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寺島靖国が語るアバンギャルドの魅力
文/寺島靖国
寺島氏と製品写真
アバンギャルドと寺島氏

■このスタイリングがまず格好いい

アバンギャルドのどこが好きかって?待ってました。言わせていただこう、存分に。

なんたってまずそのスタイリングである。アバンギャルドを見て格好いいと思わない人というのがいるのだろうか。私には信じられない。

始まりはジャズ喫茶メグだった。私はこの店について以前から悩みがあった。売り上げが悪いのもその一つだがとにかく店が汚い。いや汚いのはいいんだ。ジャズ喫茶だから。

ひどいのは内装である。実はこの店、デザインしたのは私である。デザインなんて言える代物ではないが知り合いの大工さんを呼んできて、ああしてくれ、こうしてくれ。結果なんらデザイン的ポリシーのない喫茶店ができ上がった。そのまま40年。

さすがにこの頃は行くたびに内装を見まわし、ひでえなぁ、よくこれでお客さんがくるなぁ、と。

アバンギャルドのデュオを見た時、閃いたのである。内装のひどさをこれで補おう。こいつに助けてもらおう。それでなくてもスピーカーはジャズ喫茶の生命だ。赤いスピーカーを買って同じ色に合わせて店内を赤くして赤い店にしよう。赤は人の気持を大きくする。お金も遣ってくれるだろう。その頃スピーカーを飼う費用は赤字に悩む店の経費からは出なかった。私が個人で立替えたのである。しかしいまだに返してもらっていない。

店へ行くのが楽しみになりデュオを見、そして聴いているうち、このスピーカーを自分のものにしたくなった。ようし、家に入れるぞ。

デュオはお客さん用だ。こういう言い方は人間性を疑われるが個人用はお客さん用より良くなくてはいけない。

ムリしてトリオ+SUB230を購入した。デュオより出所の数が多く手がかかりそうなのもよかった。

それよりなによりトリオ購入を決意させたもう一つの要因。それは色である。色をあつらえられるというのである。自分の好きな色をオーダーできるというのである。こんな嬉しいことがあるか。これこそ、マイ・スピーカーではないか。世の中には人と同じスピーカーを聴いて満足する人もいるだろう。しかし私は「私だけのスピーカー」を持ちたい。自分だけのスピーカーを我がものにして途方もない愛着が生まれるのだと確信した。

しかしその頃、今から5年程前、私は精神的に地味であった。しょっちゅう気分が下がっていて元気が欲しくて欲しくて。それでまたしても赤にしたのである。店が赤なら家は別の色、という当たり前の発想が起きなかった。トゥイーターをグリーンにした。赤とグリーン。凡庸だ。オーディオとは凡庸な人がやるホビーではないだろう。今にして思えば、である。

そういえば浜松のコーヒー専門店。美人姉妹の経営するオーディオマニアの間でいまだに噂のたえないアバンギャルドの最高級クラスが置かれている店。実に色とりどり、満艦色。オーナーの精神的高揚がスピーカーの色に移り住んでいる。思い出すたびにいろいろ見に行きたくなるのである。

浜松喫茶店
trio+basshorn6台が入れている浜松の喫茶店とは「トゥルネラパージュ」。静岡県浜松市板屋町628 Y3ビル1階 TEL053-455-7100
 

■ドイツ国旗のMezzo何というポップさだろう

さて、私のリスニングチェアのすぐ横、すぐ目がゆくところにオーディオ製品の写真が何枚か飾られている。これ欲しいなと思ったらすかさず雑誌を切り抜いて貼りつける。毎日眺めて、どうしても我慢がならなくなったら購入に至るというわけなのだ。

寺島邸ドア
寺島邸のリスニングチェアの脇の白いドアには気に入ったオーディオの切り抜きが貼ってある。真ん中にあるのがmezzoの切り抜きだ

アバンギャルドのmezzoがその1枚だった。2年ほど眺めていたがその気にならない。ホーンの色が灰色なのはいいんだが、大きな面積を占めるバスホーンが木製ときているからアバンギャルドらしくない。どんなに上等な木製であろうとアバンギャルドに従来のスピーカーのイメージは要らない。スピーカーは木製、そういう固定観念から抜け出したのがアバンギャルドであり、だからこそ私は惚れ込んだが、ある時、木の部分を黒で貼りつぶしたらアバンギャルドらしくなるのではないかと考え出したらいても立ってもいられなくなった。

カラーバリエーション
ホーンのカラバリは5種。ルビーブリリアントレッド、アコヤパールホワイト、ディアマントクリスタルシルバー、トルマリンビビッドブラック、サファイアバーマブルー。欧州車の色番号指定も別料金にて受け付けている。サブウーファー部のキャビネットやフロントパネルの仕上げも数種類用意されている

同時にホーン部の色もあれこれ想像してみる。ふと思いついたのがドイツの国旗であった。ドイツのスピーカーだ。ここはもうドイツに敬意を表するしかない。

もともとドイツびいきだ。ドイツが好きで昔「コンバット」というテレビ映画をよく見ていたがドイツ兵がやられるのが面白くなくて。

mezzoを購入する決意を固める。幸いtrio230を欲しいと言う人が現れた。ケーブルメーカー、TMDの畑野さんだが耳のいい彼がトリオの音を認めてくれたのである。その辺りの事情はオーディオアクセサリー誌のコラムに詳しい。

寺島邸リスニングルーム
mezzoが鎮座したリスニングルームは、寺島氏の美意識が至るところに見受けられる。手前のコンポーネントはTMDのティラノザウルス寺島モデル。右の中空に浮かせている電源ケーブルはアコースティック・リヴァイブの特別仕様製品

嬉しく、そして激しく悩んだのはホーン部とトゥイーターを部のどちらを黄色にするかだった。スピーカー史上、黄色という概念はあまりない。やはり面積を大きく占めるホーンはおとなしく赤にするか。その赤も以前のトリオの赤ではなく、フェラーリ・レッドという鮮やかな赤。魅力突出のレッドである。よし、トゥイーターを黄色にしよう。それで決めよう。次の瞬間、待てよ、となる。浜松の冒険心に満ちたアバンギャルドを思い出している。アバンギャルドそのものがアドベンチャーなのだ。ならば色もアドベンチャラスでいいではないか。歳をとったら人は派手にゆけと言うではないか。

何というポップなのだろう。スピーカーとはポップ・アートとしても生きられることを初めて正しく認識したのである。いや、ポップ・アートなどどうでもいい。格好よさそうことを言うな、と私はいま自分を叱りつけたところだ。

まあとにかく。黄色いスピーカーを手に入れ眺めて、嬉しくて嬉しくて仕方がない。いや、申しわけない。

音? 音はまだ蕾だ。処女だ。未開の大地だ。私の部屋に置かれ、どう鳴ったものかとまどっている風情。これから調教してゆくのである。そのうち必ずひいひいとよがり声を上げるのは間違いない。1年後か3年後か、それは分からない。その日を目指してゆくのだが1つだけ理解できるのはアバンギャルドというスピーカー、私の使ったこれまでの他のスピーカーよりソフトの音をそっくり出す、ということだ。以前の私はソフトに入った音を「自分の音」として取り出すことに生命をかけていた。ねじ曲げて。ねじ伏せて。

ところが最近、そのまんまがいかに快感かが分かったのである。これは私のオーディオの進歩である。もちろんまんまと言っても根底には「ガツン性」を必須条件として持たせているけれど1枚1枚のソフトが違った音で鳴る幸せを分からせてくれたのがアバンギャルドだった。恐しいくらいの反応力を持っているのだ。クロスオーバー周波数と低音量のつまみ一つ動かしただけで音の全世界がそしてあらゆるニュアンスが別のスピーカーであるかのように変わってしまう。触わるのがこわいくらいであり、いったんこの魅力にとりつかれたらもう離れられない。まことに魔性のスピーカー、偉大なる怪物というしかないのである。

 
アバンギャルドユーザーの声
■音の洪水!

後藤誠一さん(福岡県在住)

後藤誠一さん   後藤さんの部屋

あまりにも鮮烈な音だったんです。これまで聴いたことのないような切れ味の鋭い、歯切れの良い音。しかもホーン型だからでしょう、音が前に出てきて、それが密度高く空間を埋め尽くすんです。まるで音の洪水です。孔の細かいシャワーを浴びるような感じです。コーン型では出ない音です。ボリュームをそれほど上げなくても音圧が出て、しかもワイドレンジなんですよ。ジャズオーディオとして最高です。アバンギャルドというだけに、姿形もアバンギャルド。エジソンの蓄音機を彷彿とさせる原点の形でありながら斬新なんです。

見た目よりも素直なヤツです

中塚昌宏さん(神奈川県在住)

中塚昌宏さん   中塚さんの部屋

第一印象、見た目に飛びつき、次に音を聴いて飛びつきました。大きなホーンが宙に浮いているようなデザインが奇抜で、アバンギャルドといった感じがします。音はホーン独特のスピード感があります。見た目以上に繊細な音が出てくるんですよ。外見的には難しそうなイメージがあるようですが、意外と扱いやすいスピーカーシステムなんです。例えば、インシュレーターを敷いたり、アンプを換えたりすると、敏感な反応を示すんです。こんなに反応の速い、素直なスピーカーはなかなかありません。素晴らしいモデルです。

 
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