ビクターの新しい液晶モニターテレビ「LT-42WX70」の画質を検証してほしいという編集部の依頼を受けて、正直驚いた。液晶テレビの国内販売からは基本的にはフェードアウトしていくが、ハイエンド商品に限ってはその限りではないというビクターの思惑は頭のどこかに残っていたが、そんな計画がこれだけ早く具現化するとは夢にも思わなかったからだ。

もちろん、期待を持って出かけた。画質を判断することを業としている私たちにとって「ハイエンド向けの薄型モニターテレビ」という惹句(じゃっく)はいかにも魅力的である。また、それだけの製品を作るなら、そこには選び抜かれた技術集団がタッチしているはずだ。彼らとの再会や出会いは、常に新たな刺激を与えてくれるからだ。

新しいモニターテレビの名称は“XIVIEW(サイビュー)”で、全く新しい未知の映像が観られるテレビという意味である。モニターであるからチューナー内蔵ではない。ダイナミックコントラスト5万対1、そして120コマ倍速に対応した液晶パネルを採用しており、実績のある同社独自の高画質映像エンジン「GENESSAプレミアム」を絡ませて高画質化を実現している。静止画との併用を狙った本機は多彩なプリセットモードを搭載していることがまず大きな特徴として挙げられるが、こと動画再生に関しての注目モードは「モニター」と「シアター」だろう。ソースを忠実に映し出せるガンマの特性をベースとした「モニター」は業務機同様の画質が実現できるモードだ。そして「シアター」は文字通り映画ファン向けのモードである。一台一台、緻密なガンマ調整を行なってから出荷するというのも、モニターテレビならではの気配りとして高く評価できる。

 
 シネマモード プリセット値
色相
0
色相設定

BYゲイン
0
BY/RYゲイン
2
彩度
0
コントラスト
0
コントラスト設定


黒伸長
弱い
ダイナミックDCオフセット
入り
オートコントラスト
切り
黒レベル
0
シャープネス
0
エンハンサー
モード4
エンハンサー設定


ディテール
0
Hシャープネス
5
Vシャープネス
0
バックライト
0
バックライト設定

スマートピクチャー
入り
ダイナミックバックライト
弱い
カラーシステム


カラーシステム
自動
カラーマトリクス
自動
カラースペース
ノーマル
色温度
低い色温度2
白バランス設定

ドライブ/Gドライブ/Bドライブ
0
Rオフセット/Gオフセット/Bオフセット
0
カラーマネージメント
モード3
カラーマネージメント設定






赤色色相/赤色彩度
0
黄色色相/黄色彩度
0
緑色色相/緑色彩度
0
水色色相/水色彩度
0
肌色色相/肌色彩度
0
明部:彩度
0
暗部:彩度
0
ガンマ
モード4
ダイナミックガンマ
弱い
ノイズリダクション






デジタルVNR
自動
MPEG NR
弱い
3DY/C
入り
ナチュラルシネマ
自動
高画質補正レベル
PCモニターモード
切り
エコセンサー
切り
その他

リアルビットドライバー
入り
倍速
入り
 


どのようなテレビを前にしても、私がこだわるのは映画映像の再現性である。今回は最新のBDを含め4タイトルの映画を試聴した。まず「モニター」を選び、最初の作品『宮廷画家ゴヤは見た』をチェックしたが、2・2のガンマを基本に調整すると、私がこうと思う画質が得られなかったので、次に「シアター」を選び、再度画質を追い込んでみた。この作品は暗い時代の暗い物語である。画家ゴヤの目に映った18世紀末のスペインでは何度にもわたる戦争の災禍と、カソリック教会の審問が民衆を苦しめていた。蝋燭の灯りに照らされた明暗の表現が時代の暗さの表現と結び付いた時、この映画のテーマがはっきりと分かる。まずは冒頭のシーン。教会の中でゴヤの版画が審問の対象として審議されている。クローズアップされた版画の階調がぴしっと決まると、ゴヤの見事な風刺が際立ってくるが、これが表現できないと全ての現実感が失せてしまう。何度か試行錯誤を繰り返した後に決まった画質調整ではバックライトをかなり大幅に落とし、中間階調のコントラストを付けつつ、黒の沈み込みを少し深くし、仕上げとしては顔色の赤味をわずかに加えてみた。うれしいことに、その映像は私が意図した作品のルックをほぼ完璧に表出していた。こうなると楽しみは増してくる。私は時間が経つのも忘れ、残り3作品の調整を開始した。

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は老人として生まれ徐々に若返っていく男の数奇な運命を描いた大人の童話だが、描写そのものはリアルな作品である。全体にセピアとブルー(暖色と寒色)を巧みに使い分けた映像で、調整ではあらゆる意味でバランスの良さが求められる。ベンジャミンの幼なじみであるバレリーナの女性が公園のテラスで逆光を浴びて踊るシーンは見るたびに華を感じさせられるが、今回の調整では背筋に興奮が走るほどの美しさを感じた。

『愛を読むひと』はひねりの効いた刺激的なスリラーである。セクシャルなラブシーンの多いこの作品では、肌色や顔色をいかに魅力的にしかもリアルに表出するかがポイントとなった。『善き人のためのソナタ』は、私が視聴の定番としているソフトだ。壁崩壊前のベルリンで行なわれた思想統制と弾圧を描いたこの作品では、色の少ない殺伐とした時代の情景をいかに感じさせるかが第一のポイント。次に盗聴する男と盗聴される男の間の距離感がラストシークエンスの映像の中で表現されなければならない。輪郭の強調が目立たずに距離感の表現に長けている本機の映像は、その殺伐さと距離感を見事に表出してくれた。特にラストシーンでは、涙を禁じ得ないほどの波動が私の心と体を揺すっていた。 この日、視聴に費やした長い時間は、私がいかに映像にのめり込んだかと言うことの証でもある。調整しても思う通りの映像が得られるか得られないかは、最初の作品で決まる。それができなけれは、早急に引き上げた方がいい。この日は最初の作品が次の作品を促し、その結果また次の作品に挑戦したくなっていった。今まで、画質のいいテレビには数多く出会ったが、いまだかってこれだけ「いじって楽しめる」テレビと出会ったことはない。

私は私流の解釈を基に画質調整を行い映画を楽しんでいるが、映画とは人それぞれがその人なりに楽しむものである。このテレビが持つ多彩な画質調整機能は、リーズナブルである上に調整範囲の広さと確実さで群を抜いている。挑戦しがいのあるこのテレビ、放ってはおけない気がする。

 
 貝山流「LT-42WX70」調整術
宮廷画家ゴヤは見た
〔主な変更点〕コントラスト 0→-8/黒伸長 弱い→標準/オートコントラスト 切り→入り/黒レベル 0→+4/バックライト 0→-30/Rオフセット 0→+7/ガンマ モード4→モード1

輸入盤BDでチェック。バックライトを大幅に落として中間のコントラストを付け、黒の沈み込みを少し深くし、仕上げで顔色の赤味を加えた。私が意図した作品のルックを完璧に表出できた。(貝山)
ベンジャミン・バトン 数奇な人生
〔主な変更点〕コントラスト 0→-5/黒伸長 弱い→標準/黒レベル 0→+4/バックライト 0→-10/Rオフセット 0→+7/ガンマ モード4→モード1

輸入盤BDでチェック。全体にセピアとブルーを巧みに使い分けた映像であり、全箇所でバランスの良さが求められるのでそこに気を付けて調整。背筋に興奮が走るほどの美しさが感じられた。(貝山)
善き人のためのソナタ
〔主な変更点〕彩度 0→-6/コントラスト 0→-6/黒伸長 弱い→切り/黒レベル 0→+4/シャープネス 0→-25/バックライト 0→-30

輸入盤BDでチェック。貝山の視聴の定番ソフト。色の少ない殺伐とした時代の情景をいかに感じさせるか、そして2人の男の距離感が表現できることが大事だ。波動が私の心と体を揺する。(貝山)
愛を読むひと
〔主な変更点〕彩度 0→-3/コントラスト 0→-5/黒伸長 弱い→標準/黒レベル 0→+4/バックライト 0→-10/Rオフセット 0→+7/ガンマ モード4→モード1

輸入盤BDでチェック。セクシャルなラブシーンの多いこの作品は、肌色や顔色をいかに魅力的にしかもリアルに表出するかがポイント。調整の結果、ひねりの効いた刺激的な画が得られた。(貝山)
 
 評論家のプロフィール

貝山知弘 Tomohiro Kaiyama

早稲田大学卒業後、東宝に入社。東宝とプロデュース契約を結び、13本の劇映画をプロデュースした。代表作は『狙撃』(1968)、『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970)、『はつ恋』(1975)など。独立後、フジテレビ/学研製作の『南極物語』(1983)のチーフプロデューサー。映画製作の経験を活かしたビデオの論評は、家庭における映画鑑賞の独自の視点を確立した。