SHUREの魅力を幅広く伝えるハイコストパフォーマンスモデル

「SE102-K」は、同社イヤホンの魅力を幅広い層に届けるべく、同社ならではの高音質を同社初の低価格で提供する、戦略的な製品だ。同社イヤホンとしては初めて1万円を切る価格帯に投入される。

 
SHURE「SE102-K」。価格はオープンだが8,000円前後での販売が予想される   ケーブル長は約45cmだが、91cmの延長ケーブルも付属する

この価格なら、SHUREの名前と評判は知っていたけれどお財布事情で手を出せなかったという人、そしていままでSHUREを知らなかったという人へのアピールも期待できるだろう。

ではその概要から紹介していこう。

全体の設計は同社の「E2c」というモデルを元にしているようだ。耳の穴に挿入するカナル型イヤホン(耳栓型イヤホンと言う方がわかりやすいかもしれない)の流行の、初期の立役者であった定番モデルである。

定評あるモデルをベースとすることで開発コストを抑えつつ、熟練エンジニアによる再チューニングを施すことで、よりハイレベルな音質を備えた新エントリーモデルが誕生したというわけだ。後述するが、扱いやすさと音質の両面で格段の進化を遂げている。

 

円錐型のエンクロージャーが豊かな低音再生を可能に

外観からもわかるポイントは、円錐型のエンクロージャー。エンクロージャーとはイヤホン本体の筐体のことで、ここの形状は音質に大きく関わる。各社製品で様々な工夫が見られるところだ。

本機の場合は円錐型を採用しているわけだが、もちろんそれにも音質的な狙いがある。実際に音を発生させるドライバーユニットの背面からエンクロージャー内に放出される音圧を、だんだん細くなるこの円錐型で巧く制御するのだ。そうすることによって低音域の特性を改善し、低音のクリアさや迫力を高めている。

 

専用のユニットを搭載し音質や耐久性対策も万全

ドライバーユニットは、携帯音楽プレーヤーの付属イヤホンにも一般的に採用されている、ダイナミック型という形式のユニットを搭載する。この価格帯で音質と価格のバランスを考えると、バランスド・アーマチュア型ではなくダイナミック型というのは、妥当な選択だ。

しかしこのダイナミック型ユニットはSE102-Kのために開発された専用品であり、音質や耐久性はSHUREの求めるクオリティを満たすものだということは、当然である。SHURE製品である以上、特に音質面での妥協はあり得ない。

 

使い勝手を高める仕様や同梱品が充実

設計ベースと思われるE2cは使い勝手の面にはいくつか難があったが、それらの点はもちろん、SE102-Kではより扱いやすいようにリファインされている。

まずは耳の穴に挿入するイヤパッドは、柔らかめのシリコンのソフト・フレックス・イヤパッドが付属している。これの装着感と遮音性に関しては後述。

シリコンのソフト・フレックス・イヤパッドは3サイズを同梱。耳穴の大きさに合わせて選択できる

ケーブルは、本体ケーブルを45cmとして、91cmの延長ケーブルを付属するモジュラーケーブル形式となっている。

 
付属する91cmの延長ケーブル。オーディオプレーヤーをバッグの中に入れておく場合などに便利だ   キャリングポーチも付属する。オプション品などと一緒に携帯することができる

オプションで23cmのケーブルが用意されており、使い方(携帯プレーヤーを胸ポケットに入れるかカバンに入れるかなど)によってケーブルの長さを調整できるわけだ。

加えて先日国内でも販売が開始された「Music Phone Adaptor(MPA-3C)」というケーブルがある。これは延長ケーブルにマイクとスイッチを追加したもので、話題のiPhone 3Gと組み合わせれば、通話用ヘッドセット兼リモコンとして機能する。iPhoneユーザーには見逃せないオプションだ。

 

装着感や遮音性の高さはSHURE製品ならでは

では試聴レポートに入ろう。まず装着感は悪くない。ケーブルはやや硬めだが(音質と耐久性を重視した結果だという)、慣れればさほど気にならないだろう。そしてソフト・フレックス・イヤパッドは耳に押し込むだけで安定して、耳の中での収まり具合は良好だ。

これが「SHURE掛け」。これだけで装着感が高まり、イヤパッドが耳の奥で安定。結果的に音質が高まる

ただし同社イヤホンでは遮音性や音質を十分に引き出すために、イヤホン本体から伸びるケーブルを耳の上を通して後ろに回す、通称「SHURE掛け」と呼ばれるケーブル回しが推奨されるのが、少し特殊なところ。これはぜひ実行したい。実際、装着感がしっかりする。

カナル型イヤホンに期待される遮音性も十分。室内だと、エアコンの稼動音などがかなり小さくなる。屋外の喧噪なども、静かになるとまでは言わないが、ずいぶん抑え込まれる。非カナル型(耳の穴に挿入しない、普通の形のイヤホン)とは比べ物にならない遮音性であるし、同価格帯の他のカナル型イヤホンと較べても優位を感じるレベルだ。

さらに上を望むなら、オプションのフォーム・イヤパッドを使えばよい。このいわゆる低反発素材を使ったイヤパッドの遮音性は強烈だ。もう耳栓そのものである。

 

濃密かつ鮮明な音質を聴いてしまうと後戻りはできない

ではいよいよ音質チェック。この価格帯のイヤホンだと、携帯音楽プレーヤー付属のイヤホンからのステップアップでの購入というのが多いだろう。そこで気になる「付属イヤホンと較べてどうなの?」を確認するべく、今回は某携帯プレーヤー付属のイヤホン(カナル型ではない一般的な形状のダイナミック型ユニット搭載イヤホン)と聴き較べながら印象を述べていこう。

まずは宇多田ヒカルのアルバム「HEART STATION」を聴く。

付属イヤホンで聴く音は軽快。シンバルやアコギなどの高音が変に目立つとかベースやバスドラムなどの低音が妙に強調されているとかいうこともなく、バランスは悪くない。しかしバックの演奏は厚みに欠ける印象。それ以上に気になるのは、彼女独特の声の憂い、揺れの細かなヴィブラートといった歌声の魅力がいまひとつ届いてこないこと。

SE102-Kでは歌声に肉声感があり、その細かな表情も届けてくれるようになる。そうそう宇多田ヒカルはこうじゃなきゃ、と納得できる歌声だ。細かく震えるヴィブラートから、次のフレーズにつなぐ際のブレス。彼女の歌はそういった息づかいさえも魅力的であるということに気付かされる。バックの厚みも増し、特にストリングスは安っぽさがなくなった。アコギも一音一音の粒立ちがよい。

そして音場全体に濃密さを感じる。そこで改めて付属イヤホンを聴くと、どうにも薄っぺらく聴こえるようになってしまった。後戻りできないくらい明らかな差がある。

 

音場の厚みと情報量の多さはSHUREの名に恥じない

次はロック・フィーリングも強いジャズ・ユニット、上原ひろみ率いるHIROMI'S SONICBLOOMの「BEYOND STANDARD」。

付属イヤホンはやはり、バランスは良好で軽快さには好感も持てるが、厚みや重み、演奏の細かなニュアンスなどの再現力はない。シンバルは少し丸まった感じで繊細さが薄れているし、ピアノの音色もガツンという力強さや輪郭の艶やかさがいまひとつで、いまひとつ説得力に欠ける。

SE102-Kにすると、ピアノは適度な厚みと艶を得てグランドピアノらしさを増す。スネアドラムの一発ごとのニュアンスの違い、アタックの強さや響きの残り方などもより強く感じられる。シンセとギターの音色もクリアさを増し、ベースラインも力強さを得る。

曲中にピアノのアルペジオが続いてその音が重ねられ音場に溢れていくというような場面があるのだが、その音の重なりも、重ねつつ一音一音にしっかりとした粒立ちがあって分離しており、無数の音が溢れていく様が美しい。やはり音場に厚みがあるし、音場の中の情報量(音数と音のニュアンス)が多いと感じる。

一般的な携帯音楽プレーヤーに付属するイヤホンとの音質の差は、明らかだ。加えて特に屋外では遮音性の差も発揮されるため、総合的な音質の差はさらに広がることになる。

1万円を切るとはいえ、いままで「イヤホンなんて付属のもので十分」と思っていた方にとっては、安い買いものではないだろう。しかし音を聴けば説得力は十分と思う。

同社ユーザーを裾野から広げるために投入される戦略モデルだけに「安くてもSHUREの名に恥じない音」が求められるわけだが、それを見事に達成していると言える。高音質イヤホンのエントリーモデルとして広くおすすめできる製品だ。

 

ドライバー:ダイナミック型×1
感度:105dB SPL/mW(1kHz)
再生周波数帯域:22Hz〜17.5kHz
公称インピーダンス:16Ω(1kHz)
入力コネクター:3.5mmステレオ・ミニプラグ、金メッキ
ケーブル長:約45cm
質量:約30g(ケーブル、コネクター含む)
カラー:ブラック
付属品:ソフト・フレックス・イヤパッド(S、M、L)、91cm延長ケーブル、キャリングポーチ