公開日 2013/10/31 00:00
“音質向上コンポーネント”『Wind Bell WB-30』に込められた想いと技術的裏付け − キーマンインタビュー
【特別企画】音質向上コンポーネント『Wind Bell』徹底解剖
防振・制振・除振に関するトップメーカーとして長年培ってきた技術をベースにし、新たにオーディオ分野へ参入した特許機器株式会社。どのような経緯でオーディオへの参入を決意したのか。同社のオーディオ用ブランド『Wind Bell(ウィンドベル)』の強みとはどこにあるのか。代表取締役社長の岡本興三氏と、製品開発のキーパーソンである技術本部の丸山照雄氏に話を訊いた。
■「森羅万象すべてのものが振動している」 |
ーー オーディオファンにとって、特許機器という会社、そして『Wind Bell』というブランドはまだ馴染みが薄いと思います。まずは特許機器がどんな企業であるのかをご紹介いただけますか。
岡本氏(以下、敬称略):我々は、1969年に当時の会長が考案した「防振システム技術」を基に設立された企業です。「発明・発見・創造」という思想を創業の原点にし、「振動を科学する会社」として活動しています。
建築業界での振動障害対策から歩みを始め、現在では建築だけでなく様々な分野で振動に関わる活動を行っています。例えば、ビルとビルの間の連絡通路は人間が通ると当然揺れますよね。こういった、実際に体に感じる振動を制御したり、「固体音障害」など物質伝搬の振動が空気中に放射される騒音の振動入力源を断つことや、ハイテク産業の精密な加工や検査を妨げる無感の微少な振動を除去することや、磁場の制御や、地震の対策に加えて、個別固有の現場に於ける振動障害の対策など、計測や解析を伴った様々なソリューション提供も行っています。
例えばトランスのコアのブーンという小さな蚊の鳴くような振動音を電柱などでも体験しますが、100Hz〜120Hzの純音性の高い振動では暗騒音より少しでも高ければ耐えられない音にもなるわけです。これは固体音障害と言われるものです。
これを解決するには、振動が躯体に入らないように振動絶縁する必要があります。こうした振動特性の分析から、発生源と振動対策の方法を具体的に示すソリューションも我々は提供しています。
ーー なるほど。
岡本:そもそも、この世に存在するあらゆるものは森羅万象すべてが振動しています。つまり、振動障害を除去するということは、振動を完全に止めることなどできなくて、人の場合は、場所に応じた気にならない感覚曲線を満たすことであり、精密機器の場合は許容できる振動レベル値まで抑えるといった具合に考えていくわけです。
ーー なるほど、完全に揺れを止めようと考えることは科学的ではないのですね。
岡本:そのとおりです。大きな振動に例をとれば、例えば地震対策があります。我々の設計思想としては、頻繁に報道される震度5〜6弱以下までの建物や設備の地震被害は皆無であるところから、ここに抑えられればまずは大丈夫だろうという目安で色々と商品化を図るわけです。
ただ、地震が起こるまで現物の実地破壊試験を待つということは出来ません。そこで、兵庫にあるE-ディフェンスという世界最大の地震波実験施設や、関西の国立大学の地震再現実験設備を、お借りしての減震性能を確認しています(※特許機器の本社は兵庫県尼崎市にある)。
こうして振動現象を経験則としてノウハウを蓄積していくわけです。振動現象は、経験則の蓄積が経営の重要な原資となると我々は考えています。なぜなら、様々に囲まれた空間や機械生産設備ラインは、そのまま振動系であり複雑性をもっているからです。しかし国内でも世界でも、我々のように無駄の多い事業は唯一無二の存在なのではないかと考えています。
■振動絶縁によってスピーカー本来の音を引き出す |
ーー そんな御社がオーディオ分野に乗り出そうとしたのはなぜなのでしょうか。
岡本:例えば、手巻きオルゴールを回すとドラム突起を弾く小さな音が鳴りますが、それをA4の紙にくっつけると音が大きくなります。振動が紙に伝わって、A4紙の全面で放射する音となり、謂わば『固体音障害』が起こっているわけです。
スピーカーの場合は、スピーカーの振動がテーブルなどに伝播し、音が発していて、ノイズが被っているとも言えますので、 スピーカーを床と振動絶縁することでスピーカー本来の性能を発揮することにつながり、音の広がりや透明性が表現されるのではないかと考えたわけです。
ーー それは社長自らが個人的に音楽好きだから至った考えなのでしょうか。
岡本:実は、それほど音楽に興味があるほうではないんですよ、オンチなもので(笑)。オーディオ好きな友人がいまして、ひょんなことで弊社のアイテムを使ってみたら音が良くなったと言われたのです。それを彼(丸山氏)に伝えたら話が色々と発展していったというわけです。
その方のオーディオルームはアスペクト比が大きくて、長手方向の壁に1/4の長さ程の飾り棚があり、それを挟んでスピーカーが配置されているという、丸山に言わせれば「好ましい条件」ではありませんでした。ただ、そこで試作品を使ってみたら、透明感、立体感が非常によく出るようになって、音の再現性がよくなったのです。
ーー 床、そして床に乗っている家具などの色々な物体が揺れて、その揺れがスピーカーにフィードバックされて悪影響を与えていたわけですね。
岡本:開発の初期には仏壇店から『お鈴』を購入し、色々試しつつ材質を選択しましたが、スリーブが共鳴体として風鈴のように作用することで好影響を与えているのかなと思いますね。
結局、当社の経験則として、スピーカーメーカーの製品は、一定の条件下で性能や品質管理される「チャンピオンデータ」を表現した製品です。しかし、実際に使われるマニアの部屋の条件は個別固有の現場として、多種多様なノイズ共鳴体の条件で囲われていて、固体音障害という振動制御の当社の技術的範疇の課題になっていると考えられます。
ーー 2つの素材の組み合わせという点がポイントですよね。
丸山:風鈴であるスリーブをスプリングという弾性体で支持することがポイントですね。スプリングで受けないと風鈴は共鳴しないので、ものすごく絶妙な組み合わせなのです。
■独自のサージング対策によってスプリング式での高精度防振に成功 |
ーー 製品の特徴をもっと具体的に教えていただけますか。
丸山:ベースにあるのが、当社が長年培ってきた「サージング防止技術」です。スプリングコイルを用いて防振器・除振器を構成しようとするとサージングと呼ばれる共振現象が問題になります。世の中にスプリングを使ったインシュレーターがあまり存在しないのはサージングがあるからでしょう。
これに対し、当社は特殊な制振材料を用いたサージング防止技術を保有しています。このサージング防止技術を活用することで、オーディオ用インシュレーターに適した振動遮断性能を実現させているのです。
ーー スプリングに金属のスリーブを組み合わせるという構造もユニークですよね。これは音質にどう影響するのでしょうか。
丸山:内部のスプリングコイルとサージング防止材が低周波域の振動を遮断します。一方、高周波域の振動はスプリングコイル内を通過する、つまりハイパスフィルターのような効果が出ることが分かりました。つまりオーディオにとって不要な振動は遮断され、有益な風鈴の高周波振動は減衰しないということが分かったのです。
■『Wind Bell(風鈴)』効果による高音域でのサウンド・チューニング |
ーー スリーブが風鈴のように共振することが良い影響を与えているわけですね。ブランド名、そして製品名でもある『Wind Bell』というのは、その風鈴効果に由来しているということでしょうか。
丸山:その通りです。実は、開発に着手した当初はスピーカーをスプリングだけで支持して試聴実験を行っていました。しかし研究を進めていくなかでインシュレーターをスプリングコイルだけから風鈴付きにすると、オーケストラがスピーカーの背後にグーンと引っ込み、各楽器群のレイアウトがホログラフィックにイメージできるようになったんです。つまり、音像の定位感、分解能、奥行き感などが劇的に向上したわけですね。
風鈴は日本独自のものでなく世界各地に存在し、人の心を癒す作用があると言われています。その作用は、音楽にも通じる、国・民族を超えて、人間共通の感性に訴える何かがあるのではないでしょうか。
ーー 風鈴は高周波領域に作用するというお話がありましたが、もう少し詳しく教えていただけますか。
丸山:例えば、スピーカーの下にウィンドベルを置いた際、スピーカーにはボイスコイルの反力に相当する変動荷重が、スピーカー本体とこのスピーカーを支持するウィンドベルに加わります。この変動荷重が多様な高周波スペクトル特性を有する風鈴の共振を励起させます。その結果、風鈴の各共振点で、スピーカーパネルが振動して、サウンド・チューニング作用をもたらす音圧を発生させることが、解析と実験で明らかになりました。
例えば、風鈴の1次の共振点を3500Hzに設定すると、3500Hz以下の低音域ではスピーカーと床面間の振動遮断が図れます。3500Hz以上の高音域でサウンド・チューニング作用、すなわち、風鈴効果が得られるのです。
ーー 風鈴をこの形状・材質に決定するまでに色々な試行錯誤があったのではないか と思うのですがいかがですか。
丸山:風鈴の音響振動特性は、3つに要約されます。高音域における多数の共振モード、余韻、ゆらぎです。研究の結果、共振特性は音像の定位感、分解能に影響を与え、余韻の長さは空間の奥行感・臨場感に、ゆらぎは居心地の良さや潤い感の向上に影響を与えているのではないかということが分ってきました。仕様の異なるWind Bellを多くの人に聴いて頂き、「良いと評価された音」をこの3つの音響振動特性の観点から整理することで、風鈴(スリーブ)の形状、材質を選択しています。
ちなみに、風鈴効果は共振現象を利用していますが、「音が色付けされた」という聴感上のイメージは一切ありません。その理由は、風鈴は床面からの跳ねかえり振動の影響を受けない、独立した振動系を形成しているからです。つまり、風鈴効果とは新たなものを追加するのではなく、本来持っている音楽成分だけを使って、より良い方向にもっていく作用をもたらす効果です。そのため、クセ・色がなく、ナチュラルで透明感のある音、純度の高い音の雰囲気が得られるのです。
■『インシュレーター』ではなく『音質向上コンポーネント』 |
ーー 製品は、いわゆるインシュレーターですが、あえて『音質向上コンポーネント』と言っていますよね。『インシュレーター』ではなく『コンポーネント』と呼んでいるのにはどんな理由があるのでしょうか。
丸山:そこもこだわっているポイントでして、2つの理由があります。まずは音質に与える影響の大きさがひとつ。プラスの方向に影響を与えてくれるアイテムですので、一度使っていただければ、お客様にとってなくてはならない存在になれると思っています。
ふたつ目の理由は、設置条件の影響を受けにくいということ、つまり汎用性の高さです。通常、インシュレーターはシステムが置かれた設置環境によって、効果が出たり出なかったりすることがあります。ウィンドベルが設置環境の影響を受けにくい理由は、音質を決める風鈴は、床面に対して独立した振動系を構成しているからです。
これは先程申し上げたように、音が色付けされない理由でもあります。そのため、床面振動の影響を受けないで、スピーカーが再生する原音成分のみを、歪の発生無く、サウンド・チューニングすることができる。これは、今までのインシュレーターには無かったウィンドベルの大きな特徴だと考えています。この2点を持って、コンポーネントと呼んでいます。
ーー 「今までのインシュレーターには無かった特徴」という言葉が出ましたが、その点をもっと詳しくお聞かせ願えますか。
丸山:例えばスピーカの振動が床面に伝搬すると、その跳ね返り振動により「混変調歪み」という問題が発生します。この「混変調歪み」は、原音には含まれない周波数成分であるため、音を汚す要因となるのです。
そこで床面への振動伝達を遮断するためにウィンドベルのような製品を利用することになるわけですが、スピーカ底面に対する床面の振動伝達特性の実測結果から、ウィンドベルは一般的な硬質材料式インシュレーターと比べて、振動遮断効果は-30dB以上大きいというデータを得られています。つまり、ウィンドベルを使えば音を汚す要因である混変調歪みの発生を回避できるのです。
ーー 聴感、つまり感覚的な理由だけでなく、御社では徹底的に解析・実験・測定を行って科学的な裏付けをとった上で、聴感と結びつけて製品を開発しているのですね。
丸山:そこは他社と比べても大きな特徴だと思っています。振動に関する技術はものすごくレベルの高いものを持っているし、優秀な技術者も多数抱えていると自負しています。
ーー なるほど。試作機のモニターテストも行っているそうですが、反応はいかがでしたか。
丸山:「今まで聴こえなかった低音が聴こえるようになった」であるとか、「音場が手前に立体的にせり出し定位するようになった」など、好意的なご意見をいただいています。「ヴァイオリンの倍音が綺麗に分離して聴こえ、量も増した」「ピアノの音も豊かになり, その楽器の特徴がさらに良く出る。スタインウェイとヤマハの差もより明確に分かるようになった」とも言っていただけました。
■今後の製品展開予定は? |
ーー 非常に楽しみな仕上がりになっているようですね。発売時期や価格は決まっているのですか?
丸山:11月21日に、4個1セットで5万円で発売します。特約店となっていただいた全国40数店舗のオーディオ専門店様でご購入いただけるようになります。特約店様を通じた製品貸し出しなども検討中です。ユーザーさんご自身の環境で色々と試していただければと思っています。
ーー スピーカーと組み合わせての使用を主に想定されているようですが、プレーヤーやアンプにも効果がありそうです。
丸山:もちろんいろいろな使い方ができると思います。風鈴効果は不要でスプリングによる振動遮断だけ使いたいから裏返して使う、などといった利用方法も“アリ”だと思いますよ。
ーー まずは「WB-30」という1製品からのスタートですが、今後の製品展開について何かお話していただけることはありますか。
丸山:この製品では、設計上のポイントとなる1次の共振周波数を3,800Hzに設定しています。いろいろな周波数を試したのですが、一番効果が得られるのが3,000〜4,000Hz周辺の帯域だったのです。人間の耳は3,000〜4,000Hz周辺が一番聴感が高いと言われていますし、音楽の世界でもちょうどそのあたりが敏感な部分です。そのため、この帯域にウィンドベルの1次共振点を持ってきたわけです。
このあたりは将来的に風鈴の音響振動特性、つまり共振、余韻、ゆらぎの特性が異なる製品をラインナップしても面白いかもしれませんね。ヴィンテージスピーカーであればもっと風鈴効果を強めたほうがいいかもしれませんし、逆に、現代的な最新スピーカーを良い環境で聴いている場合は風鈴効果を抑えたほうがいい、といったようなこともあるかもしれません。
実は、最初は「WB-10/30/60/100」という、グレードの異なる4種類を同時に投入しようと思っていました。一番高級な「WB-100」はユーザーの要望にあわせた受注生産品にする、などといったものですね。
ーー たしかにユーザーとしてはバリエーションが欲しくなるところだと思います。
丸山:そのほか、スパイクのネジ穴を利用するタイプも構想中です。ネジ穴の大きさも複数ありますから検討すべき点もありますが、いろいろと考えていきたいですね。
解析・実験・測定を繰り返して振動に関するノウハウを蓄積し、そのノウハウによってサージング共振という問題を解決して、スプリングに風鈴(スリーブ)を組み合わせる新機軸のオーディオ用振動対策アイテム『ウィンドベル』を開発した特許機器。オーディオ分野参入の意図と製品の特長について訊いた今回のインタビューに続き、いよいよ次回からはオーディオ評論家によるテストレポートをお送りする予定だ。そちらもぜひお楽しみにしていただきたい。
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