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公開日 2024/01/26 06:35

“オンキヨースピリッツ”健在!アメリカブランドとして再出発したオンキヨー、東大阪のアンプ開発現場を訪問

「“いまの時代”に合わせた製品開発を積極的に展開してきたい」
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
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アメリカブランドとして再出発。生き残るオンキヨーのオーディオスピリッツ



1984年生まれの筆者が自分で買った最初の「オーディオコンポーネント」は、オンキヨー製品だった。大学生時代アルバイトをして貯めたお金で買ったアンプとCD/DVDプレーヤー、ラジオチューナー、そしてスピーカーのセット。ピカピカの銀色のボックスが眩しかった。

同世代の“ちょっと音楽好き”な人たちと話をしていると、やはり人生のどこかで「オンキヨーにお世話になった」人は少なくない。ミニコンポだったりスピーカーだったりPC周辺機器だったり、オンキヨーはその名の通りさまざまな音響装置を、学生でも買える値段で提供してくれていた。

だからこそ、2022年5月に報道された「オンキヨー倒産」のニュースは大きな衝撃を受けた。その数年前から、パイオニアのホームAV部門の買収、ギブソンとの業務提携から破綻といった“迷走”もあり、「業績が芳しくない」という噂はちらほら聞こえていた。それでも「ついにきてしまったか」と呆然としたことをよく覚えている。

だが、その一方で「安心している」面もあった。オンキヨーブランドの中でも、「きちんとした技術やアイデアを持った部隊」はすでにブランドごと他の会社に売却されており、そちらでの“生き残り”がちゃんと約束されているはずだ、と信じられたからだ。

e-onkyo musicはフランスのQobuz(Xandrie社)に売却された(まもなく国内スタートが予告されている)。そして「ホームAV部門」は、米国・Voxx傘下のPremium Audio Company(以下PAC)に売却された。同時に、パイオニア株式会社とパイオニア製品のライセンス契約も締結された。

2023年のミュンヘン・ハイエンドにおいて、オンキヨー/パイオニアブランドもPREMIUM AUDIO COMPANYとして出展した

現在はオンキヨー/パイオニアのホームAV製品開発はPACのもと、大阪府東大阪市に本社を置くプレミアムオーディオカンパニーテクノロジーセンター(以下PACTC)(旧社名:オンキヨーテクノロジー株式会社)が行っており、国内向けにティアック株式会社が輸入代理店業務をおこなっている、という位置づけになる。

(なお、アニメコラボイヤホン等の販売や、しいたけ栽培や加振による日本酒の熟成をおこなっているオンキヨーは、オンキヨー(株)という名称は残っているが、また別のカンパニーである。本記事では、以下煩雑を避けるためにオンキヨーと記載するが、「AVアンプや据え置きコンポーネント等のホームAV製品展開を行うオンキヨーと読み替えてほしい)

PACがオンキヨー/パイオニアのホームAV部門を望んだのも、北米市場における両ブランドのAVアンプの存在感が大きかった、というのが大きな理由としてあるようだ。さらに、同社が傘下にもつKlipschスピーカーと組み合わせたホームシアター市場へのシナジーも期待されている。

北米市場ではKlipschスピーカーと組み合わせたホームシアターシステムの需要が高いという

アメリカ市場の需要や動向を踏まえて仕様決定される



前置きが長くなったが、ここからが本記事のメインテーマとなる。オンキヨーの音質設計は、親会社の“紆余曲折”前から一貫して同じチーム、現社名は「プレミアムオーディオカンパニーテクノロジーセンター」が担当している。ブランドだけを買って開発チームは解散、という事例も少なくない中で、PACはオンキヨーの音質設計チームごと買い取った。それは、オンキヨーの設計ノウハウが北米市場でもきちんと評価されてきた、ということでもある。

今回はPACTCの本社を訪ね、「いま」のオンキヨーのAVアンプの音作りについて、回路設計を手掛けている冨田一輝氏に詳しく教えてもらった。冨田氏は2015年に(当時の)オンキヨー株式会社に入社。当初から電気の回路設計を中心に手がけており、ネットワークプレーヤーやプリメインアンプ「A-9110」などの開発に関わっていたという。

PACTCにて回路設計を手掛けている冨田一輝さん

まずいまのオンキヨーの製品開発の大まかな流れだが、製品企画はPACTC内で行い、PACに提案。アメリカの大手家電量販店ベスト・バイでの需要や市場動向などを踏まえて最終的にスペックや仕様などを決定し、具体的な開発に入っていく。PAC側からこういう製品を作ってほしい、という話が提案されることもあるという。

オンキヨー/パイオニア製品の開発や設計、また修理などもPACTCでおこなっている

ある程度設計が固まってきた段階で、それをアメリカ・インディアナ州のPACに持ち込み、音質評価をしてもらう。そこで提起されたPACの音質リクエストをもとに、設計をさらに練り上げていく。最終的にPACからOKが出れば、マレーシアにて量産体制に入っていくことになる。

2024年1月時点で、国内で展開されているオンキヨーの現行製品は、AVアンプのフラグシップモデル「TX-RZ70」(437,800円/税込)、ミドルクラスの「TX-RZ50」(177,999円/税込)、スタンダードクラス「TX-NR6100」(98,000円/税込)の3モデル。(カッコ内はオンラインのティアックストア価格)。ちなみに北米向けにはさらにエントリークラスのAVアンプ「SRシリーズ」、CDプレーヤーなども展開されている。

11ch・AVアンプ「TX-RZ70」

9ch・AVアンプ「TX-RZ50」

「TX-RZ70」「TX-RZ50」「TX-NR6100」の3機種については、数年前から開発がスタートし、コロナ禍による中断を経ながらもそれぞれ北米市場で先行で発表。「TX-RZ50」「TX-NR6100」は2022年11月より、「TX-RZ70」は2023年7月より日本国内での販売がスタートしている。

7ch・AVアンプ「TX-NR6100」

ちなみに型番についてだが、「NRシリーズ」はネットワークレシーバーを意味し、「RZシリーズ」はR(レシーバー)のZ(最終形)という意図が込められた名称となっているという。価格競争ではなく「性能ありき」で開発されているということで、RZシリーズはオンキヨーの音質技術の粋が込められている、といえるだろう。

オンキヨーの伝統技術、高電流出力でダイナミクスを実現



冨田氏に、フラグシップモデルである「TX-RZ70」の音作りについて教えてもらった。オンキヨーサウンドの伝統として、「ハイカレントアンプ設計」「ノンフェーズシフトアンプ」「VLSC」の3つの重要なキーワードがあるという。

ハイカレントとは、文字通り「高い電流供給」のことであり、スピーカーへの出力経路を太く短くすること、また大型のブロックコンデンサーなどグレードの高い部品を選定することで、純度の高い音声信号をそのままスピーカーに伝えることができるのだという。

「TX-RZ70」の内部を見せてもらうと、手前中央にONKYOのロゴ入りの大型のトランスが設置されており、その左右に見えるヒートシンクがアンプ部となる。オンキヨーの伝統でもある「3段インバーテッドダーリントン構成」となっており、低インピーダンス、高電流出力を実現しているという。

「TX-RZ70」の内部構造。手前中央に大型の電源トランス、左右がアンプ部、奥にデジタル基板が配置されている

3段インバーテッドダーリントン構成

トランスの奥に、少しわかりづらいが大型のコンデンサーが見える。こちらもONKYOのロゴが記載されており、パーツメーカーと共同でオリジナルで開発したものとなる。AVアンプは狭いスペースの中に多機能を詰め込むことが要求されるため、なるべく結線を短くし、グラウンドを最適化することでアンプのダイナミズムを獲得しているのだという。

パーツメーカーと共同開発した大型コンデンサー

「ノンフェーズシフトアンプ」は、周波数帯域を広げることで、可聴帯域の位相ズレをなくす設計技術。「VLSC」はVector Linear Shaping Circuitryで、ローパスフィルターを使わずに、デジタルノイズを除去する技術となる。これらも長年のオンキヨーアンプ技術として培われてきたものとなる。

ノンフェーズシフトアンプの詳細

ローパスフィルターを使用せずノイズを除去する「VLSC」技術

奥側がデジタル処理部とDA変換部。昨今のAVアンプはデジタル処理能力の高さも要求され、TX-RZ70においても、HDMIの処理はもちろん、TIDAL、Amazon Music HD等のストリーミングサービスとの連携、Dirac Liveのルーム補正機能、Roon Readyにも対応する。そういった種々のデジタル処理が上下2段の基板内に収められている。

左奥に縦に配置されているのが電源基板となる。スペースの制約のある中で、結線を短くしなるべく純度の高いまま中央のトランスに送り込む工夫が凝らされている。

本体左奥に配置される電源基板。縦に配置してスペースを有効活用している

「TX-RZ70」の開発の半ば、音質評価のためにアメリカに持ち込んだ際、PAC側からのリクエストとして、「三次元的な音の広がりをもっと大切にしてほしい」という声があがったのだという。そのためのリファレンスとして使われたのが、女性ロックバンドHeartのライブ音源。別の取材でその音を聴かせてもらったこともあるのだが、空気感をたっぷり含んだ臨場感豊かなサウンドで、決してパワー押し一辺倒ではなく、繊細なニュアンス感を引き出すことをPACはオンキヨーブランドに大きく期待しているのだ、ということを感じさせてくれた。

上部に渡された金属バーも、強度の獲得のために配置されている

ちなみに「TX-RZ50」についてはアンプの数が少ない点、また電源トランスのサイズやシャーシの剛性などには差が設けられているというが、それ以外の音質設計の思想については一貫して上位モデルから受け継がれているものだという。

明るくカラッとしたエネルギー感の充満する感触はオンキヨーの美点



視聴環境の都合でステレオ再生ではあったが、PACTC社内の試聴室にて「TX-RZ70」とKlipschスピーカーにて『トップガン マーヴェリック』を試聴した。オープニングのテーマソングのシーンから、音の重量感と厚み感がしっかり引き出されてくる。音色の力強さ、明るくカラッとしたエネルギー感の充満する感触は、やはりオンキヨーならではの美点。

Kripschのスピーカー「RP-8000F II」と組み合わせてステレオにて音質をチェック

Klipschスピーカーの魅力は、ホーンから引き出される豊かなサウンドステージの広がり感にもあるが、その再現力をアンプがきちんとハンドリングしていることも感じられた。

PACTCはPACに次なる新製品を提案しており、すでにいくつかの製品が具体的な開発段階に入っているのだという。製品はまずは北米市場向けに展開され、日本を含むグローバルな展開についてはその後の検討となるため、残念ながら北米市場向けの製品がすべて国内に輸入されるわけではない。

しかし、PACTCの主席技師であり技術部プロジェクトマネージメントの鈴木慎也氏は「オンキヨーの培ってきたアンプ技術をベースに、“いまの時代”に合わせた製品開発を積極的に展開してきたい」と力強く展望を語ってくれた。

たとえばそれはテレビと連携できる製品であったり、デスクトップオーディオとして楽しめる製品であったりするかもしれない。限られたスペース内に多機能を存分に盛り込みながら、強度高く壊れにくく、音質設計にも妥協ない追求をする、そんなオンキヨーの強みは決して失われていない、と改めて感じさせてくれた。今後の可能性にも期待したい。

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