公開日 2011/09/13 10:01
ヤマハ“AVENTAGE”を大橋伸太郎が聴く −「正確な再現性と、エンターテインメントの華がある」
「RX-A3010」で味わう、ヤマハの<真髄>
■AVアンプのオリジネーターとしての<真髄>を感じるモデル
秋から年末にかけてAVアンプの上級機が続々と発売されるが、先陣を切ってヤマハから9.2ch構成の“AVENTAGE(アベンタージュ)”「RX-A3010(発売ニュース)」が登場した。“AVENTAGE”という名称は、同社が北米で展開する高級サブネームである。
現代主流のDSP映像音響モードを搭載する一体型AVアンプは、1990年のヤマハ「AVX-2000DSP」から始まった。今回RX-A3010をじっくり視聴したが、現代の最新鋭アンプらしい透徹した解像感と歪みのなさをべースに、AVアンプのオリジネーターらしい<真髄>を感じさせる製品であった。では、その<真髄>とは何か、を解き明かしていこう。
まず、本機のプロフィールをざっと紹介しよう。本機は、アナログ構成の9chパワーアンプを内蔵。フロント/リア各2台のプレゼンススピーカーを5.1chに追加し、9.1chを実現するが、外部ステレオアンプを追加することで最大11.2ch(フロントL/R、センター、フロントプレゼンスL/R、サラウンドL/R、サラウンドバックL/R、リアプレゼンスL/R、サブウーファー×2)まで音場を拡張出来る。つまり、同社のフラグシップモデル「DSP-Z11」と同様の構成で、ヤマハの音場創成技術「シネマDSP」の最高峰「シネマDSP HD3」の音場を完全に実現することが出来る。
パワーアンプは左右独立構成で定位の正確さを追及。上位機と同じウルトラロージッターPLL回路を搭載し、DACにはバーブラウン「DSD1796」を採用した。機構面ではH型クロスフレームに1.6mm厚鋼板製制振プレートダブルボトム構造を組み合わせた専用設計シャーシを新たに採用。また、5番目の脚“A.R.T.Wedge”を底面中央に配した点はAVANTAGEシリーズ共通の特徴である。
映像面ではHQV Vidaビデオプロセッサーを搭載。SD映像だけでなくHD映像の品位も向上させ、各種映像調整機能も持つ。ネットワーク&PCオーディオ関連ではWindows7&DLNA1.5メディアレシーバー機能を内蔵。96kHz/24bitのFLAC再生も可能で、前面USB端子からはiPod/iPhoneのデジタル接続に対応している。
■単なる「背景音」ではなく、「人間賛歌」として奏でられる映画サウンド
それでは、SACD/CDのステレオ再生(アナログ入力)から試聴していこう。クラシックのピアノ曲は、強い入力で音が潰れない。ノイズがよく抑えられスケール感があり、音場の見通しが利く。高域は倍音豊かで透明。共鳴弦の響きも歪みがなく、自然なバランスで華やかさをまぶした“ヤマハトーン”だ。S/Nも高い。弱音に存在感と力があって細かな連打にはキレがある。それらを総合して明快な演奏を正確に再現し、低音の厚みに帯域の広さ、パワーアンプの力を見せ付ける。
弦楽合奏は本機の電源部の力、パワーアンプの位相管理のよさが現れる。分解能が高く個々の楽器の音色が損なわれず、しかも合奏に澄明感で、クラリティがある。旋律を担当する楽器がL/R間にくっきり浮き上がるように描写される。
ジャズ・ヴォーカルは典型的なヤマハ上位機のサウンドだ。低域に厚みがあり、伴奏楽器にリッチな表情がある。シンバルやパーカッションが透明な音場に華やかに散開し、音の収束もきれい。ベースなどの低音楽器が厚く粘っこく量感豊かなので、ステージサイトの臨場感がある。ボーカルは中空やや高めにくっきり浮き上がるが、歌手の口とマイクとの距離までが描写されヴィジュアル的な迫力がある。歌声はやや重い表現で濡れたような描写。いい意味で華、色気のあるアンプだ。電源など基礎部分を強化しないとこれは出せない。
映像ソフトはどうだろう。『ブラック・スワン』は、Dレンジの余裕をいかんなく発揮している。「白鳥の湖」を奏でるオケの描写が生彩豊かで躍動的。音場も立体的で、その中に聴き手が放り出されたような怖さがある。トライアングルやシンバルの響きにシャープな実在感があり、音場の密度がぎっしり高く、視聴位置まで金管や木管のざわめきが押し寄せる。ニナが妄想から覚め自傷行為に気付くシーンは、金管の響きが「突き刺さる」ようだ。黒鳥の羽ばたきはレンジ感と鮮度で他のアンプとは風圧が違い、迂闊にさわると怪我をしそうな凶暴さである。
また、映画サウンドの研究で先陣を切ったヤマハらしく、センターチャンネルの再現もよい。ラストのニナの呟き「完璧を感じたわ」を含め、音量大小に係わらず常時非常に鮮明に聴き取れる。
『英国王のスピーチ』は、クライマックスシーンである初の戦時下演説の響きの解像力がよく、宮殿内のモニタースピーカーがジョージ6世の声の後に引きずる残留ノイズの質感を正確に再現する。映像からイメージされる大小スタジオセットの広さの感覚と音場のそれがピタリと一致する空間描写力も見事だ。
また、同作はモーツァルトを始めとする挿入音楽がなかなかきれいな音で入っているのだが、RX-A3010はそれを単なる「背景音」ではなく、実に艶やか、かつ滑らかに「人間賛歌」として奏でる。AVアンプの仕事が、映像ソフトのサウンドデザインの奥行きや隠れた企みを表現し、「映像との掛け算で大きな効果を生み出すこと」にあるのを常に忘れない。音響機器としての正確な再現をベースに、それに加えてエンターテインメントの華がある。原点であるAVX-2000DSP以来の、ヤマハAVアンプの一貫した音作りの<真髄>がまさにそれだ。RX-A3010は、ヤマハのエッセンスが味わえる待望の製品である。
<大橋伸太郎 プロフィール>
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。
秋から年末にかけてAVアンプの上級機が続々と発売されるが、先陣を切ってヤマハから9.2ch構成の“AVENTAGE(アベンタージュ)”「RX-A3010(発売ニュース)」が登場した。“AVENTAGE”という名称は、同社が北米で展開する高級サブネームである。
現代主流のDSP映像音響モードを搭載する一体型AVアンプは、1990年のヤマハ「AVX-2000DSP」から始まった。今回RX-A3010をじっくり視聴したが、現代の最新鋭アンプらしい透徹した解像感と歪みのなさをべースに、AVアンプのオリジネーターらしい<真髄>を感じさせる製品であった。では、その<真髄>とは何か、を解き明かしていこう。
まず、本機のプロフィールをざっと紹介しよう。本機は、アナログ構成の9chパワーアンプを内蔵。フロント/リア各2台のプレゼンススピーカーを5.1chに追加し、9.1chを実現するが、外部ステレオアンプを追加することで最大11.2ch(フロントL/R、センター、フロントプレゼンスL/R、サラウンドL/R、サラウンドバックL/R、リアプレゼンスL/R、サブウーファー×2)まで音場を拡張出来る。つまり、同社のフラグシップモデル「DSP-Z11」と同様の構成で、ヤマハの音場創成技術「シネマDSP」の最高峰「シネマDSP HD3」の音場を完全に実現することが出来る。
パワーアンプは左右独立構成で定位の正確さを追及。上位機と同じウルトラロージッターPLL回路を搭載し、DACにはバーブラウン「DSD1796」を採用した。機構面ではH型クロスフレームに1.6mm厚鋼板製制振プレートダブルボトム構造を組み合わせた専用設計シャーシを新たに採用。また、5番目の脚“A.R.T.Wedge”を底面中央に配した点はAVANTAGEシリーズ共通の特徴である。
映像面ではHQV Vidaビデオプロセッサーを搭載。SD映像だけでなくHD映像の品位も向上させ、各種映像調整機能も持つ。ネットワーク&PCオーディオ関連ではWindows7&DLNA1.5メディアレシーバー機能を内蔵。96kHz/24bitのFLAC再生も可能で、前面USB端子からはiPod/iPhoneのデジタル接続に対応している。
■単なる「背景音」ではなく、「人間賛歌」として奏でられる映画サウンド
それでは、SACD/CDのステレオ再生(アナログ入力)から試聴していこう。クラシックのピアノ曲は、強い入力で音が潰れない。ノイズがよく抑えられスケール感があり、音場の見通しが利く。高域は倍音豊かで透明。共鳴弦の響きも歪みがなく、自然なバランスで華やかさをまぶした“ヤマハトーン”だ。S/Nも高い。弱音に存在感と力があって細かな連打にはキレがある。それらを総合して明快な演奏を正確に再現し、低音の厚みに帯域の広さ、パワーアンプの力を見せ付ける。
弦楽合奏は本機の電源部の力、パワーアンプの位相管理のよさが現れる。分解能が高く個々の楽器の音色が損なわれず、しかも合奏に澄明感で、クラリティがある。旋律を担当する楽器がL/R間にくっきり浮き上がるように描写される。
ジャズ・ヴォーカルは典型的なヤマハ上位機のサウンドだ。低域に厚みがあり、伴奏楽器にリッチな表情がある。シンバルやパーカッションが透明な音場に華やかに散開し、音の収束もきれい。ベースなどの低音楽器が厚く粘っこく量感豊かなので、ステージサイトの臨場感がある。ボーカルは中空やや高めにくっきり浮き上がるが、歌手の口とマイクとの距離までが描写されヴィジュアル的な迫力がある。歌声はやや重い表現で濡れたような描写。いい意味で華、色気のあるアンプだ。電源など基礎部分を強化しないとこれは出せない。
映像ソフトはどうだろう。『ブラック・スワン』は、Dレンジの余裕をいかんなく発揮している。「白鳥の湖」を奏でるオケの描写が生彩豊かで躍動的。音場も立体的で、その中に聴き手が放り出されたような怖さがある。トライアングルやシンバルの響きにシャープな実在感があり、音場の密度がぎっしり高く、視聴位置まで金管や木管のざわめきが押し寄せる。ニナが妄想から覚め自傷行為に気付くシーンは、金管の響きが「突き刺さる」ようだ。黒鳥の羽ばたきはレンジ感と鮮度で他のアンプとは風圧が違い、迂闊にさわると怪我をしそうな凶暴さである。
また、映画サウンドの研究で先陣を切ったヤマハらしく、センターチャンネルの再現もよい。ラストのニナの呟き「完璧を感じたわ」を含め、音量大小に係わらず常時非常に鮮明に聴き取れる。
『英国王のスピーチ』は、クライマックスシーンである初の戦時下演説の響きの解像力がよく、宮殿内のモニタースピーカーがジョージ6世の声の後に引きずる残留ノイズの質感を正確に再現する。映像からイメージされる大小スタジオセットの広さの感覚と音場のそれがピタリと一致する空間描写力も見事だ。
また、同作はモーツァルトを始めとする挿入音楽がなかなかきれいな音で入っているのだが、RX-A3010はそれを単なる「背景音」ではなく、実に艶やか、かつ滑らかに「人間賛歌」として奏でる。AVアンプの仕事が、映像ソフトのサウンドデザインの奥行きや隠れた企みを表現し、「映像との掛け算で大きな効果を生み出すこと」にあるのを常に忘れない。音響機器としての正確な再現をベースに、それに加えてエンターテインメントの華がある。原点であるAVX-2000DSP以来の、ヤマハAVアンプの一貫した音作りの<真髄>がまさにそれだ。RX-A3010は、ヤマハのエッセンスが味わえる待望の製品である。
<大橋伸太郎 プロフィール>
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。