試聴はマランツの試聴室で行い、スピーカーにはB&W 800Dを使用した
最初に15S2シリーズのプレーヤーとアンプを組み合わせ、B&Wの800Dで試聴を行う。

マランツの設計陣が音質評価に使う試聴室で、リファレンススピーカーを組み合わせて試聴していることもあるだろうが、演奏の細部まで克明に把握できる情報量豊かなサウンドがいきなり飛び出してきた。

そもそもベースモデルのバランスと完成度が高い水準に達していなければ、パーツ交換などのチューンナップが成功することはあり得ない。これは筆者が数多くの製品を聴く経験のなかで幾度も体験してきた事実であり、例外は1つもなかった。

15S2シリーズの再生音は、その事実をあらためて思い出させるほどに完成度が高く、それだけ聴いている限りはほとんど不満を感じることはない。それどころか、音楽とじっくり向き合える充実した音の世界を作り出している。

大編成のオーケストラが高い集中力で演奏したときに生まれるサウンドには、独特の緊張感がそなわるものだが、スクロヴァチェフスキ指揮ミネソタ管弦楽団のブルックナー交響曲第9番はその好例だ。スケルツォの短く研ぎ澄まされた音符は低弦から金管まで音の長さとスピードが見事に揃い、勢い良く音を繰り出していく。

 

15S2シリーズの組み合わせでの一番の聴きどころは、金管楽器が鋭い音色のなかに本来の柔らかさをそなえていることで、これはその後に聴いたヘンデルのアリア集でも実感することができた。トランペットに限らず金管楽器の音は、立ち上がりの瞬間を正確に再現しないと音が硬く聴こえてしまうことが少なくない。硬く変質した音のままでアンプの音量を上げると、ただうるさいばかりで、他の楽器と溶け合わず、耳障りで刺激的な響きが目立ってしまうのだ。

この組み合わせで聴く金管楽器の音はそうした例とは対極にあり、芯のある柔らかいブラスの響きを堪能することができる。ブルックナーの交響曲においてその響きがいかに重要な意味を持つか、クラシックの愛好家なら説明は不要だろう。

 

声のポイントは柔らかさと透明感が両立していることにある。ヘンデルのオペラではつねに起伏のある表情が求められるが、ダニエル・ドゥ・ニースの歌唱はその起伏に無駄な力が入っておらず、フォルテでも音色に破綻がない。しっとりとした柔らかさをたたえた音色をこのクラスのコンポーネントでここまで自然に引き出すのは簡単ではないと思うのだが、15S2シリーズが引き出す響きは期待以上に純度が高く、余韻にもくもりがない。倍音領域まで時間情報の精度を確保しているからこそ、ここまで見通しの良い音場を再現することができるのだろう。

ジェーン・モンハイトの『Taking a Chance on Love』では声のイメージの充実感と表情の豊かさに耳を傾けたい。かなり低い音域から個性のある音色をしっかりキープし、高音域のなめらかなタッチにつなげるモンハイトのうまさに舌を巻くが、その音色のコントロールをありのままに引き出す再生機器の実力を聴き逃さないことが肝要なのだ。オーケストラのサポートも特にストリングスの柔らかい音色が美しく、声となめらかに溶け合う。ロン・カーターのベースもいつも通りアタックが柔らかいが、リズム楽器とホーンセクションの音のリリースは俊敏で、そこには曖昧さと甘さがなく、ほどよいテンションを保っている。

 

15S2シリーズの音の速さを説明するために鋭さと柔らかさが両立している例をいくつか紹介したが、2つの要素をどちらも満足させるのは容易なことではない。鋭さを追求するとエッジ感の強い不自然な音色になりがちで柔らかさが失われるし、柔らかさだけを狙うと音楽の勢いやテンションが後退するという具合だ。音の速さをすべての音域で揃えることによって、そうした弊害に陥ることなくバランスの良い再生音を実現しているのである。