公開日 2010/05/10 19:09
高橋敦が独断でピックアップ! 「ヘッドフォン祭」注目製品レポート
オレが気に入ったのはコレだ!
もはや恒例、フジヤエービック主催「ヘッドフォン祭」。会場には老若男女、カップルから制服姿の女子中学生までの姿が見られ、良い音を手軽に楽しめるヘッドホンリスニングへの関心の広がりと深まりを感じられる盛況ぶりだった。その展示品から僕が気になったものをピックアップしていこう。
先立って情報が公開され話題を集めていた、フォステックスのiPod一体型ヘッドホンアンプ兼デジタル出力トランスポートは試作機が展示されていた。iPodを包み込むように収納して合体する独特の形態とギミックが男子を刺激する。
その形態ゆえにiPodのモデルごとのサイズの違いへの対応方法も気になるところだが、それも含めて鋭意開発中で年内発売を目指しているとのこと。
なお合体型ではない普通にUSBケーブル接続タイプの試作機も用意されていたが、Dock接続デジタル出力にAppleのライセンスが下りれば合体型で…という方向のようだ。
ヘッドホンリスニングの高音質化には欠かせない存在のUSB-DAC一体型ヘッドホンアンプでは、CEntranceのDACportに目を引かれた。
小さいだけではなく96kHz/24bit対応。ヘッドホンアンプとしての総合力はデモ音源でも十分に確認でき、解像感にも駆動力にも不足を感じなかった。
USB関係だと他には、ミックスウェーブのブースに展示されていたSonicweld Diverter 24/96 USB to SDPIF Converterも気になる品だった。PCからのUSB入力を受けてデジタル音声信号を出力するDDCだ。
音出しなしの展示のみだったので音質面はわからないが、モノとしての出来映えが秀逸すぎて「この音が悪いわけはない」と思わされてしまう。その輝きと重みはハイエンドのそれだ。
CHORDのUSB-DAC搭載ヘッドホンアンプChordette Toucanは、実物を見ると想像よりもコンパクトで凝縮感のある仕上がりだ。精密金属フェチとしてはこれもアップで撮影したくなる。
ただヘッドホン出力を2系統用意する意味が僕にはいまひとつわからないのだけれど、それはもしかしたら僕が独身者であることと関係しているかもしれない。その点について深く考えると悲しくなる予感がしたので、僕は考えるのを止めた。
フェーズテックのブースにはUSB-DACのHD-7Aが設置されていたが、それ自体の特徴や音質については改めて述べるまでもないだろう。僕の聴いたことのあるUSB-DACの中で最高と言える製品のひとつだ。
HD-7AはUSBのフルスピードモードではなくて、あえて伝送速度的には落ちるハイスピードモードを使っているというのだが、その理由が興味深かった。96kHz/24bitの2chまでならばハイスピードモードでも伝送速度は足りる。ならばその方がPCへの負荷が少なく、結果として音が良いというのだ。
たしかにUSB伝送がシステムに与える負荷は無視できるものではない。例えば外付けハードディスクへのファイルコピー中にシステム全体の反応が鈍くなったりするのはそのせいだろう。それがどこかを経由してオーディオ再生に影響を与えると言われれば、なるほどである。
他に面白いところでは、マニアには有名なHiFiMANというDAP。80年代のウォークマンのようなサイズ感は懐かしいが、実はFLACしかも96kHz/24bitの再生にまで対応するという希有な高スペックDAP。会場でいちばんのマニアック臭を発していた。
さて、しかしヘッドホン祭の主役はヘッドホンとイヤホンだ。新モデルをピックアップしていこう。
濁音連発とラ行の組み合わせが唇に心地よいその名前と、屈指と言える良質な厚みと量感が印象的なラディウスのドブルベ。ひとつのユニットで高域と低域ふたつの振動板を駆動するという発想の独創性は強烈だ。
そのドブルベの「弐号機」試作品が予告もなく展示されていたのには驚いた。しかも形からして初号機とずいぶん異なっており、完全な別モデルだ。
試作初期とのことでドブルベらしい厚みや音場感をまだ発揮できていない感はあったが、筐体が大きめで耳に当たる感じもあった初号機から装着感は大きく改善(筐体形状にしてもまだ試作だが)。狙いとしては高域方向の解像感を高めていきたいとのことで、開発の進展を楽しみにしておきたい。
実機がなくチラシのみという状態であったが、何とマーシャルからヘッドホンが登場との知らせも。歪むのかい?ギャイーンと歪むのかい!?(たぶん歪みません)。
ベイヤーダイナミックT 50 pの試聴には全ブースで最長の列ができており、僕は試聴を断念したほどだ。同社フラッグシップT1の要素を受け継ぐポータブル機の注目度は予想以上に高かった。
しかし僕の個人的な最注目モデル、今回の祭における最大のお目当てだったのはB&WのP5である。写真だけでもそのかっこよさはビンビンと伝わってきていたが、実物のかっこよさときたら。しかし実物をお見せするのは不可能なので写真を連発させてもらおう。
装着感は抜群。体感的に軽いし、側圧は強くなく、それでいてシープスキンのイヤーパッドは確実にフィットする。
音質は、一言で言うと「疲れない」。特に高域方向は鋭さが抑えられており、しっかりと届かせつつも当たりが柔らかい。その装着感にも通じる快適さだ。解像感も格段には強調せず、音場の広がりなどもヘッドホン離れしたものではない。しかし弱点と言えるような要素はなく、高度に穏当な仕上がりだ。価格的にはハイエンドな製品だが、音の感触はそっち系のスパルタンなものではない。
誤解を恐れずに言えば、想定するユーザー層や与えようとしているユーザー体験という面では、ゼンハイザーやウルトラゾーンのハイエンドよりは、ボーズのヘッドホンに近い製品なのではないだろうか。姿や音が似ているわけではないが、そう思った。両社はブランドイメージもずいぶん異なるし、実際の購入層が重なることはないだろうが。
何にしても実物を確認してさらに「個人的にいまいちばん気になるヘッドホン」度合いが高まった。なお現在のところ、AppleStore各店とオンラインのAppleStoreのみで販売中とのことだ。
さてそのP5のデザインはクラシカルな美しさだが、アンティークヘッドホン友の会のブースにはリアルにクラシックなヘッドホンがずらっと並べられていた。中でも特に「…いい味出してやがる」と思わされたヘッドホンの写真でこのレポートを締めさせていただく。
(高橋敦)
高橋敦 プロフィール
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。
先立って情報が公開され話題を集めていた、フォステックスのiPod一体型ヘッドホンアンプ兼デジタル出力トランスポートは試作機が展示されていた。iPodを包み込むように収納して合体する独特の形態とギミックが男子を刺激する。
その形態ゆえにiPodのモデルごとのサイズの違いへの対応方法も気になるところだが、それも含めて鋭意開発中で年内発売を目指しているとのこと。
なお合体型ではない普通にUSBケーブル接続タイプの試作機も用意されていたが、Dock接続デジタル出力にAppleのライセンスが下りれば合体型で…という方向のようだ。
ヘッドホンリスニングの高音質化には欠かせない存在のUSB-DAC一体型ヘッドホンアンプでは、CEntranceのDACportに目を引かれた。
小さいだけではなく96kHz/24bit対応。ヘッドホンアンプとしての総合力はデモ音源でも十分に確認でき、解像感にも駆動力にも不足を感じなかった。
USB関係だと他には、ミックスウェーブのブースに展示されていたSonicweld Diverter 24/96 USB to SDPIF Converterも気になる品だった。PCからのUSB入力を受けてデジタル音声信号を出力するDDCだ。
音出しなしの展示のみだったので音質面はわからないが、モノとしての出来映えが秀逸すぎて「この音が悪いわけはない」と思わされてしまう。その輝きと重みはハイエンドのそれだ。
CHORDのUSB-DAC搭載ヘッドホンアンプChordette Toucanは、実物を見ると想像よりもコンパクトで凝縮感のある仕上がりだ。精密金属フェチとしてはこれもアップで撮影したくなる。
ただヘッドホン出力を2系統用意する意味が僕にはいまひとつわからないのだけれど、それはもしかしたら僕が独身者であることと関係しているかもしれない。その点について深く考えると悲しくなる予感がしたので、僕は考えるのを止めた。
フェーズテックのブースにはUSB-DACのHD-7Aが設置されていたが、それ自体の特徴や音質については改めて述べるまでもないだろう。僕の聴いたことのあるUSB-DACの中で最高と言える製品のひとつだ。
HD-7AはUSBのフルスピードモードではなくて、あえて伝送速度的には落ちるハイスピードモードを使っているというのだが、その理由が興味深かった。96kHz/24bitの2chまでならばハイスピードモードでも伝送速度は足りる。ならばその方がPCへの負荷が少なく、結果として音が良いというのだ。
たしかにUSB伝送がシステムに与える負荷は無視できるものではない。例えば外付けハードディスクへのファイルコピー中にシステム全体の反応が鈍くなったりするのはそのせいだろう。それがどこかを経由してオーディオ再生に影響を与えると言われれば、なるほどである。
他に面白いところでは、マニアには有名なHiFiMANというDAP。80年代のウォークマンのようなサイズ感は懐かしいが、実はFLACしかも96kHz/24bitの再生にまで対応するという希有な高スペックDAP。会場でいちばんのマニアック臭を発していた。
さて、しかしヘッドホン祭の主役はヘッドホンとイヤホンだ。新モデルをピックアップしていこう。
濁音連発とラ行の組み合わせが唇に心地よいその名前と、屈指と言える良質な厚みと量感が印象的なラディウスのドブルベ。ひとつのユニットで高域と低域ふたつの振動板を駆動するという発想の独創性は強烈だ。
そのドブルベの「弐号機」試作品が予告もなく展示されていたのには驚いた。しかも形からして初号機とずいぶん異なっており、完全な別モデルだ。
試作初期とのことでドブルベらしい厚みや音場感をまだ発揮できていない感はあったが、筐体が大きめで耳に当たる感じもあった初号機から装着感は大きく改善(筐体形状にしてもまだ試作だが)。狙いとしては高域方向の解像感を高めていきたいとのことで、開発の進展を楽しみにしておきたい。
実機がなくチラシのみという状態であったが、何とマーシャルからヘッドホンが登場との知らせも。歪むのかい?ギャイーンと歪むのかい!?(たぶん歪みません)。
ベイヤーダイナミックT 50 pの試聴には全ブースで最長の列ができており、僕は試聴を断念したほどだ。同社フラッグシップT1の要素を受け継ぐポータブル機の注目度は予想以上に高かった。
しかし僕の個人的な最注目モデル、今回の祭における最大のお目当てだったのはB&WのP5である。写真だけでもそのかっこよさはビンビンと伝わってきていたが、実物のかっこよさときたら。しかし実物をお見せするのは不可能なので写真を連発させてもらおう。
装着感は抜群。体感的に軽いし、側圧は強くなく、それでいてシープスキンのイヤーパッドは確実にフィットする。
音質は、一言で言うと「疲れない」。特に高域方向は鋭さが抑えられており、しっかりと届かせつつも当たりが柔らかい。その装着感にも通じる快適さだ。解像感も格段には強調せず、音場の広がりなどもヘッドホン離れしたものではない。しかし弱点と言えるような要素はなく、高度に穏当な仕上がりだ。価格的にはハイエンドな製品だが、音の感触はそっち系のスパルタンなものではない。
誤解を恐れずに言えば、想定するユーザー層や与えようとしているユーザー体験という面では、ゼンハイザーやウルトラゾーンのハイエンドよりは、ボーズのヘッドホンに近い製品なのではないだろうか。姿や音が似ているわけではないが、そう思った。両社はブランドイメージもずいぶん異なるし、実際の購入層が重なることはないだろうが。
何にしても実物を確認してさらに「個人的にいまいちばん気になるヘッドホン」度合いが高まった。なお現在のところ、AppleStore各店とオンラインのAppleStoreのみで販売中とのことだ。
さてそのP5のデザインはクラシカルな美しさだが、アンティークヘッドホン友の会のブースにはリアルにクラシックなヘッドホンがずらっと並べられていた。中でも特に「…いい味出してやがる」と思わされたヘッドホンの写真でこのレポートを締めさせていただく。
(高橋敦)
高橋敦 プロフィール
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。