【特別企画】「防音工事で音が良くなる」理由をさらに深堀り
“音の良い部屋”づくりのポイント、定在波対策に必要なこととは? 「Acoustic Audio Forum」取材レポート
なお、部屋の響きが悪くなる要因は2つある。ひとつは、軽くて薄い面からの反射音には歪音が加わったものである点。たとえば自宅の壁や床を叩くと、いかに軽い素材でできているかがわかる。
ふたつめは面材の板振動による中低域の吸音過多。これにより、音楽的に重要な低音感が失われ、迫力のない音になる、といった点についても改めて言及した。
そして、適切な防音工事を施した場合、面材の密度は最低でも通常より3〜4倍になって共振周波数が下がり、これに伴い付帯共振の歪音は小さくなり、中低音域の吸音率も少なくなると説明。これにより、中低音域の残響が豊かになって響きのバランスが向上するとともに、反射音の歪成分がすくなくなって全音域の音がクリアになるとし、適切な防音工事がオーディオ機器の個性や本来の性能を発揮することにつながるとした。
なお、防音工事で壁や天井が強固になって音の反射率が高まると、定在波の存在が顕在化するという一面もある。この囲われた空間では必ず発生し、さらに、特定の周波数で定在波が偏在化すると部屋鳴り(ブーミング)が発生する。このように、防音工事は部屋の寸法比にも配慮するべきだと同社は説明する。
また、鈴木氏は「平行面の第一次定在波だけでなく、部屋は3次元であるため複雑な定在波が無数に存在している。定在波対策を行ったからといって定在波がゼロになるということではない」とコメント。同社ショールームの定在波の測定結果を提示し、「こうした定在波の音を聴いているのだが、この部屋ではそうした実感は沸かないのではないか」と、キチンと音の響きに配慮してつくられた部屋の魅力を説明した。
また、定在波は場所によって聴こえ方が変わることにも言及。実際にサインウェーブを再生して場所によって聴こえ方が変化することを体感できるデモも行った。
そして鈴木氏は「(寸法比に配慮せずに)部屋を作ってしまった後から対策しようとするのは非常に大変。壁を斜めにするなど大掛かりな対策を施すことでやっと定在波の集中から逃れられる」とコメント。立方体に近い寸法の8畳間や、極端な長方形の16畳間などといった形は避けるべきだとアドバイスする。
加えて、ついたてや家具などを設置しても定在波の分布状態を変化させられないことなどに触れながら、定在波の分布は部屋の寸法比で決まることを改めて説明。「部屋の形の設計」が室内音響設計の第一歩であることを紹介し、「しかしこれが本当に認識されていない」とコメント。「ランニングだってゴルフだって服装や器具から揃える。部屋でそれにあたるのが“形”。先天的に形、寸法比で音が決まってしまう」と言葉を添えた。
鈴木氏はまた、「天井高は通常2.4mだが、少しだけ高く2.5mくらいの天井高をとろうとして寸法比がおかしくなってしまう場合もある」と、具体的な事例も紹介。
そして「『防音工事で防音工事をすると音が良くなる』というのには実は条件がある。悪いほうに作ってしまうととことん悪い結果が出てしまう」と語る一方で、「ちゃんとした考え方の下で防音工事をすればもう8割は成功したようなもの」だとコメント。「そうすればあとは個人の好みでどのようにも味付けしていける」と続け、まずは寸法比がよい部屋をつくって、あとは個々人の好みで音を調整していく重要性を改めて説いた。