新たなレジェンドの誕生 LUXMAN“SQ-38u”
ラックスマン真空管アンプの栄光の系譜
テキスト/石田 善之
ラックスマンの真空管アンプ“38シリーズ”の原点はSQ-38で、1963年にスタートしている。翌64年にはSQ-38Dへと発展し大ヒットした。
ちょうど時代はまさに高度成長の真っ只中、オーディオはその後の急成長をうかがわせる兆しが感じられた頃のことである。新幹線が走り東京オリンピックが開催され、ポップスにジャズにクラシックにと、音楽は次第に身近になり、それにつれてオーディオ人口も着実に増加し、スピーカーにしてもアンプにしても、これまでのような自作から、より完成度の高い専門メーカーのコンポへと変化しつつあった。
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大ヒットしたSQ-38Dは、出力管に6RA8というミニチュアタイプの3極管が使われ、今日からすれば実にささやかな10W+10Wという出力だったが、当時の高能率なスピーカーと組み合わせてユーザーを魅了したのである。
しかし、より力強さが求められ、1968年には同じ3極管ながら50CA10と大型化されて30W+30W を実現したSQ-38Fが大いに話題となり、これも大ヒットした。当時、もちろんトランジスタアンプもスタートしていたが、まだまだゲルマニウムタイプで、今日のようにシリコン型でピュアコンプリメンタリーを構成できる回路になるまではもう少し時間が必要であった。
1970年代に入るとSQ-38FDになり、74年にはFD IIへと進化していく。既にこの頃は国内の多くの競合ブランドがプリメインアンプを手がけ、そのほとんどはトランジスタ式で、管球アンプの38シリーズは少々肩身の狭い時期であったかもしれない。
しかし、今日でも同様だが、根強い「管球党」の支持を得て、管球アンプの持つ魅力、つまりひとつひとつの部品が手で取り付けられ、組み立てられて配線される、職人の手仕事によって作られた製品、という価値観が尊重された。プリント基板に対しパーツの自動挿入自動ハンダ槽など大量生産の最先端を行くコンポとは、真っ向から対照的な存在であった。
やがて、1982年にはCDがスタートする。現在でも同様だがデジタルという先端技術を積極的に取り入れようという考え方と、実績を重視する考え方とがある。こうした動きは常にオーディオの世界で存在するが、簡便でたやすく、世の中が平均化されるという意味で、デジタル化が急速に進むのは必然の流れであったかもしれない。
そんななかで印象的に思い出されるのは、LX-38uである。Uは最後のとか究極のという意味のUltimateを略したもので、38シリーズはSQではなく敢えてLXとして5年ぶりに改訂されたのである。LX-38uは、ラックスマンの38シリーズを始め、管球アンプの設計やデザインを手がけ、ラックスマンのこれまでを築いてきた上原 晋氏の最後の仕事であった。
このLX-38uでCDを聴いたときの音を今でも思い起こす。当時の、20〜30万円クラスのプリメインアンプ数機種のなかで、最も臨場感に溢れた厚みのあるサウンドを聴かせてくれたのである。そのなかには同じラックスマンの25W+25Wの純粋AクラスL-550も含まれていた。
LX-38uの出力管は50CA10で出力は30W+30W、上原氏はNFBを極力軽くしようと改善を図り、プリアンプ部の電源部にリップルフィルターを追加するなど、非常に高い完成度を示したのである。
38シリーズの音質を決定するものとして出力トランスが挙げられる。OYトランスと呼ぶが、これはオリジナル以来一貫して使われてきたもので、コア材にはオリエントコア(方向性冷間圧延コア)が使われ、分割巻きの非常に特殊な捲き線技術を要する。熟練工が一日に2〜3個しか作れない手間のかかるものだが、音質を大きく決定付けるものとして使われ続けているのである。
その後、少々のブランクの後、1995年にSQ-38S、Signatureとして復活する。7世代目となり大きく変貌を遂げている。出力管も5極管のEL34のウィリアムソン回路を採用し、出力は30W+30Wだが、よりゆとり感のあるものとなり、形状的にもこれまでとはやや異なっている。1998年のSQ-38Dは限定の復刻版で、再び原点に立ち返って製品化された。
こうして38シリーズは常に時代の要求に応えるべく変遷があったが、それぞれのモデルを思い出してみると、すべてがラックスマンの情熱を感じさせる管球アンプである。歪みや周波数特性は現代の先進アンプに譲るとしても、温度を感じさせ聴き手の心の琴線に触れる深い味わいや音質は他では味わえない魅力である。
石田善之 Yoshiyuki Ishida
日本大学芸術学部放送学科卒業。岩波映画などで数々のドキュメントや音楽の録音を担当する。20代からオーディオ誌への執筆をスタート。その的確で筋の通った評論は多くのオーディオファンに支持されている。ジャズやクラシックなど音楽への造詣も深いほか、スピーカーシステムなどの自作にも積極的に取り組み、専門家はだしの木工細工を駆使した自作スピーカーシステムを多数発表している。 |