【特別企画】話題の10万円台スピーカーにも注目
ATOLLの中核シリーズを人気スピーカーと組み合わせ!個性をどう引き出すか検証
フランスのATOLL(アトール)は、CDプレーヤーやアンプなどを中心にラインナップ、比較的リーズナブルな価格と確かな技術力で注目を集めるオーディオ専業ブランドだ。ここでは、そのエントリーである「50シリーズ」と「100シリーズ」をそれぞれ人気スピーカー3種類と組み合わせ、どのようなサウンドを送り出すのか探ってみた。
■手頃な価格で確かな技術を持つフランスのオーディオブランド
アトールは、1997年にステファーヌとエマヌエル・ドゥブルーイユという二人の兄弟によって設立されたフランスのエレクトロニクス・メーカーである。15年以上前から日本にも輸入されている。2000年前後をピークに、英国製のシンプルで価格もリーズナブルなアンプが人気を誇ったことがあるが、アトールもちょうどそういうコンセプトのブランドである。
ここでは、エントリーのひとつ上のクラスとなる「50シリーズ」(10万円台前半)と、ひとつ上の「100シリーズ」(10万円台後半〜20万円代前半)という、定番の2つのラインナップを紹介しよう。
ラインナップはシリーズによっても多少違うが、CDプレーヤーとプリメインアンプを中核に、よりグレードの高いクラス(200、300、400と数字が大きくなるほどにグレードが上がっていく)ではプリ/パワーアンプと、本格的なセパレートシステムを展開する。
もっとも充実しているのが100シリーズで、CDプレーヤー・プリメインアンプの他に、10万円台のフォノイコライザーやDAコンバーター、ヘッドホンアンプと手広く取り揃えている。その意味でも、「100シリーズ」は同社の最もスタンダードなラインナップと言えるだろう。
■本格システムの入り口となる“50シリーズ”
「50シリーズ」は100の構成をそっくり引き継いで、必要に応じて整理・縮小したものと言えそうだ。ラインナップはCDプレーヤーの「CD50 Signature」とプリメインアンプの「IN50 Signature」。名前の通りいずれもSignatureバージョンとしてパーツの強化が加えられている。
「IN50 Signature」のデカップリング・コンデンサーはムンドルフ製MKP、プリント基板にはニッケル/ゴールドの2層メッキを採用した。また「CD50 Signature」ではDACにTI社製PCM1793を使用。アナログ出力はクラスAのディスクリート差動回路としている。電源トランスはどちらもトロイダル・タイプと、妥協のないパーツ選定がなされている。
現在市場で最も競争が激しいという10万円台のスピーカーには、この「50シリーズ」がぴったりの選択肢と言ってもよさそうだ。ここでは、とりわけ人気の高い3モデルを選んで、このシリーズの魅力を様々な側面から探ってみることにしたい。
■Sonus Faber「Lumina I」 〜音楽のスピード感が生きて新鮮そのもの
ソナス・ファベールの新しいベーシック・モデルで、トレードマークの積層合板キャビネットに29mmのシルクドーム・トゥイーターと12cmのペーパーコーン・ミッドウーファーを搭載している。
いかにもしっくりとなじみそうな組み合わせだが、また実際それがはまってぴったりの音がする。バロックなど聴くと柔らかく張りのある弦楽器の音が、弾みよく流れ出してくるのに安心するのである。こういう音が出てほしかったというその通りの鳴り方だ。
ブックシェルフとしても小型の方だが、その中で無理をせずに巧みにまとめ上げた感触がある。ピアノでもタッチににじみがなく、芯がしっかりしてまったくふやけることがない。そして一音一音の立ち上がりがくっきりとして瞬発力が明瞭なのは、それこそアンプの駆動力に負うところもありそうだ。余韻はきれいに乗ってこもることはなく、低音部のフォルテが面白いように闊達に動き回る躍動感が出色と言っていい。意外なほどのシャープネスを備えているのも、アンプとのマッチングが予想以上に良好なことの現れだろう。切れのよさがポイントである。
室内楽はバロック以上に絶好と言ってよく、歯切れのよさがとにかく利いている。弦楽器の艶と粘りがちょうどよく、ハーモニーに濁りがまったく感じられない。だからいくら切れよくても決して刺々しくなることはなく、音楽のスピード感が生きて新鮮そのものである。
オーケストラは大音量になるが、そのダイナミズムが圧縮されずに起伏の大きさを余さず引き出している。トゥッティのフォルテではどうなるか心配だったが、金管楽器の強奏を整然と鳴らしてしまったパワーハンドリングを称賛したい。続くカンタービレでは多彩な色彩感で滔々と流れるようなアンサンブルの表情が深い。弦楽器も木管楽器もたっぷりと鳴って、ちょっと文句のつけようがない気がするのである。
■DYNAUDIO「Emit10」 〜解像度が高く深さのある空間表現が魅力
ディナウディオのエントリー・モデルだが、ランキングなどを見るとこの価格帯では最も人気のある製品のひとつに数えられるようだ。上級機EVOKEとそっくりの構成で、トゥイーターはインナードームHexisを装着した28mmソフトドームのCerotar。ウーファーは14cmMSPコーンで、銅クラッド・アルミ線のボイスコイルとフェライト+のデュアル・マグネットを搭載する。この組み合わせはある意味で黄金律のようなもので、これが鳴らなければちょっとがっかりというところだが、さすがに期待通りの再現力が発揮されてほっとした。
バロックの奥の深い出方が、おそらくこのクラスよりもひとつ上級のイメージなのだ。古楽器の艶やかさや粘りはもちろん、それが深さのある空間に並んで存在する感触がこの組み合わせからは自然に出てくる。このベーシックなシステムで、これだけの音が引き出せるとはちょっと思っていなかった。
ピアノはさらに高度な出方で、何より低音部の把握力が再現力全体を押し上げている。タッチが厚く芯が強く、深い音域までぐっと沈んで非常に力強い。それに支えられてどの音もタッチが明快でにじみがなく、しかも豊かな余韻にも彩られている。そして楽器そのものの存在感が高い。空間そのものと一体になったような実体感がある。そして切れのよさは言うまでもない。
室内楽はあくまでも自然で力任せに押し出してくるところはないが、それでいてあらゆる音が残すところなく拾い上げられて丁寧に描き出されている。弱音部の緻密な表情もそうだが、フォルテの強靭な響きと精緻なアンサンブルも力まずに鳴っているのが音楽性の高さというものである。
オーケストラはスピーカーの再現性が問われるソースだが、これは見事に鳴り切った。トゥッティの大音量が苦もなく強烈な響きを引き出し、楽器が混濁することもなく余韻も透明でスケールも十分だ。カンタービレの美しさもうっとり聴き入ってしまうほどだが、基本的に解像度の高さが利いているのである。
Emitを普段よりひとつ深くえぐったという印象が残る。駆動力が意外に厳しいのだ。それに応えるスピーカーにも感心するが、やはりCDプレーヤーの再現力とアンプの駆動力がものを言っているように思う。
■DALI「OBERON 5」 〜楽器の存在感が明瞭で説得力が際立つ
折角だからフロア型も聴いてみたい。こういうときに恰好の対象となるOBERONはDALIの新しいスタンダード機で、マグネットの原料である磁性粉に絶縁を施すSMCという独自の技術を採用したウッド・ファイバーコーン・ウーファーを搭載している。本機は29mmソフトドーム・トゥイーターと13cmウーファー2機による2ウェイ・モデルである。
こういう組み合わせでも、アトールの再現性は変わることがない。端正で誇張がなく、スピードと切れがあって情報量に富んでいる。スピーカーに対する把握力が、常にしっかりしていることも特徴だ。
バロックがいい出方をする。古楽器らしい艶やかな張りがシックな雰囲気を醸し出し、オーボエのわずかに哀調の乗った音色も端然と描いている。フロア型の余裕で低音弦の響きがこもらず、深みと透明感が静かに立ち込めている印象だ。音場が自然なのも信頼感につながっている。
ピアノもやはり空間の出方がフロア型らしい奥行と高さに縁どられて、楽器の存在感が明瞭だ。目の前にそのまま見える感触である。タッチが明確で、ことに低音部のフォルテが力強い。肉質感が厚いうえににじみがないため、がっしりとした量感が逃げないのである。高域の煌めくような響きもきめ細かく、表現が一回り大きく感じられる。少々音量を上げたときの説得力が際立つ印象である。
室内楽も音場の立体感がまず目に浮かぶが、低音弦の実在感が高くアンサンブルが厚い。粘りのある立ち上がりの手触りが、まさしく本物の弦楽四重奏である。低域の解像度が鍵になっている。
こうなるとオーケストラは安心して聴いていられる。トゥッティのフォルテに向けてクレッシェンドしてゆくのを待っていればいいのだ。金管楽器が悠々と幅の広い響きを吹き上げる。弦楽器は峻烈さを増しながら瑞々しく、全楽器が混濁することなく多彩なアンサンブルを繰り広げながら、頂点の大音量が壮麗に鳴り渡るのである。強烈だが少しもうるさくはなく、痺れるような快感がある。カンタービレの流麗さもたっぷりと味わえる。部屋中が音楽でいっぱいになってしまったような、幸福感を感じるのである。
他のスピーカーではどういう鳴り方をするのだろう。興味の尽きないところだが、ベーシックなシステムが期待以上の成果を見せてくれたことを喜びたい。
■手頃な価格で確かな技術を持つフランスのオーディオブランド
アトールは、1997年にステファーヌとエマヌエル・ドゥブルーイユという二人の兄弟によって設立されたフランスのエレクトロニクス・メーカーである。15年以上前から日本にも輸入されている。2000年前後をピークに、英国製のシンプルで価格もリーズナブルなアンプが人気を誇ったことがあるが、アトールもちょうどそういうコンセプトのブランドである。
ここでは、エントリーのひとつ上のクラスとなる「50シリーズ」(10万円台前半)と、ひとつ上の「100シリーズ」(10万円台後半〜20万円代前半)という、定番の2つのラインナップを紹介しよう。
ラインナップはシリーズによっても多少違うが、CDプレーヤーとプリメインアンプを中核に、よりグレードの高いクラス(200、300、400と数字が大きくなるほどにグレードが上がっていく)ではプリ/パワーアンプと、本格的なセパレートシステムを展開する。
もっとも充実しているのが100シリーズで、CDプレーヤー・プリメインアンプの他に、10万円台のフォノイコライザーやDAコンバーター、ヘッドホンアンプと手広く取り揃えている。その意味でも、「100シリーズ」は同社の最もスタンダードなラインナップと言えるだろう。
■本格システムの入り口となる“50シリーズ”
「50シリーズ」は100の構成をそっくり引き継いで、必要に応じて整理・縮小したものと言えそうだ。ラインナップはCDプレーヤーの「CD50 Signature」とプリメインアンプの「IN50 Signature」。名前の通りいずれもSignatureバージョンとしてパーツの強化が加えられている。
「IN50 Signature」のデカップリング・コンデンサーはムンドルフ製MKP、プリント基板にはニッケル/ゴールドの2層メッキを採用した。また「CD50 Signature」ではDACにTI社製PCM1793を使用。アナログ出力はクラスAのディスクリート差動回路としている。電源トランスはどちらもトロイダル・タイプと、妥協のないパーツ選定がなされている。
現在市場で最も競争が激しいという10万円台のスピーカーには、この「50シリーズ」がぴったりの選択肢と言ってもよさそうだ。ここでは、とりわけ人気の高い3モデルを選んで、このシリーズの魅力を様々な側面から探ってみることにしたい。
■Sonus Faber「Lumina I」 〜音楽のスピード感が生きて新鮮そのもの
ソナス・ファベールの新しいベーシック・モデルで、トレードマークの積層合板キャビネットに29mmのシルクドーム・トゥイーターと12cmのペーパーコーン・ミッドウーファーを搭載している。
いかにもしっくりとなじみそうな組み合わせだが、また実際それがはまってぴったりの音がする。バロックなど聴くと柔らかく張りのある弦楽器の音が、弾みよく流れ出してくるのに安心するのである。こういう音が出てほしかったというその通りの鳴り方だ。
ブックシェルフとしても小型の方だが、その中で無理をせずに巧みにまとめ上げた感触がある。ピアノでもタッチににじみがなく、芯がしっかりしてまったくふやけることがない。そして一音一音の立ち上がりがくっきりとして瞬発力が明瞭なのは、それこそアンプの駆動力に負うところもありそうだ。余韻はきれいに乗ってこもることはなく、低音部のフォルテが面白いように闊達に動き回る躍動感が出色と言っていい。意外なほどのシャープネスを備えているのも、アンプとのマッチングが予想以上に良好なことの現れだろう。切れのよさがポイントである。
室内楽はバロック以上に絶好と言ってよく、歯切れのよさがとにかく利いている。弦楽器の艶と粘りがちょうどよく、ハーモニーに濁りがまったく感じられない。だからいくら切れよくても決して刺々しくなることはなく、音楽のスピード感が生きて新鮮そのものである。
オーケストラは大音量になるが、そのダイナミズムが圧縮されずに起伏の大きさを余さず引き出している。トゥッティのフォルテではどうなるか心配だったが、金管楽器の強奏を整然と鳴らしてしまったパワーハンドリングを称賛したい。続くカンタービレでは多彩な色彩感で滔々と流れるようなアンサンブルの表情が深い。弦楽器も木管楽器もたっぷりと鳴って、ちょっと文句のつけようがない気がするのである。
■DYNAUDIO「Emit10」 〜解像度が高く深さのある空間表現が魅力
ディナウディオのエントリー・モデルだが、ランキングなどを見るとこの価格帯では最も人気のある製品のひとつに数えられるようだ。上級機EVOKEとそっくりの構成で、トゥイーターはインナードームHexisを装着した28mmソフトドームのCerotar。ウーファーは14cmMSPコーンで、銅クラッド・アルミ線のボイスコイルとフェライト+のデュアル・マグネットを搭載する。この組み合わせはある意味で黄金律のようなもので、これが鳴らなければちょっとがっかりというところだが、さすがに期待通りの再現力が発揮されてほっとした。
バロックの奥の深い出方が、おそらくこのクラスよりもひとつ上級のイメージなのだ。古楽器の艶やかさや粘りはもちろん、それが深さのある空間に並んで存在する感触がこの組み合わせからは自然に出てくる。このベーシックなシステムで、これだけの音が引き出せるとはちょっと思っていなかった。
ピアノはさらに高度な出方で、何より低音部の把握力が再現力全体を押し上げている。タッチが厚く芯が強く、深い音域までぐっと沈んで非常に力強い。それに支えられてどの音もタッチが明快でにじみがなく、しかも豊かな余韻にも彩られている。そして楽器そのものの存在感が高い。空間そのものと一体になったような実体感がある。そして切れのよさは言うまでもない。
室内楽はあくまでも自然で力任せに押し出してくるところはないが、それでいてあらゆる音が残すところなく拾い上げられて丁寧に描き出されている。弱音部の緻密な表情もそうだが、フォルテの強靭な響きと精緻なアンサンブルも力まずに鳴っているのが音楽性の高さというものである。
オーケストラはスピーカーの再現性が問われるソースだが、これは見事に鳴り切った。トゥッティの大音量が苦もなく強烈な響きを引き出し、楽器が混濁することもなく余韻も透明でスケールも十分だ。カンタービレの美しさもうっとり聴き入ってしまうほどだが、基本的に解像度の高さが利いているのである。
Emitを普段よりひとつ深くえぐったという印象が残る。駆動力が意外に厳しいのだ。それに応えるスピーカーにも感心するが、やはりCDプレーヤーの再現力とアンプの駆動力がものを言っているように思う。
■DALI「OBERON 5」 〜楽器の存在感が明瞭で説得力が際立つ
折角だからフロア型も聴いてみたい。こういうときに恰好の対象となるOBERONはDALIの新しいスタンダード機で、マグネットの原料である磁性粉に絶縁を施すSMCという独自の技術を採用したウッド・ファイバーコーン・ウーファーを搭載している。本機は29mmソフトドーム・トゥイーターと13cmウーファー2機による2ウェイ・モデルである。
こういう組み合わせでも、アトールの再現性は変わることがない。端正で誇張がなく、スピードと切れがあって情報量に富んでいる。スピーカーに対する把握力が、常にしっかりしていることも特徴だ。
バロックがいい出方をする。古楽器らしい艶やかな張りがシックな雰囲気を醸し出し、オーボエのわずかに哀調の乗った音色も端然と描いている。フロア型の余裕で低音弦の響きがこもらず、深みと透明感が静かに立ち込めている印象だ。音場が自然なのも信頼感につながっている。
ピアノもやはり空間の出方がフロア型らしい奥行と高さに縁どられて、楽器の存在感が明瞭だ。目の前にそのまま見える感触である。タッチが明確で、ことに低音部のフォルテが力強い。肉質感が厚いうえににじみがないため、がっしりとした量感が逃げないのである。高域の煌めくような響きもきめ細かく、表現が一回り大きく感じられる。少々音量を上げたときの説得力が際立つ印象である。
室内楽も音場の立体感がまず目に浮かぶが、低音弦の実在感が高くアンサンブルが厚い。粘りのある立ち上がりの手触りが、まさしく本物の弦楽四重奏である。低域の解像度が鍵になっている。
こうなるとオーケストラは安心して聴いていられる。トゥッティのフォルテに向けてクレッシェンドしてゆくのを待っていればいいのだ。金管楽器が悠々と幅の広い響きを吹き上げる。弦楽器は峻烈さを増しながら瑞々しく、全楽器が混濁することなく多彩なアンサンブルを繰り広げながら、頂点の大音量が壮麗に鳴り渡るのである。強烈だが少しもうるさくはなく、痺れるような快感がある。カンタービレの流麗さもたっぷりと味わえる。部屋中が音楽でいっぱいになってしまったような、幸福感を感じるのである。
他のスピーカーではどういう鳴り方をするのだろう。興味の尽きないところだが、ベーシックなシステムが期待以上の成果を見せてくれたことを喜びたい。