公開日 2022/12/07 06:40
新次元へ突入した「LUMIX GH6」。基幹デバイス刷新などクリエイティブな映像表現をさらなる高みへ
DGPイメージングアワード2022 受賞インタビュー:パナソニック 山根洋介氏
DGPイメージングアワード2022
受賞インタビュー:パナソニック
約5年にわたる開発期間を経て、新世代のマイクロフォーサーズ一眼として登場した「LUMIX DC-GH6」がDGPイメージングアワード2022の総合金賞<デジタルカメラ/動画撮影部門>を受賞した。カメラを取り巻く環境は、コロナ禍も影響して大きく変化を見せるなか、GH6に託した想いやパナソニックのクリエイター、ユーザー、ファンの制作活動に貢献する果敢な取り組みについて、LUMIXの進化をけん引する山根洋介氏に話を聞く。
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社
副社長執行役員
イメージングビジネスユニット長
山根洋介氏
プロフィール/1964年11月7日生まれ。山口県出身。1988年4月 松下電器産業(株)入社。技術本部開発研究所にて撮像技術に関する研究開発に携わる。1995年よりAVC社AVC商品開発研究所でイメージング商品の要素技術開発に携わり、2010年 デジタルイメージング先行開発グループ グループマネージャー、2015年 イメージングプロダクツ ビジネスユニット長、2016年 イメージングネットワーク事業部 事業部長、2019年 スマートライフネットワーク事業部 イメージングビジネスユニット ビジネスユニット長、2022年10月より現職。趣味は楽器演奏、ゴルフなど。
―― クリエイターの創造力に応える新世代マイクロフォーサーズ一眼として今春デビューした「DC-GH6」が総合金賞<デジタルカメラ/動画撮影部門>を受賞されました。発売後半年を経て、ここまでのマーケットからの反響や手応えはいかがですか。
山根 エンジンやセンサーなど基幹デバイスを刷新し、従来の当社マイクロフォーサーズカメラの概念を変えるほどの優れた描写性能を実現したと自負しています。GH5発売から5年経ったいま、一体どのぐらいの方に受け入れていただけるのか、正直なところ若干の不安もありましたが、発表直後から想定を大幅に上回るご予約を頂戴するなど、大変大きな反響をいただくことができました。
商品の性能としては、マイクロフォーサーズの高速性能を生かした4K120pのクロップレス撮影により、後からスローモーションにするかもしれない映像素材を気軽に撮影できるようになったと大変好評をいただいています。クロップレスでレンズの焦点距離をそのまま生かせること、オーバーサンプリング処理で高解像な4K120p10bitで生成可能なことから、60pや30pの素材と混在しても画として見劣りせず、120p撮影がより身近なものとなっています。中間コーデックでの納品を求められる撮影現場でも、ProRes422の内部記録により、外部レコーダーを使うことなく中間コーデックが記録できるようになりました。
S/Nの向上や新機能の「ダイナミックレンジブースト」の搭載により、従来マイクロフォーサーズ機で弱みとされていた高感度撮影・ダイナミックレンジについても大変高い評価をいただいており、画質面の心配事が減ったことで安心感が生まれ、今までよりも撮影に集中できると好評です。
写真性能も初めて採用した25.2Mのセンサーと新エンジンの組み合わせによる描写力の進化が高く評価されており、フルサイズ事業で培った知見・技術をマイクロフォーサーズ機の価値向上にもうまく生かすことができ、非常に大きな手応えを感じています。
―― 歴代のGHシリーズでは強みである動画性能を武器に、映像制作分野のお客様に向けて数々のイノベーションをカタチにされることで高い支持を獲得されています。GH6では新開発の「ダイナミックレンジブースト」が技術/企画賞を受賞しています。
山根 前モデルのGH5から約5年もの歳月を要し、その間にLUMIXがフルサイズ市場に参入した経緯もあることから「LUMIXはマイクロフォーサーズをやめてしまったのか」との言葉をいただいたこともあったのですが、実はGH6の開発そのものは、GH5発売とほぼ同じ時期から始動しています。
これだけの期間を費やしたのは、フルサイズ市場に参入したからこそ見えてきたクリエイターの皆様が求める映像表現・映像クオリティをGHシリーズで叶えたい、すなわち、マイクロフォーサーズでありながら、フルサイズに迫る映像クオリティを実現したい、光と影を表現したいという想いからでした。
マイクロフォーサーズは、交換レンズシステムを含めた取り回しとイメージセンサーの高速読み出し性能に裏打ちされた表現力が売りのシステムです。長所は活かしつつ、フルサイズに迫る映像クオリティへと高めるために、GH6では基幹デバイスおよびカメラシステムを一から見直すことに着手しました。
その一つがイメージセンサーであり、開発中に実現した新技術が「ダイナミックレンジブースト」です。簡単に言えば、イメージセンサーの各画素から出力される高飽和な画像と低ノイズな画像を光量に合わせて合成することで、ノイズを抑えた広階調な画像として得るテクノロジーです。この膨大な処理を、マイクロフォーサーズの長所でもある高いフレームレートで実現する点が極めて挑戦的な取り組みとなりました。開発は本当に苦難の連続でしたが、マイクロフォーサーズのイメージを覆す、美しい階調を描き出すカメラに仕上げることができたと自負しています。
もう一つは、画像処理エンジンの開発とカメラセットの立ち上げです。クリエイターの皆様が求める映像表現や編集自由度への期待に応えるために、非常に高性能なCODECを採用した新しいエンジンを搭載しました。その多彩な映像表現力を、小型で取り回しの良いシステムサイズのままに、撮影現場でも安心してご使用いただける信頼性と共に実現しました。
実現には我々のノウハウでもある放熱設計をさらに高める必要に迫られ、“サイズと熱との闘いの日々”に追われる毎日でしたが、S1Hにも搭載するアクティブクーリングシステムを小型化しながら様々な改善を施すことで、フルサイズにはできないような多彩な映像表現を、マイクロフォーサーズのシステムサイズのまま安心して撮影いただくことを可能としました。ハイパフォーマンスのエンジンとセンサーをいかにお客様がストレスにならないような形で実現するか。今振り返ると一番苦労した点ではないでしょうか。
フルサイズシステムも有する我々だからこそ、マイクロフォーサーズの「GH6」を通じて提供することができたと考えています。映像制作者にとってかゆいところにはどこにでも手が届くのがGH5、これに対してGH6は、時間軸をもっと細切れにして見えない世界を見えるようにしました。マイクロフォーサーズは、奥行き・深さ・広さが求められる映像制作において、ベストバランスのフォーマットであると確信しています。
―― さらに、カメラでは「DC-GH5M2」、レンズでは話題を集めた「LEICA DG SUMMILUX 9mm / F1.7 ASPH.」はじめ、4本が金賞を獲得されました。
山根 コロナで世の中は大きく変わり、宅内でいろいろな映像コンテンツを視聴し、評価をして楽しむ文化が瞬く間に広がりました。その用途はクライアントを持つ映像制作だけでなく、個人のYouTubeやビデオブログといった動画配信、ライブ配信へとおよび、行動制限によるポジティブな副産物と言えます。
特に注目しているのが、準備から撮影・編集までを少人数、あるいは一人で手掛けるワンマンオペレーションです。 クリエイティブなものからライトなものまで様々ありますが、共通して言えることは、表現したいシナリオを自らカタチにしていくために撮影・編集ノウハウを習得され、これまでのワークフローの概念にとらわれずに利便性を追求されていることです。
小型なミラーレス一眼カメラシステムは、こういったワンマンでの映像制作にはまさに打ってつけ。ライブ配信ニーズにいち早く応えて進化を遂げた「GH5M2」や小型・超広角レンズ「LEICA DG SUMMILUX 9mm/F1.7」を含む交換レンズは、そうしたワンオペレーションのお客様達が受け入れてくださっています。
開発裏話として、小型・超広角レンズ「LEICA DG SUMMILUX 9mm/F1.7」について、少し触れたいと思います。
スマホのカメラが広角化していることからも窺えるように、ワイド撮影が表現者にとってより身近になるなか、当初は「小型・軽量の超広角レンズ」をテーマに開発をスタートしたものでした。しかしその行程で、エンジニアから新たな表現力の一端として「小型・軽量なのに寄れる」「ハーフマクロで撮れる」というバリューが提案されました。
「花などの被写体とその場の風景を一緒に表現する」「ブライダルシーンで指輪に寄りながら会場の雰囲気と一緒に撮影できる」など、開発メンバーが改造レンズを用いて、様々な画像・映像を試写してくれました。超広角レンズでは得にくいボケ感や遠近を含めたダイナミックな映像はどれも非常に感動的で、「これならば小さな被写体でも、背景を取り入れながら主役をより引き立たせる新しい撮影体験が提供できる」と確信に変わっていったことを覚えています。
従来の発想にとらわれないこと、そして、撮影体験に身を寄せることの重要性を、私自身改めて感じました。LUMIXの開発では、こうした既定の概念にとらわれない会話が日々行われています。今後も皆様のご期待を超えるような商品価値を実現し、撮影ライフを支援し続けて参ります。
―― クリエイターの創造力を突き動かすリアル空間「LUMIX BASE TOKYO」での活動をはじめ、店頭施策やイベントでも積極的な取り組みを行われています。
山根 LUMIXは常にクリエイターに寄り添うブランドでありたいと考えており、様々な活動を展開しています。特にクリエイターの皆様から評価が高い「LUMIXの色表現」でお客様に貢献すべく、マーケティングコンセプト「COLORS OF LUMIX」を立ち上げました。作品における色の追及はプロ・アマ問わず創作活動そのものです。撮って出しの画作りの良さでは大変高い評価をいただいておりますが、それに加え、現像、レタッチ、グレーディングといったポスプロ工程でも、理想の色を追求できる自由度を担保して、創作活動に貢献して参ります。
具体的な取り組みとしては、ユーザーの皆様とともに作品制作における色表現を楽しむことはもちろん、色表現上でのお困りごと解決を目的としたプロジェクト「LUMIX Color Lab」を6月に開始し、クリエイターと共に開発した映像制作用のLUT(ルックアップテーブル)や写真現像用のカラープリセット、フォトスタイルのカスタム設定を、LUMIX BASE TOKYOの会員向けに無償で提供しています。公開以降SNS上でも大きな話題となりました。LUMIX BASE TOKYOでのリアルセミナーも毎回満員御礼です。コンテンツは継続的に公開しており、LUTとカスタム設定は第二弾を公開、カラープリセットも第二弾公開に向けて準備中です。今後、海外でも同様の展開を行うべく準備を進めているところです。
イベントはコロナ禍と共存しながら、本年6月からは月1度のフォトウォークを開始し、9月にはファンイベント「LUMIX FES」も開催しました。フォトウォークはわずか数日で応募枠が満員に達してしまうほどの人気を博しており、手ぶらでもご参加いただけるようLUMIXの最新機種を取り揃えていますので、お試しいただける良い機会ともなっています。
一方の「LUMIX FES」は、メーカー主催ではなく、LUMIXファンの方々と共に企画を考える「ファン共催」をコンセプトにして開催しました。初の試みとなりましたが、多くの LUMIXファンにお集まりいただき、セッションも大いに盛り上がりましたし、ファン同士の交流が進んだのもうれしいですね。LUMIXファンの方々との直接的なタッチポイントとして、今後も継続的な開催を検討しています。
―― 学生に対する支援施策も始められ、注目を集めています。
山根 学生の映像制作支援の一環として、新たに「LUMIX学生アンバサダープログラム」を開始しました。カメラ市場全体は縮小傾向にありますが、確実に増えている若いクリエイターを育て、写真・映像業界全体を活性化させることもLUMIXの使命の一つだと考えています。本年6月から9月までを第一期として、総勢13名の高校生、大学生、大学院生が LUMIXのアンバサダーとなり、LUMIX S5を活用して映像作品を制作し、その過程をSNSなどで発信してもらいました。完成した作品は気鋭の若手クリエイターに講評いただくとともに、当社のホームページやSNSで公開しています。
撮影機材、作品をアウトプットする機会、的確なフィードバックを得られる機会がそれぞれ大変不足しているのが実情です。学生が映像制作に抱えている課題に向き合ったプログラム内容はアンバサダーからも非常に好感をいただき、第二期の募集も行いました(※11月29日で終了)。今後もクリエイター、ユーザー、ファンの皆様の制作活動に貢献する取り組みを加速して参りますので、どうぞご期待ください。
―― 行動制限が緩和され、観光やイベント需要も目に見えて回復しつつあります。年末商戦、さらに年明けの 「CP+」へと期待も膨らむなか、需要喚起へ向けたパナソニック「LUMIX」の意気込みをお願いします。
山根 カメラファンのマインドも高まるなか、オンラインとリアルでのコミュニケーションを継続的に活性化し、お客様のお困りごと解決やクリエイティビティ向上に寄り添った発信をさらに強化していきます。年明けには4年ぶりとなるCP+のリアル開催も予定されており、「フルサイズSシリーズ」「マイクロフォーサーズGシリーズ」の両マウントで全力展開し、お客様の創作活動のヒントになるようなタッチ&トライや展示、セミナーを検討しています。ぜひ、“リアルな場ならではの体感”に、皆様のお越しをお待ちしています。
コロナ禍で生まれたクリエイターの旺盛な表現活動が、今のデジタルカメラの成長市場を支えていることは疑う余地はありません。そこで着目しなければならないのは、プロ・アマを問わず、これまでカメラ離れが指摘されていた若い世代へと広がりをみせていることです。ただ、だからといって高価なカメラをおいそれと購入することはできないでしょう。
映像や静止画を撮り、皆と共有しようと行動を起こしたときに、一番ふさわしいカメラは恐らく、もっと小さくて機動性があり、価格も手が届くもの。LUMIXがカメラを使って撮る楽しさやコンテンツを配信して楽しむ世界を提供するには、ステップアップの考え方がもっと大事になるはずです。現在はかなりディープな世界のカメラが中心となっていますが、そうした領域までステップアップしていけるような、若い世代の人たちに向けてLUMIXをしっかりと知って、そして使って喜んでいただけるものを準備していかなければなりません。カメラを好きになり、再びカメラブームが訪れるような仕掛けに、しっかりと取り組んでいくことを肝に銘じています。
受賞インタビュー:パナソニック
約5年にわたる開発期間を経て、新世代のマイクロフォーサーズ一眼として登場した「LUMIX DC-GH6」がDGPイメージングアワード2022の総合金賞<デジタルカメラ/動画撮影部門>を受賞した。カメラを取り巻く環境は、コロナ禍も影響して大きく変化を見せるなか、GH6に託した想いやパナソニックのクリエイター、ユーザー、ファンの制作活動に貢献する果敢な取り組みについて、LUMIXの進化をけん引する山根洋介氏に話を聞く。
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社
副社長執行役員
イメージングビジネスユニット長
山根洋介氏
プロフィール/1964年11月7日生まれ。山口県出身。1988年4月 松下電器産業(株)入社。技術本部開発研究所にて撮像技術に関する研究開発に携わる。1995年よりAVC社AVC商品開発研究所でイメージング商品の要素技術開発に携わり、2010年 デジタルイメージング先行開発グループ グループマネージャー、2015年 イメージングプロダクツ ビジネスユニット長、2016年 イメージングネットワーク事業部 事業部長、2019年 スマートライフネットワーク事業部 イメージングビジネスユニット ビジネスユニット長、2022年10月より現職。趣味は楽器演奏、ゴルフなど。
■基幹デバイスやカメラシステムを一から見直した新世代機「GH6」
―― クリエイターの創造力に応える新世代マイクロフォーサーズ一眼として今春デビューした「DC-GH6」が総合金賞<デジタルカメラ/動画撮影部門>を受賞されました。発売後半年を経て、ここまでのマーケットからの反響や手応えはいかがですか。
山根 エンジンやセンサーなど基幹デバイスを刷新し、従来の当社マイクロフォーサーズカメラの概念を変えるほどの優れた描写性能を実現したと自負しています。GH5発売から5年経ったいま、一体どのぐらいの方に受け入れていただけるのか、正直なところ若干の不安もありましたが、発表直後から想定を大幅に上回るご予約を頂戴するなど、大変大きな反響をいただくことができました。
商品の性能としては、マイクロフォーサーズの高速性能を生かした4K120pのクロップレス撮影により、後からスローモーションにするかもしれない映像素材を気軽に撮影できるようになったと大変好評をいただいています。クロップレスでレンズの焦点距離をそのまま生かせること、オーバーサンプリング処理で高解像な4K120p10bitで生成可能なことから、60pや30pの素材と混在しても画として見劣りせず、120p撮影がより身近なものとなっています。中間コーデックでの納品を求められる撮影現場でも、ProRes422の内部記録により、外部レコーダーを使うことなく中間コーデックが記録できるようになりました。
S/Nの向上や新機能の「ダイナミックレンジブースト」の搭載により、従来マイクロフォーサーズ機で弱みとされていた高感度撮影・ダイナミックレンジについても大変高い評価をいただいており、画質面の心配事が減ったことで安心感が生まれ、今までよりも撮影に集中できると好評です。
写真性能も初めて採用した25.2Mのセンサーと新エンジンの組み合わせによる描写力の進化が高く評価されており、フルサイズ事業で培った知見・技術をマイクロフォーサーズ機の価値向上にもうまく生かすことができ、非常に大きな手応えを感じています。
―― 歴代のGHシリーズでは強みである動画性能を武器に、映像制作分野のお客様に向けて数々のイノベーションをカタチにされることで高い支持を獲得されています。GH6では新開発の「ダイナミックレンジブースト」が技術/企画賞を受賞しています。
山根 前モデルのGH5から約5年もの歳月を要し、その間にLUMIXがフルサイズ市場に参入した経緯もあることから「LUMIXはマイクロフォーサーズをやめてしまったのか」との言葉をいただいたこともあったのですが、実はGH6の開発そのものは、GH5発売とほぼ同じ時期から始動しています。
これだけの期間を費やしたのは、フルサイズ市場に参入したからこそ見えてきたクリエイターの皆様が求める映像表現・映像クオリティをGHシリーズで叶えたい、すなわち、マイクロフォーサーズでありながら、フルサイズに迫る映像クオリティを実現したい、光と影を表現したいという想いからでした。
マイクロフォーサーズは、交換レンズシステムを含めた取り回しとイメージセンサーの高速読み出し性能に裏打ちされた表現力が売りのシステムです。長所は活かしつつ、フルサイズに迫る映像クオリティへと高めるために、GH6では基幹デバイスおよびカメラシステムを一から見直すことに着手しました。
その一つがイメージセンサーであり、開発中に実現した新技術が「ダイナミックレンジブースト」です。簡単に言えば、イメージセンサーの各画素から出力される高飽和な画像と低ノイズな画像を光量に合わせて合成することで、ノイズを抑えた広階調な画像として得るテクノロジーです。この膨大な処理を、マイクロフォーサーズの長所でもある高いフレームレートで実現する点が極めて挑戦的な取り組みとなりました。開発は本当に苦難の連続でしたが、マイクロフォーサーズのイメージを覆す、美しい階調を描き出すカメラに仕上げることができたと自負しています。
もう一つは、画像処理エンジンの開発とカメラセットの立ち上げです。クリエイターの皆様が求める映像表現や編集自由度への期待に応えるために、非常に高性能なCODECを採用した新しいエンジンを搭載しました。その多彩な映像表現力を、小型で取り回しの良いシステムサイズのままに、撮影現場でも安心してご使用いただける信頼性と共に実現しました。
実現には我々のノウハウでもある放熱設計をさらに高める必要に迫られ、“サイズと熱との闘いの日々”に追われる毎日でしたが、S1Hにも搭載するアクティブクーリングシステムを小型化しながら様々な改善を施すことで、フルサイズにはできないような多彩な映像表現を、マイクロフォーサーズのシステムサイズのまま安心して撮影いただくことを可能としました。ハイパフォーマンスのエンジンとセンサーをいかにお客様がストレスにならないような形で実現するか。今振り返ると一番苦労した点ではないでしょうか。
フルサイズシステムも有する我々だからこそ、マイクロフォーサーズの「GH6」を通じて提供することができたと考えています。映像制作者にとってかゆいところにはどこにでも手が届くのがGH5、これに対してGH6は、時間軸をもっと細切れにして見えない世界を見えるようにしました。マイクロフォーサーズは、奥行き・深さ・広さが求められる映像制作において、ベストバランスのフォーマットであると確信しています。
■コロナ禍で一気に広がった映像文化の息吹に応える
―― さらに、カメラでは「DC-GH5M2」、レンズでは話題を集めた「LEICA DG SUMMILUX 9mm / F1.7 ASPH.」はじめ、4本が金賞を獲得されました。
山根 コロナで世の中は大きく変わり、宅内でいろいろな映像コンテンツを視聴し、評価をして楽しむ文化が瞬く間に広がりました。その用途はクライアントを持つ映像制作だけでなく、個人のYouTubeやビデオブログといった動画配信、ライブ配信へとおよび、行動制限によるポジティブな副産物と言えます。
特に注目しているのが、準備から撮影・編集までを少人数、あるいは一人で手掛けるワンマンオペレーションです。 クリエイティブなものからライトなものまで様々ありますが、共通して言えることは、表現したいシナリオを自らカタチにしていくために撮影・編集ノウハウを習得され、これまでのワークフローの概念にとらわれずに利便性を追求されていることです。
小型なミラーレス一眼カメラシステムは、こういったワンマンでの映像制作にはまさに打ってつけ。ライブ配信ニーズにいち早く応えて進化を遂げた「GH5M2」や小型・超広角レンズ「LEICA DG SUMMILUX 9mm/F1.7」を含む交換レンズは、そうしたワンオペレーションのお客様達が受け入れてくださっています。
開発裏話として、小型・超広角レンズ「LEICA DG SUMMILUX 9mm/F1.7」について、少し触れたいと思います。
スマホのカメラが広角化していることからも窺えるように、ワイド撮影が表現者にとってより身近になるなか、当初は「小型・軽量の超広角レンズ」をテーマに開発をスタートしたものでした。しかしその行程で、エンジニアから新たな表現力の一端として「小型・軽量なのに寄れる」「ハーフマクロで撮れる」というバリューが提案されました。
「花などの被写体とその場の風景を一緒に表現する」「ブライダルシーンで指輪に寄りながら会場の雰囲気と一緒に撮影できる」など、開発メンバーが改造レンズを用いて、様々な画像・映像を試写してくれました。超広角レンズでは得にくいボケ感や遠近を含めたダイナミックな映像はどれも非常に感動的で、「これならば小さな被写体でも、背景を取り入れながら主役をより引き立たせる新しい撮影体験が提供できる」と確信に変わっていったことを覚えています。
従来の発想にとらわれないこと、そして、撮影体験に身を寄せることの重要性を、私自身改めて感じました。LUMIXの開発では、こうした既定の概念にとらわれない会話が日々行われています。今後も皆様のご期待を超えるような商品価値を実現し、撮影ライフを支援し続けて参ります。
■LUMIXファンや学生支援の活動は市場活性化へ大切なポイント
―― クリエイターの創造力を突き動かすリアル空間「LUMIX BASE TOKYO」での活動をはじめ、店頭施策やイベントでも積極的な取り組みを行われています。
山根 LUMIXは常にクリエイターに寄り添うブランドでありたいと考えており、様々な活動を展開しています。特にクリエイターの皆様から評価が高い「LUMIXの色表現」でお客様に貢献すべく、マーケティングコンセプト「COLORS OF LUMIX」を立ち上げました。作品における色の追及はプロ・アマ問わず創作活動そのものです。撮って出しの画作りの良さでは大変高い評価をいただいておりますが、それに加え、現像、レタッチ、グレーディングといったポスプロ工程でも、理想の色を追求できる自由度を担保して、創作活動に貢献して参ります。
具体的な取り組みとしては、ユーザーの皆様とともに作品制作における色表現を楽しむことはもちろん、色表現上でのお困りごと解決を目的としたプロジェクト「LUMIX Color Lab」を6月に開始し、クリエイターと共に開発した映像制作用のLUT(ルックアップテーブル)や写真現像用のカラープリセット、フォトスタイルのカスタム設定を、LUMIX BASE TOKYOの会員向けに無償で提供しています。公開以降SNS上でも大きな話題となりました。LUMIX BASE TOKYOでのリアルセミナーも毎回満員御礼です。コンテンツは継続的に公開しており、LUTとカスタム設定は第二弾を公開、カラープリセットも第二弾公開に向けて準備中です。今後、海外でも同様の展開を行うべく準備を進めているところです。
イベントはコロナ禍と共存しながら、本年6月からは月1度のフォトウォークを開始し、9月にはファンイベント「LUMIX FES」も開催しました。フォトウォークはわずか数日で応募枠が満員に達してしまうほどの人気を博しており、手ぶらでもご参加いただけるようLUMIXの最新機種を取り揃えていますので、お試しいただける良い機会ともなっています。
一方の「LUMIX FES」は、メーカー主催ではなく、LUMIXファンの方々と共に企画を考える「ファン共催」をコンセプトにして開催しました。初の試みとなりましたが、多くの LUMIXファンにお集まりいただき、セッションも大いに盛り上がりましたし、ファン同士の交流が進んだのもうれしいですね。LUMIXファンの方々との直接的なタッチポイントとして、今後も継続的な開催を検討しています。
―― 学生に対する支援施策も始められ、注目を集めています。
山根 学生の映像制作支援の一環として、新たに「LUMIX学生アンバサダープログラム」を開始しました。カメラ市場全体は縮小傾向にありますが、確実に増えている若いクリエイターを育て、写真・映像業界全体を活性化させることもLUMIXの使命の一つだと考えています。本年6月から9月までを第一期として、総勢13名の高校生、大学生、大学院生が LUMIXのアンバサダーとなり、LUMIX S5を活用して映像作品を制作し、その過程をSNSなどで発信してもらいました。完成した作品は気鋭の若手クリエイターに講評いただくとともに、当社のホームページやSNSで公開しています。
撮影機材、作品をアウトプットする機会、的確なフィードバックを得られる機会がそれぞれ大変不足しているのが実情です。学生が映像制作に抱えている課題に向き合ったプログラム内容はアンバサダーからも非常に好感をいただき、第二期の募集も行いました(※11月29日で終了)。今後もクリエイター、ユーザー、ファンの皆様の制作活動に貢献する取り組みを加速して参りますので、どうぞご期待ください。
―― 行動制限が緩和され、観光やイベント需要も目に見えて回復しつつあります。年末商戦、さらに年明けの 「CP+」へと期待も膨らむなか、需要喚起へ向けたパナソニック「LUMIX」の意気込みをお願いします。
山根 カメラファンのマインドも高まるなか、オンラインとリアルでのコミュニケーションを継続的に活性化し、お客様のお困りごと解決やクリエイティビティ向上に寄り添った発信をさらに強化していきます。年明けには4年ぶりとなるCP+のリアル開催も予定されており、「フルサイズSシリーズ」「マイクロフォーサーズGシリーズ」の両マウントで全力展開し、お客様の創作活動のヒントになるようなタッチ&トライや展示、セミナーを検討しています。ぜひ、“リアルな場ならではの体感”に、皆様のお越しをお待ちしています。
コロナ禍で生まれたクリエイターの旺盛な表現活動が、今のデジタルカメラの成長市場を支えていることは疑う余地はありません。そこで着目しなければならないのは、プロ・アマを問わず、これまでカメラ離れが指摘されていた若い世代へと広がりをみせていることです。ただ、だからといって高価なカメラをおいそれと購入することはできないでしょう。
映像や静止画を撮り、皆と共有しようと行動を起こしたときに、一番ふさわしいカメラは恐らく、もっと小さくて機動性があり、価格も手が届くもの。LUMIXがカメラを使って撮る楽しさやコンテンツを配信して楽しむ世界を提供するには、ステップアップの考え方がもっと大事になるはずです。現在はかなりディープな世界のカメラが中心となっていますが、そうした領域までステップアップしていけるような、若い世代の人たちに向けてLUMIXをしっかりと知って、そして使って喜んでいただけるものを準備していかなければなりません。カメラを好きになり、再びカメラブームが訪れるような仕掛けに、しっかりと取り組んでいくことを肝に銘じています。
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