ソニーが発売する「進化するテレビ」の内容を予想してみた
■「QWERTYキー付きインプットデバイス」採用の意味とは?
注目したいのは、「進化するテレビ」に「QWERTYキー付きインプットデバイス」が用意されるという点だ。発表会時のパワーポイント画面にはフルサイズのキーボードの写真が掲げられていたが、恐らくこれは単なるイメージ画像だろう。テレビの利用シーンを考えたら小型のものになるはずで、ブラックベリーのようなハードウェアキーボードか、あるいはソフトウェアキーボードかは分からないが、リモコンに内蔵されると予想するのが自然だ。
さて、わざわざQWERTYキーを用意するからには、高い頻度で文字入力を行うことを想定しているということになる。テレビにブラウザーが搭載されていることはもはや当たり前だし、「進化するテレビ」ではネットからのアプリケーションダウンロードを大々的にアピールしていくのだから、当然ながら検索などで文字入力の機会が増える。ではQWERTYキーは、こういった、敢えていえば「当たり前の用途」のためだけに用意されているのだろうか。もちろんそういった使い方も念頭にあるだろうが、発表会時のパワーポイントで、ほかの特徴と併記していたほどの力の入れ具合から見て、違った使い方を用意しているのではないかという期待が膨らんでくる。
■メタデータ入力でテレビを「ソーシャル化」
妄想を逞しくすると、この「QWERTYキー付きインプットデバイス」もまた、テレビの視聴体験を革新するために用意されたものなのではないか。
話が脱線するようだが、昨今のインターネット業界の大きな潮流の一つに、ソーシャルメディアの隆盛が挙げられる。国内ではmixiやGREEといったところがその代表格だし、海外を見渡せばFacebookなどが億単位のユーザーを抱えている。これらのソーシャルメディアでは、ほかの人がどのようなことを考えているか、何に興味を持っているかを共有することができるし、一つの事柄について、複数人の知識を集めることでより正確な情報を提供することもできる。
この特長をテレビに持ち込んだら面白いことが起きそうだ。たとえば、テレビを視聴しながら、QWERTYキーで番組にタグを素早く入力する。そのとき、タグと同時にコンテンツの時間情報も記録されるようにしておく。そうして多くのユーザーがタグを付けていけば、EPGの番組情報よりもはるかに詳しいメタデータが蓄積されることになる。
これを録画機能と組み合わせれば、メタデータの真骨頂が発揮される。たとえば誰かが作ったメタデータをもとに、野球で特定のバッターの打席だけをまとめて視聴したり、得点シーンだけを集めてみることもできるし、番組をまたいで、ある特定のタグが張られた部分だけをプレイリストとして視聴することもできる。つまり、アプリケーションで「進化する」だけでなく、膨大なユーザーの集合知によって、自律的に「進化していく」テレビが実現することになる。
個人情報をうまく保護しながら、地域や年齢、性別といったデータも活用し、組み合わせれば、“自分好み”のコンテンツを見つけることがさらに容易になる。さらにタグをテレビ番組以外の、ウェブサイトやネット動画、VODのコンテンツなどにも張れるようにしておき、テレビやネットといったソースの垣根を越えることができたら、なお便利だ。ソニー自身が掲げている「進化するテレビ」の特徴、「放送やパッケージメディア、インターネットなどを一元的に管理」「これまでの概念を覆す視聴スタイル」などとも符合してくる。
コンテンツが爆発的に増えている今、詳細なメタデータの価値は高まる一方だ。だがこれまで、正確で詳細なメタデータをどのように入力するか、という課題への現実的な解は存在しなかった。映像や音声をコンピュータで分析してメタデータを生成するのは、まだ精度の面で課題が残るし、かといって専門のスタッフを雇うのは人件費がかかりすぎる。
だったらユーザーを、良い意味で利用すればよいのではないか。世界中で年に1,000万台以上のテレビを販売するソニーの製品ならば、ユーザーの一部が入力するだけでも、十分に高い質と量のデータが得られるはずだ。また、たとえばニコニコ動画などで、ユーザーが張ったタグを契機にしてブームが起きることがあるように、ソニーのテレビから新しい流行が発信される、ということも可能になるかもしれない。
ここで、ソニーが今後ネットワークサービスに力を入れ、「ソニーオンラインサービス」(仮称)を展開すると表明していることも頭に入れておきたい。11月現在で約3,300万以上のアカウント数をすでに持っている「PlayStation Network」を基盤としながら、テレビやモバイル機器にも対応製品を増やしていく考えだ。サービスのローンチ時期は明らかにされていないが、ソニーが全社を挙げてネットワークサービスの拡充に力を入れると表明していることからも、視聴者が情報をシェアする「テレビのソーシャル化」が現実味を帯びてくる。
ここまで長々と書いてきたが、お断りしたように、QWERTYキーのくだりからは、完全に個人的な願望、期待、あるいは妄想がメインとなっている。当たっていたらうれしいが、その可能性はほとんど無いだろう。
いずれにしても、ソニーが「これまでのテレビとはまったく概念が異なる」という製品なのだから、いやがうえにも期待が高まる。どのような製品で我々を驚かせてくれるのか、早ければその答えは、来年1月のInternational CESで知ることができるかもしれない。