公開日 2024/01/18 06:30
音質を追求した「科学的アプローチ」で業界を牽引。AudioQuestのこだわりをセールス担当者に訊く
独自のDBS技術についても詳解
1980年にビル・ロウ氏によって設立されたアメリカのAudioQuest(オーディオクエスト)は、新しい素材や技術を積極的に投入し、幅広いラインナップでハイエンドオーディオケーブルの市場を牽引してきた。2023年11月、オーディオイベント「東京インターナショナルオーディオショウ」の開催に合わせ、インターナショナルセールス担当のAdam Shaw-Cotterill(アダム・ショウ・コッテルリ)氏が来日。AudioQuestのケーブル作りの思想と、同社のオリジナル技術「DBS(ダイエレクトリック・バイアス・システム)」の詳細についてたっぷり語ってもらった。
コッテルリ氏によると、いまのAudioQuest製品の開発にあたっては、彼らが“四元素”と呼ぶ4つのポイントが重要なのだという。その“四元素”は、AudioQuest製品のカタログの最初のページにアイコンとして記載されている。
「最初の丸いアイコンは「単線導体」、その右の矢印は、我々のケーブルがすべて「方向性」を持っていることを示します。アンテナのようなマークは「ノイズの拡散とシールド」を意味します。最後の4つの台形のマークは、導体のグレードが4種類あることを示しています」(コッテルリ氏)
コッテルリ氏が語る通り、AudioQuestが使用する導体はグレードの違う4種類が用意されている。最上位が「PSS(パーフェクト・サーフェス・シルバー)」、「PSC+(パーフェクト・サーフェス・カッパー・プラス)」、「PSC(パーフェクト・サーフェス・カッパー)」、「LGC(ロング・グレイン・カッパー)」の4種類である。
同社が扱うすべての導体は、大きな銅の塊から、細く長いワイヤーに引き伸ばすことによって製作されている。そのことにより、各粒子を均等に引き伸ばすとともに、ケーブルに方向性が生まれるのだという。同社のケーブルの外装には、すべて音声信号が流れる方向に接続するよう矢印が記載。逆方向に接続しても音は出るが、「ベストなクオリティではありません」とコッテルリ氏という。
銅の塊から単純に引き伸ばしたものが「LGC」、その表面の不純物を取り除き、磨き上げたものが「PSC」というグレードになる。そしてさらにその工程を2回繰り返したものが「PSC+」。最上位の「PSS」は磨き上げの工程を銀で行うのだという。導体表面を磨き上げることで、あたかも道路が舗装されたかのように電気信号がスムーズに流れていく、と考えているのだ。
「ご存知のように、オーディオケーブルとして最も優れた導体は“銀線”です。銀線は効率的でリニアな特性を持っており、すべての周波数帯域が等しく処理されます。ですが、銀は非常に高額です。ですから、私たちは質の良い銅線と、銀の双方を使用することにしています。上位グレードの導体では、銅の表面に銀メッキをかけています。繊細な高周波の信号は導体の表面を流れますから(編集部注:一般に「表皮効果」と呼ばれる)、銀メッキをかけることでより効率的に信号を伝送することができると考えています」(コッテルリ氏)
AudioQuestの製品グレードは、まずはこの導体の違いによって構成されている。たとえばスピーカーケーブルの「Rocketシリーズ」ならば、エントリーの「Rocket 11」には「LGC」を使用、「Rocket22」は「LGC」と「PSC」の混合、最上位グレードの「Rocket 88.2」には「PSC+」が6本使用されている。最上位のMythical Creatureシリーズでいうと、「Dragon-Zero」はPSS6本&PSC+2本、「FireBird-Zero」ではPSS4本&PSC+4本という組み合わせとなる。
続けてコッテルリ氏は、同社のバーンイン技術についても教えてくれた。方向性のある導体をさらに改善する方法について研究していた際に、「キャパシター(コンデンサー)を長時間最大値で稼働させ続けると、その性能がさらに高まる」という発見があったとのこと。
「私たちは、この方向性のある金属導体をさらに改善する方法がないか研究を重ねました。ここには、『Niagara』という巨大な電源フィルターから得られた教訓があります」(コッテルリ氏)
Niagaraは日本国内には導入されていないが、AudioQuestが展開する巨大な電源フィルターである。本機の開発には、キャパシターの専門家であり、2012年よりAudioQuestチームに参画したGarth Powell(ガース・パウエル)氏の貢献が大きく関わっているようだ。
「こちらの写真をご覧ください。これは私たちの使用しているバーンインシステムです。これはNASAとアメリカ軍、それにAudioQuestにしかないシステムで、私たちは1台5万ドルするこの機械を3台所有しています。この機械の中にキャパシターをセットして、タイマーをかけます。大きいものでは36時間、中くらいのサイズのものは24時間、DBSなどに入っている小さいサイズのものは12時間セットします。このバーンインプロセスを通すことで、さらなる性能を引き出すことができるのです」(コッテルリ氏)
ちなみにケーブルについても独自のバーンインシステムを構築している。下の写真はRobin Hood以上のスピーカーケーブルに使用されるバーンインシステムで、アメリカとオランダに設置されているもの。ケーブルをループ上にし、適切な電圧と電流を流すことで、永久的な分子の最適化が行われ、音質改善に大きく貢献しているのだという。
AudioQuestの上位グレードのケーブルには、「DBS」と呼ばれる小型のボックスが装着されている。その詳細についても教えてもらった。
「AudioQuestの導体は、エアーチューブによる絶縁体で包まれています。ちょっと振ってみると、導体が動く音がしますよ。つまり、絶縁体と導体との接触は最小限にしています。というのは、絶縁体もわずかですが電気を引き寄せてしまうからです。
しかし、長時間電気を通すことで、その絶縁体を飽和させることができます。だいたい30時間から50時間くらいでしょうか。ケーブルを長時間使った後で音が良くなると感じたことがあるでしょう。それは絶縁体が飽和したからなのです。しかし、音楽の再生を止めると、再び絶縁体は電荷を放出し始めます。ですから、常に導体に電荷を与え続けなければなりません。そのために必要なのが、このDBSというものです」(コッテルリ氏)
現在のDBSには、内部には72Vのアルカリ電池と、親指に乗るほどの小さいサイズのキャパシターが搭載されている。この電池から、ケーブルの中心に配置される印加用の導体に高電圧、低電流の電気信号を送り込む。そのことで、信号導体に影響を与えることなく、絶縁体に電圧を加えることができるという。キャパシターは(先述のシステムで12時間バーンインされている)最新のDBSから搭載されたもので、いわゆるノイズトラップ的な役割を果たす。
ちなみにスピーカーケーブルについては72V DBSが装着されているが、「Mythical Creatureシリーズ」のXLRケーブルの上位4グレード(Dragon/Firebird/Thunderbird/Pegasus)については「Dual 72V DBS」とさらに倍の印加が可能なDBSが装着されている。
このバッテリーは、通常使用ではおおよそ7年程度は持つという。DBSには小さなボタンが付いており、押してランプが光れば十分な電池残量があることを示す。DBSには方向性はないが、ケーブルのどちらに装着するかで音質にも変化があるという。スピーカーケーブルの場合は、スピーカー側に取り付けた方が有利と考えているようだ。
ちなみに以前のモデルでは12V/24V/36V/48Vで印加していたが、研究の結果ボルテージが高い方が音質上有利という考えから、現在は72Vが採用されている。同社ではこのDBSだけを「DBS-X」として別売りで販売しており、たとえば以前のDBSが装着されたケーブルを、“最新のDBS-Xに交換する”ことも可能だ。
「最後にもう一点、AudioQuestのケーブルのこだわりとしてお伝えしたいことがあります。それは、すべてのケーブル内には「ドレイン線」と呼ばれるワイヤーが追加されており、片方のコネクタの端だけに繋がっています。こちらはケーブル内で拾われたノイズを排除するためにあります。
私たちは、クリーンな信号を維持するために、ノイズや干渉の影響を受けないようなさまざまな科学的アプローチを探っています。すべてのケーブルは、残念ながら信号強度や品質を損なってしまうものです。ですが、きちんと設計されたケーブルならば、その劣化を限りなく小さくすることができると考えているのです」(コッテルリ氏)
複数のコンポーネントを組み合わせるオーディオという趣味にとって、機器間を接続するケーブルは場合によって“ノイズ源”になりうる存在でもある。しかしその中でもいかに純度の高い信号を届けるか、あるいは外部からのノイズをシャットダウンし、内部で発生するノイズを低減させるか、ということに、ケーブルメーカー各社のさまざまなこだわりが込められている。
AudioQuestはその中でも、研究開発によって培われた「科学的アプローチ」を非常に大切にしている、ということを改めて感じさせてくれた。ケーブルによって音が変わる理由は、経験上は誰もが認めていても、科学的にはまだまだ未知数な点も多い。AudioQuestはその難問に取り組み、着実な成果を上げているメーカーである。今後も世界のオーディオケーブルを牽引する存在として期待したい。
AudioQuestが製品開発で貫く“四元素”とは?
コッテルリ氏によると、いまのAudioQuest製品の開発にあたっては、彼らが“四元素”と呼ぶ4つのポイントが重要なのだという。その“四元素”は、AudioQuest製品のカタログの最初のページにアイコンとして記載されている。
「最初の丸いアイコンは「単線導体」、その右の矢印は、我々のケーブルがすべて「方向性」を持っていることを示します。アンテナのようなマークは「ノイズの拡散とシールド」を意味します。最後の4つの台形のマークは、導体のグレードが4種類あることを示しています」(コッテルリ氏)
コッテルリ氏が語る通り、AudioQuestが使用する導体はグレードの違う4種類が用意されている。最上位が「PSS(パーフェクト・サーフェス・シルバー)」、「PSC+(パーフェクト・サーフェス・カッパー・プラス)」、「PSC(パーフェクト・サーフェス・カッパー)」、「LGC(ロング・グレイン・カッパー)」の4種類である。
同社が扱うすべての導体は、大きな銅の塊から、細く長いワイヤーに引き伸ばすことによって製作されている。そのことにより、各粒子を均等に引き伸ばすとともに、ケーブルに方向性が生まれるのだという。同社のケーブルの外装には、すべて音声信号が流れる方向に接続するよう矢印が記載。逆方向に接続しても音は出るが、「ベストなクオリティではありません」とコッテルリ氏という。
銅の塊から単純に引き伸ばしたものが「LGC」、その表面の不純物を取り除き、磨き上げたものが「PSC」というグレードになる。そしてさらにその工程を2回繰り返したものが「PSC+」。最上位の「PSS」は磨き上げの工程を銀で行うのだという。導体表面を磨き上げることで、あたかも道路が舗装されたかのように電気信号がスムーズに流れていく、と考えているのだ。
「ご存知のように、オーディオケーブルとして最も優れた導体は“銀線”です。銀線は効率的でリニアな特性を持っており、すべての周波数帯域が等しく処理されます。ですが、銀は非常に高額です。ですから、私たちは質の良い銅線と、銀の双方を使用することにしています。上位グレードの導体では、銅の表面に銀メッキをかけています。繊細な高周波の信号は導体の表面を流れますから(編集部注:一般に「表皮効果」と呼ばれる)、銀メッキをかけることでより効率的に信号を伝送することができると考えています」(コッテルリ氏)
AudioQuestの製品グレードは、まずはこの導体の違いによって構成されている。たとえばスピーカーケーブルの「Rocketシリーズ」ならば、エントリーの「Rocket 11」には「LGC」を使用、「Rocket22」は「LGC」と「PSC」の混合、最上位グレードの「Rocket 88.2」には「PSC+」が6本使用されている。最上位のMythical Creatureシリーズでいうと、「Dragon-Zero」はPSS6本&PSC+2本、「FireBird-Zero」ではPSS4本&PSC+4本という組み合わせとなる。
アメリカ軍とNASA、AudioQuestしか所有していないバーンインシステム
続けてコッテルリ氏は、同社のバーンイン技術についても教えてくれた。方向性のある導体をさらに改善する方法について研究していた際に、「キャパシター(コンデンサー)を長時間最大値で稼働させ続けると、その性能がさらに高まる」という発見があったとのこと。
「私たちは、この方向性のある金属導体をさらに改善する方法がないか研究を重ねました。ここには、『Niagara』という巨大な電源フィルターから得られた教訓があります」(コッテルリ氏)
Niagaraは日本国内には導入されていないが、AudioQuestが展開する巨大な電源フィルターである。本機の開発には、キャパシターの専門家であり、2012年よりAudioQuestチームに参画したGarth Powell(ガース・パウエル)氏の貢献が大きく関わっているようだ。
「こちらの写真をご覧ください。これは私たちの使用しているバーンインシステムです。これはNASAとアメリカ軍、それにAudioQuestにしかないシステムで、私たちは1台5万ドルするこの機械を3台所有しています。この機械の中にキャパシターをセットして、タイマーをかけます。大きいものでは36時間、中くらいのサイズのものは24時間、DBSなどに入っている小さいサイズのものは12時間セットします。このバーンインプロセスを通すことで、さらなる性能を引き出すことができるのです」(コッテルリ氏)
ちなみにケーブルについても独自のバーンインシステムを構築している。下の写真はRobin Hood以上のスピーカーケーブルに使用されるバーンインシステムで、アメリカとオランダに設置されているもの。ケーブルをループ上にし、適切な電圧と電流を流すことで、永久的な分子の最適化が行われ、音質改善に大きく貢献しているのだという。
絶縁体を飽和させる「DBS」の役割は?
AudioQuestの上位グレードのケーブルには、「DBS」と呼ばれる小型のボックスが装着されている。その詳細についても教えてもらった。
「AudioQuestの導体は、エアーチューブによる絶縁体で包まれています。ちょっと振ってみると、導体が動く音がしますよ。つまり、絶縁体と導体との接触は最小限にしています。というのは、絶縁体もわずかですが電気を引き寄せてしまうからです。
しかし、長時間電気を通すことで、その絶縁体を飽和させることができます。だいたい30時間から50時間くらいでしょうか。ケーブルを長時間使った後で音が良くなると感じたことがあるでしょう。それは絶縁体が飽和したからなのです。しかし、音楽の再生を止めると、再び絶縁体は電荷を放出し始めます。ですから、常に導体に電荷を与え続けなければなりません。そのために必要なのが、このDBSというものです」(コッテルリ氏)
現在のDBSには、内部には72Vのアルカリ電池と、親指に乗るほどの小さいサイズのキャパシターが搭載されている。この電池から、ケーブルの中心に配置される印加用の導体に高電圧、低電流の電気信号を送り込む。そのことで、信号導体に影響を与えることなく、絶縁体に電圧を加えることができるという。キャパシターは(先述のシステムで12時間バーンインされている)最新のDBSから搭載されたもので、いわゆるノイズトラップ的な役割を果たす。
ちなみにスピーカーケーブルについては72V DBSが装着されているが、「Mythical Creatureシリーズ」のXLRケーブルの上位4グレード(Dragon/Firebird/Thunderbird/Pegasus)については「Dual 72V DBS」とさらに倍の印加が可能なDBSが装着されている。
このバッテリーは、通常使用ではおおよそ7年程度は持つという。DBSには小さなボタンが付いており、押してランプが光れば十分な電池残量があることを示す。DBSには方向性はないが、ケーブルのどちらに装着するかで音質にも変化があるという。スピーカーケーブルの場合は、スピーカー側に取り付けた方が有利と考えているようだ。
ちなみに以前のモデルでは12V/24V/36V/48Vで印加していたが、研究の結果ボルテージが高い方が音質上有利という考えから、現在は72Vが採用されている。同社ではこのDBSだけを「DBS-X」として別売りで販売しており、たとえば以前のDBSが装着されたケーブルを、“最新のDBS-Xに交換する”ことも可能だ。
「最後にもう一点、AudioQuestのケーブルのこだわりとしてお伝えしたいことがあります。それは、すべてのケーブル内には「ドレイン線」と呼ばれるワイヤーが追加されており、片方のコネクタの端だけに繋がっています。こちらはケーブル内で拾われたノイズを排除するためにあります。
私たちは、クリーンな信号を維持するために、ノイズや干渉の影響を受けないようなさまざまな科学的アプローチを探っています。すべてのケーブルは、残念ながら信号強度や品質を損なってしまうものです。ですが、きちんと設計されたケーブルならば、その劣化を限りなく小さくすることができると考えているのです」(コッテルリ氏)
複数のコンポーネントを組み合わせるオーディオという趣味にとって、機器間を接続するケーブルは場合によって“ノイズ源”になりうる存在でもある。しかしその中でもいかに純度の高い信号を届けるか、あるいは外部からのノイズをシャットダウンし、内部で発生するノイズを低減させるか、ということに、ケーブルメーカー各社のさまざまなこだわりが込められている。
AudioQuestはその中でも、研究開発によって培われた「科学的アプローチ」を非常に大切にしている、ということを改めて感じさせてくれた。ケーブルによって音が変わる理由は、経験上は誰もが認めていても、科学的にはまだまだ未知数な点も多い。AudioQuestはその難問に取り組み、着実な成果を上げているメーカーである。今後も世界のオーディオケーブルを牽引する存在として期待したい。
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