15S2シリーズの完成度の高いサウンドを聴いた後、プレーヤーとアンプを13S2シリーズに入れ替えて、同じ条件で同じ曲を聴いた。基本パーツの一部と筐体の振動対策が中心のチューニングによって、果たしてどれだけの違いが出てくるのか、興味は尽きない。

 

13S2シリーズは、海外ではKen Ishiwata氏が監修した「marantz/K.I. Signature series」の30周年記念モデルとして販売されている。本体色はブラック。写真は13S2シリーズの上にK.I. Signatureを重ねたもの
ブルックナーのスケルツォは、導入部で金管が演奏する弱音の持続音がさきほどとどこかが違うことに気付く。13S2シリーズの組み合わせで聴くと、聴き手の位置との距離とステージ上の高さが正確に聴き取れるのだ。

耳を澄まして聴くと、演奏者がニ短調の調性のなかでテンションの高い均衡を保つべく音程を微妙にコントロールしていることまで伝わってくるし、その均衡を破るトゥッティは最初の和音からずっしりとした重さが加わり、聴き慣れたフレーズなのに強い衝撃を受ける。弱音の導入部からトゥッティに突入する部分での音圧感の変化は、まさにアンプの電源部の実力の違いに由来するものなのだろう。800Dほどの実力の持ち主ではなくても、アンプの瞬時電流供給能力の違いを再現できるスピーカーと組み合わせて聴けば、PM-15S2とPM-13S2の違いはすぐに気がつくに違いない。弓の方向を揃えて弾くことによる音の勢いは、低弦から高弦まですべての音域で聴き取ることができ、デモーニッシュな雰囲気が倍加する印象を受けた。

ヘンデルのアリアでは、ダニエル・ドゥ・ニースの声のイメージのフォーカスがひと回り小さく収束し、立体像のフォルムがきれいに整ってくる。立ち位置がわかるだけでなく、歌の抑揚と身体の動きがリンクし、顔の表情と音色の変化が連動することまで頭に浮かぶ。もちろんそれは実演や舞台映像で彼女の歌い方のくせや特徴をあらかじめ知っているからだが、音だけを聴いて顔の表情を連想できるのは、それだけ声の変化を克明に再現しているからにほかならない。再生装置のクオリティは、歌手や演奏家の本質に迫るうえで、きわめて重要な意味を持っているのである。

 

D&Mホールディングス マランツ・ブランド 音質担当マネージャーの澤田龍一氏に13S2と15S2の違いをくわしく語っていただいた
アンゲリカ・キルヒシュラーガーが歌う子守唄『ララバイ』は、15S2シリーズで聴いたときに声と音場の透明感に感心したが、13S2シリーズではそれに加えて言葉の発音の美しさ、なめらかさにあらためて気付かされた。オーストリア生まれのキルヒシュラーガーの発音は特にドイツ語の曲で独特の柔らかさを持つことが特徴なのだが、特定の言葉におけるドイツ出身の歌手との違いは、いったん気付けば意外にわかりやすいものである。だが、プレーヤーとアンプを変えることによって、あえて意識しなくてもその違いが自然に浮かび上がってきたし、いったん意識して聴くと、それほかの単語でもいろいろな違いを聴き取ることができた。

ジェーン・モンハイトは、たんにそのうまさに感心していた彼女のボーカルが、さらにニュアンス豊かに聴こえてきたことに唸らせられた。スタンダードナンバーをありきたりに歌うということの対極で、豊かな表情と音色の絶妙なコントロールに脱帽せざるを得ない。オーケストラに耳を向けると、ホーン楽器の金属の厚みなど、音色がリアルさを増していることに気付く。

 

聴き手が耳を集中させることによって、曲の意外な仕掛けや響きの複雑さに気が付くという例は、オーディオ装置のグレードが上がるにしたがって増えていく。誰が聴いてもすぐにわかる違いもあるが、意識して聴いたときだけ、明確に聴き取れるような微妙な違いもあるのだ。ちなみに、違いに気付いたときの感動や嬉しさは、後者の方が深いことが多い。

今回の試聴では、15S2シリーズと13S2シリーズの間に、わかりやすい違いに加え、そうした微妙な違いが存在することにも気付かされたのである。