新たなレジェンドの誕生 LUXMAN“SQ-38u”

 最新モデル「SQ-38u」を 聴く

レポート/藤岡 誠 

 ラックスマンの「SQ-38u」は往年の「38シリーズ」のイメージを現代に蘇らせた真空管方式プリメインアンプである。同シリーズは一貫して3極出力管に拘ったが本機は5極管のEL34(6CA7)のUL接続回路。パネルデザインは1968年発売のSQ38Fを踏襲しているが横幅を抑えた寸法比。ずんぐりした印象だが見慣れると可愛くなる。ベテランには懐かしく、若い方は新鮮な印象があるだろう。

 ただ、インテリアを重視する人達にとっては、本機が木箱に収容された主張の強い外観と寸法ゆえ、デジタルプレーヤーとのデザインの整合が極めて難しい。そうなるとデザインや寸法比を同じくしたプレーヤーが欲しくなる。今後、ユーザーから要望の声が上がると想像している。ラックスマンも、SQ-38uをロングライフ商品位置付けしているはずだから「CD専用でオーディオ回路は真空管」といった製品ができるといいなと思っている。なお、2個のACアウトレットはいずれも非連動。1つは連動にした方が何かと便利だろう。

 これからSQ-38uに4種類のスピーカーシステムを組み合せて試聴することになるが、最初の展開はモニターオーディオのPL100。選択されたシステムの中でアンプのポテンシャルを最も明らかにする能力を持っていると思われるからである。まず、その点を明確にしてからスタートと言うわけである。

Monitor Audio
PL100製品データベース

モニターオーディオ最新のPL100は「プラチナム・シリーズ」の一環で2ウェイ・ブックシェルフ型。従来からの同社の各シリーズとは音質・音調の方向性が大きく異なる。それは当然であって表裏をセラミック処理したアルミ/マグネシウム(C-CAM)振動板の採用は従来通りだが、トゥイーターはリボン型。ウーファーの振動板はハニカム構造でコンケーブ(逆ドーム)形状。いずれも同社初のユニットが使用されている。最高級シリーズだからネットワークやキャビネットも上質。ネットワークは銅箔空芯コイルや金属皮膜ポリプロピレン・コンデンサーなどを採用。キャビネットは入念な仕上げ加工が成され、詳細は省くが内部構造も独自。入力はデュアル(4端子)方式で端子はプラチナメッキのWBT社製である。試聴はPL100専用スタンド(¥88,200・税込、ペア)にセットして行なった。

 


音元出版試聴室にて試聴を行う藤岡氏
 SQ-38uとの組合せでは、極めて現代的と言うか、恐らくはラックスマンが真空管方式に拘り、想定した音質・音調とは方向性に於いてまったく異なると思った。SQ-38uは半導体方式では余り感じられない音の温かさを相当に意識して整音されているが、PL100はそうした整音を完璧に無視するかのようにクールでワイド&フラットレスポンスで聴かせる。今回は音楽信号に加えピンクノイズでもチェックしているが、ノイズの粒立ちが鮮やかで確かにバンド幅が広い。音楽信号でもそうした傾向が裏付けされる。特に高域方向は独自のリボン型トゥイーターゆえに実にシャープな切れ込みを感じさせる。さらに透明度が高く空間再現性にも優れる。多分、SQ-38uの設計者・整音者はこの組合せから聴こえる音質・音調は自分たちの狙いと相反すると言うに違いない。しかし、見方を変えるとPL100のような先鋭的アプローチのスピーカーシステムも素性を変えることなくドライブする能力を兼ね備えていると言えるわけで、真空管方式とは言え、意外な懐の深さを持っていることに感心した。

 

TANNOY
Stirling/SE製品データベース

 アナログレコード再生全盛期に青春時代を過ごした人達にとって、タンノイのスピーカーシステムは垂涎の的であった。しかも組み合せるアンプは真空管方式……。今日、特に齢を重ねられた方々の「あの時代の音を再び聴きたい」という強い要望に、タンノイのサウンドと風格あるキャビネットは応えている。

 さて、最初に組み合せたモニターオーディオのPL100を現代的かつ先進的スピーカーシステムだとすれば、タンノイのスターリング/SEは使用ユニットにせよキャビネットにせよ、同社の80年を越える長い歴史と伝統を背景に懐かしさが感じさせるシステムと言うことができる。ユニットは“デュアルコンセントリック”で、フルレンジ2ウェイ同軸型。深絞りのパルプコーン・ウーファー(25cm)の中心にホーン・トゥイーターを組み込んだタイプ。キャビネットは正統のフロア型で格調の高さや仕上げは良好。左右側板と前面バッフルの接合部にスリットを設けたディストリビューテッド・ポートと呼ぶ内容積85リットルのバスレフ方式。トゥイーターレベルのコントロールが可能。入力は5端子だが1つはグランド用。

 SQ-38uに接続しピンクノイズを聴くとデュプレクッスの個性が直ぐ判る。1.7kHz以上はシャープな切れ込みでそれ以下のウーファー帯域はシャープさとは相反する傾向を持つ。そして大きなメリットとして挙げられるのが能率の良さだ。今回の4機種中で最高。このためダイナミックレンジは充分に拡大。厚手な聴こえの低域は個性的表現。現代スピーカーシステムが狙う方向性と異なるが、ざっくばらんで大らかに聴かせる。トーンコントロールやスピーカーシステム側のレベルコントロールで各自が好みの質感を求めて自由に調整するといい。さすがのSQ-38uもStirling/SEの音の自己主張には一歩下がり気味だが半導体アンプで聴くよりも穏やかさは感じられる。いずれにせよ、時代を遡ったサウンドに懐かしさを覚える。

 

HARBETH
HLcompact 7ES-3製品データベース

 ハーベスはタンノイと同様にイギリスのスピーカーシステム専門メーカー。英国国営放送局BBCのモニター・スピーカーシステムを長年に亘って供給したキャリアがあり、経験によって判っている技術を頂点まで高め、民生用であっても、例えば周波数特性や位相特性などに細心の配慮が施されている。振動板素材もウーファーは高分子系(ポリプロピレン)を軸に展開。トゥイーターなどはドーム型を採用。機種によってソフト、ハードを使い分けしている。キャビネットは高剛性化に組みせず、“箱の響き”を巧みに採りこんで総合的なチューニングが行なわれる。

 



「SQ-38uのトーンコントロールは下品な変化をしないのが好ましい」と語る藤岡氏
 3代目となったHLコンパクト 7ES-3はネットワークを含めてかなりの変更が見られる。ウーファーは深絞り成型されたポリプロピレンに数種類のポリマーを中心から外周にかけてブレンドを変えた“RAIALコーン2”と呼ぶ20cm振動板。トゥイーターは2.5cmアルミニウム・ドーム型の2ウェイ・バスレフ方式ブックシェルフ型。入力はシングル。試聴は専用スタンド(¥73,400・2台、税込)を使用した。

 

 いわゆるオーディオ的なサウンドではなく、ウォームで癒し系の音質・音調で音楽を聴きたいと言う方は、今回の4機種中でこのシステムがSQ-38uの音の狙いと整合。ピンクノイズもスペクトラムが均一だから聴こえのエナジーバランスもスムースで妙なうねりがない。ノイズの粒立ちと立ち上がり感は多少甘い傾向だが、それこそが癒しの音に直接的に結び付くのである。声やピアノはウェルバランス。オーディオ的にはさらに透明度やハイスピードを訴求したいが、とにかく穏やかで眉間に皺寄せてしまう刺激音はない。低域方向は若干“箱鳴り”が加わるが豊かである。高域方向はハードドームの物性音が上手に抑えられストリングスは滑らか。SQ-38uのトーンコントロールは±6dBで250Hz/2.5kHz。下品な変化はしないから安心して自由自在に調整して貰いたい。

 

JBL 
4312 MII製品データベース

 JBLについては多くを述べる必要はあるまい。組み合わせるスピーカーシステムは4312M II(WX)。価格は何と¥79,800(ペア、税込)である。SQ-38uに対しては余りにもコンパクトだし低価格。大胆な組み合わせである。事前にお断りをしなかったが、今回の4機種のスピーカーシステムは編集側が選択を行い、私の作業は試聴だけだ。システムのリストを見た時に、私は同じ新製品の4307(¥159.600・2台)と思い込んでしまった。それでもトータルでハイコストパフォーマンス狙いの意図を感じて面白いと思ったが、実際に出て来たのは4312M II(WX)。一瞬たじろいだが、こうしたコンパクトな組み合わせがあってもいい。そればかりか、型番末尾の「WX」はウォルナット仕上げでSQ-38uの木箱ケースに結構マッチングしている。奇妙に感心しながら試聴することになった。

 4312M II(WX)は、この価格、寸法比では例外的な3ウェイ。クロスオーバーから見ると2ウェイ+スーパー・トゥイーター的構成。13cmウーファー+5cmミッドレンジ+1.9cmチタン・ドームトゥイーターが組み合わされている。ミッドレンジとトゥイーターはレベルコントロールが付属。キャビネットは直径37mmのダクトによるバスレフ方式。入力はシングルである。

 ピンクノイズではトゥイーターのレベルを上昇させた方がスペクトラムは自然。半導体アンプの場合と逆傾向となった。高域方向は繊細で損失感がない。中域周辺はミッドレンジ・ユニットがあるからソプラノはクリアー。アルトやバリトンは個性を出す。低域方向は下降気配で少しキャラクターを感じる。コントラバスはもう少し胴の響きが欲しい。この響きについてはトーンコントロールで補正はできなかった。SQ-38uのポテンシャルのすべてを出し切れないが、贅沢を言わなければ小気味いい組み合わせ。もっとスケールを出そうという場合は前記の4307を狙えばいいだろう。

 

執筆者プロフィール
藤岡 誠写真
藤岡 誠 Makoto Fujioka
大学在学中からオーディオ専門誌への執筆をはじめ、40年を越える執筆歴を持つ大ベテラン。低周波から高周波まで、管球アンプからデジタルまで、まさに博覧強記。海外のオーディオショーに毎年足を運び、最新情報をいち早く集めるオーディオ界の「百科事典」的存在である。歯に衣を着せず、見識あふれる評論に多くの支持者を得ている。各種の蘭の他、山野草の栽培も長年に亘る。
BACK INDEX NEXT