ラックスマンのプリメインアンプに新しく加わった「L-505uX」。同製品は、1968年に発売されたラックス初の本格的半導体方式「SQ505」を源流に今日まで連綿と歴史と伝統を引き継ぐ“500シリーズ”の最新機だ。長い歴史の中で、500シリーズがどのような歩みを辿ってきたのかをあらためて振り返っていこう。
文/藤岡 誠
ブランドのあゆみはメーカー公式サイトでも確認できる

現在のラックスマンは日本で最も長い歴史を持ったオーディオ専門メーカーである。源流は1897年(明治30年)に開業したガラス店「早川商店」だ。

その後「錦水堂」に社名変更。日本放送協会(NHK)が本放送をスタートさせた1925年(大正14年)に従来の生業と並行して「錦水堂ラヂオ部」を立ち上げ、これが今日のオーディオのラックスマンの原点となった。世界的に見ても現存するオーディオメーカーの中で最古参と捉えていい。

そして太平洋戦争の最中に当時の社業に合わせて「錦水電機工業(株)」に社名変更。海軍指定工場として戦闘機などの無線通信機部品の試作・生産を行なった。

敗戦後、ラジオ放送や映画が大衆の娯楽であった時代。“新しい流れの予感”が芽生え始めた。オーディオの登場である。録音側も再生側も革新的技術が次々に出現。日・米・欧に於いてオーディオメーカーが雨後の竹の子のように誕生した。

こうした時代に同社は、1961年(昭和36年)にブランド名を社名とした「LUX=ラックス(株)」を誕生させ、初のプリメインアンプ「SQ5A」(真空管方式)を発表。そして、翌年には改良型の「SQ5B」を発売した。この頃になるとオーディオの増幅素子は真空管と半導体(トランジスター)がクロスオーバーすることになってくる。

日本市場でこの変移をプリメインアンプで見事に象徴して見せたのがラックスである。1968年(昭和43年)に同時発売された真空管方式の「SQ38F」とラックス初の本格的半導体方式「SQ505」がそれらだ。両機共に木製ケース(木箱)に格納。前者は長い変遷の後、現在の「SQ-38u」に受け継がれ真空管プリメインアンプでベストセラーを続けている。後者は連綿と歴史と伝統を引き継ぐ半導体に特化した“500シリーズ”の原点で、最新型「L-505uX」の元祖である。

いささか前置きが長くなったが、今日のラックスマンを語る時、こうした同社の歴史にどうしても触れたくなるのだ。

 
木製ケースを現代に受け継いだ「SQ-38u」
  半導体に特化した“500シリーズ”の伝統を引き継ぐ形で「L-590AX」が登場した
「SQ505X」のカタログ

さて、500シリーズの原点であるSQ505は前述の通り1968年に姿を現した。かれこれ40余年前のことである。同年にはAM/FMチューナーを内蔵させたレシーバー「HQ555」も発売している。これは500シリーズの最初で最後のレシーバーとして記憶に残っている。翌年には姉妹機の「SQ503」「SQ507」がデビューした。

しかし、技術の進歩はここで止まらない。増幅素子や回路技術が一段と進化し、これに対応すべく数年後には改良型「SQ503X」「SQ507X」を立て続けに発売したのだ。

さらに、1971年には「SQ505X」が中間価格を埋めるように出現。増幅素子は全面的にシリコン・トランジスターになりノイズレベルがぐんと低下し、帯域も拡大された。もはや、初期の半導体ゲルマニウム・トランジスターは出る幕がなくなった。

回路技術は今日では当たり前の「全段直結・ピュアコンプリメンタリー回路」を採用。これらによって半導体方式は格段のクォリティーを持つようになった。パネル面のデザインや仕上げにも一層磨きが掛けられ、ノブの“手触り”にも高級感が漂った。

手元にSQ505Xのカタログがあるので幾つかの諸元を記そう。最新型「L-505uX」とは取り巻く環境や土俵がまったく違うし外観も大きく異なり単純比較はできないが比較するのも面白い。まさに隔世の感はあるが、これこそが500シリーズの歴史である。

価格は、現在の消費税ではなく物品税時代で69,500円。ちなみに、当時はタバコ1箱が30円程度、大卒初任給が43,000円程度という時代だった。

出力は8Ω=30W/ch。DF(ダンピングファクター)は30。全高調波及び混変調歪は0.04%。周波数特性5Hz~50kHz(−1db)。SN比はフォノEQ(MM)が63db、ライン入力のSN比は80db。トーンコントロールは独自のNF型で湾曲点切換付。ローカット/ハイカットフィルターも付属。プリアウト/メインイン・スイッチもある。

「SQ505X」の機体背面

そして、現在ではほとんど使われないDIN端子を前面に装備。これはカセット録音再生機への対応で当時としては親切機能であった。また、特記事項として「シリコン・トランジスター(31)、ダイオード(2)、バリスター(4)」とクレジットが入っているのは今となってはご愛嬌である。

言うまでもなく、この時代はアナログレコード再生の全盛期。今日のCDデジタル時代にあっては不要機能も多いが当時として最先端の多機能型であった。こうして初期の「SQ500Xシリーズ」の存在感はグンと高まり、市場に於いて確固たる位置付けとなった。

そしてその後、1973年になってプリフィックスを「SQ」から「L」に変え、「L-504」「L-507」をデビューさせ500シリーズは一旦休止符を打った。

500シリーズの復活は8年後の1981年に発売された「L-550」であった。忘れもしないが、出力段は純A級動作方式でデザインも一変。当時、限られた容積のプリメインアンプに純A級動作方式を取り込むのは大きな発熱量その他でかなり困難と見られていたのだが、ラックスは困難さよりも純粋に純A級動作の絶対的利点を極めるべく採用に踏み切った。放熱器はすべてヒートパイプが採用された。

L-550

これを契機にラックスはA級動作方式と蜜月の時期を過ごすことになり、確信とこだわりのもとで他社との方向性の違いを鮮明にした。上級型の「L-560」も1985年に発売。4年後には再びデザインを変更して「L-540」「L-570」を展開した。

ちなみにヒートパイプは、記憶によるとアメリカの航空宇宙局(NASA)の2度目の有人宇宙飛行計画だったジェミニ計画で衛星内部の温度管理に実用化された熱伝導性が極めて高い冷却器(装置)で、ラックスは一連の純A級動作方式アンプにパワートランジスターと組み合わせて受動空冷を行った。ただしL-540は趣が異なり、AB級動作方式で出力8Ω=100W/chを発生させた一方でA級動作領域を15W/ch(8Ω)に拡張。両動作方式のメリットを併せ持たせていた。なお、放熱器はAB級で唯一のヒートパイプだった。

しかしこのころ、折から日本の経済状況は悪化を辿り、国内のオーディオメーカーの新製品開発の速度は低下。ラックスも例外ではなく、既存の製品のマイナーチェンジで凌ぐことを余儀なくされた。具体的には2年後に「L-570X's」「L-570Z's」といった改良型を発売する一方で、コストパフォーマンスを重視したAB級の「L-500」を発売している。

そして、バブル崩壊が顕著な1994年に発売されたシンプル・デザインの「L-580」はラックスにとって20世紀最後の純A級動作方式プリメインアンプとなった。なお、この時代の純A級動作方式の放熱器はすべての機種で熱交換効率が高いヒートパイプが採用されていた。これ以降、500シリーズはAB級動作方式に特化する。

L-580

そのAB級動作方式は1996年の「L-505s」「L-507s」からスタートした。外観や仕上げ、そして技術面では高級セパレート型のノウハウを全面的に採用し、セパレート方式や純A級動作方式で培われた高品位部品を投入。パネルには出力メーターが付けられた。出力メーターは以後、500シリーズの標準装備となり現在に至っている。

 
L-505s
 
L-505s

デザインについては今でも思い出すのだが「メーターの装備を始め、今回も風格のあるデザインだが一番拘ったのは何所だろうか?」と当時の三村次郎社長に尋ねたことがある。すると即座に「電源スイッチのボタンだ!」と返ってきた。こちらはプロポーション全体のイメージで語られるだろう、と思っていただけに肩透かしを食らったような感覚であった。

電源スイッチのボタンは当時のラックスのセパレート方式では広く採用されていた半円球の形状。押すと指先に独特な感触があった。「ラックスのデザインに触れる時、決して油断しないことだ」とその時に肝に銘じたものである。

ところで、再スタートしたAB級動作方式のL-505sとL-507sは、新回路として「SSC(シングル・スタガー・サーキット)」、独自の負帰還方式「ODβ(オプティマイズド・デュアル・サーキット)」を採用した。

しかし、ここでも技術の進歩は止まらない。SSCは翌年に「CSSC(コンプリメンタリー・シングル・サーキット)」に進化。すぐさま「L-503s」に採用された。また、電源トランスと整流回路の動的バランスに着目し瞬時電流供給能力を向上させた「ハイイナーシャ電源方式」の採用もあった。

そして1998年にはトップモデルとして「L-590s」を投入。出力はシリーズ最大の8Ω=160W/ch、4Ω=240W/chを発生させている。この時点でラックスマンは多機能に加え、明確にハイパワー/ハイクオリティーを志向した。これらの型番末尾に「II」を付加した改良型の発売が1999年。「CSSC&ODβ+ハイイナーシャ電源」の完成期である。

そして2000年にラックス(株)は長く使用してきたブランド名と同じ「ラックスマン(株)」に社名を変更した。

21世紀入に入ったラックスマン500シリーズの幕開けは、2001年の「L-505f」「L-507f」「L-509f」であった。これらの製品では、負帰還方式に大きな変化が起こった。「ODNF(オンリー・ディストーション・ネガティブ・フィードバック)」がそれだ。

   
L-505f
 
L-507f
 
L-509f

ODNFは、入力と出力の波形の差を検出して“歪成分”だけをフィードバックするオリジナルの負帰還技術。ラックスマンの現在の基幹技術のひとつで年を追う度に進化し続け、最新型のL-507uではVer.3.0になっている。

このODNFの採用と共に、電源トランス+整流回路の余裕度をさらに高めたのがこれら「fシリーズ」である。翌年にはL-509fの特別仕様モデル「L509fSE」を発売したが、これには驚かされた。コストを度外視して内部構造はプリアンプ部とパワーアンプ部を分離。電源トランスは500シリーズ最大の700VA。その上で音量調整器に超高精度なアルティメート可変抵抗器を採用。結果的に重量もシリーズ最高の28.5kgとなった。

L-509fSE

筐体の仕上げは現在と同じ“ブラスターホワイト”。出力メーターの照明も従来はオレンジ色だったが初めての“ブルー”を採用。以降、AB級動作方式はブルー、純A級動作方式はオレンジ色の照明に住み分けていることは周知の通りである。

なお、リモコンも敢えて付属させなかった。アルティメート音量調整器のノブの極めてスムーズな回転感触を味わおうという意図があり、購入者もそれを理解。“リモコンが付属しない”という不満は皆無であったそうだ。このL-509fSEは現在の「L-509u」に受け継がれているが、同様のアルティメート可変抵抗器を使用しているためにリモコンの付属はない。

この3年後にラックスマンは創業80周年を迎え、L-580以来11年ぶりの復活となる純A級動作方式2機種を栄光の500シリーズに再投入した。「L-550A」と「L-590A」がそれらだ。

 
L-550A
 
L-590A

当然、出力量は8Ω=20W/chと30W/chと小粒。これまで蓄積されてきたノウハウを注入しつつ、L-550Aでは内部配線材にOFCを、L-590AではOFC内部配線材は勿論のこと「ピールコート金メッキパターン基板」を採用。

放熱器も微振動対策を考慮し強固で重量級型を採用。トータルで従来以上の細部に渡る微細な高音質化が実行され、改めて完成領域に達していた純A級動作方式に対する注目を集めることになった。これらは2007年に「L-550AII」とパネル下部にシーリングドアをフィーチャーした「L-590AII」にマイナーチェンジ。さらに2010年に「L-590AII」が「L-590AX」に、そして2011年2月には「L-550AII」が「L-550AX」へとさらに進化した。

製品名の末尾に“X”が付された両機種は、同社の最上級プリアンプにも採用されている高純度電子制御アッテネーター「LEUCA」を搭載。また、前述の高音質帰還回路「ODFN」の最新バージョンをA級化した「ODNF3.0A」の採用やスピーカーの負荷インピーダンス変動への対応力を強化。

さらに筐体の横幅を従来の467mmから同社の新標準サイズの440mmに変更。パーツのレイアウトや配線の一層の短縮化も実現している。

機能面でも、従来は分離されていたプリアンプ部とパワーアンプ部を内部結合。リモコンに配置された「SEPARATEスイッチ」で電気的に切り離せるようにすることで、プリアンプ部とパワーアンプ部を独立させて使えるようにされており、様々な使い方への配慮も忘れていない。

500シリーズは現在、AB級が3機種。純A級動作方式が2機種、合計5機種に整理。いずれも高級型で精鋭の製品ばかりだが、動作方式や価格面で選択肢が広くなっている。なお、AB級アンプは「L-509u」と「L-507u」があり、3W/ch(8Ω)までは純A級動作。小音量再生時ではほとんどこの領域で作動する。

L-507u

こうしてラックスマンの500シリーズのプリメインアンプの流れを見ると、真空管方式のSQ38シリーズも同様だが、DNAは脈々と受け継がれ、40数年にわたってAB級/純A級動作方式を取り混ぜて40機種を超える製品を送り出している。とてつもない歴史に驚愕するばかりである。

そして今回、このシリーズに新たな製品が登場した。AB級の最新鋭機「L-505uX」だ。1996年に登場した「L-505s」をベースにしたモデルで、505シリーズはその後15年の間に3度のモデルチェンジを経てきたが、今回初めてフルモデルチェンジされた。

ラックスマンにとってエントリーモデルとしての位置付けにあるが、同社のセパレートアンプに搭載されてきた電子制御アッテネーターLEUCAを搭載。ODNFもバージョン2.3に進化している。さらに、筐体サイズと構造も変更。その他製品の詳細な内容については次ページ以降に詳しいと思うが、先に新世代化された純A級動作方式の製品の内容がふんだんに盛り込まれている。

回路やデザインは時代ごとにオリジナリティーを常に訴求。共有するコンセプトは、AB級ではハイパワー。純A級動作方式に於いては理論通りのクオリティーの飽くなき追求がなされている。また、電源トランスも一貫してEIコア型に徹していることも見逃せない事実である。そして多機能。同じシリーズでこれだけの長期間に亘って多品種を展開しているのは勿論、世界広といえどもラックスマンだけである。そして音は常に曖昧さを排除した方向性にある。今後、500シリーズはどのような展開を見せるのだろうか?

 
筆者プロフィール
藤岡 誠 Makoto Fujioka

大学在学中からオーディオ専門誌への執筆をはじめ、40年を越える執筆歴を持つ大ベテラン。低周波から高周波まで、管球アンプからデジタルまで、まさに博覧強記。海外のオーディオショーに毎年足を運び、最新情報をいち早く集めるオーディオ界の「百科事典」的存在である。歯に衣を着せず、見識あふれる評論に多くの支持者を得ている。各種の蘭の他、山野草の栽培も長年に亘る。