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一体型デジタルプレーヤーの新たな最上位モデルとして圧倒的な進化を遂げ、ついに全貌を表したエソテリックのKシリーズ。あっという間に高い評価を受け、先日行われたオーディオ銘機賞2011にてトップモデルK-01が「金賞」を、K-03が「銅賞」を見事に受賞した。

ここでは、この2機種の最注目モデルの開発に携わった方々に登場いただき、完成までの道のりを語っていただいた上で、その実力をレポートしていきたい。


 
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エソテリックはこれまでセパレート型と一体型の両分野でデジタルプレーヤーのハイエンド機を多数手がけてきた。そのなかで、セパレート型のフラグシップラインはコストの制約に縛られない究極の存在、一体型モデルはクオリティと使い勝手を両立させたプレーヤーとして、それぞれのカテゴリにおいて明確な作り分けが行われている。

K-01とK-03
K-01とK-03

一方、2010年秋に導入する新しいKシリーズではその方針の一部を見直し、一体型プレーヤーのデザインをリニューアルしてセパレート型との一貫性を持たせ、両者の距離を近付ける方向を指向することになった。もちろん、内容面でもセパレート型に迫るこだわりを徹底させ、妥協のないモノ作りの思想を貫いている。K-01の開発に携わった技術者にインタビューし、そのこだわりの中身を聞いてみることにした。

K-01   開発スタッフ
K-01   開発スタッフ陣

まず、XシリーズからKシリーズへの転換の動機だが、それについては開発責任者の加藤氏が語ってくれた。「VRDS-NEOの開発から7年を経て、プレーヤーラインナップの一新を期待する声が社内で高まってきました。デザインだけでなく、音についても新しい方向を目指したいという意見が多かったですね」。

加藤徹也 氏
Kシリーズ開発のリーダーであるティアック(株)コンシューマーオーディオ事業部 商品部 副部長 加藤徹也 氏

エソテリックというブランドから私たちが想像するキーワードはハイレゾリューションやハイスピードという概念が中心を占めるが、最近は同社の技術者の指向として、「大人の音」を目指す方向に変化しているのだという。音色と音質の両方で表現力の次元を高め、柔らかさのある「自然な音」を目指すということだ。

「自然な音」の本質に近づくうえでは、業務用アンプの開発経験が役に立ったという。「演奏家やエンジニアを交えて現場の音に接し、ニュートラルで自然な再生音に近付けていく作業を繰り返しました。パーツなどを変えて現場で調整することも多いのですが、その作業の過程で『音が整う』瞬間を逃さないことが大切でした」(加藤氏)。

中村 素央未 氏   仙土和弘 氏
主にファームウェアを担当したティアック(株)コンシューマーオーディオ事業部商品部 開発課 中村 素央未 氏   主に電源回りを担当したティアック(株)コンシューマーオーディオ事業部商品部 開発課 仙土和弘 氏

新シリーズでは筐体の大きな変更が行われているが、その最大の狙いは剛性の追求にあるという。外装など筐体全般を担当した渡辺氏は、「センターメカを採用し、ネジ止めではなくスポット溶接を導入するなど、剛性を高める工夫を凝らしています。大きなものに固定するというコンセプトも重視しました。また、セパレート型と同様に電源を独立させることは一体型でも音に大きな影響を与えましたね」と振り返る。

渡辺孝雄 氏
主に外装関連を担当したティアック(株)コンシューマーオーディオ事業部商品部 開発課 渡辺孝雄 氏
 
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Kシリーズの構造上の大きな特徴として、各ブロックを独立配置したうえで、各回路とそれに電源を供給する電源部を最短距離でつなぐという構造がある。

K-01の内部構造(天面部)   K-01の内部構造(底面部)
K-01の内部は、5分割のダブルデッキ(2階建て)構造とし、各回路ブロックを専用のコンパートメントに収めることで回路同士の相互干渉を最小限化。各chに分離した2枚のオーディオ基板は背面端子に最も近い上部コンパートメントの最後部にマウントし、信号経路の最短化を図っている(写真右)。オーディオ用電源回路、トランス類はスチール製の内部シャーシプレートによってオーディオ基板からアイソレートされ、オーディオ基板下部のコンパートメントに吊り下げ式にマウント。また内蔵のモノラルDAコンバーター2台分の電源トランス、デジタル回路用電源トランス、スピンドルサーボ・ドライバー回路『VS-DD』専用電源トランス合計4つの大容量トロイダルトランスを搭載し、各回路ブロックへの理想的な電源供給能力を実現(写真左) 。K-03は2台のトロイダルトランスを搭載している

上部にアナログ基板を配置し、その直下にアナログオーディオ用電源トランスを配置しているのはその一例で、他の回路でも同様な配置を採用している。トランスと回路を分離しつつ、最短距離で結ぶという構造を巧みなアプローチで実現しているわけだ。開発者全員が声を揃え、この手法が音質改善に大きな効果があったことを認めている。

K-01のメカ部   K-03のメカ部
K-01(左)とK-03(右)のメカ部。K-03には、SACD/CDプレーヤー『X-03SE』に採用されたメカニズムのコンストラクションをそのままに、駆動回路設計にリファインを加えたVRDS-NEO 『VMK-3.5-10』を搭載。また、ミクロン精度のジュラルミン・ターンテーブル、10mm厚スチール製ターンテーブルブリッジを採用し、総質量は4.4kgにも及ぶ

K-01、K-03ともにDACは旭化成エレクトロニクスのAK4399を採用しているが、この32bitの高性能DACを選んだ第一の理由はあくまで音質だという。「ニュートラルで自然な音を求める指向に一番近く、使いやすさの面でもアドバンテージがありました」(加藤氏)。

アナログオーディオの出力にはD-01のノウハウを継承し、高スルーレートのディスクリート・バッファ回路を積んでいる。

バランス出力に4回路、アンバランス出力用に2回路を積むと計6回路が必要になるが、一体型ではヒートシンクのサイズなどに制約がある。そのため、今回は計4回路をバランスとアンバランスで共有し、後者ではパラレル接続で4回路を使う構成を採用した。同時出力はできないが、アンバランス出力においても音質改善効果が大きく、結果として最良の成果を得られたという。

 
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K-01、K-03ともにハイレゾリューション音源対応のデジタル入力を備え、そのなかにUSB入力を装備したことが大きな話題を呼んでいる。

「USB入力は、ディスクのライバルとみなす考えもあり、正直なところ、導入については議論もありました。パソコン側の設定やソフトによって音質が大きく変わるという要素もあります。最終的には使い勝手を重視して搭載することにしましたが、USBとアナログオーディオの干渉については、フォトカプラーを導入した遮断やグラウンドの工夫など、万全の対策を行っています」(加藤氏)。

そのUSB入力の動作だが、私が常用しているMacBookAirを接続して検証したところ、192kHz/24bit音源も含めて安定した動作を確認した。

USBでPCからの音源を試聴する山之内氏
USB入力を活用しPCからの192kHz/24bitのハイレゾリューション音源も試聴した

エクストンレーベルのオーケストラ録音では重心の低い安定したバランスのサウンドを再現し、ディテール情報、空間情報ともにCDに迫るクオリティを引き出しうるという印象を受けた。

ジッターの影響を激減できる非同期伝送のメリットが、高い質感を生む要因だと思うが、加藤氏が指摘するように、パソコン側の条件によって音質は大きく変化するので、優劣の判断は慎重に行う必要がある。

 
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最後に、インタビューで得た情報を念頭に置きつつ、あらためてK-01とK-03の再生音を検証してみよう。

試聴風景
今回の試聴風景。アンプにはエソテリックのC-03とA-100、スピーカーにはタンノイのKingdom Royalを組み合わせた

K-03とK-01はDACの構成に違いがあるほか、スピンドルモーター専用駆動回路の搭載もK-01のみの装備であり、価格差相応の差がある。

K-01の優位性は空間の透明感と、微妙なレベルでのノイズフロアの差に表れており、マーラーの交響曲第9番の最終楽章、余韻の質感などに少なからぬ差を聴き取ることができた。

設計者が狙った柔らかい質感については、両機種ともに確実な進化を見せていると感じた。ボーカルのウォームな質感と充実したボディ感、高めの温度感を実感させるバイオリン独奏のテンションなど、クールさ一辺倒ではない表現をこなしており、従来のエソテリック製プレーヤーのサウンドとは確実な指向の変化が感じられた。

 
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しかし、これまでエソテリックの製品に共通して備わっていたセパレーションの高さや圧倒的な情報量はそのまま継承しており、むしろ弱音のディテールは世代交代を経て向上しているように思われる。

音質の変化を生む要素としては、音の輪郭が従来に比べてなめらかになった点に一因があるというのが、筆者の率直な感想である。そのなめらかさの程度はK-01がK-03を僅かに上回っており、ここにも両機種の違いを見出すことができる。

試聴を終えてから気付いたのだが、ラウンドフォルムを採用した外見から受ける印象と、再生音の間にはある種の相関がある。偶然の一致か、あるいは狙ったものなのかは別として、その一致から私自身はとても良い印象を受けた。

K-03   K-03
新しいKシリーズは、フロント、側版、天板とフロントコーナー部に肉厚アルミ材を採用。ビスを排除した天板とコーナー部のラウンドフォルムは、ESOTERICフラッグシップラインのセパレート型デジタルプレーヤーに採用してきたデザインと共通したものとなり、より気品ある美しい外観に進化した。2機種のモデルの外観上の違いは、トレイ開口部くらいである
 

【新しいKシリーズはこんな人にお薦めしたい!】

安心して長く使えるプレーヤーを探している人には最適であり
セパレートオーナーにも待望のシリーズの登場といえるだろう

セパレート型に限りなく迫るこだわりと物量を投じたKシリーズは、Xシリーズとはクラスが異なる存在感を獲得しており、一体型のフラグシップにふさわしい高級感を身に付けている。外見上はK-01とK-03を区別するのはトレイ開口部のシャッターの有無程度で、どちらの機種を選んでも高い満足感が得られるだろう。

安心して長く使えるデジタルプレーヤーを探している人にとって、新Kシリーズは有力な候補になる。一体型のハイエンドモデルを探しているなら当然ターゲットになるが、セパレート型のオーナーのなかにも、使い勝手とクオリティが両立したKシリーズのような製品の登場を待ち望んでいた人が多いのではないだろうか。ハイエンドオーディオのトレンドとして、クオリティを犠牲にすることなく、スマートなダウンサイジングを目指す動きがある。Kシリーズはそんな指向を巧みに先取りしているのかもしれない。


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