●ビーズの中にも様々なタイプがある
 
「キクチ」というと「ビーズスクリーン」の代名詞として知られている。ここで注目している「シアターグレイ」もビーズタイプなのだが、ちょっと毛色の違うスクリーンだということは知っておいてほしい。

これまでのキクチのホームシアター用ビーズスクリーンの主力は260Gや190PROGであった。数字の最初の二桁はピークゲインを表し、それぞれ 2.6、1.9である。「シアターグレイ」の場合は160HGだからピークゲイン1.6ということになる。

左はシアターグレイの反射特性図。ピークゲインとはスクリーンゲインの一番高い数値のこと。半値角はピークゲインが半分になる角度、1/3値角はピークゲインが1/3になる角度を表している。

数字だけみると、歴代のホームシアター用ビーズスクリーンは、プロジェクターの光出力が増すとともにゲイン(反射利得)を序々に下げてきていることが分かる。この数字は大きい方が反射性能が高くて明るい画面が得られることを示している。

●ゲインだけでは語れない映像の表現力

だから明るい環境下ではゲインが高い方がコントラストを確保しやすいのだが、暗い部屋で光出力が高いプロジェクターを使うと、映像の明部がまぶしいほどになり、また暗部が浮いて見えて自然画の観賞には支障も出てくるのである。つまり、強力なプロジェクターを使い、暗い環境下で映像を観賞しようという場合、ゲインが低い方が有利になってきたのだ。

しかしピークゲイン1.6というと、マットタイプである「マリブ」の1.4とくらべて、まだ明るいように見える。しかし、「シアターグレイ」はまぎれもなく映像観賞用なのであり、特に液晶プロジェクターから強靭なコントラストの映像を生み出すことを目指して開発されものだ。その実体を探ってみよう。

●迷光対策にはビーズタイプが適している

マット、パール、ビーズタイプの光の反射の仕方を横から見ると、このような図になる。ビーズタイプは、光が入射した方向に光がもどる回帰特性があり、画質をそこなう迷光が発生しにくい

マットタイプは明るさよりも自然な階調性を重視しているので、本格的な映像の観賞用として推奨されることが多いのだが、反射指向範囲が広いことに留意したい。「画面の明るさを抑えた」といっても、周囲からの乱反射(迷光)が強いとコントラストが下がり、暗部が浮きやすくなるのが欠点だ。

一方ビーズタイプはというと、ゲインは高くても、ピークゲインが高い範囲は狭くなっている。それに、ビーズタイプは光が入射した方向に反射光が戻る回帰特性があるので、反射光が脇道にそれにくいのが特徴だ。つまり光が広く拡散する裸電球に対するスポット照明のように、正面軸上は十分明るいのだが迷光が発生しにくいのである。

このため暗部が浮きにくくなり、明部と暗部の比、つまりコントラストが維持しやすいわけだ。これは部屋の壁の色が明るいとか、遮光対策が十分に施せないというリビングで映像を観賞する場合、特に有効な選択肢になる。

●暗部を引き締める着想とは

しかし、この「シアターグレイ」が特徴的なのは、単にゲインを低くするだけではなく、特に液晶方式の場合に問題となる暗部の表現力の乏しさを改善した所にある。

つまりゲインが1.6といっても、それは明るい光を投映した場合の反射特性であり、映像の暗い部分についてはもっと低いゲインになっているのだ。いわば暗い部分ほどより暗くなるように階調表現力を調整してあるわけだ。これで黒浮きを防ぐのである。

その暗部をひき締める要素技術に興味が湧くのだが、それはノウハウに属することなので公表されていない。ただし、呼称に「グレイ」という言葉があるように、明るい場所で見ると、その表面はたしかに濃い灰色をしていて独特の印象を与える。

実は、このスクリーンに使われているビーズそのものは、260Gに使われているものと同じだという。またスクリーンの裏地や下地、その上に強度を増すために設けられるグラスファイバー層、白生地の表面層といった基本構成についても他のビーズタイプと同等らしい。とすると、ビーズの粒子の隙間を埋めるコーティング剤が灰色だということであり、その吸光特性が暗部階調を支配する要因ということなのだろう。しかも、見掛けではわずかに色味が感じられるのであり、単なる無彩色ではないのかもしれない。