公開日 2022/07/20 06:30
M2 MacBook Airレビュー。アップルは「新世代」へ移行完了した【Gadget Gate】
【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第1回
7月15日、アップルは「MacBook Air」の新モデルを発売した。この製品はどんな価値を持っているのか、アップルから貸し出された評価機材をチェックしつつ、改めて考えてみよう。
新MacBook Airは、6月の開発者会議「WWDC 2022」で発表され、およそ1ヶ月後に発売された。見てお分かりのように、過去のMacBook Airからはかなりデザインが変わった。
Macは1つのデザインを長く使うのが特徴だ。だが、2008年発売のMacBook AirとMacBook Proほど、そのデザインが長く使われ続けた製品は少ない。アルミを削り出して作る「ユニボディ」と呼ばれる形は2008年に生まれ、その後12年以上に渡って使われている。
ディスプレイやキーボードの変更、カラーバリエーションの追加に伴ってマイナーチェンジを繰り返しつつも、全体のイメージや形状自体は大きな変更をすることなく、現在まで使われ続けている。
それだけユーザーに支持されたデザイン、ということもあるのだが、長持ちしたのは、アップルの製品戦略に絡む部分も大きい。アップルは他のPCメーカーに比べモデル数が少なく、デザイン刷新のサイクルも長いが、その理由は、製造方法まで部品メーカーとともに考えた上で、コストをかけて部材を作ることにある。
そして、同じものを長く大量に作り続けることで、短期間の製造ではコスト回収がしにくい「良質な加工による外装」を使った製品を、競争力を維持した価格で販売する形になっているのだ。OSと自社に強いファンがいて、他のPCに比べると浮気されづらいから採れる戦略ではある。
逆に言えば、今回のMacBook Airがデザインを大幅変更したことは、それだけ大きな世代変化の印である、ということができる。
角をより四角くし、フラットな形状を目指したデザインは、2021年秋に発売になった「MacBook Pro 14インチ/16インチモデル」で採用されたものだ。
さらに言えば、2021年春発売の「iMac」から変化は始まっていた、といってもいい。iMacも従来のモデルに比べて角が立ったフラットデザインであったが、それ以上に、キーボードに「Touch ID」を内蔵し、最上段まで縦幅が同じデザインになっている。
このデザインとキーボード形状は2021年秋のMacBook Proへと引き継がれ、さらには新MacBook Airも同様の構造になっている。キーボードについては、ここ数年の試行錯誤を脱して、ようやく一本化されたといってもいいだろう。
主要モデルについて、これで旧デザインからの移行は完了した。唯一「Mac Pro」が残っているものの、これもアップルは、いつかはわからないが、遠くないうちに新デザインへと移行することになるだろう。
Mac Proは特殊な製品なのでちょっと置いておくとして、世の中で最も売れているMacはMacBook Airであり、その次にMacBook Pro、iMacと続く。今回で、2年をかけたアップルの「Macのデザイン変更」の流れは、おおむね完成したといっていい。
次は何年使われるのかはわからないが、「シンプルかつ仕上げの良いボディ」という意味では、2008年からの世代の美点を引き継いでいると感じる。そして、フラットなデザインはより高い剛性を感じさせるので、その点も高く評価したい。
デザイン変更の背景には、プロセッサーを中心とした技術的な変更の影響もある。ご存知の通りアップルは、Macのプロセッサーについても、2020年より、インテル製CPUから自社設計の「Appleシリコン」へと切り替えを進めている。
2020年に発売された「M1」搭載のモデルは旧デザインだが、2021年に発売されたM1搭載のiMac、「M1 Pro/Max」のMacBook Pro、「M1 Max/Ultra」搭載のMac Studio新デザインであることを考えれば、次に来た「M2」搭載のMacBook Airが新デザインになったのも良くわかる。
ベンチマーク結果を見ると、M1とM2は、1CPUコア自体の性能アップの幅は小さいものの、全体の効率アップやメモリーへのアクセススピード上昇から、それなりに性能がアップしている。
だがそれ以上に、GPUコアの搭載量が増え、M1 Pro以降で搭載された「Media Engine」がM2にも搭載された関係から、M1に比べると「グラフィック関係では速い」といえる。とはいえ、CPU/GPUコアともに搭載している数が多いM1 Proに比べると、最新のM2でもスピードでは劣る。
このことを「半導体製造の推移」で考えてみよう。M1は “初代モデル” であり、一般向け製品だったので、半導体の搭載するトランジスタ数は抑えめ(160億個)だが、次に出たM1 Pro/Maxでは、M1での経験を活かした “プロ向け” として337億個(M1 Proの場合)まで規模を大きくしている。
M2のトランジスタ数は200億個で、M1から規模が大きくなっている。これは、M1 Pro/Maxでの経験を「一般向けのプロセッサー」へとフィードバックした結果といえる。
こう見ると、M1からM1 Pro/Max、M2へと、着実にステップアップしているのがわかるだろう。M2はあくまで「M1の後継」であり、M1 Pro/Maxの後継プロセッサーではないから、コア数の関係からM1 Proの方が高速なのも当然といえる。
逆に、今後「M2 Pro/Max」が出たとして、M1 Pro/Maxに比べ、どのくらい高速化するのかは、なかなか予測が難しい話でもある。CPU/GPUコア1つ1つの性能は劇的に上がってはいないので、そこが変わらないなら、コア数を増やすかクロック周波数を高めるかして、多少速度を上げるくらいに収まるのかもしれない。
そういう製品が出ても不思議はないが、あえてスキップし、CPU/GPUコアの性能を大幅に上げることができるタイミング、例えば半導体の製造プロセスが5nm世代から3nm世代に置き換わるときまで、Proシリーズは刷新されない可能性もある。この辺はアップルの戦略次第で、噂ではなんとでも言えるのだが、明確なコメントは難しい。
アップル製品のプロセッサーは台湾TSMCで製造されているが、3nmのプロセスでの製造は今年後半と言われている。iPhoneは稼ぎ頭であり、性能と量産効率の両方を考え、最新プロセスが採用されることが多い。Macは同時か、それより後になるだろう。
そういう意味では、次のMacBook Proの性能も「次のiPhone」から探れる、というのは間違いない。
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アップルが同じデザインを長く使う理由
新MacBook Airは、6月の開発者会議「WWDC 2022」で発表され、およそ1ヶ月後に発売された。見てお分かりのように、過去のMacBook Airからはかなりデザインが変わった。
Macは1つのデザインを長く使うのが特徴だ。だが、2008年発売のMacBook AirとMacBook Proほど、そのデザインが長く使われ続けた製品は少ない。アルミを削り出して作る「ユニボディ」と呼ばれる形は2008年に生まれ、その後12年以上に渡って使われている。
ディスプレイやキーボードの変更、カラーバリエーションの追加に伴ってマイナーチェンジを繰り返しつつも、全体のイメージや形状自体は大きな変更をすることなく、現在まで使われ続けている。
それだけユーザーに支持されたデザイン、ということもあるのだが、長持ちしたのは、アップルの製品戦略に絡む部分も大きい。アップルは他のPCメーカーに比べモデル数が少なく、デザイン刷新のサイクルも長いが、その理由は、製造方法まで部品メーカーとともに考えた上で、コストをかけて部材を作ることにある。
そして、同じものを長く大量に作り続けることで、短期間の製造ではコスト回収がしにくい「良質な加工による外装」を使った製品を、競争力を維持した価格で販売する形になっているのだ。OSと自社に強いファンがいて、他のPCに比べると浮気されづらいから採れる戦略ではある。
フラットデザインは「アップル新世代への移行」の証
逆に言えば、今回のMacBook Airがデザインを大幅変更したことは、それだけ大きな世代変化の印である、ということができる。
角をより四角くし、フラットな形状を目指したデザインは、2021年秋に発売になった「MacBook Pro 14インチ/16インチモデル」で採用されたものだ。
さらに言えば、2021年春発売の「iMac」から変化は始まっていた、といってもいい。iMacも従来のモデルに比べて角が立ったフラットデザインであったが、それ以上に、キーボードに「Touch ID」を内蔵し、最上段まで縦幅が同じデザインになっている。
このデザインとキーボード形状は2021年秋のMacBook Proへと引き継がれ、さらには新MacBook Airも同様の構造になっている。キーボードについては、ここ数年の試行錯誤を脱して、ようやく一本化されたといってもいいだろう。
主要モデルについて、これで旧デザインからの移行は完了した。唯一「Mac Pro」が残っているものの、これもアップルは、いつかはわからないが、遠くないうちに新デザインへと移行することになるだろう。
Mac Proは特殊な製品なのでちょっと置いておくとして、世の中で最も売れているMacはMacBook Airであり、その次にMacBook Pro、iMacと続く。今回で、2年をかけたアップルの「Macのデザイン変更」の流れは、おおむね完成したといっていい。
次は何年使われるのかはわからないが、「シンプルかつ仕上げの良いボディ」という意味では、2008年からの世代の美点を引き継いでいると感じる。そして、フラットなデザインはより高い剛性を感じさせるので、その点も高く評価したい。
プロセッサーの刷新はどうなるのか
デザイン変更の背景には、プロセッサーを中心とした技術的な変更の影響もある。ご存知の通りアップルは、Macのプロセッサーについても、2020年より、インテル製CPUから自社設計の「Appleシリコン」へと切り替えを進めている。
2020年に発売された「M1」搭載のモデルは旧デザインだが、2021年に発売されたM1搭載のiMac、「M1 Pro/Max」のMacBook Pro、「M1 Max/Ultra」搭載のMac Studio新デザインであることを考えれば、次に来た「M2」搭載のMacBook Airが新デザインになったのも良くわかる。
ベンチマーク結果を見ると、M1とM2は、1CPUコア自体の性能アップの幅は小さいものの、全体の効率アップやメモリーへのアクセススピード上昇から、それなりに性能がアップしている。
だがそれ以上に、GPUコアの搭載量が増え、M1 Pro以降で搭載された「Media Engine」がM2にも搭載された関係から、M1に比べると「グラフィック関係では速い」といえる。とはいえ、CPU/GPUコアともに搭載している数が多いM1 Proに比べると、最新のM2でもスピードでは劣る。
このことを「半導体製造の推移」で考えてみよう。M1は “初代モデル” であり、一般向け製品だったので、半導体の搭載するトランジスタ数は抑えめ(160億個)だが、次に出たM1 Pro/Maxでは、M1での経験を活かした “プロ向け” として337億個(M1 Proの場合)まで規模を大きくしている。
M2のトランジスタ数は200億個で、M1から規模が大きくなっている。これは、M1 Pro/Maxでの経験を「一般向けのプロセッサー」へとフィードバックした結果といえる。
こう見ると、M1からM1 Pro/Max、M2へと、着実にステップアップしているのがわかるだろう。M2はあくまで「M1の後継」であり、M1 Pro/Maxの後継プロセッサーではないから、コア数の関係からM1 Proの方が高速なのも当然といえる。
逆に、今後「M2 Pro/Max」が出たとして、M1 Pro/Maxに比べ、どのくらい高速化するのかは、なかなか予測が難しい話でもある。CPU/GPUコア1つ1つの性能は劇的に上がってはいないので、そこが変わらないなら、コア数を増やすかクロック周波数を高めるかして、多少速度を上げるくらいに収まるのかもしれない。
そういう製品が出ても不思議はないが、あえてスキップし、CPU/GPUコアの性能を大幅に上げることができるタイミング、例えば半導体の製造プロセスが5nm世代から3nm世代に置き換わるときまで、Proシリーズは刷新されない可能性もある。この辺はアップルの戦略次第で、噂ではなんとでも言えるのだが、明確なコメントは難しい。
アップル製品のプロセッサーは台湾TSMCで製造されているが、3nmのプロセスでの製造は今年後半と言われている。iPhoneは稼ぎ頭であり、性能と量産効率の両方を考え、最新プロセスが採用されることが多い。Macは同時か、それより後になるだろう。
そういう意味では、次のMacBook Proの性能も「次のiPhone」から探れる、というのは間違いない。
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