ガジェット【連載】佐野正弘のITインサイト 第60回
NTTドコモが「OCNモバイルONE」運営企業を吸収、念願のサブブランドは誕生するか
去る2023年5月25日、NTTドコモを巡って非常に注目すべき動きがあった。それは、同社の子会社「NTTレゾナント」と、2023年7月1日に合併すると発表したことである。
NTTレゾナントは元々、NTTコミュニケーションズの子会社で、ポータルサイトの「goo」やEコマースの「NTT-X Store」などを運営していた企業。だが日本電信電話(NTT持株)が、2020年にNTTドコモを完全子会社化したことを機とするNTTグループの再編により、NTTドコモの子会社となったNTTコミュニケーションズは法人事業に集中する一方、個人向け事業を担う同社はNTTドコモの子会社となった。
それを機として、固定ブロードバンドのインターネットサービスプロバイダの「OCN」や、NTTドコモのMVNOとして展開しているモバイル通信サービス「OCNモバイルONE」など、従来NTTコミュニケーションズが手掛けてきた個人向けサービスもNTTレゾナントに移管されている。
そして、今回の合併発表により注目されているのが、NTTドコモの低価格サービス領域の拡充、より具体的に言えばOCNモバイルONEのサブブランド化である。OCNモバイルONEは現状、NTTドコモの回線を借りたMVNOの1社という位置付けで、他のMVNOと同じ条件でネットワークを借りてサービス提供をしている。
それは、以前のNTTドコモとNTTコミュニケーションズのように、ある程度距離のある関係だったのであれば理解はできるのだが、一連の再編を経てその関係は非常に不自然なものとなっている。実は再編後も、NTTドコモがネットワークを貸しているのはNTTコミュニケーションズであり、NTTコミュニケーションズがさらにNTTレゾナントにサービスを貸すかたちで、OCNモバイルONEは運営されているのだ。
既にNTTドコモの子会社となった2社の間で、ネットワークを何度も貸し出しながらMVNOを運営しているというのは、傍から見れば非常に不自然と言わざるを得ない。それだけに、NTTドコモがNTTレゾナントを吸収することでこの複雑な関係が解消され、KDDIの「UQ mobile」やソフトバンクの「ワイモバイル」のように、NTTドコモのネットワークを直接利用したサブブランドとなることが期待されているのである。
しかも、OCNモバイルONEがサブブランドとなれば、ネットワーク品質に大きな違いが出てくる可能性が高い。MVNOは携帯各社にお金を払ってネットワークの “幅” を借りていることから、携帯各社よりも使えるネットワークの幅が狭く、昼休みなど混雑しやすい時間帯は通信品質が極端に落ちる傾向にある。
だが、サブブランドは携帯各社の1サービスなので、自社のネットワークをふんだんに利用できることから、混雑時も通信品質が低下しにくい。料金がある程度安いというだけでなく、通信品質が高いこともサブブランドの人気要因となっている。
しかも、元々MVNOだったサービスが、携帯各社に吸収されてサブブランドとなったケースはいくつかあり、代表的な事例の1つがUQ mobileだ。UQ mobileは元々、KDDIが2014年に同社のMVNOとして設立した「KDDIバリューイネーブラー」のブランドだったが、2015年に同社がUQコミュニケーションズと合併し、UQコミュニケーションズがMVNOとしてサービスを継続。その後2020年に、KDDIがUQ mobileの事業を承継したことで、MVNOからサブブランドへと移行するに至っている。
これまでNTTドコモは、低価格・小容量のブランドを直接持たず、OCNモバイルONEなど他社のMVNOと連携する「エコノミーMVNO」で賄ってきたが、通信品質やサポートなどで見劣りする部分も多く、そこを他社サブブランドに “狙い撃ち” されていた感は否めない。それだけに、今回の合併でOCNモバイルONEがサブブランドとなれば、低価格帯での競争力が高まり、他社への顧客流出を抑えられる可能性が高まってくるだろう。
ただ、ここまでの話を読んで多くの人は、「だったらなぜ、NTTドコモはもっと早くサブブランドを作らなかったのか?」と思うことだろう。その大きな理由でもあり、OCNモバイルONEをサブブランド化する上で、最大の壁となりそうなのが他のMVNOへの配慮である。
元々、NTTドコモがサブブランド展開に消極的だったのは、MVNOの存在が大きいとされている。MVNOが携帯各社からデータ通信のネットワークを借りる際に支払う「データ接続料」は、かつてNTTドコモが最も安かったことから、低価格を重視するMVNOの9割以上がNTTドコモからネットワークを借りていたのだ。
つまり、MVNOの利用者が増えれば、NTTドコモにお金が入り有利になることから、そのことに危機感を覚えたKDDIやソフトバンクが、MVNOへの顧客流出を避けるためサブブランド戦略を強化し、低価格・小容量の領域での競争力を高めてきた経緯がある。一方NTTドコモは、多くのMVNOにネットワークを貸している関係上、MVNOが得意とする低価格・小容量の領域でMVNOに配慮する必要があり、あえてサブブランドを提供してこなかったのである。
ただ、現在は状況が大きく変わっており、2023年にはデータ接続料が最も安いのはソフトバンクで、逆にNTTドコモは最も高くなっている。また、オプテージの「mineo」やソニーネットワークコミュニケーションズの「nuroモバイル」などのように、1社だけでなく2社、3社のネットワークを借りてユーザーが回線を選べる仕組みを提供するMVNOも増えつつあるなど、MVNO側のNTTドコモへの依存度も弱まりつつある。
それゆえ、以前と比べればMVNOに配慮する必要性も薄れてはいるのだが、既にエコノミーMVNOとして、OCNモバイルONE以外にも複数のMVNOと連携を図っている以上、MVNOに全く配慮することなくサブブランド展開をするのも難しいというのが正直なところであろう。
果たして合併を機に、OCNモバイルONEのサブブランド化に踏み切るのかどうか、NTTドコモの戦略を見据える上でも非常に大きな関心を呼ぶこととなりそうだ。
NTTレゾナントは元々、NTTコミュニケーションズの子会社で、ポータルサイトの「goo」やEコマースの「NTT-X Store」などを運営していた企業。だが日本電信電話(NTT持株)が、2020年にNTTドコモを完全子会社化したことを機とするNTTグループの再編により、NTTドコモの子会社となったNTTコミュニケーションズは法人事業に集中する一方、個人向け事業を担う同社はNTTドコモの子会社となった。
それを機として、固定ブロードバンドのインターネットサービスプロバイダの「OCN」や、NTTドコモのMVNOとして展開しているモバイル通信サービス「OCNモバイルONE」など、従来NTTコミュニケーションズが手掛けてきた個人向けサービスもNTTレゾナントに移管されている。
■合併発表で注目される、OCNモバイルONEのサブブランド化
そして、今回の合併発表により注目されているのが、NTTドコモの低価格サービス領域の拡充、より具体的に言えばOCNモバイルONEのサブブランド化である。OCNモバイルONEは現状、NTTドコモの回線を借りたMVNOの1社という位置付けで、他のMVNOと同じ条件でネットワークを借りてサービス提供をしている。
それは、以前のNTTドコモとNTTコミュニケーションズのように、ある程度距離のある関係だったのであれば理解はできるのだが、一連の再編を経てその関係は非常に不自然なものとなっている。実は再編後も、NTTドコモがネットワークを貸しているのはNTTコミュニケーションズであり、NTTコミュニケーションズがさらにNTTレゾナントにサービスを貸すかたちで、OCNモバイルONEは運営されているのだ。
既にNTTドコモの子会社となった2社の間で、ネットワークを何度も貸し出しながらMVNOを運営しているというのは、傍から見れば非常に不自然と言わざるを得ない。それだけに、NTTドコモがNTTレゾナントを吸収することでこの複雑な関係が解消され、KDDIの「UQ mobile」やソフトバンクの「ワイモバイル」のように、NTTドコモのネットワークを直接利用したサブブランドとなることが期待されているのである。
しかも、OCNモバイルONEがサブブランドとなれば、ネットワーク品質に大きな違いが出てくる可能性が高い。MVNOは携帯各社にお金を払ってネットワークの “幅” を借りていることから、携帯各社よりも使えるネットワークの幅が狭く、昼休みなど混雑しやすい時間帯は通信品質が極端に落ちる傾向にある。
だが、サブブランドは携帯各社の1サービスなので、自社のネットワークをふんだんに利用できることから、混雑時も通信品質が低下しにくい。料金がある程度安いというだけでなく、通信品質が高いこともサブブランドの人気要因となっている。
しかも、元々MVNOだったサービスが、携帯各社に吸収されてサブブランドとなったケースはいくつかあり、代表的な事例の1つがUQ mobileだ。UQ mobileは元々、KDDIが2014年に同社のMVNOとして設立した「KDDIバリューイネーブラー」のブランドだったが、2015年に同社がUQコミュニケーションズと合併し、UQコミュニケーションズがMVNOとしてサービスを継続。その後2020年に、KDDIがUQ mobileの事業を承継したことで、MVNOからサブブランドへと移行するに至っている。
これまでNTTドコモは、低価格・小容量のブランドを直接持たず、OCNモバイルONEなど他社のMVNOと連携する「エコノミーMVNO」で賄ってきたが、通信品質やサポートなどで見劣りする部分も多く、そこを他社サブブランドに “狙い撃ち” されていた感は否めない。それだけに、今回の合併でOCNモバイルONEがサブブランドとなれば、低価格帯での競争力が高まり、他社への顧客流出を抑えられる可能性が高まってくるだろう。
■消極的だったNTTドコモのサブブランド展開
ただ、ここまでの話を読んで多くの人は、「だったらなぜ、NTTドコモはもっと早くサブブランドを作らなかったのか?」と思うことだろう。その大きな理由でもあり、OCNモバイルONEをサブブランド化する上で、最大の壁となりそうなのが他のMVNOへの配慮である。
元々、NTTドコモがサブブランド展開に消極的だったのは、MVNOの存在が大きいとされている。MVNOが携帯各社からデータ通信のネットワークを借りる際に支払う「データ接続料」は、かつてNTTドコモが最も安かったことから、低価格を重視するMVNOの9割以上がNTTドコモからネットワークを借りていたのだ。
つまり、MVNOの利用者が増えれば、NTTドコモにお金が入り有利になることから、そのことに危機感を覚えたKDDIやソフトバンクが、MVNOへの顧客流出を避けるためサブブランド戦略を強化し、低価格・小容量の領域での競争力を高めてきた経緯がある。一方NTTドコモは、多くのMVNOにネットワークを貸している関係上、MVNOが得意とする低価格・小容量の領域でMVNOに配慮する必要があり、あえてサブブランドを提供してこなかったのである。
ただ、現在は状況が大きく変わっており、2023年にはデータ接続料が最も安いのはソフトバンクで、逆にNTTドコモは最も高くなっている。また、オプテージの「mineo」やソニーネットワークコミュニケーションズの「nuroモバイル」などのように、1社だけでなく2社、3社のネットワークを借りてユーザーが回線を選べる仕組みを提供するMVNOも増えつつあるなど、MVNO側のNTTドコモへの依存度も弱まりつつある。
それゆえ、以前と比べればMVNOに配慮する必要性も薄れてはいるのだが、既にエコノミーMVNOとして、OCNモバイルONE以外にも複数のMVNOと連携を図っている以上、MVNOに全く配慮することなくサブブランド展開をするのも難しいというのが正直なところであろう。
果たして合併を機に、OCNモバイルONEのサブブランド化に踏み切るのかどうか、NTTドコモの戦略を見据える上でも非常に大きな関心を呼ぶこととなりそうだ。