【連載】佐野正弘のITインサイト 第11回
Xiaomi新ブランド「POCO」日本展開はまだ様子見?待ち受ける消費者の審判
2022年に入って、スマートフォン新製品を立て続けに投入しているXiaomi(シャオミ)。そのXiaomiが先日、再び新たなスマートフォンの投入を発表したのだが、これまで日本に投入されてきたものとはかなり毛色が違う端末となるようだ。
その新機種とは「POCO F4 GT」。これまで同社が投入してきた「Xiaomi(Mi)」「Redmi」ブランドとは異なる、「POCO」というブランドが付けられた機種となる。その特徴を簡単に表すと、ハイエンドモデルと同等の性能を低価格で実現していることだ。
実際POCO F4 GTは、リフレッシュレート120Hzの6.67インチ有機ELディスプレイに、最新のクアルコム製ハイエンド向けチップセット「Snapdragon 8 Gen 1」を搭載。さらに、「Xiaomi 11T Pro」が採用していた独自の120W急速充電に対応し、4,700mAhのバッテリーを17分で満充電にできるなど、非常に高いパフォーマンスを備えている。
それでいて、最も安価なRAM8GB・ストレージ128GBのモデルで7万4,800円と、価格はミドルハイクラスに匹敵する安さだ。同等のチップセットを搭載した他社のハイエンドモデルが軒並み10万円を超える中にあって、非常に安いことはたしかだろう。
POCO F4 GTの、そうした高い性能を活かすべく、力を注いでいるのがゲーミングだ。そのことを象徴しているのが「マグネティックポップアップトリガー」で、右側面、本体を横にした状態で上に配置されており、ゲームのL・Rボタンとして利用できるほか、通常操作時もカメラのシャッターなどに割り当てることができるという。
また、高い性能を維持できるよう独自の放熱機構「リキッドクールテクノロジー3.0」を搭載。発熱を抑え長時間ゲームをプレイしても、高いパフォーマンスを維持できることに力が入れられている。加えて充電用のケーブルも、コネクター部分がL字型になっており、充電しながらゲームプレイしやすい配慮が加えられているようだ。
ただ、海外でのPOCOのラインナップを見ると、必ずしもゲーミングを重視したスマートフォンばかりというわけではない。では一体POCOは、Xiaomiにとってどのような位置付けなのかというと、テクノロジー愛好家に向けたブランドであるという。
それゆえPOCOブランドのスマートフォンは、そうしたユーザー層が好むパフォーマンスの高さを重視。高性能のチップセットを搭載する一方で、不要な機能をそぎ落とすなどして、高いコストパフォーマンスを実現しているのが特徴のようだ。
実際、POCO F4 GTをよく見るとベースの性能は高いが、一般的なハイエンドスマートフォンで重視されるカメラの性能はかなり抑えられており、6,400万画素の広角カメラと800万画素の超広角カメラ、200万画素のマクロカメラの3眼構成と、最近のミドルクラスで一般的な構成だ。注力する部分とそうでない部分の部材にメリハリを付けて、価格を抑えている様子を見て取ることができる。
また販路に関しても、「楽天市場」や「Amazon」などオンラインショップに限定されており、プロモーションも実施せず、口コミ重視の戦略を取るとのこと。販売にかかるコストを抑えるというのも、低価格を実現する要素の1つとなっているようだ。
実はこうしたPOCOの取り組みは、Xiaomiが中国でスマートフォン事業を開始した当初の戦略に近いもの。Xiaomiは元々、オンライン販売のみに販路を絞って性能の高いスマートフォンを低価格で提供し、ファンを増やして急成長を遂げたという経緯がある。
だが一層のシェア拡大に向けては、幅広い層に支持を得るための機能の搭載や、実店舗への販路拡大、そして有名俳優を起用した積極的なプロモーションなどが求められるようになり、同社の主力ブランドでは現在、そうした市場環境に合わせて戦略を大きく変えている。それだけにPOCOは、ある意味本来のXiaomiらしさを体現するブランドともいえ、他のブランドとは明確に違う戦略を取っているということだ。
では同社は一体なぜ、そのPOCOブランドを、参入して間もない日本市場に持ち込んだのだろうか。Xiaomiの東アジア担当ゼネラルマネージャー、スティーブン・ワン氏はその理由の1つとして、POCOの端末がグローバルで発売された際、越境ECで購入するユーザーのうち10%が日本からだったことを挙げている。少数ながらも確固たるニーズがあることが、投入理由の1つとなったようだ。
そしてもう1つは、POCOブランドで新しいビジネスを模索することだという。日本はいま、政策の影響により、端末値引きの規制やオンライン専用プランの投入などが行われ、携帯電話市場が劇的に変化している。それに加えて急激な円安の影響などもあり、ハイエンドモデルを中心にスマートフォンの価格が急速に値上がりしている状況だ。
そうした状況下で、POCOという新しいブランドで従来とは違ったビジネスモデルに挑戦するというのが、狙いの1つとなるようだ。最初のモデルに最新のハイエンドモデルであるPOCO F4 GTを選んだのも、低価格で高いパフォーマンスを備える製品が求められるようになった日本の市場環境を意識した部分も大きいだろう。
ただ、近いコンセプトを持つスマートフォンは既に日本にも存在しており、それが同じ中国メーカー製のゲーミングスマートフォンだ。例えば、POCO F4 GTと同じチップセットを搭載するゲーミングスマートフォンとしては、ZTE傘下のNubia Technologyがオンラインで販売する「RedMagic 7」が代理店経由で販売されている。また同じXiaomiという視点で見ても、Xiaomiから出資を受けているBlack Sharkのゲーミングスマートフォン「Black Shark 4」などが、やはり代理店経由で国内販売されている。
そしてPOCO F4 GTの現時点での知名度や販路、ターゲット層などを考慮すると、当面はこれらゲーミングスマートフォンが直接の競合になってくるだろう。ただXiaomiが見据えているのは、あくまで日本でPOCOブランドを定着させることであり、今回の製品投入は日本市場のユーザーの反応を見る、チャレンジ要素が強いものであるように感じている。
実際スティーブン氏は、「ユーザーの反応、手応えを見ながら効果を発揮しているかどうかを見て、今後のロードマップを決めていきたい」と話しているし、Xiaomiとしても、POCO F4 GTをゲーミングスマートフォンとしてではなく、より幅広い使い方ができる端末として販売する方針で、ゲーミングにとどまらない市場開拓を進めたい様子がうかがえる。
そうしたXiaomiの狙いがユーザーに通じるのか、それともゲーミングスマートフォンの範囲でビジネスがとどまってしまうのかは、日本の消費者の判断によるところが大きいだろう。POCO F4 GTが販売後にどのような評価を受け、それに応じてXiaomiが今後POCOブランドの戦略をどのように変えてくるのかが注目される。
※この記事は、現在プレオープン中のテック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」から転載したものです。
その新機種とは「POCO F4 GT」。これまで同社が投入してきた「Xiaomi(Mi)」「Redmi」ブランドとは異なる、「POCO」というブランドが付けられた機種となる。その特徴を簡単に表すと、ハイエンドモデルと同等の性能を低価格で実現していることだ。
実際POCO F4 GTは、リフレッシュレート120Hzの6.67インチ有機ELディスプレイに、最新のクアルコム製ハイエンド向けチップセット「Snapdragon 8 Gen 1」を搭載。さらに、「Xiaomi 11T Pro」が採用していた独自の120W急速充電に対応し、4,700mAhのバッテリーを17分で満充電にできるなど、非常に高いパフォーマンスを備えている。
それでいて、最も安価なRAM8GB・ストレージ128GBのモデルで7万4,800円と、価格はミドルハイクラスに匹敵する安さだ。同等のチップセットを搭載した他社のハイエンドモデルが軒並み10万円を超える中にあって、非常に安いことはたしかだろう。
新機種「POCO F4 GT」の高性能を活かした、豊富なゲーミング機能
POCO F4 GTの、そうした高い性能を活かすべく、力を注いでいるのがゲーミングだ。そのことを象徴しているのが「マグネティックポップアップトリガー」で、右側面、本体を横にした状態で上に配置されており、ゲームのL・Rボタンとして利用できるほか、通常操作時もカメラのシャッターなどに割り当てることができるという。
また、高い性能を維持できるよう独自の放熱機構「リキッドクールテクノロジー3.0」を搭載。発熱を抑え長時間ゲームをプレイしても、高いパフォーマンスを維持できることに力が入れられている。加えて充電用のケーブルも、コネクター部分がL字型になっており、充電しながらゲームプレイしやすい配慮が加えられているようだ。
ただ、海外でのPOCOのラインナップを見ると、必ずしもゲーミングを重視したスマートフォンばかりというわけではない。では一体POCOは、Xiaomiにとってどのような位置付けなのかというと、テクノロジー愛好家に向けたブランドであるという。
それゆえPOCOブランドのスマートフォンは、そうしたユーザー層が好むパフォーマンスの高さを重視。高性能のチップセットを搭載する一方で、不要な機能をそぎ落とすなどして、高いコストパフォーマンスを実現しているのが特徴のようだ。
実際、POCO F4 GTをよく見るとベースの性能は高いが、一般的なハイエンドスマートフォンで重視されるカメラの性能はかなり抑えられており、6,400万画素の広角カメラと800万画素の超広角カメラ、200万画素のマクロカメラの3眼構成と、最近のミドルクラスで一般的な構成だ。注力する部分とそうでない部分の部材にメリハリを付けて、価格を抑えている様子を見て取ることができる。
また販路に関しても、「楽天市場」や「Amazon」などオンラインショップに限定されており、プロモーションも実施せず、口コミ重視の戦略を取るとのこと。販売にかかるコストを抑えるというのも、低価格を実現する要素の1つとなっているようだ。
実はこうしたPOCOの取り組みは、Xiaomiが中国でスマートフォン事業を開始した当初の戦略に近いもの。Xiaomiは元々、オンライン販売のみに販路を絞って性能の高いスマートフォンを低価格で提供し、ファンを増やして急成長を遂げたという経緯がある。
だが一層のシェア拡大に向けては、幅広い層に支持を得るための機能の搭載や、実店舗への販路拡大、そして有名俳優を起用した積極的なプロモーションなどが求められるようになり、同社の主力ブランドでは現在、そうした市場環境に合わせて戦略を大きく変えている。それだけにPOCOは、ある意味本来のXiaomiらしさを体現するブランドともいえ、他のブランドとは明確に違う戦略を取っているということだ。
参入して間もない日本市場、POCOブランドが投入されたワケとは?
では同社は一体なぜ、そのPOCOブランドを、参入して間もない日本市場に持ち込んだのだろうか。Xiaomiの東アジア担当ゼネラルマネージャー、スティーブン・ワン氏はその理由の1つとして、POCOの端末がグローバルで発売された際、越境ECで購入するユーザーのうち10%が日本からだったことを挙げている。少数ながらも確固たるニーズがあることが、投入理由の1つとなったようだ。
そしてもう1つは、POCOブランドで新しいビジネスを模索することだという。日本はいま、政策の影響により、端末値引きの規制やオンライン専用プランの投入などが行われ、携帯電話市場が劇的に変化している。それに加えて急激な円安の影響などもあり、ハイエンドモデルを中心にスマートフォンの価格が急速に値上がりしている状況だ。
そうした状況下で、POCOという新しいブランドで従来とは違ったビジネスモデルに挑戦するというのが、狙いの1つとなるようだ。最初のモデルに最新のハイエンドモデルであるPOCO F4 GTを選んだのも、低価格で高いパフォーマンスを備える製品が求められるようになった日本の市場環境を意識した部分も大きいだろう。
ただ、近いコンセプトを持つスマートフォンは既に日本にも存在しており、それが同じ中国メーカー製のゲーミングスマートフォンだ。例えば、POCO F4 GTと同じチップセットを搭載するゲーミングスマートフォンとしては、ZTE傘下のNubia Technologyがオンラインで販売する「RedMagic 7」が代理店経由で販売されている。また同じXiaomiという視点で見ても、Xiaomiから出資を受けているBlack Sharkのゲーミングスマートフォン「Black Shark 4」などが、やはり代理店経由で国内販売されている。
そしてPOCO F4 GTの現時点での知名度や販路、ターゲット層などを考慮すると、当面はこれらゲーミングスマートフォンが直接の競合になってくるだろう。ただXiaomiが見据えているのは、あくまで日本でPOCOブランドを定着させることであり、今回の製品投入は日本市場のユーザーの反応を見る、チャレンジ要素が強いものであるように感じている。
実際スティーブン氏は、「ユーザーの反応、手応えを見ながら効果を発揮しているかどうかを見て、今後のロードマップを決めていきたい」と話しているし、Xiaomiとしても、POCO F4 GTをゲーミングスマートフォンとしてではなく、より幅広い使い方ができる端末として販売する方針で、ゲーミングにとどまらない市場開拓を進めたい様子がうかがえる。
そうしたXiaomiの狙いがユーザーに通じるのか、それともゲーミングスマートフォンの範囲でビジネスがとどまってしまうのかは、日本の消費者の判断によるところが大きいだろう。POCO F4 GTが販売後にどのような評価を受け、それに応じてXiaomiが今後POCOブランドの戦略をどのように変えてくるのかが注目される。
※この記事は、現在プレオープン中のテック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」から転載したものです。