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2020年の試験放送目指す“次々世代の映像技術”

【海上忍のAV注目キーワード辞典】第13回:スーパーハイビジョン − 実用化への「4つの関門」

公開日 2012/11/13 12:32 海上 忍
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【第13回:スーパーハイビジョン】

■実用化へ向け克服すべき「4つの関門」

スーパーハイビジョン(SHV、英語では「Ultra High Definition Television」)とは、現在主流のフルHD(走査線1080本)を大きく上回る、走査線4,000本以上の高精細描画を実現する映像システム。NHK放送技術研究所(NHK技研)を中心として、本邦メーカー各社の協力を得つつ技術開発が進められており、2020年の試験放送開始が目標に掲げられている。

NHK技研とパナソニックとの共同開発による145インチ プラズマディスプレイパネル

NHK技研とシャープとの共同開発による85V型液晶ディスプレイ

SHVは、2012年8月にITU-R(International Telecommunication Union - Radiocommunication Sector、国際電気通信連合 無線通信部門)の勧告として承認され、テレビにおける国際規格となった。その概要は下記の【表1】に挙げるとおりで、画素数は横7,680×縦4,320の約3,318万と現行フルHD(約207万)の16倍、ようやくテレビなど対応製品が登場し始めた「4K」に比べても4倍だ。現時点においては、“次々世代の映像技術”と言ってもいいだろう。

まさに桁違いの画素数を扱うだけに、実用化に当たってはクリアしなければならない関門が多数ある。ポイントは大きく4つあり、以下にその概要と現状をまとめてみよう。

【表1】スーパーハイビジョンとハイビジョンの比較
 スーパーハイビジョンハイビジョン
画素数4,320×7,6801,080×1,920
アスペクト比16:916:9
フレーム周波数60Hz/120Hz60Hz
標準観視距離0.75H3H
音響22.2ch5.1ch(放送)

※:H=画面の高さ

■課題1:表示装置

SHVでは、約3,318万の画素を1枚の絵として1秒あたり60枚表示するという、大量かつ高速なデータ伝送能力が要求されるため、既存技術の流用では足りない。

2011年の技研公開(年に一度NHK放送技術研究所の成果を一般公開する場)では、シャープの「UV2A」を採用した直視型85インチ液晶パネルが(関連ニュース)、2012年はNHK技研とパナソニックの共同開発による145インチのプラズマパネル(関連ニュース)が出展された。

そのサイズでは民生用には厳しいが、IGZOパネルなど高精細化に対応しやすい生産技術が進展していることもあり、今後はダウンサイジングが進むと予想される。

■課題2:音響装置

SHVの暫定仕様には、22.2chのマルチチャンネル再生環境が定義されている。上層に9ch、中層に10ch、下層に3chという3層のスピーカーと、さらにサブウーファー(LFE)の2chを加えた24個のスピーカーを立体的に配置するもので、高い臨場感とあらゆる方向への音像定位を可能にする。

22.2chサラウンドは、録音やスピーカーの設置など多くの課題を抱えるが、2012 CEATECのNHKとJEITAの共同ブースでは家庭をイメージしたデモを実施(関連ニュース)。2m以上の高さのスピーカー5基とウーファーを設置、22.2chを実現するというものだ。22.2chサラウンド音声をヘッドフォンで再現するヘッドフォンプロセッサーも展示されるなど、家庭向けの技術開発も進行中であることがわかる。

■課題3:コーデック

SHVの仕様では、1フレームあたり3,318万画素を1秒間に60枚、最大で120枚書き換えるという、膨大なデータにより映像が構成される。そのままでは伝送レートが72Gbpsとなり、超高速光ネットワークなど新技術がなければ帯域の確保が難しくなるため、符号化技術を利用しデータ圧縮することも必要になる。

そこでNHK放送技術研究所と三菱電機は、AVC/H.264の2倍の圧縮効率を有する次世代映像コーデック「HEVC」(High Efficiencty Video Coding、H.265)を開発、100MbpsのSHVをリアルタイム再生することを目標に、デコーダーの開発にも注力している。CEATEC 2012の三菱電機ブースでは、8コアCPUを2基搭載したパソコンでHEVCの再生をデモしており(関連ニュース)、順調な進展をうかがわせた。

■課題4:カメラとイメージセンサー

カメラは“SHV映像の入口”であり、コンテンツ制作の観点から重要な意味を持つ。NHK技研究と静岡大学が共同で開発したSHV用CMOSセンサーは、受光部のサイズが水平21.5mm×垂直12.1mmと従来のセンサーと比較して小型であり、画素数3,300万/フレームレート120Hz/階調12ビットとSHVの仕様をクリアする。ただし、超高解像度かつ高速な読み出しが要求されるため、感度向上が今後の課題となるだろう。

2012年の技研公開では、このCMOSセンサーを3枚使用したビデオカメラが展示された。撮像機器としてはいまだ小型とはいえないサイズだが、それでもカメラヘッドの重量は約4kgと、以前に比べて1/5以下に軽量化されたという。SHVコンテンツの制作を容易にするためには、カメラの小型化は必須であり、小型化に向けての技術開発も重要な課題といえる。4つのポイントそれぞれが難しい問題ではあるが、一歩一歩着実に進んでいるのも事実。目標に掲げられている2020年の試験放送開始が実現するのか、期待して待ちたい。

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