評論家:生形氏の業界展望 ―― Qobuzローンチや光カートリッジの拡大もトピック
<2025年オーディオ業界提言>世代交代の核となるエントリー製品とアクセサリーの充実に期待
2024年は、随所で生成系AIを目にする機会も増え、個人的には期待と不安が入り交じるような、静かながらも目まぐるしい変化を実感した年だった。その中にあってオーディオ業界は、どのようなトピックがあったのか。筆者が1年間の取材やレビューを通して感じたトレンドを振り返りつつ、今後の展望を眺めてみたい。
コンポーネントでまず思い浮かぶのが、プリメインアンプや一体型SACDプレーヤーなど、一体型機の良作が多くリリースされたことだ。特にハイエンド価格帯においてである。
マランツから突如登場した弩級のフラグシップ「SACD 10」及び「MODEL 10」、アキュフェーズのA級プリメイン・トップエンドとなる「E-800S」は、両ブランドの弛まぬ進歩を実感する素晴らしさであった。とくにMODEL 10は、2台使いのコンプリート・バイアンプ・ドライブでプリ部までをも左右chセパレートするという革新性を持ち、予想を上回る新境地を切り開いたサウンドに圧倒された。トップエンド機だけに価格は高額となるが、新たな領域への到達は、オーディオ再生のさらなる可能性を実感させるに十二分であった。
一方で、昨夏には多くのハイエンドプレーヤーにメカを提供しているディーアンドエムホールディングスが、外販向けSACDメカの終売をアナウンスした。昨年は、エソテリックからも一体型トップエンド「K-01XD SE」がリリースされたばかりだが、ストリーミング時代となった現在、今後、元々少なかったハイエンドなSACDプレーヤーの選択肢が一層狭まることは、避けられない流れかもしれない。
対極となるエントリークラスのコンポにも、大きな革新がもたらされた。マランツ及びデノンから登場した「MODEL M1」と「DENON HOME AMP」だ。両ブランドを取り扱うディーアンドエムは、オーディオ機器にHDMI入力を装備するトレンドをここ数年で作り上げたが、サイズと音質を高次に両立させたMODEL M1及びDENON HOME AMPによって、ストリーミング時代の小型アンプ内蔵レシーバー、もとい、オーディオ・コンポーネントの在り方を再定義したと言える。マランツ「10シリーズ」のハイエンド機ともども、今年もブランドの存在感の強さを見せつけた。
同じくエントリーゾーンの小型モデルと言えば、BLUESOUNDの超小型ストリーマー「NODE NANO」や、Volumioの最上位機となるタッチパネル式ストリーマー「MOTIVO」も登場した。
ディーアンドエムのHEOSしかり、BLUESOUNDのBluOSしかり、再生ソフトからスタートしたVolumioしかり、この手の製品は、高度なソフトウェア技術が欠かすことができない領域だ。それだけに、優れた音質とユーザビリティをエントリー価格帯の製品で実現させ、なおかつ、開発継続性の信頼も望めるこれらの存在は、今後もオーディオ市場の裾野拡大のキーとなるだろう。
アナログレコード分野も、プレーヤーからカートリッジまで多くの製品が登場したが、中でも光カートリッジ周りの拡充や浸透が印象的であった。DSオーディオの新たなエントリーモデル「DS-E3」や管球式フォノイコライザー「TB-100」のリリースをはじめ、エソテリックの弩級のトップエンド・フォノイコライザー「Grandioso E1」が光カートリッジに対応するなどサードパーティ製アンプも充実。
さらにサエクやソウルノートから光カートリッジ用フォノケーブルがリリースされるなど、カートリッジ自体の進化とともに、光電型がまた一歩浸透した一年と言え、現代のアナログ再生の可能性も拡大したと考える。
そして、コンテンツ分野では、何と言ってもQobuz日本サービスインは大変インパクトが強かった。使用を重ねて実感するが、数あるロスレス・ストリーミングのなかでも特にナチュラル傾向のその音質は、オーディオ機器の魅力を引き立て、オーディオが持つ音楽リスニングの楽しみを広く伝搬させる架け橋となることだろう。
またQobuzは、プレイリストやレコメンデーションにおいても、クオリティやセンスの高さを感じることが出来る。キュレーターによるプレイリストは魅力的で、自動再生される際の選曲アルゴリズムも大変快適かつ適切なチョイスが多い印象だ。
この点は、音楽を聴くモチベーションにも大きく影響する部分だ。筆者自身も、楽しさ故に、自宅にしろ出先にしろ、車の中にしろ、ついついQobuzアプリを開いて楽曲探索にのめり込んでしまっている。単に聴きたい音源を提供するだけでない、音楽を楽しむツールとしての充実度の高さは、ストリーミングでのオーディオ体験には非常に重要だろう。その意味でも、Qobuzの存在は、これからの世代に訴求するオーディオ機器にとって、強力な味方になるものと期待を寄せている。
アナログディスクが、音質だけでなく、モノとしてのレコードやジャケット、ブックレットに接することによる、音楽との向き合い方やその時間の味わい方に大きな価値が見出され人気が再燃し持続していると筆者は考えるが、ストリーミングに際しても、単に音楽を垂れ流し、ながら聴きで消費するのではなく、音楽という文化に際して、じっくりしっかりと向き合う体験を提供できることが、レコードと比しても遜色ない魅力になり得ると考える。
コンテンツつながりで言えば、伝統的なステレオ再生とは異なるが、空間オーディオ分野も着実な進化を見せていた。当初のリリース音源は、少々不自然なパンニングや音像配置とも感じるコンテンツも度々見受けられたが、昨今は、3Dオーディオフォーマットを駆使して、如何に自然で没入感が高いコンテンツを創生できるかに取り組み、それを達成させた音源も多いと感じる。
再生側では、例えばデノンの「PerLシリーズ」など、パーソナライズ機能を持ったイヤホンやヘッドホンがこれから増えていくであろうが、精度の高いパーソナライズが進めば、空間オーディオの魅力がより深く享受可能になる。そうなれば、自ずとコンテンツのさらなる発展や普及にも繋がり、ひいては、オーディオ分野全体への興味関心の高まりも期待できる。
空間オーディオは、ステレオ再生とは異なった次元の世界が楽しめる故、例えばAVアンプも手掛けるオーディオメーカーには、映画だけでなく、この分野のコンテンツ再生も積極的に訴求していただきたいと強く思う。
そして何と言っても、製品の高額化が甚だしい。世代交代が進むオーディオ市場、オーディオ業界においては、価格の問題はとても重要となるだろう。若い世代やこれからオーディオをはじめようとするユーザー層において、昨今の著しい価格上昇傾向は、以前にも増して参入ハードルを高めている。
その意味では、先述の「MODEL M1」や「DENON HOME AMP」などのエントリー・コンポーネントの充実はもちろんのこと、それをバックアップするオーディオ・アクセサリーの存在も欠かせないと考える。なぜなら、それら機器は高額な機器に比べコストを潤沢に投じての物理的な音質対策が叶わないが、オーディオ・アクセサリーがその部分を補うことによって、低コストでもさらなる性能を発揮できるからだ。
昨年のアクセサリーでは、マランツの「M-CR612」にジャストサイズで作られたアンダンテラルゴ「Primo Board」が最たる例だ。小型ラックで足回りを強化することで着実に出音が整うが、それを価格を抑えて実現している。
同様に印象的だったのが、TOPWING「Static Eraser “Modern”」及び「OPT ISO BOX」だ。こちらも、価格を抑えて、なおかつシンプルに音質改善を実現できるアイテムであった。
これらのようなアクセサリーの存在は、オーディオを良い音で楽しむことはもちろんのこと、オーディオの魅力を広く伝搬するために欠かすことができない存在と筆者は考える。
2025年も、今後の世代交代に向けて業界全体が変革を問われる年となるだろうが、オーディオの可能性を拡張するハイエンド機からオーディオの魅力を広く伝えるエントリークラスまで、多くの魅惑的な製品に出会えることを願っている。
■ハイエンド価格帯の一体型プリメインアンプに注目
コンポーネントでまず思い浮かぶのが、プリメインアンプや一体型SACDプレーヤーなど、一体型機の良作が多くリリースされたことだ。特にハイエンド価格帯においてである。
マランツから突如登場した弩級のフラグシップ「SACD 10」及び「MODEL 10」、アキュフェーズのA級プリメイン・トップエンドとなる「E-800S」は、両ブランドの弛まぬ進歩を実感する素晴らしさであった。とくにMODEL 10は、2台使いのコンプリート・バイアンプ・ドライブでプリ部までをも左右chセパレートするという革新性を持ち、予想を上回る新境地を切り開いたサウンドに圧倒された。トップエンド機だけに価格は高額となるが、新たな領域への到達は、オーディオ再生のさらなる可能性を実感させるに十二分であった。
一方で、昨夏には多くのハイエンドプレーヤーにメカを提供しているディーアンドエムホールディングスが、外販向けSACDメカの終売をアナウンスした。昨年は、エソテリックからも一体型トップエンド「K-01XD SE」がリリースされたばかりだが、ストリーミング時代となった現在、今後、元々少なかったハイエンドなSACDプレーヤーの選択肢が一層狭まることは、避けられない流れかもしれない。
■高度なソフトウェア開発力の次世代オーディオの鍵
対極となるエントリークラスのコンポにも、大きな革新がもたらされた。マランツ及びデノンから登場した「MODEL M1」と「DENON HOME AMP」だ。両ブランドを取り扱うディーアンドエムは、オーディオ機器にHDMI入力を装備するトレンドをここ数年で作り上げたが、サイズと音質を高次に両立させたMODEL M1及びDENON HOME AMPによって、ストリーミング時代の小型アンプ内蔵レシーバー、もとい、オーディオ・コンポーネントの在り方を再定義したと言える。マランツ「10シリーズ」のハイエンド機ともども、今年もブランドの存在感の強さを見せつけた。
同じくエントリーゾーンの小型モデルと言えば、BLUESOUNDの超小型ストリーマー「NODE NANO」や、Volumioの最上位機となるタッチパネル式ストリーマー「MOTIVO」も登場した。
ディーアンドエムのHEOSしかり、BLUESOUNDのBluOSしかり、再生ソフトからスタートしたVolumioしかり、この手の製品は、高度なソフトウェア技術が欠かすことができない領域だ。それだけに、優れた音質とユーザビリティをエントリー価格帯の製品で実現させ、なおかつ、開発継続性の信頼も望めるこれらの存在は、今後もオーディオ市場の裾野拡大のキーとなるだろう。
■エントリー製品の登場で光カートリッジの裾野が広がる
アナログレコード分野も、プレーヤーからカートリッジまで多くの製品が登場したが、中でも光カートリッジ周りの拡充や浸透が印象的であった。DSオーディオの新たなエントリーモデル「DS-E3」や管球式フォノイコライザー「TB-100」のリリースをはじめ、エソテリックの弩級のトップエンド・フォノイコライザー「Grandioso E1」が光カートリッジに対応するなどサードパーティ製アンプも充実。
さらにサエクやソウルノートから光カートリッジ用フォノケーブルがリリースされるなど、カートリッジ自体の進化とともに、光電型がまた一歩浸透した一年と言え、現代のアナログ再生の可能性も拡大したと考える。
■Qobuzがついにスタート。音質やレコメンド機能も充実
そして、コンテンツ分野では、何と言ってもQobuz日本サービスインは大変インパクトが強かった。使用を重ねて実感するが、数あるロスレス・ストリーミングのなかでも特にナチュラル傾向のその音質は、オーディオ機器の魅力を引き立て、オーディオが持つ音楽リスニングの楽しみを広く伝搬させる架け橋となることだろう。
またQobuzは、プレイリストやレコメンデーションにおいても、クオリティやセンスの高さを感じることが出来る。キュレーターによるプレイリストは魅力的で、自動再生される際の選曲アルゴリズムも大変快適かつ適切なチョイスが多い印象だ。
この点は、音楽を聴くモチベーションにも大きく影響する部分だ。筆者自身も、楽しさ故に、自宅にしろ出先にしろ、車の中にしろ、ついついQobuzアプリを開いて楽曲探索にのめり込んでしまっている。単に聴きたい音源を提供するだけでない、音楽を楽しむツールとしての充実度の高さは、ストリーミングでのオーディオ体験には非常に重要だろう。その意味でも、Qobuzの存在は、これからの世代に訴求するオーディオ機器にとって、強力な味方になるものと期待を寄せている。
アナログディスクが、音質だけでなく、モノとしてのレコードやジャケット、ブックレットに接することによる、音楽との向き合い方やその時間の味わい方に大きな価値が見出され人気が再燃し持続していると筆者は考えるが、ストリーミングに際しても、単に音楽を垂れ流し、ながら聴きで消費するのではなく、音楽という文化に際して、じっくりしっかりと向き合う体験を提供できることが、レコードと比しても遜色ない魅力になり得ると考える。
■空間オーディオとパーソナライズの進化に期待
コンテンツつながりで言えば、伝統的なステレオ再生とは異なるが、空間オーディオ分野も着実な進化を見せていた。当初のリリース音源は、少々不自然なパンニングや音像配置とも感じるコンテンツも度々見受けられたが、昨今は、3Dオーディオフォーマットを駆使して、如何に自然で没入感が高いコンテンツを創生できるかに取り組み、それを達成させた音源も多いと感じる。
再生側では、例えばデノンの「PerLシリーズ」など、パーソナライズ機能を持ったイヤホンやヘッドホンがこれから増えていくであろうが、精度の高いパーソナライズが進めば、空間オーディオの魅力がより深く享受可能になる。そうなれば、自ずとコンテンツのさらなる発展や普及にも繋がり、ひいては、オーディオ分野全体への興味関心の高まりも期待できる。
空間オーディオは、ステレオ再生とは異なった次元の世界が楽しめる故、例えばAVアンプも手掛けるオーディオメーカーには、映画だけでなく、この分野のコンテンツ再生も積極的に訴求していただきたいと強く思う。
■エントリー価格製品とアクセサリーのさらなる充実を望む
そして何と言っても、製品の高額化が甚だしい。世代交代が進むオーディオ市場、オーディオ業界においては、価格の問題はとても重要となるだろう。若い世代やこれからオーディオをはじめようとするユーザー層において、昨今の著しい価格上昇傾向は、以前にも増して参入ハードルを高めている。
その意味では、先述の「MODEL M1」や「DENON HOME AMP」などのエントリー・コンポーネントの充実はもちろんのこと、それをバックアップするオーディオ・アクセサリーの存在も欠かせないと考える。なぜなら、それら機器は高額な機器に比べコストを潤沢に投じての物理的な音質対策が叶わないが、オーディオ・アクセサリーがその部分を補うことによって、低コストでもさらなる性能を発揮できるからだ。
昨年のアクセサリーでは、マランツの「M-CR612」にジャストサイズで作られたアンダンテラルゴ「Primo Board」が最たる例だ。小型ラックで足回りを強化することで着実に出音が整うが、それを価格を抑えて実現している。
同様に印象的だったのが、TOPWING「Static Eraser “Modern”」及び「OPT ISO BOX」だ。こちらも、価格を抑えて、なおかつシンプルに音質改善を実現できるアイテムであった。
これらのようなアクセサリーの存在は、オーディオを良い音で楽しむことはもちろんのこと、オーディオの魅力を広く伝搬するために欠かすことができない存在と筆者は考える。
2025年も、今後の世代交代に向けて業界全体が変革を問われる年となるだろうが、オーディオの可能性を拡張するハイエンド機からオーディオの魅力を広く伝えるエントリークラスまで、多くの魅惑的な製品に出会えることを願っている。