連続企画:日本コロムビアのハイレゾ音源レビュー
GIGA MUSIC独占先行配信!ゴダイゴの代表的ヒット曲を収めた「GODIEGO GREAT BEST Vol.1/2」を聴く
ハイレゾでサウンドクリエイターの真価が伝わる
ゴダイゴは1990年代に一時活動休止するが2000年代に活動再開、タケカワユキヒデもソロ活動、著作活動に休みなく、現在も現役バリバリだ。今回フェイス・ワンダワークスからハイレゾ(96kHz/24bit)配信が始まったのは、日本コロムビア時代の彼らのヒットチューンを網羅した「GODIEGO GREAT BEST Vol.1」だ。
ゴダイゴ全盛時代をほとんど知らない若いファンが何気なく聴いても「あ、子供の頃にテレビで聴いて知ってる!」という聴き覚えのある曲ばかり。全16曲中の大半がCMソングやTV主題曲、大規模イベント等のテーマ曲だ。1970年代終わりから1980年代は日本が世界第二位の経済大国になり、企業がいっせいに海外進出し国民の消費が頂点に向かった時代だ。
ゴダイゴの楽曲のほとんどがメジャー調で明るく退廃性のカケラもなく、しかも英語歌詞。外向きのポジティブで楽天的な世界観が時代の要請にフィットしたのだ。時代から選ばれた「時の運」を感じる。ただし、最初に書いたようにゴダイゴの本質はロックバンド、コンセプチュアルなアルバムアーティストの一面があり、よく知られたヒット曲がすべてではない。ゴダイゴのシングルヒットだけを聞くのは赤盤青盤でビートルズを聴くのと同じなので、アルバム代表作のハイレゾ配信を切に希望する。
今回配信される「GODIEGO GREAT BEST Vol.1」は全曲日本語版と全曲英語版の2種類が用意される。録音年代はアナログ多重録音時代からPCMデジタル初期にまたがっていて、アナログ時代の初期の曲はボーカルトラックのみ差し変えたのでなく別テイクである。
トラック01を例にとると、日本語版はコーダで終わるが英語版はフェードアウトだ。音質はどちらが優れているということはない。アナログ多重の場合ピンポンと呼ばれるテープ←→テープの手法を使うためにノイズや歪みも多重される場合が多い。一方初期PCM録音はハード/ノウハウ共に不十分で未熟で平板な音質の録音が多かった。今回のハイレゾリマスタリングでどこまで改善されたか興味が尽きない。
結論を先にいうと、ハイレゾの広大な音空間を与えられ彼らの音楽が44kHzの窮屈なくびきから解き放たれ、さらにノイズシェープで夾雑物(ノイズ、歪み)を洗い流した結果、彼らがサウンドの創造にいかに意欲的に挑んでいたかが伝わってきた。
流れるのが数秒のTV CMソングでもその姿勢は変わらない。キャッチーで美しいメロディに隠れていたバンドのアンサンブル、自作曲のアレンジ上、個々の楽器の音色やボーカルハーモニーをいかに大事にしていたかがハイレゾで伝わってきたのだ。TV CMソングやTV主題歌のイメージが強いゴダイゴの本領〜音の探求者を知る上で今回のハイレゾ配信は画期的といっていい。それでは「GODIEGO GREAT BEST Vol.1」全16曲から数曲をピックアップして音質の改善ポイントに耳を傾けてみよう。
トラック01「ビューティフル・ネーム」
ホーンと児童合唱が加わった華やかな曲調だが、CD44kHzはアナログ多重のもやつきが演奏の見通しを悪くしてノイズも多くすっきりしない。ハイレゾは音空間が一気に広がり自然なリバースを取り戻し、演奏もゴダイゴのステージを聴いているような堂々とした空間的な広がりがある。
トラック02「ハピネス」
サントリービールのCMソング。通常のゴダイゴにホーンが加わった大編成。CDはシンセとシンバルが歪んで飽和している。ホーンも艶とキレがなく本来の人生讃歌の晴れやかな効果を挙げていない。ハイレゾはイントロのピアノからして違う。帯域が広がり倍音を回復しシンセを含む全楽器が本来の音色を取り戻し活き活きと歌っている。何より声の変化が大きい。タケカワのボーカルがしなやかな実在感を得、バックの厚いコーラスの分解能が上がり曲のテーマにふさわしい人間同士のハーモニーとして聞こえる。
トラック03「ガンダーラ」
「水滸伝」のイギリスでの予想外の高視聴率に気を良くした日本テレビ放送網が続いて制作した連続ドラマ「西遊記」(1981年 夏目雅子、堺正章 主演)の主題曲(トラック16も同様)。ただし、TVドラマは前作程ヒットしなかった。
アコースティックギター中心の通常編成に女声コーラス、木管を加えシルクロードのエキゾシズムを演出。ハイレゾ化でイントロのアコギギターデュオが洗われたように鮮度を回復。ノイズフロアが下がり空間が一気に見通しを増した。定位が違う。ドラム、ベースのラインが中心にどっしり位置し、タケカワのボーカルも中央にくっきり立体的に定位、声量豊かに伸び伸びと歌う。
トラック04「銀河鉄道999」
最大のヒット曲。いきなりBメロから始まるような斬新な構成、転調の巧さ、ドリーミーだがハイテンションを持続する明るさ…、ポップチューンとして完璧な傑作だ。ヨナ抜き音階主体に作曲された「ブルー・シャトウ」と比較してみれば、ゴダイゴがもたらしたもの、打ち破ったものの大きさが分かる。
意外にもゴダイゴのメンバー5人だけの演奏。楽器数が少なくCDも悪くないが、ハイレゾは低音楽器の解像感が大躍進、べ―スが太い量感で弾み、ドラムスも打撃の克明さを増した。CDで今一つ不鮮明だったゴダイゴ本来のバンドサウンドが全貌を現した感。エンディングはタケカワの一人多重録音のソロボーカルが左から右、右から左とパンしながらリフレインしていくが、ハイレゾで水平方向の広がりが生まれCDに比べ効果がずっと鮮明だ。テレビやAMラジオのモノラル音声でこの曲に親しんだ人はこのハイレゾ版を必ず聴いてほしい。
トラック05「ホーリー&ブライト」
ハイレゾは音場の奥行きが増し、リズムライン(ベース、ドラムス)がセンターに収束、ボーカルが高々と定位しELOジェフ・リン風コーラスが左右に美しく広がりソロボーカルにかぶさる。音楽空間の構築という点でゴダイゴが狙ったバランスはこれではなかったか。CDも悪くはないが、帯域、情報量とも高次元のハイレゾ化でサウンドクリエイター・ゴダイゴの真価が初めて現れた。
トラック06「リターン・トゥ・アフリカ」
アフリカの打楽器のフェードインで始まり金管を加えたEW&F風の曲。CDは序盤のトランペットソロが歪んでいる。使用楽器が多くオーバーダブ回数も多かったらしく音場の透明度と見通しがよくない。ハイレゾは音場が垂直水平方向に拡張、広がりのある空間でタケカワのボーカルもノイズシェープされ鮮度を増し格段に音が解れている。ハイレゾ化でもトランペットはやや鮮度、艶が物足りないがゴダイゴがイメージした躍動的なフュージョンサウンドがようやく姿を現した感。
トラック07「ポートピア」
1981年神戸ポートアイランド博覧会の主題歌でホーン、ストリングスを加えた大編成のアレンジの豪華な演奏。CDは冒頭の金管アンサンブルが歪んで煩い。音の抜けが悪く音場が平板でタケカワのボーカルも声が突っ張りストリングスも艶、ふくらみ、色彩感がさっぱりない。
ハイレゾはボーカルに豊かな抑揚とふくらみが生まれ、ゴダイゴの演奏も落ち着きを取り戻した感。ただし、金管やストリングスの喧しさは変わらない。今更アレンジに文句を付けたくないが、きらびやかな衣装を纏わせた過剰感が曲の持ち味を損なっていないか。ふんだんに金を掛ければいい物が出来るわけでない見本。これはハイレゾでも如何ともし難い。いい曲なのに…ゴダイゴ5人の演奏だけで十分だったのでは。
トラック16「モンキー・マジック」
「西遊記」のオープニングテーマ。ディスコ全盛時代らしいファンキーでダンサブルな曲。アナログシンセの他ストリングスとホーンが加わる大編成でアナログ多重の音のかたまり感が目立つがハイレゾは格段に音が解れ、ゴダイゴ全員のコーラスが鮮度を取り戻し個々の楽器の輪郭が鮮明になり、音場を縦横無尽に駆け巡るアナログシンセが切れ味を増し異国舞台のファンタジーらしいファンタスティックな効果を増している。
ハイレゾの広大な音空間を与えられ、本来の音色を得たゴダイゴの代表的ヒット曲集を聴いて、彼らが単にキャッチーなセンスが売り物のポップグループでなく、サウンドの構築とエンジニアリングまで含めた音響の追求にいかに真摯に取り組んでいたか思い知らされた。それもスケールの大きなコンセプチュアルなロックという結成時の初心あってのものだ。ゴダイゴイコール日本のポピュラー音楽のターニングポイント、をハイレゾが感動的に浮かび上がらせた。
<試聴時の使用装置>
DAコンバーター:ヤマハ「CD-S3000」のUSB入力を使用
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2820」
パワーアンプ:ソニー「TA-NR10」2台
スピーカーシステム:B&W「802Diamond」
スピーカーケーブル:SUPRA「Sword」
USBケーブル:クリプトン「UC-HR」