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公開日 2011/07/26 15:10

【レビュー】ついに登場したモニターヘッドホン最上位機 − SHURE「SRH940」を聴く

解像力が大幅に向上
編集部:風間雄介
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SHUREからモニターヘッドホン最上位機「SRH940」がついに発売された。当サイトでも様々な記事を展開してきたが、今回、量産品での使用感をチェックできたので、その結果を報告しよう。

SRH940

■SHUREモニターヘッドホンの最上位機がついに登場

SHUREではこれまで、モニターヘッドホンSHR840/440/240を展開してきたが、本機はその上位モデルに位置づけられるモデルだ。

特に、SRH940とSRH840は、外観が異なるが価格は接近している。SRH840も併売されるため、どちらを購入すべきか迷う方も多いだろう。SRH940は市場想定価格が26,800円前後、SRH840は20,000円前後だ。使用感や音質の比較も交えながら、SRH940の実力を確かめていきたい。

■付属品が充実。シルバーに一新した筐体デザイン

まずは基本仕様を確認しておこう。密閉ダイナミック型のヘッドホンで、ドライバー口径は40mm。マグネットにはネオジウムを採用している。ヘッドバンドの内側にはクッションを設け、装着性を高めた。またイヤーパッドはベロア調の仕上げで、着脱も可能となっている。

ジッパー付きのトラベルケースも付属し、外出時の持ち歩きにも配慮。ほかに6.3mm標準プラグアダプターや交換用ベロア素材イヤパッドなども付属している。

ジッパー付きのトラベルケースも付属

さて、SRH840と比べて大きく変わったのが外観だ。SHUREのモニターヘッドホンはこれまでブラックを基調にした精悍なデザインを採用していたが、SRH940は全面がシルバーになり、これまでのスパルタンな印象から、クリーンで柔らかな印象へと一変した。ただしプラスチックの質感は、それほど高いとは言えない。

SRH840

それとともに、細部のデザインも変化した。まず、イヤーカップがSRH940に比べ、若干大型化した。これに合わせて、SHUREロゴの入るプレート部の円形も大きくなった。なお、ヘッドバンド部に型押しの大きなSHUREロゴが入るのは従来機種と同様だ。

2.5mのストレート式ケーブルを付属

長さ3mのカール式ケーブルも付属する

■側圧は強め。ベロアイヤーパッドの耳当たりは良好

装着してみると、側圧がやや強めに感じるが、本機がモニターヘッドホンであることを考えたら納得がいく。遮音性を高めるため密閉度が重要になってくるので、この仕様は頷けるところだ。もちろんヘッドバンドを緩めれば、それとともに側圧も緩まる。

装着したところ

頭頂部のクッションも、ほどよくヘッドホンを固定する役割を果たしているが、少し頭に当たる感覚があるのは否定できない。このあたりは慣れの問題かもしれない。

ヘッドバンドの裏側にクッションを装備

ベロア素材を奢ったイヤーパッドの耳あたりも良好で、装着感はそれほど悪くない。イヤーパッドはSRH840に比べて若干大きめなので、ややオンイヤー的な装着感があったSRH840に比べ、耳全体がスポッと覆われる感覚がある。なおイヤーパッドは交換も可能で、替えが1つ付属している。

イヤーパッドはベロア素材

装着感については個人差が大きいだろうが、個人的には側圧が弱く、頭頂部のテンションも少ないSRH840の方が、装着感は好みだ。ただし、筆者は頭が大きく耳が小さいので、これを一般論として敷衍する自信が持てないのが残念なところだ。

イヤーパッドのベロアの心地よさは特筆もの。SRH840のレザー風イヤーパッドの触感も良いのだが、寒いときなどは、耳に当てたときに冷たさがストレスになる可能性もある。

■SRH940の特徴は解像感の高さ

まずは「SRH940」を単体でじっくりと聴き込んでみる。試聴にはMacbook(OS X 10.6.8/iTunes 10.3)を用い、iBasso AudioのUSB-DAC内蔵ヘッドホンアンプ「D5 Hj」を使用した。

徳永英明の「時の流れに身をまかせ」では、全体の音の躍動感に驚かされる。ニュアンスの細かな部分までが克明に描かれ、細部に至るまでの見通しが、文字通り「パーっと」晴れる印象なのだ。かんたんに言ってしまえば解像感が高いということになるのだが、そんな通り一遍の表現では言い足りないようにも思う。音の一つ一つの粒立ちがきめ細やかで、音楽の楽しさに溢れているのだ。

だから曲の触りだけを聴いて音を確かめようと思っても、結局は最後まで通して聴くことになってしまう。これまでは気づかなかった微少な音、ニュアンス、呼吸に気づき、その面白さに没頭するあまり、いつのまにか、SRH940の音質チェックという当初の目的から頭が離れていく。音楽と真正面に対峙する緊張感、そのスリリングな体験に、無意識のうちに没入してしまうのだ。

たとえば、RCサクセション「スローバラード」冒頭のピアノソロ。この曲を初めて聴いてから十数年、単純でシンプルなイントロだと思っていたが、SRH940でじっくり聴き込むと、ピアノの細かなタッチが織りなす複雑な音の陰影に、いまさらながら驚かされた。これまでは素通りしていた、ほんのわずかなミスタッチまで感じ取れ、そういった「ブレ」も含めた総体が音楽なのだということに、改めて気づかされる。

マスキングが取り払われたように細部まで見通せるようになると、これまで記憶していた美しさからはいったん遠ざかるので、一瞬違和感を覚える。だが、この音をいったん受け入れると、また別種の、もっと生々しい新たな美しさに気づくことになるのだ。

これまで無意識に折り合いを付けて、自分の中で評価を定め、いったん決着を付けていたはずの音も、ひとたびSRH940で聴くと、これまでの理解を越えた重層的な音の構成、その美しさに目を瞠ることになる。たとえば「スローバラード」で重要な役割を演じるシンバルの実体感は著しく、音が耳を突き抜け、脳も通り越え、体の奥、脊髄あたりにまで直接届いてくる。高域の伸びと制動力の確かさが、この卓越した表現力を下支えしている。

ボーカルの表現力をもう少し確かめようと、井上陽水の「TEENAGER」を聴くと、彼の独特な声質の微妙なヒダまでを、しっかりと描出する。背景のストリングスの音の実体感も確かで、バックコーラスの歌詞までしっかりと聞き取れる繊細な表現力も特筆ものだ。

■下位機種のSRH840とも比較試聴

解像感の高さを表現するだけでかなり文字量を費やしてしまったが、それ以外の部分についても触れていこう。音の傾向は下位機種のSRH840と好対照を成しているため、比較を交えながら音の印象を紹介していく。

まずはオスカー・ピーターソン・トリオ「You look good to me」を聴く。

SRH940では、冒頭のトライアングルの輝き感が際立つ。高域の強さは、この楽曲においてはプラスに働いている。さらに背後で微かに聞こえるプレーヤーの囁き声もくっきりと聞こえ、微細なニュアンスまでしっかりと描き出す能力を実感する。ムダな色付けが無い、クリアな音も好印象だ。

ただしベースを聴き込むと、実体感は感じられるものの、迫力という点ではやや乏しい。絶対的な低音の沈み込みも、水準はもちろん超えているものの、もう少し沈んで欲しいと欲張りたくなる。

続いてSRH840で同じ曲を聴くと、細かな音の表現力は、SRH940ほどではないものの、十分に高い水準だ。トライアングルやブラシの音の輝き感も、SRH940までは出ていないが、バランスが取れた描き方で好ましい。一方でプレーヤーの囁き声はあまり聞こえてこず、微少な音まで再現する解像感は、SRH940に比べて今一歩だ。

一方低音については、SRH940より好ましく感じる場面が多かった。絶対的な沈み込みがかなり深く、音が分厚い。低域の音階の移動も克明に描き出す。ベースの指使いが目に浮かぶような説得力があるのだ。

■トータルなバランスと解像感が高いSRH940

女声ボーカルや男声ボーカルも聴き込んでみた。SRH940では、声の芯はそれほど太くないが、消え際などの微少な音をしっかりと表現する。厚みはほどほどだが雰囲気はしっかりと捉え、的確に伝えてくる印象だ。声の湿り気のバランスもほどよく表現するし、様々な楽器の音を細部まで克明に描き出す。また音の空間表現力も豊かで、広がり感の高いサウンドを聴かせてくれる。

同じ楽曲をSRH840で聴くと、中低域の強さがまずは印象に残る。声の粘り気の表現力も良好。中低域に限って聴くと、説得力や表現力について、SRH840に軍配を上げる方もいるかもしれない。

だが、低域から高域までをトータルに見渡すと印象は変わってくる。全体の解像感は、SRH940と比べるといま一歩及ばない。中域/ボーカルの強さが際立つあまり、そのほかの音がやや埋没してしまう傾向がある。パワー感がしっかり欲しいという方はいいかもしれないが、全体のバランスという観点から見ると、一度SRH940を聴いてしまうと物足りなくなる。また、空間表現能力もSRH940より明らかに狭い。

■楽曲の「アラ」を丸めずに再現

なおSRH940は、音源によってはミスマッチなものもある。解像感が高い反面、音源によっては高域が耳障りに聞こえる場面がある。たとえばAKB48などを聴くと、細かな音まですべて聞こえるのはいいのだが、それがうるさく聞こえてしまうのだ。

ただしこの高域の強さは、単純に弱点とは言い切れない。ソースをしっかりと再現する能力の高さゆえだからだ。貧弱なスピーカーやヘッドホン/イヤホンを想定して作られた、テレビのダイナミックモードのようなサウンドデザインの場合、そのアラやバランスの悪さまでしっかりと反映し、その通りに表現してしまう。本機がモニターヘッドホンであることを考えたら当然の音作りだ。

とは言え、良好な録音においても若干高域が強いかな、と感じる場面があったことも事実。本機はエージングで音がかなり変わるという情報を得ていたため、比較的長時間エージングを行ったつもりだが、今後エージングがさらに進めば改善される可能性もある。



低音の表現力など少し物足りないと感じる部分もあるが、全体的な完成度は非常に高水準。この音が26,000円程度で手に入るというのは、率直に言って驚きだ。付属品の充実度を含め、コストパフォーマンスは非常に高い。同価格帯のベンチマークとなる製品であることは間違いない。

【問い合わせ先】
完実電気(株)
TEL/03-5821-1321
※2012年4月以降は03-3261-2071

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