公開日 2019/09/09 06:10
<IFA>異様なまでのフォーカス、かつてない衝撃。ソニーの画期的スピーカー「SA-Z1」レビュー
超弩級 “ニアフィールド・パワード・スピーカー”
IFAにおいて、ソニーは今年もオーディオ関連の展示が充実していた。なかでも、会場の喧騒とは別世界の静かな試聴室に展示された「SA-Z1」が筆者の目を引いた。シグネチャーシリーズに導入された“ニアフィールド・パワード・スピーカー”である。
■異様なほど合っているフォーカス
一度に2名ほどしか入れない小さな試聴室には壁に向けて机が置かれ、その上にパソコンとSA-Z1が載っている。椅子に座ると耳とトゥイーターの距離は70cmほどだろうか。手を伸ばせば届く位置で、文字通りの近距離リスニングだ。
距離が近いのにステレオ音場は広大で、スピーカー後方にヴォーカルの音像がピンポイントに定位し、異様なほどフォーカスが合っている。ライヴ音源では聴衆の声がリアルに広がり、会場に居合わせたような臨場感が包み込む。その超リアルな音を聴いた瞬間、このパワードスピーカーが只者ではないことに気付いた。
無骨といえるほど硬派な黒ずくめのSA-Z1は、シグネチャーシリーズの他の製品と並べても別格の存在感があるが、技術的に突き詰めた結果、この形になったという。
立方体形状のアルミ製キャビネット前方に、3つのトゥイーターを並べた「I-Array」とウーファーが見える。実は同じサイズのアシストウーファーが背中合わせでもう一つ配置され、背面に設けられたスリット状の開口部から低音成分だけを放射する。
密閉型の良質な低音を確保しつつ量感を得る手法で、2個のウーファーを対向配置することで不要振動を打ち消す効果も大きい。このウーファー配置は見た目の通り「TSUZUMI(鼓)」と名付けられた。
堅固なブリッジを介して接続されたキャビネット後方のブロックは、アンプと信号処理系の回路を左右それぞれに内蔵する。メイントゥイーター、アシストトゥイーター、メインウーファー、アシストウーファーの各ユニットを独立した4系統のアンプで駆動する仕組みだ。
それぞれのアンプはアナログとデジタルを組み合わせたハイブリッド構成なので、それを2系統と数えると、内蔵アンプは片方だけで8チャンネル、左右で16チャンネルという計算になる。
アンプ回路の原理は、同社のヘッドホンアンプ「TA-ZH1ES」のD.A.Hybridアンプと同様で、低歪で純度の高い再生音が期待できるが、今回は出力素子に窒化ガリウム(GaN)素子を使ったことが新しい。大電流でも波形がなまることなく、優れた応答を実現する素子だ。
近距離リスニングでは各ユニットの前後位置のずれによる時間差が相対的に大きくなるが、SA-Z1はFPGAを利用して時間軸を完全に揃えることで、その影響を排除。さらに、トゥイーターとウーファー間の時間軸補正量を3段階で調整することで、音色や音像の輪郭再現を好みに合わせて変えられる機能も搭載する。
補正量の調整は左チャンネルの上部に並ぶスイッチで操作できるが、その他に、D.A.Hybridアンプの補正量切り替え、アシストウーファーのオン・オフ、アシストウーファーの再生周波数範囲の変更など、豊富な調整機能を用意する。
いずれも物理スイッチでのコントロールで、アプリなどで切り替えることはできない。SA-Z1は音質重視の視点からネットワーク接続をあえて排除し、Wi-FiやBluetoothにも対応していないのだ。入力はデジタルがUSB-Bとウォークマン専用端子、アナログがXLR/RCAとステレオミニのみと、シンプルな構成に絞っている。
ユニットとアンプの挙動を信号処理で追い込むだけでなく、各ユニットの配置を高精度に揃え、理想的な点音源再生に近付けていることにも注目したい。ユニット製造の段階から従来とは桁違いの精度で位置合わせを行い、I-ARRAYと本体への組付け精度も追求。近距離リスニングだからこそ、そこまで精度を追い込むことが大きな効果を生むのだ。
■かつてない衝撃。既存スピーカーと一線を画す高精度な音場
冒頭で紹介した通り、SA-Z1は既存のスピーカーとは一線を画す高精度なステレオ音場を創成する。最初に聴いたときは、良質な開放型ヘッドホンの再生音をそのまま取り出して前方に展開したような印象を受けた。
ここまで緻密なディテールと歪のないクリアなサウンドをスピーカーから引き出すには、ハイエンドクラスのコンポーネントを組み合わせ、部屋を含めた再生環境をトータルでていねいに追い込む必要がある。
優れたヘッドフォンなら解像度が高くダイナミックレンジが広い音を楽しめるが、空気中で溶け合う自然なサウンドステージを前方に作り出すことは不可能だ。
SA-Z1は、ディテール再現と立体的な空間再現の両立を狙い、スピーカーとしては異例の精度でそれを実現した。近距離リスニングに焦点を合わせたチューニングなので、離れた位置で聴くと普通のスピーカーに近付いてしまうのだが、それでも歪を徹底的に抑えた効果は大きく、大きめの音で鳴らしてもストレスを感じない良さがある。
重低音やスケール感を求める人にはフロア型スピーカーを薦めるが、リアルな3次元ステレオ音場を目指すリスナーならぜひSA-Z1を聴いて欲しい。その再生音にかつてない衝撃を受けるはずだ。
■異様なほど合っているフォーカス
一度に2名ほどしか入れない小さな試聴室には壁に向けて机が置かれ、その上にパソコンとSA-Z1が載っている。椅子に座ると耳とトゥイーターの距離は70cmほどだろうか。手を伸ばせば届く位置で、文字通りの近距離リスニングだ。
距離が近いのにステレオ音場は広大で、スピーカー後方にヴォーカルの音像がピンポイントに定位し、異様なほどフォーカスが合っている。ライヴ音源では聴衆の声がリアルに広がり、会場に居合わせたような臨場感が包み込む。その超リアルな音を聴いた瞬間、このパワードスピーカーが只者ではないことに気付いた。
無骨といえるほど硬派な黒ずくめのSA-Z1は、シグネチャーシリーズの他の製品と並べても別格の存在感があるが、技術的に突き詰めた結果、この形になったという。
立方体形状のアルミ製キャビネット前方に、3つのトゥイーターを並べた「I-Array」とウーファーが見える。実は同じサイズのアシストウーファーが背中合わせでもう一つ配置され、背面に設けられたスリット状の開口部から低音成分だけを放射する。
密閉型の良質な低音を確保しつつ量感を得る手法で、2個のウーファーを対向配置することで不要振動を打ち消す効果も大きい。このウーファー配置は見た目の通り「TSUZUMI(鼓)」と名付けられた。
堅固なブリッジを介して接続されたキャビネット後方のブロックは、アンプと信号処理系の回路を左右それぞれに内蔵する。メイントゥイーター、アシストトゥイーター、メインウーファー、アシストウーファーの各ユニットを独立した4系統のアンプで駆動する仕組みだ。
それぞれのアンプはアナログとデジタルを組み合わせたハイブリッド構成なので、それを2系統と数えると、内蔵アンプは片方だけで8チャンネル、左右で16チャンネルという計算になる。
アンプ回路の原理は、同社のヘッドホンアンプ「TA-ZH1ES」のD.A.Hybridアンプと同様で、低歪で純度の高い再生音が期待できるが、今回は出力素子に窒化ガリウム(GaN)素子を使ったことが新しい。大電流でも波形がなまることなく、優れた応答を実現する素子だ。
近距離リスニングでは各ユニットの前後位置のずれによる時間差が相対的に大きくなるが、SA-Z1はFPGAを利用して時間軸を完全に揃えることで、その影響を排除。さらに、トゥイーターとウーファー間の時間軸補正量を3段階で調整することで、音色や音像の輪郭再現を好みに合わせて変えられる機能も搭載する。
補正量の調整は左チャンネルの上部に並ぶスイッチで操作できるが、その他に、D.A.Hybridアンプの補正量切り替え、アシストウーファーのオン・オフ、アシストウーファーの再生周波数範囲の変更など、豊富な調整機能を用意する。
いずれも物理スイッチでのコントロールで、アプリなどで切り替えることはできない。SA-Z1は音質重視の視点からネットワーク接続をあえて排除し、Wi-FiやBluetoothにも対応していないのだ。入力はデジタルがUSB-Bとウォークマン専用端子、アナログがXLR/RCAとステレオミニのみと、シンプルな構成に絞っている。
ユニットとアンプの挙動を信号処理で追い込むだけでなく、各ユニットの配置を高精度に揃え、理想的な点音源再生に近付けていることにも注目したい。ユニット製造の段階から従来とは桁違いの精度で位置合わせを行い、I-ARRAYと本体への組付け精度も追求。近距離リスニングだからこそ、そこまで精度を追い込むことが大きな効果を生むのだ。
■かつてない衝撃。既存スピーカーと一線を画す高精度な音場
冒頭で紹介した通り、SA-Z1は既存のスピーカーとは一線を画す高精度なステレオ音場を創成する。最初に聴いたときは、良質な開放型ヘッドホンの再生音をそのまま取り出して前方に展開したような印象を受けた。
ここまで緻密なディテールと歪のないクリアなサウンドをスピーカーから引き出すには、ハイエンドクラスのコンポーネントを組み合わせ、部屋を含めた再生環境をトータルでていねいに追い込む必要がある。
優れたヘッドフォンなら解像度が高くダイナミックレンジが広い音を楽しめるが、空気中で溶け合う自然なサウンドステージを前方に作り出すことは不可能だ。
SA-Z1は、ディテール再現と立体的な空間再現の両立を狙い、スピーカーとしては異例の精度でそれを実現した。近距離リスニングに焦点を合わせたチューニングなので、離れた位置で聴くと普通のスピーカーに近付いてしまうのだが、それでも歪を徹底的に抑えた効果は大きく、大きめの音で鳴らしてもストレスを感じない良さがある。
重低音やスケール感を求める人にはフロア型スピーカーを薦めるが、リアルな3次元ステレオ音場を目指すリスナーならぜひSA-Z1を聴いて欲しい。その再生音にかつてない衝撃を受けるはずだ。