公開日 2018/01/30 10:12
オーディオ・ノートが継承する技術と設計思想とは ー 同社代表 芦澤雅基氏に聞く
“回路の宝石”が導き出す音楽の力と特別な品格
オーディオ評論家の角田郁雄氏が真空管アンプの製作、設計者を実際に探訪。その設計思想やパーツ選定、製作へのこだわりを紹介していく連載企画。その第3回目は(株)オーディオ・ノートの代表取締役、芦澤雅基氏に登場していただく。芦澤氏は1976年に近藤公康氏によって設立されたオーディオ・ノートに1990年に入社し、2004年から同社を継承。実に27年間にわたって同社のポリシーを引き継ぎ、新たな製品開発を続けてきている人物である。そんな同氏が継承してきた技術と製品開発のポリシーを紹介していくことにしよう。
■現代ユーザーに対応すべくさらに昇華した技術と音質
オーディオ・ノートのブランド・ロゴをあしらった、豪華なカタログを開くと “The Silver smith”という言葉がクローズアップされている。そう、オーディオ・ノートは世界で初めてオーディオに“銀”を用いたのである。右ページには、直熱三極管211をパラレルシングルで使用するモノラル・パワーアンプ「Kagura」がページを飾る。これと肩を並べるプリアンプは、電源部をセパレートした「G-1000」。
この2つのモデルの美しい姿に、私は常々惚れ込んでしまっているのである。何と言ったら良いのであろうか。音楽を聴いていると、肩の力を抜いてくれるような音楽の力と特別な品格を感じてしまうのである。
こうしたモデルを誕生させているのは現社長の芦澤雅基氏。創立者である近藤公康氏の意思を受け継いだのだが、現在のモデルラインを拝見すると、私が2年前にお会いした時よりも、さらに回路やデザイン、音づくりを昇華させていることが見て取れる。常に現在のハイエンド・ユーザーが求めているものを探りつつ開発を進めているのである。
■パーツや使用カ所に応じ銀線の径をコントロール
今回あらためて、“銀”について質問した。「創業当時から、市場にあるパーツには満足できませんでした。そこで着目したのが銀でした。一般的には導電率が一番高いと言われますが、それだけではなく、銀ならではの美しい響きに着目しました。銀線のラインケーブルやスピーカーケーブルに始まり銀線トランス、銀箔コンデンサ、現在では銀リード付きの抵抗まで使っています。しかし、ただ闇雲に銀を使えば良いというのではなく常に試聴をして適材適所を考えております。また、銀も線材の太さや硬さにより音の表情が大きく変わるので、経験と蓄積したノウハウによりそれらを巧みにコントロールして、ケーブル用、内部配線用、トランス用等に使い分けています」
私は銀箔コンデンサのひとつを見たが、その美しく高品位な形状に感激した。さらに、専任技術者がプリメインアンプ「Overture」を組み立てている様子も拝見したが、その美しいワイヤリングや基板にも感激した。とりわけ、高品位な基板にピンを立て、そこに抵抗やコンデンサが空中配線された姿は、「回路の宝石」と言いたくなるくらい、美しく精密感を漂わせている。
■海外で絶大な支持を獲得し日本でもユーザーが急増中
真空管は直熱三極管が主体ですかと尋ねると、「はい。そのとおりです。でもプリメインアンプの「Overture」だけは、傍熱真空管EL-34を使って、いかに直熱管に近づけられるか、チャレンジしたモデルです」
真空管が一番ですか、とも尋ねてみた。「真空管はあくまでもアンプを作るひとつの素子と考えています。真空管でなければならないというわけではありません。しかし、真空管アンプでは、高電圧が使えます。少ない電流で済みますね。手配線の引き回しによる影響も少ないというメリットもあります」
続いて、現在のアンプ回路の考え方を問う。「以前は元気の良さをあらわすため回路インピーダンスが比較的高めでした。現在では高品質部品が使えるようになったので、回路インピーダンスを低めの設計にして勢いの良さを保ちつつ雄大な風格を持った音を意識しています。パワーアンプでは躍動感を感じさせる無帰還増幅回路も良いのですが、私どものモデルでは、若干帰還をかけた方がインピーダンスが周波数により変化するスピーカーをドライブするには適していると感じています」
このように、オーディオ・ノートのモデルは、銀を使うということを音づくりのベースと考え、その上で回路技術を極めているのである。そのほとんどがカスタムメイド・パーツ(60%から70%)で、一品一品がていねいに製作される。非常に高価ではあるが、そこには“オーディオの彫刻、芸術”という佇まいを感じさてくれるのである。近年は、中国を初めとする東南アジアはもちろん、日本と同様のオーディオ大国であるドイツでも堅調に受注が増えているとのこと。また日本国内においても、愛用者が増えているとのことで、いままで以上に国内販売に力を入れていくそうである。
■酔いしれてしまう豊潤で美しい世界
最後にアナログプレーヤー「GINGA」に最新のフォノイコライザー「GE-10」、プリアンプ「G-1000」、そしてパワーアンプ「Kagura」といったフラッグシップのシステムで、マイルス・デイヴィスのアルバムを聴かせていただいた。その躍動感に溢れた演奏の様と、豊潤で美しい響きの世界に、私はすっかり酔いしれてしまった。オーディオ・ノートのさらなる活躍を期待したいと思うところである。
(角田郁雄)
本記事は季刊・analog vol.58号からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。
■現代ユーザーに対応すべくさらに昇華した技術と音質
オーディオ・ノートのブランド・ロゴをあしらった、豪華なカタログを開くと “The Silver smith”という言葉がクローズアップされている。そう、オーディオ・ノートは世界で初めてオーディオに“銀”を用いたのである。右ページには、直熱三極管211をパラレルシングルで使用するモノラル・パワーアンプ「Kagura」がページを飾る。これと肩を並べるプリアンプは、電源部をセパレートした「G-1000」。
この2つのモデルの美しい姿に、私は常々惚れ込んでしまっているのである。何と言ったら良いのであろうか。音楽を聴いていると、肩の力を抜いてくれるような音楽の力と特別な品格を感じてしまうのである。
こうしたモデルを誕生させているのは現社長の芦澤雅基氏。創立者である近藤公康氏の意思を受け継いだのだが、現在のモデルラインを拝見すると、私が2年前にお会いした時よりも、さらに回路やデザイン、音づくりを昇華させていることが見て取れる。常に現在のハイエンド・ユーザーが求めているものを探りつつ開発を進めているのである。
■パーツや使用カ所に応じ銀線の径をコントロール
今回あらためて、“銀”について質問した。「創業当時から、市場にあるパーツには満足できませんでした。そこで着目したのが銀でした。一般的には導電率が一番高いと言われますが、それだけではなく、銀ならではの美しい響きに着目しました。銀線のラインケーブルやスピーカーケーブルに始まり銀線トランス、銀箔コンデンサ、現在では銀リード付きの抵抗まで使っています。しかし、ただ闇雲に銀を使えば良いというのではなく常に試聴をして適材適所を考えております。また、銀も線材の太さや硬さにより音の表情が大きく変わるので、経験と蓄積したノウハウによりそれらを巧みにコントロールして、ケーブル用、内部配線用、トランス用等に使い分けています」
私は銀箔コンデンサのひとつを見たが、その美しく高品位な形状に感激した。さらに、専任技術者がプリメインアンプ「Overture」を組み立てている様子も拝見したが、その美しいワイヤリングや基板にも感激した。とりわけ、高品位な基板にピンを立て、そこに抵抗やコンデンサが空中配線された姿は、「回路の宝石」と言いたくなるくらい、美しく精密感を漂わせている。
■海外で絶大な支持を獲得し日本でもユーザーが急増中
真空管は直熱三極管が主体ですかと尋ねると、「はい。そのとおりです。でもプリメインアンプの「Overture」だけは、傍熱真空管EL-34を使って、いかに直熱管に近づけられるか、チャレンジしたモデルです」
真空管が一番ですか、とも尋ねてみた。「真空管はあくまでもアンプを作るひとつの素子と考えています。真空管でなければならないというわけではありません。しかし、真空管アンプでは、高電圧が使えます。少ない電流で済みますね。手配線の引き回しによる影響も少ないというメリットもあります」
続いて、現在のアンプ回路の考え方を問う。「以前は元気の良さをあらわすため回路インピーダンスが比較的高めでした。現在では高品質部品が使えるようになったので、回路インピーダンスを低めの設計にして勢いの良さを保ちつつ雄大な風格を持った音を意識しています。パワーアンプでは躍動感を感じさせる無帰還増幅回路も良いのですが、私どものモデルでは、若干帰還をかけた方がインピーダンスが周波数により変化するスピーカーをドライブするには適していると感じています」
このように、オーディオ・ノートのモデルは、銀を使うということを音づくりのベースと考え、その上で回路技術を極めているのである。そのほとんどがカスタムメイド・パーツ(60%から70%)で、一品一品がていねいに製作される。非常に高価ではあるが、そこには“オーディオの彫刻、芸術”という佇まいを感じさてくれるのである。近年は、中国を初めとする東南アジアはもちろん、日本と同様のオーディオ大国であるドイツでも堅調に受注が増えているとのこと。また日本国内においても、愛用者が増えているとのことで、いままで以上に国内販売に力を入れていくそうである。
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(角田郁雄)
本記事は季刊・analog vol.58号からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。
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