公開日 2018/11/01 06:00

Bluetoothの「音切れ無し」と「高音質」を両立させる新技術が登場、その仕組みとは?

クアルコム「aptX Adaptive」の詳細を聞く
aptX Adaptiveの技術概要と進化ポイント

aptX Adaptiveは、これらの特徴をバランス良く含み、さらに状況応じて自動で最適化(Adaptive/適合)するよう進化を遂げたもの。オーディオファンが最も気になる音質は、aptX HDと同等とのことで、先ずは一安心だ。

進化ポイント1:「robustness」(接続安定性)

まず基本部分として、従来のaptXは固定ビットレート(CBR)だったのに対し、aptX Adaptiveは新たにVBRを採用して音質を維持しつつ高効率圧縮を達成しているという。

aptX(48kHz/16bit)= 384kbps → aptX Adaptive=279kbps
aptX HD(48kHz/24bit)= 576kbps → aptX Adaptive=420kbps

計算すると、約3割データを節約できていることが分かり、通信の安定性向上に貢献するのは明らか。音質面では、英サルフォード大学で音響工学を学ぶ耳の肥えた学生や演奏家を目指す学生の協力を得て6カ月にわたり200曲ものサンプルを用いた聴感テストを繰り返し、コーデックの音質を左右するアルゴリズムをチューニング。オリジナル音源と違いが判別できないレベルであることを確認済みという。

そして、最も重要なのが、aptX Adaptiveの肝と言える「スケーラブル」という考え方。VBRとは別に、周囲の電波状況に応じ、480kbps〜279kbpsの間でビットレートを柔軟に変動させることができるのが新しい。普段は480kbps、つまりaptX HD相当の高音質で、都会の満員電車など混雑して混信が生じるシーンでは最小280kbpsに絞るなどして、音途切れの防止を優先するような芸当が可能になる。

後述する評価ボードを用いたビットレート変動のデモ。青枠が電波状況を示す値で、数字が大きいほど電波が悪い。赤枠がビットレートで、電波状況の悪化に合わせて転送レートを自動的に下げていることが分かる

既存のコーデックは、ユーザーが「接続優先」あるいは「音質優先」を予め選択する必要があったが、aptX Adaptiveはそれが不要なのもポイント。なるほど「Just Work」である。


進化ポイント2:高音質

aptX Adaptiveでは「HD」という文字を冠していないが、先述の通り、最大420kbpsでaptX HDと同等と考えて良い。オーディオファンも安心して利用できそうだ。
混雑時に279kbpsに絞られてもaptXのCDクオリティー相当を確保。HDではなくなるが、聴覚心理を用いてデータを間引かない自然で優れた音質が確保できるのはユーザーにとってメリットと言える。


進化ポイント3:低遅延

スマートフォン自体は、ユーザーが動画を視聴、あるいはゲームをプレイしていることを把握可能で、こうした際にはaptX Low Latency相当モードに自動切替し、低遅延性能を発揮する。

アルゴリズム上の遅延は2msec、システムトータルの遅延は50〜100msecを見込む。値に開きがあるのは、同社のスマートフォン・システム向けSoC「Snapdragon」シリーズを用いた場合とそうでないケースがあるためだ。

「Snapdragon」を搭載したスマートフォンではおおむね遅延は最大70msec(0.07秒)程度がターゲットで、30fpsの動画なら遅延は約2フレーム弱とリップシンクのズレは判別が難しいレベル、ゲームなら当たり判定のシビアなシューティングや、リズムに合わせてタップするいわゆる「音ゲー」には厳しいが、カジュアルゲームなら違和感なくプレイできる水準という。

aptX Low LatencyおよびaptX Adaptiveの遅延の度合いを、アイコンをタップする反応で体感できるデモも体験できた

また、Qualcomm社がCSR社よりaptX Low Latency技術を引き継いでハードウェアとソフトウェアを一体化および最適化することにより、aptX Low Latency(CSR社時代はBluetooth単体デバイスだった)で課題だったWi-Fiと共存できない問題を解決。レイテンシーだけに注目すると、aptX Low Latencyに対し、aptX AdaptiveのaptX Low Latency相当モード(低遅延を実現する技術は同じ)は少し長くなるケースがあるが、実用上は差異を感じない僅かな差に収まっている。何よりWi-Fi通信が常にオンという使い方が多い今、「Wi-Fi通信と同時に使える」aptX AdaptiveのaptX Low Latency相当モードは意義深い。

ちなみにこの際のビットレートは279kbpsで、音質はCD相当である。

ちなみにスペックを見ると単体のaptX Low Latencyに比べて遅延時感が若干長めのようだが、aptX Adaptive中にあるLow Latencyのコーデック手法、パケッタイジング手法は同じとのこと。Wi-Fi/Bluetoothのコンボデバイスに落とし込んだことや、Android上のシステムレイテンシーを含むため、このような値になるのだという。


周囲の電波環境の変化を常に監視し、先回りしてビットレートを調整

このようにaptX Adaptiveは、aptX、aptX HD、aptX Low Latencyの長所を引き継ぎつつ、状況に応じて自動で切替、つまりAdaptive(適合)することで、利用環境に応じた最高音質と低遅延による快適性をもたらしてくれるというわけだ。

次ページaptX Adaptiveを実際に体験した

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