公開日 2023/08/18 06:35
聴感を重視したエモーショナルな音。メイド・イン・フランスにこだわるATOLLの魅力に迫る
【特別企画】手頃な価格で音楽ファンを大切にする製品展開
メイド・イン・フランスをモットーとし、手頃な価格で購入できるエレクトロニクス製品を多数展開するフランス・ATOLL(アトール)。同社の入門グレードとなるCDプレーヤーとプリメインアンプ「CD50 Signature」を「IN50 Signature」を山之内 正氏が試聴、そのインプレッションをミュンヘン・ハイエンドでの創業者の声も交えてお届けしよう。
フランス北西部のノルマンディに本拠を置くATOLLはステファーヌとエマニュエル・デュブルーユ兄弟が1997年に設立した中堅オーディオメーカーである。パフォーマンスの高いオーディオ機器を手頃な価格で提供することを目指し、25年以上にわたってその姿勢を堅持しながら入門クラスからハイエンドの入口まで幅広い価格帯の製品群を送り出してきた。自社で設計・製造するメイド・イン・フランスを貫いていることにも注目したい。
ここでは同社のベーシックなCDプレーヤーとプリメインアンプに焦点を合わせ、ブランドの個性を探りつつ音の検証を進めていこう。今回試聴する「CD50 Signature」と「IN50 Signature」はどちらも10万円台半ばと海外製品としては身近な価格で、ペアを組んでも30万円を下回る手頃な設定が嬉しい。(編集部注:9月1日より価格改定を予定)
また、幅440mmのフルサイズとはいえ、どちらも奥行きは300mm未満、高さは90mmとスリムなサイズに収めているため、奥行きの浅いラックにもすっきり収納できるメリットがある。フランスやイギリスも特に都市部では日本と住環境に大きな違いはなく、生活空間を侵食しないオーディオの人気が高いのだ。
ATOLLの欧州向けラインナップではストリーマーを組み込んだ製品の人気が急上昇中とのことだが、それと並行してCDプレーヤーを揃えていることに同社の堅実な姿勢を読み取ることができる。この分野から撤退するメーカーが増えるなか、あえてディスクプレーヤーを求めるユーザーがATOLLのCDプレーヤーを選ぶケースが増えているのだという。
ミュンヘンで5月に行われたHighEnd2023で同社ブースを訪ねたとき、エマニュエルがそう説明してくれた。欧州ではストリーミングに向かう動きが加速しているが、フランスもドイツも根強いディスク派はいまも良質なプレーヤーを求めているらしい。安心感を求める日本の音楽ファンと通じるところがあるのだろうか。
CD50 SignatureはUSB-Bを含むデジタル入力を装備するものの、基本的には余分な機能を省いたシンプルな設計を貫いている。DACはTIのPCM1793を採用し、トロイダルトランスを用いた電源回路にもこだわりがある。
IN50 Signatureはオプションボードでデジタル入力、フォノ入力などに対応するが、4系統のライン入力を持つベースモデルはやはり基本設計がシンプルで、操作と接続に迷う余地はない。ただし、テープイン/アウトとプリアウトを装備するので意外に拡張性は高く、オプションボードを組み込めばレコード再生も視野に入る。
モニターオーディオの「Platinum 100 3G」と組み合わせ、CD50 SignatureとIN50 Signatureの再生音を確認した。
金管楽器が最大10名で演奏する『アークブラス』を聴くと、楽器の数が次第に増えていく部分や、全員が呼吸を合わせてフォルティッシモに至るクレッシェンドの音量の上がり方がアグレッシブで力強い。クールな外観から受ける印象とは逆にエネルギー密度に厚みがあり、テューバは頼もしい重低音を押し出す。
バストロンボーンとテューバが加わった金管アンサンブルは実際の人数から想像する以上に厚みのある響きを生むことが多いが、その充実したハーモニーの良さを確実に聴き取ることができた。直接音がホールの長めの残響に溶け込む様子の描写もリアルだ。
ジェーン・モンハイトとマイケル・ブーブレのデュオは二人の声の柔らかさが際立ち、ウォームな感触と高めの温度感を保ちながらマイルドに溶け合う。ホーン楽器も鋭さより柔らかさが前面に出て、ゆったりと動くベースととともにデュオを柔らかく包み込む感触が心地よい。
再生システムによっては、この曲のブラスセクションは鋭いアタックが目立ち気味になる例もあるのだが、ATOLLのペアはそれとは距離を置いたマイルドな表現が得意だ。アンプ設計のこだわりは「アナログ」と「ディスクリート」。聴感を重視してエモーショナルな音を目指す同社の設計思想を語ったステファーヌの言葉を思い出す。
この曲以外にセリア・ネルゴールやペトラ・マゴーニも聴いたが、どちらも声の個性と聴きどころを押さえた説得力のあるヴォーカルを堪能することができた。男声も含め、ヴォーカルとの相性の良さを強く印象付けるシステムだ。
編成の大きなバルトークの管弦楽作品を聴くと、微細なディテールよりもオーケストラ全体の安定したバランスと運動性の表現に耳が引き込まれる。コントラバスとティンパニの基音の音域が薄くならず、周波数バランスは緩やかな低重心指向。ただし最低音域でも発音が緩むことはなく、硬めのマレットを選んだときのティンパニの音の変化を正確に引き出してみせた。音の消え際は若干緩めになる傾向があるが、アタックが速いのでテンポがもたつくことはなく、演奏を前に進める推進力はとても力強い。
日本のオーディオ市場ではフランスのコンポーネントというと文字通り高額なハイエンドモデルの存在に注目が集まりがちだが、それとは距離を置くATOLLの志向には堅実さがあり、音楽ファンを大切にする姿勢に好印象を持った。ヴォーカルや旋律楽器の「歌」を際立たせるサウンド設計も含め、作り手の洗練された感性が伝わってくる。
(提供:DYNAUDIO JAPAN)
自社設計とメイド・イン・フランスを貫くオーディオブランド
フランス北西部のノルマンディに本拠を置くATOLLはステファーヌとエマニュエル・デュブルーユ兄弟が1997年に設立した中堅オーディオメーカーである。パフォーマンスの高いオーディオ機器を手頃な価格で提供することを目指し、25年以上にわたってその姿勢を堅持しながら入門クラスからハイエンドの入口まで幅広い価格帯の製品群を送り出してきた。自社で設計・製造するメイド・イン・フランスを貫いていることにも注目したい。
ここでは同社のベーシックなCDプレーヤーとプリメインアンプに焦点を合わせ、ブランドの個性を探りつつ音の検証を進めていこう。今回試聴する「CD50 Signature」と「IN50 Signature」はどちらも10万円台半ばと海外製品としては身近な価格で、ペアを組んでも30万円を下回る手頃な設定が嬉しい。(編集部注:9月1日より価格改定を予定)
また、幅440mmのフルサイズとはいえ、どちらも奥行きは300mm未満、高さは90mmとスリムなサイズに収めているため、奥行きの浅いラックにもすっきり収納できるメリットがある。フランスやイギリスも特に都市部では日本と住環境に大きな違いはなく、生活空間を侵食しないオーディオの人気が高いのだ。
ATOLLの欧州向けラインナップではストリーマーを組み込んだ製品の人気が急上昇中とのことだが、それと並行してCDプレーヤーを揃えていることに同社の堅実な姿勢を読み取ることができる。この分野から撤退するメーカーが増えるなか、あえてディスクプレーヤーを求めるユーザーがATOLLのCDプレーヤーを選ぶケースが増えているのだという。
ミュンヘンで5月に行われたHighEnd2023で同社ブースを訪ねたとき、エマニュエルがそう説明してくれた。欧州ではストリーミングに向かう動きが加速しているが、フランスもドイツも根強いディスク派はいまも良質なプレーヤーを求めているらしい。安心感を求める日本の音楽ファンと通じるところがあるのだろうか。
聴感を重視してエモーショナルな音を目指す
CD50 SignatureはUSB-Bを含むデジタル入力を装備するものの、基本的には余分な機能を省いたシンプルな設計を貫いている。DACはTIのPCM1793を採用し、トロイダルトランスを用いた電源回路にもこだわりがある。
IN50 Signatureはオプションボードでデジタル入力、フォノ入力などに対応するが、4系統のライン入力を持つベースモデルはやはり基本設計がシンプルで、操作と接続に迷う余地はない。ただし、テープイン/アウトとプリアウトを装備するので意外に拡張性は高く、オプションボードを組み込めばレコード再生も視野に入る。
モニターオーディオの「Platinum 100 3G」と組み合わせ、CD50 SignatureとIN50 Signatureの再生音を確認した。
金管楽器が最大10名で演奏する『アークブラス』を聴くと、楽器の数が次第に増えていく部分や、全員が呼吸を合わせてフォルティッシモに至るクレッシェンドの音量の上がり方がアグレッシブで力強い。クールな外観から受ける印象とは逆にエネルギー密度に厚みがあり、テューバは頼もしい重低音を押し出す。
バストロンボーンとテューバが加わった金管アンサンブルは実際の人数から想像する以上に厚みのある響きを生むことが多いが、その充実したハーモニーの良さを確実に聴き取ることができた。直接音がホールの長めの残響に溶け込む様子の描写もリアルだ。
ジェーン・モンハイトとマイケル・ブーブレのデュオは二人の声の柔らかさが際立ち、ウォームな感触と高めの温度感を保ちながらマイルドに溶け合う。ホーン楽器も鋭さより柔らかさが前面に出て、ゆったりと動くベースととともにデュオを柔らかく包み込む感触が心地よい。
再生システムによっては、この曲のブラスセクションは鋭いアタックが目立ち気味になる例もあるのだが、ATOLLのペアはそれとは距離を置いたマイルドな表現が得意だ。アンプ設計のこだわりは「アナログ」と「ディスクリート」。聴感を重視してエモーショナルな音を目指す同社の設計思想を語ったステファーヌの言葉を思い出す。
この曲以外にセリア・ネルゴールやペトラ・マゴーニも聴いたが、どちらも声の個性と聴きどころを押さえた説得力のあるヴォーカルを堪能することができた。男声も含め、ヴォーカルとの相性の良さを強く印象付けるシステムだ。
編成の大きなバルトークの管弦楽作品を聴くと、微細なディテールよりもオーケストラ全体の安定したバランスと運動性の表現に耳が引き込まれる。コントラバスとティンパニの基音の音域が薄くならず、周波数バランスは緩やかな低重心指向。ただし最低音域でも発音が緩むことはなく、硬めのマレットを選んだときのティンパニの音の変化を正確に引き出してみせた。音の消え際は若干緩めになる傾向があるが、アタックが速いのでテンポがもたつくことはなく、演奏を前に進める推進力はとても力強い。
日本のオーディオ市場ではフランスのコンポーネントというと文字通り高額なハイエンドモデルの存在に注目が集まりがちだが、それとは距離を置くATOLLの志向には堅実さがあり、音楽ファンを大切にする姿勢に好印象を持った。ヴォーカルや旋律楽器の「歌」を際立たせるサウンド設計も含め、作り手の洗練された感性が伝わってくる。
(提供:DYNAUDIO JAPAN)