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ガジェット 公開日 2023/08/03 10:12
技術競争から価格競争へ、サムスン電子の新機種から見える折りたたみスマホ競争の変化
【連載】佐野正弘のITインサイト 第68回
ディスプレイを直接折り曲げることができる、折りたたみスマートフォンの先駆的存在でもある韓国サムスン電子。同社は7月26日に、新機種発表イベント「Galaxy Unpacked」をお膝元の韓国・ソウルで実施し、折りたたみスマートフォンの「Galaxy Z Flip5」と「Galaxy Z Fold5」の2機種を発表している(いずれも執筆時点では日本での発売は未定)。
これらはそれぞれ、縦開きタイプの「Galaxy Z Flip」と横開きタイプの「Galaxy Z Fold」の最新モデル。中でも、今回大きく変化しているのが、Galaxy Z Flip5の方であり、その大きな変化ポイントとなるのが背面のサブディスプレイである。
Galaxy Z Flipシリーズには従来、閉じた状態でも通知などを確認できるよう、背面にサブディスプレイを搭載していたが、それはあくまで通知の確認などがメインという位置付けであったことから、そのサイズはあまり大きいとは言えなかった。実際、前機種となる「Galaxy Z Flip4」のサブディスプレイは1.4インチで、メインカメラを用いてセルフィーを撮影する際のファインダー代わりとしても活用できるようになっていたが、サイズは小さく見やすいとは言えなかった。
そこでGalaxy Z Flip5では、サブディスプレイを3.4インチと大幅に大型化。それに伴って、閉じた状態で背面の多くの部分をディスプレイが占めるようになるなど、デザインも大幅に変化しているのだが、より大きく変化したのは機能面である。
なぜなら、ディスプレイが大型化したことで、さまざまなウィジェットを設置でき、待ち受け画面をファッショナブルに飾り立てられるだけでなく、天気や株価などさまざまな情報の確認などがしやすくなるなど、利用できる機能が増えたからだ。もちろん、従来同様セルフィーの撮影にも活用できるので、大画面になったことからより撮影がしやすくなったといえるだろう。
その一方で、Galaxy Z Fold5は前機種「Galaxy Z Fold4」と比べると、進化ポイントは少ない印象を受ける。もちろん、ベースの機能は向上しているのだが、カメラのハード性能は大きく変わっていないし、Sペンを収納するにはケースが必要という点もやはり変わっていない。販売数としては、Galaxy Z Flipシリーズの方が多いことから、そちらの強化に重点が置かれている印象も受ける。
とはいえ、両機種ともに共通して大きく変化しているポイントもあり、それがヒンジだ。ヒンジは、それが折り畳みスマートフォンの要といえる部分でもあり、開閉時の感触や耐久性、そして見た目やサイズにも大きく影響してくるのだが、とりわけ今回のヒンジ改良は、見た目やサイズに与える影響が大きいものとなっている。
具体的には、ディスプレイの曲がる部分を水滴状に折り曲げ、ヒンジ部分に収納する構造となっているようで、これによって従来ヒンジ部分がぴったり閉じられていなかったのが、ぴったり閉じるよう変化。その分ヒンジ部が薄くなり、閉じた状態の厚さを前機種と比べてみると、Galaxy Z Flip5で2mm、Galaxy Z Fold5で2.4mmも薄くなっている。
折りたたみスマートフォンは構造上、折りたたんだ状態ではどうしても通常のスマートフォンより厚くなってしまうことから、少しでも薄い方がホールド感や収納性を高める上でも有利だ。それだけに一連のヒンジの変化によって、閉じた状態での利便性が向上したことは間違いないだろう。
ただ一方で、同種のヒンジを採用してぴったり閉じることができる構造というのは、競合他社の折りたたみスマートフォンでは既に実現しているものでもある。日本に投入されているモデルで言えば、Googleの「Pixel Fold」や、モトローラ・モビリティが発売予定の「motorola razr 40 ULTRA」などがそうだ。
無論、ヒンジ開発に力を入れてきたサムスン電子だけに、構造の違いや耐久性などで優位性があるかもしれないが、見た目や薄さという面で言えば他社の後塵を拝したことは確かだろう。さらに言えば、Galaxy Z Flip5の大画面サブディスプレイという特徴も、洗練の度合いを別にすれば、他社が既に実現しているものでもある。
ここ1、2年のうちに、競合他社が折りたたみスマートフォンの技術開発でかなりのキャッチアップを強めており、サムスン電子が必ずしも優位性を保てなくなりつつある様子を見て取ることができる。裏を返せば、世界的に見ればそれだけ折りたたみスマートフォンを巡る競争が激しくなっているわけだ。
実際、中国では折りたたみスマートフォンを提供するメーカーが急増しており、日本市場に参入しているOPPOやXiaomiなども中国などでは折りたたみスマートフォンを複数投入している。今後も折りたたみスマートフォンを提供するメーカーは増え、競争が激化することになるのではないだろうか。
そして、競争激化によって進むのは価格競争だ。日本で販売されている折りたたみスマートフォンを見ると、横折り型で20万超、縦折り型で10万超とまだまだ高額で、誰でも入手できるとは言い難いが、海外ではモトローラ・モビリティがより低価格の「motorola razr 40」を投入。motorola razr 40 ULTRAと比べ、サブディスプレイのサイズは小さく性能も抑えられているが、国によっては日本円で7万円台で販売されるなど、かなりの安さを実現している。
10万円を切れば、消費者にとって一気に購入しやすくなるだけに、価格競争が折りたたみスマートフォンの普及を加速させることは間違いない。ただ一方で、画面を折りたためるという付加価値で高額を維持してきたメーカー、とりわけサムスン電子のように折りたたみスマートフォン実現のため多額の投資をしてきたメーカーにとっては、価格競争は利益損失にもつながる痛しかゆしの事象でもある。
とりわけサムスン電子は、ここ最近半導体事業の業績が悪化しているだけに、スマートフォンでは現在の利益水準を維持したいはずだ。それだけに今回のGalaxy Unpackedでは、折りたたみスマートフォンの技術や機能より、ブランディングに力を注いでいる印象を受けた。
先にも触れた通り、今回のGalaxy Unpackedはお膝元の韓国で実施されており、世界的に活躍する韓国の女優や歌手などがクローズアップされるシーンが随所に見られた。それ以前にもサムスン電子は、人気グループの「BTS」をプロモーションに起用するなど、ここ最近いわゆる“韓流”の力を積極的に活用して、ブランド力向上につなげようとしている様子を見て取ることができる。
そうした戦略が功を奏して高価格を維持できるのか、それとも他社の攻勢によって価格競争に巻き込まれてしまうのか。折りたたみスマートフォンの数が少ない日本では実感しづらいが、折りたたみスマートフォンが、既に“珍しさ”だけで売れる時代ではないことは知っておくべきだろう。
■大きく変化した「Galaxy Z Flip5」。大型サブディスプレイで機能面が強化
これらはそれぞれ、縦開きタイプの「Galaxy Z Flip」と横開きタイプの「Galaxy Z Fold」の最新モデル。中でも、今回大きく変化しているのが、Galaxy Z Flip5の方であり、その大きな変化ポイントとなるのが背面のサブディスプレイである。
Galaxy Z Flipシリーズには従来、閉じた状態でも通知などを確認できるよう、背面にサブディスプレイを搭載していたが、それはあくまで通知の確認などがメインという位置付けであったことから、そのサイズはあまり大きいとは言えなかった。実際、前機種となる「Galaxy Z Flip4」のサブディスプレイは1.4インチで、メインカメラを用いてセルフィーを撮影する際のファインダー代わりとしても活用できるようになっていたが、サイズは小さく見やすいとは言えなかった。
そこでGalaxy Z Flip5では、サブディスプレイを3.4インチと大幅に大型化。それに伴って、閉じた状態で背面の多くの部分をディスプレイが占めるようになるなど、デザインも大幅に変化しているのだが、より大きく変化したのは機能面である。
なぜなら、ディスプレイが大型化したことで、さまざまなウィジェットを設置でき、待ち受け画面をファッショナブルに飾り立てられるだけでなく、天気や株価などさまざまな情報の確認などがしやすくなるなど、利用できる機能が増えたからだ。もちろん、従来同様セルフィーの撮影にも活用できるので、大画面になったことからより撮影がしやすくなったといえるだろう。
その一方で、Galaxy Z Fold5は前機種「Galaxy Z Fold4」と比べると、進化ポイントは少ない印象を受ける。もちろん、ベースの機能は向上しているのだが、カメラのハード性能は大きく変わっていないし、Sペンを収納するにはケースが必要という点もやはり変わっていない。販売数としては、Galaxy Z Flipシリーズの方が多いことから、そちらの強化に重点が置かれている印象も受ける。
とはいえ、両機種ともに共通して大きく変化しているポイントもあり、それがヒンジだ。ヒンジは、それが折り畳みスマートフォンの要といえる部分でもあり、開閉時の感触や耐久性、そして見た目やサイズにも大きく影響してくるのだが、とりわけ今回のヒンジ改良は、見た目やサイズに与える影響が大きいものとなっている。
具体的には、ディスプレイの曲がる部分を水滴状に折り曲げ、ヒンジ部分に収納する構造となっているようで、これによって従来ヒンジ部分がぴったり閉じられていなかったのが、ぴったり閉じるよう変化。その分ヒンジ部が薄くなり、閉じた状態の厚さを前機種と比べてみると、Galaxy Z Flip5で2mm、Galaxy Z Fold5で2.4mmも薄くなっている。
折りたたみスマートフォンは構造上、折りたたんだ状態ではどうしても通常のスマートフォンより厚くなってしまうことから、少しでも薄い方がホールド感や収納性を高める上でも有利だ。それだけに一連のヒンジの変化によって、閉じた状態での利便性が向上したことは間違いないだろう。
■競争激化の折りたたみスマートフォン。期待と不安が入り交じる価格競争の行方
ただ一方で、同種のヒンジを採用してぴったり閉じることができる構造というのは、競合他社の折りたたみスマートフォンでは既に実現しているものでもある。日本に投入されているモデルで言えば、Googleの「Pixel Fold」や、モトローラ・モビリティが発売予定の「motorola razr 40 ULTRA」などがそうだ。
無論、ヒンジ開発に力を入れてきたサムスン電子だけに、構造の違いや耐久性などで優位性があるかもしれないが、見た目や薄さという面で言えば他社の後塵を拝したことは確かだろう。さらに言えば、Galaxy Z Flip5の大画面サブディスプレイという特徴も、洗練の度合いを別にすれば、他社が既に実現しているものでもある。
ここ1、2年のうちに、競合他社が折りたたみスマートフォンの技術開発でかなりのキャッチアップを強めており、サムスン電子が必ずしも優位性を保てなくなりつつある様子を見て取ることができる。裏を返せば、世界的に見ればそれだけ折りたたみスマートフォンを巡る競争が激しくなっているわけだ。
実際、中国では折りたたみスマートフォンを提供するメーカーが急増しており、日本市場に参入しているOPPOやXiaomiなども中国などでは折りたたみスマートフォンを複数投入している。今後も折りたたみスマートフォンを提供するメーカーは増え、競争が激化することになるのではないだろうか。
そして、競争激化によって進むのは価格競争だ。日本で販売されている折りたたみスマートフォンを見ると、横折り型で20万超、縦折り型で10万超とまだまだ高額で、誰でも入手できるとは言い難いが、海外ではモトローラ・モビリティがより低価格の「motorola razr 40」を投入。motorola razr 40 ULTRAと比べ、サブディスプレイのサイズは小さく性能も抑えられているが、国によっては日本円で7万円台で販売されるなど、かなりの安さを実現している。
10万円を切れば、消費者にとって一気に購入しやすくなるだけに、価格競争が折りたたみスマートフォンの普及を加速させることは間違いない。ただ一方で、画面を折りたためるという付加価値で高額を維持してきたメーカー、とりわけサムスン電子のように折りたたみスマートフォン実現のため多額の投資をしてきたメーカーにとっては、価格競争は利益損失にもつながる痛しかゆしの事象でもある。
とりわけサムスン電子は、ここ最近半導体事業の業績が悪化しているだけに、スマートフォンでは現在の利益水準を維持したいはずだ。それだけに今回のGalaxy Unpackedでは、折りたたみスマートフォンの技術や機能より、ブランディングに力を注いでいる印象を受けた。
先にも触れた通り、今回のGalaxy Unpackedはお膝元の韓国で実施されており、世界的に活躍する韓国の女優や歌手などがクローズアップされるシーンが随所に見られた。それ以前にもサムスン電子は、人気グループの「BTS」をプロモーションに起用するなど、ここ最近いわゆる“韓流”の力を積極的に活用して、ブランド力向上につなげようとしている様子を見て取ることができる。
そうした戦略が功を奏して高価格を維持できるのか、それとも他社の攻勢によって価格競争に巻き込まれてしまうのか。折りたたみスマートフォンの数が少ない日本では実感しづらいが、折りたたみスマートフォンが、既に“珍しさ”だけで売れる時代ではないことは知っておくべきだろう。