。