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話題の高音質盤第2弾ができる過程に岩井喬が密着

元曲の「温度感」があるジャズアレンジを − F.I.X. RECORDS「Pure2」制作現場レポート(2)

公開日 2011/05/18 22:45 岩井 喬
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やり直しのきかない一発録りだからこそ生まれるグルーブを
余すところなくとらえる


続いては、「トモシビ」の一発録りについてのレポートをお届けしよう。

「トモシビ」はSuaraさんが作詞・作曲を手がけた楽曲であり、ファンの皆さんにも馴染みの深いSuaraさんのメジャーデビュー曲でもある。収録前日、ギターの後藤秀人さん(元キンモクセイ)とSuaraさんがスタジオに残り、冒頭のかけ合いパートの練習を行った。フリーテンポということもあり、後藤さんとの息の合った連係が必要となる。そしてどのタイミングでバンド全体が入ってくるのかも予め打ち合わせていた。

「トモシビ」冒頭部のリハーサルを行うSuaraさんとギターの後藤さん

翌日、他の楽曲のオーバーダビングを終えてから一発録りがスタート。スタジオのセンターブースにドラムのShiraneさん(ジャズアレンジを担当されたShuntaroさんと共に、WaJaRoで活動中)、ヴィブラフォンの香取良彦さんがスタンバイ。Suaraさんと後藤さんはかけ合いパートのことも踏まえ、ピアノ用ブースの中で一緒にレコーディングへと挑んだ。この時も含め、多くのエレキギター録音の場合、ギターを持ったプレーヤーとギターアンプは個別の場所へセッティングされている。ギターアンプのスピーカーユニットの前面にはマイクが立てられ、ギターアンプから出たサウンドを収音するのだ。これはSNの良い録音を行うことと同時に、ギターアンプもサウンドを完成させる大事な要素として捉えているからで、ギターからシミュレーターを通してのサウンド作りも時に行われるが、今回のセッションのように、きちんとした箱鳴りの良いスタジオを用いる場合は積極的にギターアンプからの音を録音するのである。

マイクセッティング中の橋本まさしさん。実際に楽器を軽く演奏しながらその音色とスタジオの響きを楽曲ごとに把握し、毎回マイクを変更していく

ドラムのShiraneさん。ドラムが必要な楽曲ではすべてShiraneさんが担当。力強いドラミングと絶妙なリズム感で繰り出されると金物とブラシワークのコントラストが素晴らしい

この一発録りの時はセンターブースの隅に衝立が用意され、そのなかにギターアンプとマイクがセットされていた。もちろんこの状態では他の楽器に用意されたマイクへ音が被ってしまうが、個別スペースとしなかったのは、ウッドベースの竹下欣伸さんがエアー・チャンバールームにスタンバイしていたことや(当初はセンターブースでセッティングしていたが、各楽器の音量感の問題もあり個別ブースへ移動)、スタジオの残響感を狙ったアンビエントマイクを置くスペースも必要であるといった要素にも起因している。しかし、やり直しのきかない一発録りだからこそ、空間の響きを有効に使った音の融合を活かすということも有効であり、結果的に演奏の一体感を演出することができるのである。

スタジオの角のスペースを使ってセッティングされたギターアンプ「フェンダーTWIN REVERB」。画面中央のミニスタンドに立てられているのが「R-121」だ

ボーカルマイクは何種類かのヴィンテージ・モデルが試されたが、バンドサウンドとの馴染みの良さの点で、「アルテック639B」が選ばれた。コンデンサーマイクに較べればナローなレンジ特性を持つダイナミックマイクだが、独特な深みと存在感ある音色を持っている。ウッドベースは「RCA 77DX」(リボン)、弦のアタックを拾うための「ノイマンU67」(真空管・コンデンサー)という2本構成、ドラムは全体を狙うステレオトップマイクとして「COLES 4038SA」(リボン)、スネアに「ソニーC55P」(コンデンサー)、キックドラムには「ソニーC38B」(コンデンサー)が立てられていた。そして今回のセッションでは大人気であるリボンマイク「RCA 44BX」はヴィブラフォンを担当。ギターアンプには「ロイヤーR-121」(リボン)が用意されていた。

「トモシビ」一発録音のボーカル収録で用いられた、「アルテック639B」

ウッドベース用に立てられた「U67」(上)と「77DX」


ヴィブラフォンにセッティングされた「44BX」。当初は「77DX」が用意されたが、アタックの響きを柔らかくするという目的で変更された
これまでの録音でも充分バンドのグルーブ感が感じられるテイクが数多く収められてきたが、一発録りとなると緊張感が一段と高くなる。

「トモシビ」一発録りに向け、各々のプレーヤーが音合わせを開始。緊張感が高まってくる
 
総合的な音質感を踏まえ、一発録りでもProToolsによる192kHz/24bitのマルチ録音が採用されたが、ダイレクトな鮮度感はもちろんのこと、Suaraさんも含めたプレイヤーの融合感は数段高くなったと感じられた。ウッドベースの場所変更を含め、数回通しで演奏されてOKテイクが出るまでおよそ2時間ほど。ボサ・ノヴァ調のアレンジとなった「トモシビ」は、心地良い密度感が得られるサウンドとなっているが、一発録りによる一層強いバンドとの融合によって他のボーカル曲とは異なる個性を持った楽曲として完成した。アルバムを通しで聞けるようになるのが今から楽しみでならない。

「トモシビ」レコーディングにおける、コントロールルーム内の模様。Suaraさんへ歌い方の指導を行う橋本さん

ピアノブースにセッティングされたヴィンテージマイクへ向かうSuaraさん。ほんの一瞬訪れたブレイクタイムでの一幕だ

次回のレポートではSuaraさんのインタビューを踏まえ、ボーカル収録のレポート及び、プロデューサー/エンジニアの橋本さんやアレンジを行ったShuntaroさんへのインタビュー、ミックスダウンのレポートをお送りする予定である。

【筆者紹介】
岩井 喬:1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。

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