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■意匠性に凝りたいからブラインドで吸音する! |
「リビングシアターの音をもっとよくしたい」。ホームシアターファンの皆さんなら、そう思っている人も多いのではなかろうか。しかし、理想の音環境を手に入れるためには、ふたつの要素が必要となる。ひとつ目が音漏れを防ぐ遮音。もうひとつが、音が響く時間(残響時間)をコントロールするルームチューニングである。
このふたつの要素を完璧に満たそうとするなら、大規模な工事が必要となるし、インテリア性を損なう結果を招くことも多い。また、近年のリビングは採光をとるため大開口の窓をつかうことが多く、窓辺をルームチューニングすることはとても難しい。
しかし、この問題をクリアするアイテムが誕生した。それが東京ブラインド工業が開発した“吸音ブラインド”「フェルトーン」だ。
素材に高密度フェルトを利用し吸音性能を上げたブラインドで、通常の木製ブラインド等と比較しても遜色ないほど薄く、また軽い。ブラインドは窓に合わせてオーダーメイドし、さらに特殊な接着技術をつかって、表面に好きなカーテン生地をあしらうことができる。しかも、接着する生地は持ち込みもOK(※)。まさに、心地よい音の響きと意匠が求められるリビングシアターの救世主といえよう。 ※空気を通す生地であること。現段階ではポリエステル100%であれば確実とのこと。
※生地により効果が若干異なります。
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■実際のシアター室を模し吸音効果を実測してみた |
吸音性能はJIS規格(日本工業規格)という法律に基づいた物理的な吸音測定により導き出される。メーカーが測定した透過損失計算値は、JIS規格の3分の1規模ではあるが、400Hzから10,000Hzの中高音域に対して、おおよそ2〜9dBの吸音効果が期待できるという。これはあくまで参考値であるが、素材自身の性能が高いことがわかる。しかし、今回はホームシアタールームで実際に使用することを想定して、改めて計測を行ってみた。詳細な結果は下記をご覧いただきたいが、超低域・超高域を除いてバランスのよい吸音効果が得られた。
ルームチューグは奥深い。家の構造、部屋の形状、内装材、さらに空間に置くインテリアなど、様々な要素がからみあって残響時間は決まる。空間によっては、特定の周波数の音だけが大きく聴こえてしまって、音のバランスが悪くなる場合もある。こうしたケースに吸音ブラインドは、非常に有効なソリューションとなるのではないだろうか。普段は遮光、調光用として使えるのに、ブラインドの角度を調節することで響きを変化させられる。リビングだってもっと音をよくできるのだ。 |
【測定方法】
低周波が聴こえにくいといった人間の聴覚特性を考慮して計測する方法「A特性」による計測を行った。この方法によってわかる数値は、「等価騒音レベル」と呼ばれる。単位はdB(デシベル)。一般的には車の騒音を計測するときなどに使用する計測方法だ。ホームシアターの音は車の騒音と同じように、高い音から低い音まで複雑な周波数の音が鳴り、しかも、時間によって大きくなったり小さくなったりするため、A特性で計測を行うこととした。また以下の結果は、スピーカーの直接音も集音されているため、吸音ブラインドの一次反射音だけを計測したものではない。あくまでホームシアターを楽しんでいる場合の聴感上の効果として参考にしていただきたい。
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■測定に使用した機材
・リオン「NA-28」
音を周波数ごとに区切って様々な音の測定ができる精密騒音計 |
【測定条件】
吸音効果の測定場所は10畳程度(約5.3×3.1m)の音元出版 視聴室。ブラインドの設置の仕方によって吸音効果が異なる可能性があるため、ディスプレイのある視聴方向を前として、前後左右、合計4面を吸音ブラインドで覆った。なお、吸音ブラインドと壁面には4面ともおよそ6cm程度の空気層が設けられている。 |
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■Case.1 側面だけの状態 |
中高音域に効果あり
フロントスピーカーに対して側面だけ吸音ブラインドを閉じた状態の計測。1,600〜6,300Hzの中高域に対して顕著な吸音効果が見られた。スピーカーの受け持つ帯域としてはミッドレンジ〜トゥイーター部にあたる。音域の最も広い楽器はピアノだが、その1番高い鍵盤が4,186Hzであることからも、かなりの高音域まで吸音しているのがわかる。また、この設置ならスピーカーの一次反射音の軽減が期待できる。
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1.6kHz |
2kHz |
2.5kHz |
3.15kHz |
4kHz |
5kHz |
6.3kHz |
デフォルト |
31.6db |
31db |
31.8db |
31.4db |
31.9db |
29.1db |
28.7db |
側面設置時 |
29.8db |
29.2db |
30.5db |
28.8db |
28.4db |
26.4db |
26.4db |
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上記グラフの等価騒音レベル実測数値(1.6 kHz〜6.3kHzを抜粋) |
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■Case.2 前後だけの状態 |
低音域をよく吸う前後設置
フロントスピーカーに対して前後に吸音ブラインドを閉じた状態の計測。側面だけの場合と異なり160〜1,000Hzの低〜中音域、ウーファーやミッドレンジで鳴らす帯域に吸音効果が認められた。また、前後に吸音材を設置することで、後方で反射するフロントスピーカーの余分な響きを軽減することができる。そのため、サラウンドスピーカーに分配される効果音を、一音一音ハッキリと聴こえるようにすることができる。
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160Hz |
200Hz |
250Hz |
315Hz |
400Hz |
500Hz |
630Hz |
800Hz |
1kHz |
デフォルト |
35.8db |
33.4db |
35.2db |
34.3db |
34.6db |
36.9db |
40.2db |
41.7db |
38.4db |
前後設置時 |
32.7db |
31.6db |
33.4db |
32.9db |
35.3db |
36.3db |
38.5db |
40.2db |
37.3db |
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上記グラフの等価騒音レベル実測数値(160Hz〜1kHzを抜粋) |
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■Case.3 4面の状態 |
低域から高域までバランスよく吸音
閉じた吸音ブラインドで四方を囲った状態を計測。先の結果を足したような結果がみられた。数値的には160〜6,300Hzが顕著に効果のあった帯域だ。全体的に音を吸ったことはわかるが、やはり超低音と超高音には効果が薄いようだ。しかし、人が大きな音と感じやすい400〜4,000Hz、人の声の高さである800〜2000Hzの帯域をカバーしているので、過ごしやすい音環境をつくるのにも役立ちそうだ。
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160Hz |
200Hz |
250Hz |
315Hz |
400Hz |
500Hz |
630Hz |
800Hz |
デフォルト |
35.8db |
33.4db |
35.2db |
34.3db |
34.6db |
36.9db |
40.2db |
41.7db |
4面設置時 |
33db |
30.6db |
31.6db |
31.2db |
33.1db |
33.8db |
37.3db |
38.8db |
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1kHz |
1.6kHz |
2kHz |
2.5kHz |
3.15kHz |
4kHz |
5kHz |
6.3kHz |
デフォルト |
38.4db |
31.6db |
31db |
31.8db |
31.4db |
31.9db |
29.1db |
28.7db |
4面設置時 |
35.5db |
34db |
29.2db |
30.3db |
28.3db |
28.4db |
25.9db |
26.3db |
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上記グラフの等価騒音レベル実測数値(160Hz〜6.3kHzを抜粋) |
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■実験を終えて |
設置方法によって変わる吸音帯域
設置方法によって、吸音帯域が変わる結果が得られた。ただ、超低音に効果が認められないため、低音の定在波を軽減させるという用途ではなく、ライブになりがちなリビングの音の響きを追い込むのに重宝しそうだ。
また、顕著に騒音レベルを落とした数値は、4面閉じた状態でおよそ3dB程度だった。一見すると効果が薄いように見えるが、3dB減らすためには音圧レベルを2分の1にしなくてはならない。たとえるなら、同じ音圧レベルで鳴らしている2本のスピーカーを1本にすることと等しく、非常に大きな効果といえよう。
ルームチューニングには様々な手法がある。音を何でも吸わせればよいのではなく、吸音と拡散のバランスが重要になる。特に、音を反射させやすい窓辺を吸音できるメリットは非常に大きく、今後、音の響きのよいリビングシアターをつくるうえで、最良のチューニング材料になるだろう。 |
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