新たなレジェンドの誕生 LUXMAN“SQ-38u”
開発者に訊く“38シリーズ”への思い
往年の銘機「SQ38FD」の後継機「SQ-38u」。
本機の開発責任者であるラックスマン土井社長が、製品開発の経緯と製品の魅力を語る。
インタビュー/編集部
― 昭和38年に初代が発売されたSQ38シリーズは、増幅素子の主流が真空管アンプから半導体に移ったあとも代を重ね、国産管球式プリメインアンプを代表する製品として長きにわたってオーディオファンに親しまれてきました。その38シリーズの最新モデルとして「SQ−38u」を発表されました。開発のきっかけは何だったのでしょうか。
土井 今回の製品の開発目的は、SQ38FDやSQ38FD IIなどを使われているお客様にその代替になる製品を提供することでした。昭和45年に発売されたSQ38FD、昭和49年に発売されたSQ38FD II、いずれも30年以上前に発売された製品ですがいまだに当社のアフターサービスに入ってくる修理品の中でいつも1、2番目の台数です。
38FDやFD IIに使われている出力管の50CA10は、今まったく手に入りません。その他の部品でも調達できないものが増えてきて、修理できないケースの割合が日々増え続けています。当社では現行の真空管アンプをおすすめしていますが、新しい製品をお買い求めいただくお客様がいらっしゃる一方で、イメージが異なるので修理も代替機の購入も諦める方がいらっしゃいます。過去、何度も復刻の企画を検討してきましたが、単純に復刻しようとすると100万円近い価格になってしまい商品化を見送ってきました。それでもいつかは実現したいということでいろいろな工夫を重ねてきた結果、37.8万円という価格で実現できそうだということになったので開発に着手しました。
― 38ファンへの代替機の提供をメインコンセプトにされたということですが、それを実現するためにどのような点に配慮されたのでしょうか。
長年の38シリーズの修理を通じて、調達に問題が起きそうな部品や、経時劣化しやすい部分がよくわかっています。安心して使い続けていただけるために、調達に不安が無い部品を選び、経時劣化しやすい部分を全面的に変更しました。出力管には、SOVTEC製のEL34(6CA7)を選びました。この球種は世界で一番多く使われている出力管です。メーカー数も多いので、当分の間、供給面での心配がありません。真空管以外で劣化が問題になる代表的なものはスイッチの接触不良です。そこで、今回のアンプでは、内部の動作をすべてリレー切替に変更して、接触不良の発生を根本から排除しています。
― 回路については、いかがですか。
土井 出力管は、3極管から5極管のUL接続に変更した以外はほとんど変更していません。ムラード型で、2段構成のフォノイコライザー回路、トーンコントロール回路も2段構成と従来とほとんど同じです。今回のアンプで新たに加えたものはMCカートリッジへの対応です。SQ38FDやFD IIが発売された当時、カートリッジはMM型が中心でしたのでステップアップトランスは別売でしたが、SQ-38uではMC用のトランスを内蔵させました。それもロー用とハイ用の両方を入れるという贅沢な構成にしています。
― 開発作業の中で一番苦労された点は何だったでしょうか。
― オリジナルに比べて横幅がずいぶんコンパクトになりましたが。
土井 以前の製品の横幅は48cmでしたが、このサイズでは一般的なラックに入らないので、内部の構成を工夫してこのサイズでまとめました。FDのユーザーからはどうしてこんなに小さいんだ、何をなくしたんだと言われますが、MCカートリッジ対応を加えたほどで、何かを減らしたわけではありません。
― 中国で生産される真空アンプが多い中で、SQ-38uは国内生産と聞いています。
土井 真空管は国内での生産が終わって久しく、その他の部品も日本の大手部品メーカーが中国に生産拠点を移していますので中国製のものも多く使っています。コストだけを考えると中国で最終製品の生産まで行った方が有利ですが、製品の品質を高い水準に保つために、組み立てと検査をほぼすべて国内で行うことにしました。
― オーディオショーでは古くからのオーディオファンだけでなく、若い人もこのアンプに非常に注目していました。
土井 SQ38FDやFD IIは、昭和40年代から50年代を中心に多くのオーディオファンや音楽ファンに愛していただいた製品です。今回のSQ-38uは外観デザインと音質の両面でオリジナルのテイストをできるだけ残しながら、現在の技術と将来にわたって調達できる部品を使って合理的に作り直したものです。メンテナンス性も非常に良くなっていますので、将来にわたって安心して使っていただける製品になっています。オリジナルモデルをお使いの皆様には、ようやくその代替機としての役割を果たせる製品を準備することができました。また、オリジナルモデルをご存じない方にとっては、真空管アンプ全盛の時代のテイストを味わっていただければと思います。