AV機器にも押し寄せるクラウド化の波
【海上忍のAV注目キーワード辞典】第5回:クラウド音楽配信サービス − ソニー/Google/Apple/Amazonの違いは?
【第5回:クラウド音楽配信サービス】
■クラウド型と非クラウド型を整理する
PCの世界から始まった「クラウド化の波」は、AV機器の分野にも到達している。今後さまざまなサービスが登場するものと予想されるが、先頭に立つのはまちがいなく「音楽配信サービス」だ。その説明へ進む前に、クラウド型と非クラウド型の音楽配信サービスの違いについて明確にしておこう。
クラウド型の音楽配信サービスは、音楽データの実体をクラウド(インターネット上のサーバー)に置いたままで聴くことが前提となる。音楽は要求され次第提供されるが、基本的にはオーディオ機器に保存できない「ストリーミング」(ダウンロードしながら再生)の形だ。そのためインターネットへの接続が欠かせないが、オーディオ機器には大容量の記憶装置を搭載せずに済む。ビデオ・オン・デマンド(VOD)の大半もクラウド型であり、仕組みの上で音楽配信サービスとの共通項は多い。
非クラウド型の音楽配信サービスは、いわば「売り切り型」だ。ユーザは音楽データを曲/アルバム単位で購入し、それを聴くことの永続的な権利を手に入れる。ファイルとして独立した形でダウンロードされるため、購入時以外はインターネットに接続する必要がなく、オーディオ機器の記憶装置にコピーすれば好きな場所で聴くことができる。ただし、音楽データには違法コピー防止情報(DRM、Digital Rights Management)が埋め込まれ、コピー先の機器やコピー回数を制限されることが多い。音楽ダウンロードサイトと同じ意味合いで用いられることもあるようだ。
クラウド型の代表例には、先日国内向けにサービスが開始されたソニーの「Music Unlimited」(関連ニュース)が挙げられる。非クラウド型は、Appleの「iTunes Store」、レコチョクの「レコチョクplus+」、ソニーグループのレーベルゲートが運営する「mora」などがある。国外のサービスで日本未提供のものを加えれば、その数はかなり増える。
■おもなクラウド型音楽配信サービスを比較する
音楽配信サービスは、運営会社の考えや楽曲を提供するレコード会社の思惑、国や地域で異なる著作権に対する考え方など、さまざまな要因でサービス内容が決定される。さらにクラウド型はストリーミング配信を前提とすることが多いため、携帯電話回線でも聴けるよう圧縮率の高いオーディオコーデックを採用するなど、必要とされるネットワーク帯域(データ転送幅の太さ)とのバランスを考慮しながら細かい仕様が決められている。当然、音質もその仕様が固められる過程で決まる。
では、実際のクラウド型音楽配信サービスでは、どのような配信条件が用いられているのだろうか。日本未導入のものも含め、PCやスマートフォンなど幅広い機器に対応した4つのサービス(Music Unlimited、Google Music、iTunes Match、Amazon Cloud Player)を比較し、その実像に迫ってみよう。
・音楽データの出所
この4つのサービスでは、Music Unlimitedだけが「配信事業者が用意した音楽データをストリーミングで聴く」方式を採用している。残りの3つは、音楽CDから取り込んだ楽曲など「手元にある(自分が用意した)音楽データをクラウドに転送して聴く」方式で、あるときはクラウドからストリーミングによる配信を受け、あるときはクラウドからダウンロードして(オフラインで)聴くスタイルとなっている。
Appleが北米でのみサービス提供している「iTunes Match」は、手元にある音楽データをクラウドへアップロードし、iTunes Storeで取り扱いのある曲と判定されれば、いつでもその曲をiTunes Storeの品質で聴けるようになる。たとえば、アップロードしたMP3 128kbpsと同じ曲がiTunes Storeにあると判定されれば、iTunes Plus(AAC 256kbps/DRMなし)の曲をダウンロードできる。
・オーディオコーデックの種類
Music Unlimitedでは、他と比べ低めのビットレート(HE-AAC 48kbps)が採用されている。これは主にストリーミング方式を中心としたサービス(※ダウンロードした楽曲も定期的にオンライン認証が必要)であることや、定額聴き放題であること、曲を提供するレコード会社の考え方などを考慮し、総合的な見地にもとづき決定されたとのこと。ただし、3G回線で途切れることなく受信できるというメリットもある。
他の3サービスは、音楽CDから取り込んだかダウンロード購入したデータを使う前提のため、MP3やAACといった複数のオーディオコーデックに対応している。
・料金の違い
音楽CDを持っていたり、ダウンロード購入した履歴を持たなくても、定額で1,000万曲が聴き放題というMusic Unlimitedは、1,480円/30日という価格設定が行われている。それに対し、iTunes MatchとAmazon Cloud Playerは20ドル台/年という安さだ。
自由に聴くことができる曲数がまったく異なるため、そもそも比較にはならないものの、ユーザの音楽に対する考え方や楽しみ方により評価が分かれそうだ。
<主要なクラウド型音楽配信サービスの比較>
Music Unlimited | Google Music | iTunes Match | Amazon Cloud Player | ||
料金 | 1480円/30日 | 無料より | 24.99ドル/年 | 20ドル/年 | |
オーディオコーデック | HE-AAC 48kbps | MP3、AACなど | AAC 256kbps | MP3、AAC | |
配信方式 | ストリーミング | ストリーミング | ダウンロード | ストリーミング | |
オフライン再生 | ○(※30日に一度オンライン認証が必要) | ○ | ○ | ○ | |
対応曲数 | 1000万曲 | ー | 自分が権利を持つ曲のみ | 自分が権利を持つ曲のみ | |
定額聴き放題 | ○ | ー | ー | ー | |
対応機器 | Windows | ○ | ○ | ○ | ○ |
Mac | ○ | ○ | ○ | ○ | |
Android | ○ | ○ | ○ | ○ | |
iPhone | ○ | ○ | ○ | ○ | |
タブレット | SONY Tablet、iPad | Android、iPad | iPad | ○ | |
ゲーム機 | PS3、PS vita | ー | ー | ー | |
DAP | ウォークマン | ー | iPod | ー | |
曲のアップロード | 提供曲と一致するもののみ受け入れ | 2万曲まで無料 | 2万5千曲まで | 有料プランは容量無制限 |
※Google Music/iTunes Match/Amazon Cloud Playerの料金等は米国でのもの