11月末にエプソンが発売したホームユースのプロジェクター、EH-TW4000はまぎれもない傑作である。このモデルは、10月末に発売されたEH-TW3000の上位機に相当し、1080pフルハイビジョンのハイエンドモデルだ。
実際に映像を見るとスペックが伊達ではないことが良く分かる。本機が再生する黒は限りなく漆黒に近く、白ピークはすっきりと伸びきっている。黒〜白間のレンジが液晶プロジェクターの中では際立って広いと感じることができる。 本機ではエプソン独自技術「DEEPBLACK」技術がさらに進化している。この技術は、光学系での光漏れを徹底的に抑え、高コントラスト比を実現するための位相補正技術である。この課題を解決するために、エプソンと競合する各社が凌ぎを削っているが、自社開発パネルを有するエプソンが、最も優位に立てるポジションであることは容易に想像がつく。
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高コントラストを実現するために、今回、エプソンが新しく採用したのは、パネルの前後で行った2つの技術である。まずパネルに入る光路の最適化を行った。ランプから投射された光は、入射偏向フィルターで角度が絞られ液晶パネルに入射されるが、斜め光の割合が多いと光漏れの原因となり、結果的にコントラストが低下する。エプソンはここに着目し、斜めに入る光の角度が小さくなる(入射角を絞る)ように改善した。もう一つの技術はパネルを通過した光の楕円偏向を垂直偏向に近づけるための厳密な偏向制御である。これは、パネルと投射レンズの間にある出射偏向フィルターへ、素直に縦偏向された光を送り込む技術で、フィルターからの水平方向の光漏れを低減させている。
高輝度と高コントラスト比が両立した本機は、それだけ映像の表現幅が広いプロジェクターと言える。だが、ディスプレイに対する私の評価基準はさらにその先にある。基本的に優れた物理特性は必要だが、もっと大切なのはそれを実映像でどう活かし切るきるかということだ。実映像の再生では、黒〜白間のレンジが広くても、それだけでは好ましい階調が得られるとは限らない。フィルム撮影された映画を基にしたソフトでは、映画モードに設定しても好ましい映像にならないということがままある。こうしたケースで考えられる原因は、そのプロジェクターが用意した画質モードだけでは映画作品のすべてを好ましく再生することはできないという事実だ。
映画には様々な表現のスタイルがあり、そこから生まれる画調も実に様々だ。映画マニアの多くは、たった一つの映画モードだけでは、全ての映画作品には好ましく対応出来ないことをよく知っている。プロジェクターでは、少なくとも2〜3個の映画向きのモードは用意して欲しいと思うのがマニアの願望なのだ。TW4000には、その欲望を実現するだけのカラーモードが豊富に用意されている。「シアター」「シネマ1」「シネマ2」がそれだ。暗室での観賞に適するのが「シアター」で、比較的明るめの部屋でも特性を活かせるのが「シアター1」。そしてこれら2つを最適にバランスさせたのが「シアター2」だ。これら3つのモードは、黒の表現、明るさ、色調がそれぞれ異なるので、視聴試聴条件に左右されることなく自由に広く活用できる。 TW4000の画質調整は、マニア向けの機能も数多く搭載している。私が最も有効だと思ったのは、ガンマカーブをスクリーン上に表示し、グラフを見ながら輝度値を変えることができる機能だ。これを使用すると、暗部の階調や白飛びなどを、いとも簡単に調整可能だ。
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冒頭で私がEH-TW4000を傑作と言ったのは、テレビ放送でも映画ソフトでも実に好ましい映像を表出できたからだ。特に、映画作品に対する対応性の広さには拍手を送りたいほどだ。映画を再生するには、どうしてもフィルムの特性に合わせるという作業が必要となる。単にリニアなガンマ特性や固定された色温度で対応できるほど、映画作品の階調は単純ではないのだ。 EH-TW4000が搭載した新パネルも、もちろんこの課題を解決するための最適解の一つと言えるだろう。このパネルはプロジェクター用パネルとして、初めて倍速駆動に対応している。これを活用すれば、前後のコマを比較して中間のコマを生成し、動きボヤケの少ないより滑らかな動画画像を創成できるのだ。
EH-TW4000のテストは、自宅の視聴室「ボワ・ノワール」でおこなった。視聴したのは、BDの映画や音楽ソフトを中心に、DVDそしてBS放送の録画映像などである。再生機器にはソニーの新しいBDレコーダーBDZ-X100と、パイオニアのBDプレーヤーBDP-LX80を併用。AVアンプはパイオニアSC-LX90。HDMIケーブルは、BDレコーダー/プレーヤー〜AVアンプ間にサエクコマースのSH-1010(1.8m)を、AVアンプ〜プロジェクター間には、キャメロット・テクノロジーのHPE-1(8.6m)を使用した。
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まずは『小澤征爾指揮/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団、チャイコフスキー交響曲第6番《悲愴》』(BD)を観てみよう。このディスクは優れた音質で話題になっているが、実は画質的にも優れている。EH-TW4000ではフォーカスがぴたりと決まり、全体に鮮明な映像に仕上がっている。オーケストラのフルショットでも各演奏者の表情が鮮明に捉えられ、指揮者と演奏者の間の様々な疎通をはっきりと見取ることができる。舞台の奥行感も自然に表出されている。舞台上に数多く置かれた譜面の白さが、調整によっては目に強い刺激を与えることがままあるが、本機の視聴ではそれは全く感じられなかった。ランプパワーはLOW。「ナチュラル」モードからスタートし、コントラストと色の濃さを調整した後、ガンマカーブの白寄りのピークを抑えることで、この作品に対する非常に好ましい映像が得られた。
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次に『コッポラの胡蝶の夢』(BD)を観てみよう。このソフトの再生は、なかなか難しい。作品が持つ微妙なニュアンスがいかに出せるかがポイントである。私がこの映画で重視したのは、ミステリアスな雰囲気と頽廃的な時代の雰囲気だ。暗いシーンでは、人物の表情がほんの少し見える程度でいい。しかし、そうした中でも顔には微妙にコントラストが付いていなければならない。このソフトの視聴では「シネマ1」「シネマ2」をまず試したが、ミステリアスな雰囲気がなかなか出てこない。なぜなら私の視聴室は真暗な状態で観るのが基本だから、それに適したモードを使う必要があるようだ。結果的に「シアター」を選択し、各種の調整を重ねて理想的な映像を得ることができた。
読者のために調整値を明記しておこう。モード「シアター」/明るさ±0/コントラスト−2/カラーサチュレーション−7/色あい±0/シャープネス:スタンダード/色温度7500K/スキントーン±0/ガンマ2.0/ランプパワーLowである。さらにガンマのグラフを見ながら、カーブを微調整している。 |
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調整を終えた『コッポラの胡蝶の夢』は、私が望んだ映像とぴたりと一致した。真暗な環境下で黒がしっかりと沈み、作品が持つニュアンスを全て表出することができたのだ。断っておくが私が調整した映像は、この作品を映画館で観た時の映像とは違っている。映画館では黒の底がやや浮き上がり、全体にももう少し明るい画面となっていた。私が行った調整では、黒はしっかりと沈んでいる。非常口の表示灯がないわたしの試聴室ではでは、外光を遮断していることはもちろん、プレーヤーやアンプの表示を消せば、真に真っ暗な空間となるからだ。どちらが作品にのめり込める空間であるかは、言うまでもない。
私が行った暗部調整は、この作品に登場する主人公ドミニクと、彼の恋人となるヴェロニカがマスコミのしつこい取材に辟易して、インドから地中海の島にあるヴィラに逃れたシーンクエンスで最大の効果を上げた。初めての夜、二人はベッドで抱き合うが、その夜彼女にはインドの修行尼の霊が憑依(ひょうい)する。ヴェロニカの口から出たのはドミニクが聞いたこともない言葉である。それは、人間が初めて言語を語った時の様相だった。満月の描写から始まるこの夜の映像には、全体に青味が乗っている。窓外に見える岬は銀色に光り、そのトーンはヴェロニカのネグリジェにも反映している。月の光が支配するこの夜、二人の部屋では、ヴェロニカの憑依を通して言葉の起源が演じられるのだ。青味が乗った画面と微妙に暗い映像は、そのミステリアスな雰囲気を見事に表出している。 |
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この作品には一方で様々な明るさのシーンがある。ドミニクが初めてヴェロニカと出会ったスイスの山中はごく自然な光の中だし。彼女とドミニクがインドの北部を訪れ、修行僧と会った時の映像は、明るい青空が支配した強い日差しの中で撮影されている。TW4000で確認したこれらの映像は、明るいシーンでも暗いシーンでも、しっかりした階調を維持している。特に私が驚かされたのは、明るいシーンでの階調表現の見事さだ。これは他のプロジマクターでは表出できないものだからである。暗いシーンでも明るいシーンでも、同じようにミステリアスな雰囲気を壊さぬ本機の映像は実に新鮮であった。一般的にこの作品を観る場合には、全体的に暗い方に調整を寄せがちになる。明るいシーンがミステリアスな雰囲気を崩してしまうことがその理由だが、明るいシーンでも階調の設定が好ましく出来ていれば、作品のムードは崩れないことをこのプロジェクターは教えてくれた。
このプロジェクターの開発に携わった技術者の映画に対するナイーブな感性があることは間違いない。本機が審査員全員の推挙でビジュアルグランプリ金賞を受賞したことは、当然の結果である。 |
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●方式:3LCD方式
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■エプソン dreamio 製品情報ページ | ||||||||||||||