写真を鑑賞する上で重要なのは、先に述べた通り色再現と階調再現だ。通常、テレビに写真を表示させると、鮮やかでメリハリがあり、一見すると綺麗に見える。ところが鮮やかでコントラストの高い表示が、決して写真にも向いているとは限らないことにすぐ気付くはずだ。またシャープネスも強く、不自然に感じることもある。シャープネスは適度にかけることで、高精細で立体感のある仕上がりになる。ところが強すぎると逆に立体感は失われ、まるで書き割りのように見えてしまう。色調も単純に彩度が高いだけでは色が飽和し、やはり立体感はなくなる。動画では自然に見えた色再現やコントラスト、シャープネスも、写真では不自然になってしまう。

また色の再現性は、元の画像データに忠実であってほしい。表示の際に色がズレてしまうと、撮影者の作品意図を正確に鑑賞者へ伝えることができない。もちろん撮影者自身も仕上がりに納得できないはずだ。

さて、そういった課題に対するビクターの解答。その一例がLT-42WX70の映像エンジン「GENESSAプレミアム」の搭載だ。このエンジンは入力信号の色域と表示パネルの色域が異なっても、色相のズレを起こさず表示できる。元のデータの色域に関わらず、正確な表示が可能なのは特筆すべきことだ。

しかも写真にとって見逃せないポイントがある。それはアドビRGBに対応していることだ。カバー率は96%。実用上、ほぼ完全にカバーしているといえる。ちなみにアドビRGBとは、PhotoshopやIllustratorでお馴染みの、アドビ社が提唱した色空間(カラースペース)。一般的なsRGBと比べて、広範な色再現域をカバーしており、より鮮やかな写真鑑賞が楽しめる。特に青や緑の再現域が広く、sRGBでは不可能な色が表示できる。

 
 フォト プロモード プリセット値
色相
0
色相設定
BYゲイン
0
BY/RYゲイン
0
彩度
0
コントラスト
0
コントラスト設定


黒伸長
切り
ダイナミックDCオフセット
切り
オートコントラスト
切り
黒レベル
0
シャープネス
0
エンハンサー
モード5
エンハンサー設定


ディテール
-15
Hシャープネス
-5
Vシャープネス
0
バックライト
10
バックライト設定

スマートピクチャー
切り
ダイナミックバックライト
切り
カラーシステム
カラーシステム
自動
カラーマトリクス
自動
カラースペース
sRGB
色温度
低い色温度2
白バランス設定
ドライブ/Gドライブ/Bドライブ
0
Rオフセット/Gオフセット/Bオフセット
0
カラーマネージメント
切り
カラーマネージメント設定
赤色色相/赤色彩度
0
黄色色相/黄色彩度
0
緑色色相/緑色彩度
0
水色色相/水色彩度
0
肌色色相/肌色彩度
0
明部:彩度
0
暗部:彩度
0
ガンマ
モード4
ダイナミックガンマ
切り
ノイズリダクション
デジタルVNR
自動
MPEG NR
切り
3DY/C
入り
ナチュラルシネマ
切り
高画質補正レベル
PCモニターモード
切り
エコセンサー
切り
その他

リアルビットドライバー
入り
倍速
切り
 


アドビRGBはデジタル一眼レフであればすべて設定ができる。ただこれまでアドビRGBが普及していないのは、多くのパソコンのディスプレイがこれに対応していなかったからだ。そのため、sRGBの方が、より色域が広い商用印刷に使われてきた。しかしLT-42WX70であれば、アドビRGBで撮影した画像の色域をほぼすべて再現できる。sRGBでは得られなかった色彩が堪能できるのだ。しかも1台ごとにガンマ調整をしてから出荷しているのは驚き。常に安定した、精度の高い写真再現が可能だ。こんなテレビはLT-42WX70しかない。ビクターの写真に対する熱意が伝わってくる。

なお本機の場合は表示、sRGB、ワイド(LCDの色空間)、ノーマル(HDTV標準)、x.v.Color、アドビRGBから選択できる。アドビRGBより色域の狭いsRGBは当然100%カバー。どちらも完璧に再現できるのが嬉しい。

細かな画質調整ができることも大きな特徴だ。その調整項目は、なんと52種類にも及ぶ。おそらく写真のエキスパートになると、キャリブレーションしたパソコンのディスプレイで調整した写真を、そのままテレビにも再現してもらいたいはず。これは商用印刷で、パソコンと印刷物の再現を同じにしたいという考え方と同じだ。だが個人で楽しむクローズドな環境なら、テレビ側で自分の好みに調整する方法も充分ありといえる。しかもLT-42WX70の場合は52種類の調整ができ、色再現や階調再現に優れているため、「少しだけシャドー(暗部)を締めたい」とか「わずかにシャープネスを上げて精密感を出したい」など、まるでパソコンで写真をレタッチする感覚で追い込める。おかげで鑑賞の際は、作品の仕上がりに自信を持って表示ができる。今回、筆者の作品を実際に調整してみたが、驚くほど細かく追い込めて、イメージ通りの仕上がりが得られた。

これまで写真の鑑賞はプリントやパソコンのディスプレイで行うことが一般的で、エキスパートになるほどテレビを使うという考えはなかったはず。だがLT-42WX70では、テレビで写真を高画質に鑑賞するという新たな選択肢を提供してくれる。しかもデジタル一眼レフは動画機能を搭載した機種も増えてきた。写真と動画がシームレスになってきた時代に、写真にも動画にも優れた再現ができるLT-42WX70は、まさにタイムリーといえるディスプレイだ。

 
 藤井作品を「LT-42WX70」で調整



明所の調整値
〔主な変更点〕バックライト +10→-5/シャープネス 0→-12/ガンマ モード4→モード5/彩度 0→+3/黒レベル 0→-4

この作品は空のトーンと教会のトーンが重要。約170ルクスの部屋では、デフォルトではやや明るい。そこでバックライトを-5、ガンマモードは「5」、黒レベルを-4にしてシャドーを締める。エンハンサーをモード4、シャープネスを-12にして解像感を出す。そして彩度を+3にして空の青い部分を強調させた。(藤井)
暗所の調整値
〔主な変更点〕ガンマ モード4→モード5/黒レベル 0→-6/シャープネス 0→-20/彩度 0→+5

ほぼ真っ暗の暗所では、より明るく見える。そこでバックライトは-20に設定。ガンマは「5」のままだが、黒レベルは-6。エンハンサーもモード4のまま。だが明所より効果が強く感じられるのでシャープネスを-20。彩度は+5でイメージ通りになった。(藤井)

明所の調整値
〔主な変更点〕エンハンサー モード5→モード4/シャープネス 0→+6/コントラスト 0→+2

カラフルなフルーツで、色再現性に注目した。バックライトは-5。ガンマはモード4。エンハンサーは5に設定し、シャープネスを+6にして輪郭を強調。さらにコントラストを+2にすることで、ハイライトが明るくなり、フルーツに立体感が出た。(藤井)
暗所の調整値
〔主な変更点〕シャープネス 0→-7

バックライトは-20。ガンマはモード4のまま。エンハンサーも5で明所と同じだが、シャープネスは反対に-7にした。明所と異なり、暗所ではシャープネスが強く感じられるから。自然な再現を重視した。コントラスは+3で、ハイライトを強調している。(藤井)


明所の調整値
〔主な変更点〕エンハンサー モード5→モード6/コントラスト 0→+3

デジタル一眼レフで撮影したモノクロ作品。カラーはアドビRGBだが、モノクロはsRGB。そのためLT-42WX70もsRGBで表示させた。画面に深みを出すため、バックライトは-5、ガンマはモード6。コントラストは+3にして、ハイライトを強調している。(藤井)
暗所の調整値
〔主な変更点〕バックライト +10→-20/シャープネス 0→-15

部屋が暗いと、明所と同じ設定では全体が明るすぎてしまう。そこでバックライトは-20に設定。さらにガンマモードを5にして、シャドー部を締めた。これで明所とほぼ同じイメージになった。なおモノクロ作品のため、色調や彩度関係は調整していない。(藤井)

せっかく多彩な調整ができるLT-42WX70なので、モノクロ作品の色調を変えてみた。R、G、Bのうち、Rを+7、Bを-17に設定。すると全体的に暖かみのある雰囲気に仕上がった。モノクロ写真では、これを温黒調、またはウォームトーンと呼ぶ。(藤井)
 
 評論家のプロフィール

藤井智弘 Tomohiro Fujii

東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。96年に東京新宿コニカプラザ(現コニカミノルタプラザ)で写真展「PEOPLE」を開催後、フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、各種雑誌や広告で活動。また国内や海外の街を撮影している。社団法人日本写真家協会会員。