公開日 2024/06/10 06:30
上位モデルのサウンドを継承したDENONのミドルクラス「1700シリーズ」をレビュー
サウンドマスター山内真一氏が掲げる「Vivid & Spacious」のサウンドに迫る
昨年発売された「1700シリーズ」は、デノン待望の新ミドルクラスとして大きな注目を集めている。今回は、最上位モデル「SX1 LIMITED」のユーザーである林 正儀氏が、その魅力を徹底検証した。
デノンの新たなミドルクラス「1700シリーズ」を紹介するにあたり、わが家のレファレンス「DCD-SX1 LIMITED」について語りたい。
導入したのは忘れもしない2019年9月。実は従来の最高峰である「DCD-SX1」も長く愛用しており、質実剛健で低重心、ジャズを聴けばアーティストの熱量まで伝わる突進力に愛着を持っていた。その音に耳馴染んではいたが、SX1発売後にデノンのサウンドマスターに就任した山内慎一氏は、新たに「Vivid & Spacious」をサウンドコンセプトに掲げた。
「生き生きとして鮮やか」=Vivid、「空間や広がり」=Spaciousを表わすのだが、それを“具現化した”SX1 LIMITEDのサウンドに心底感銘を受けて即決したのであった。
SX1のスペシャルチューンという位置付けのLIMITEDシリーズは、基板の書き換えや400点以上の内部パーツの変更(SYコンデンサーなど)をはじめとする山内氏ならではのチューニングに驚かされた。
S/Nや繊細さは著しく向上した。立体的な表現や圧倒的なスケール感、それにビビッドな質感やほぐれの良さなど、音楽に上質な潤いと感動を与えてくれた。『季刊・オーディオアクセサリー』でも“入れ替え導入記”を寄稿している。
そんなSX1 LIMITEDの設計で得たノウハウを活かし登場したのが、ミドルクラスの1700シリーズだ。2016年に発売された従来機1600シリーズは、山内氏がサウンドマスターを担当して初めてのモデルであった。オーディオ銘機賞では銅賞を獲得するなど、ベストセラーとなった1600シリーズの後継モデルだけに、開発陣は身のひきしまる想いで携わったはずだろう。
また、前述のSX1 LIMITEDシリーズや、110シリーズといった「Vivid & Spacious」が色濃く反映されたモデル発売後の投入だけに、1700シリーズにはそのエッセンスがどれくらい継承されているのか、今回の試聴で特に注目したいポイントである。
ここで私が注目する1700シリーズの技術や機能を解説しよう。音楽再生は、ストリーミングが主流となる中、熱心なCDリスナー向けにデノンが自信をもって送り出したSACDプレーヤー「DCD-1700NE」だ。
本機は1600NEの回路を継承しつつ、パーツの厳選と徹底的な音質チューンでワンクラス上のサウンドを目指して開発された。回路部にはあえてメスは入れず、SX1 LIMITEDシリーズと同じ手法で音質強化を図った。パーツ変更は実に80以上にも及び、コスト度外視のPPSC-Xコンデンサーまで採用したのは驚きだ。
抵抗やデジタル電源、デジタルボードのコンデンサーなども変更されたが、刮目すべきは新型のドライブメカの採用だろう。不要な部品を全て削ぎ落とし、1700NE専用メカとしてリファインしているのだ。このインパクトは大きい。
さらにオーディオ基板と電源基板も一新。これらによって内部がすっきりとしたうえ、トップカバーのビスを減らして解放感を引き出すなど、細部まで抜かりない。ミドル機でここまで徹底すれば申し分ないと言える。
一方、プリメインアンプ「PMA-1700NE」は、こちらも従来モデルPMA-1600NEから内容が大きくブラッシュアップされている。中でも、新型増幅回路、電子ボリュームコントロール、ミニマムシグナルパスの3つがポイントである。
「繊細さと力強さ」を両立すべく、パワーアンプにアドバンスドUHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路を搭載する。創立110周年のPMA−A110で採用した差動2段のアンプ回路で、前作の1600NEよりも位相回転が少なくスピーカーへの適応性が広くなった。
新型電子ボリュームもA110からの移植で、電子ボリュームと電子トーンコントロールによる「ミニマムシグナルパス」を実現した。DAC回路もブラッシュアップされ、SX1 LIMITEDに採用の高品位パーツが惜しげもなく投入されているのだ。
組み合わせたスピーカーは、本誌試聴室のレファレンススピーカー、Bowers & Wilkinsの「805 D4 Signature」である。ソースダイレクトで手持ちのCD音源を再生すると、一聴して音の純粋さとサウンドステージの広がりが実感できる。素晴らしい鮮度だ。
筆者のレファレンスである幸田浩子『ARIA 花から花へ〜オペラ・アリア名曲集』では、その声も木管などの楽器も、質感がキメ細やかで瑞々しく立体的だ。ただきれいなだけではなく感情がこもって心に届く。
クリス・ポッティは、トランペットのロングトーンが柔らかく響いた。録音の良さをストレートに引き出し、「ダニー・ボーイ」のような叙情的な曲がしっとり愉しめる。ピアノは立ち上がりが良く、生き生きとして鮮度が高い。ゆっくりとした間合いが気持ち良く、互いに共感し合うようだ。これぞ「Vivid & Spacious」にマッチしたサウンドであるなと実感した。
古楽器系を1枚。イ・ムジチ『ヴィヴァルディ:四季』だ。これは目が覚めるように鮮やかなサウンドだ。より高音域が伸び、中低域を含めた全体の音域まで抜けが良い。ピリオド楽器の素朴な質感がナチュラルに引き出されて、弦楽器はさらに微細に音数多く空間に広がる。そして何より、減衰の美しさに引き込まれてしまった。演奏能力の高さや録音の良さ、音楽への想いまでリアルに表現してくれる。1700シリーズの持ち味を存分に堪能できる。
フュージョン系のジャズやロック、ポップスも何枚か聴いたが、前に出るエネルギッシュなサウンドでありながら、音量を上げても聴感的なダイナミックレンジが広いためラウドに感じない。飽和が早い非力なアンプに比べ、さすがに1700は余裕しゃくしゃくだ。新旧録音や、ジャンルの異なる音源であっても弱点がなく、ベストコンディションで音楽を堪能できた。ここまで音楽の本質を引き出せばサイコーといえるだろう。
このように、「Vivid & Spacious」なサウンドが、ミドルクラスの1700シリーズで存分に楽しむことができて、SX1 LIMITEDユーザーとしてはこれ以上にない喜びだ。いかにして上位モデルのエッセンスをC/P良く落とし込めているかに注目をしていたが、そんな期待に1700シリーズは難なく応えただけでなく、デノンサウンドの新たな一面まで垣間見ることができた。
900や600シリーズといった、デノンのエントリークラスでオーディオに目覚めたユーザーにも、ミドルクラスの1700シリーズは有力候補であるだろう。引いては、ピュアオーディオの指標となり得る製品でもあるのだ。
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.193』からの転載です
心底感銘を受けてフラグシップSX1 LIMITEDを購入した
デノンの新たなミドルクラス「1700シリーズ」を紹介するにあたり、わが家のレファレンス「DCD-SX1 LIMITED」について語りたい。
導入したのは忘れもしない2019年9月。実は従来の最高峰である「DCD-SX1」も長く愛用しており、質実剛健で低重心、ジャズを聴けばアーティストの熱量まで伝わる突進力に愛着を持っていた。その音に耳馴染んではいたが、SX1発売後にデノンのサウンドマスターに就任した山内慎一氏は、新たに「Vivid & Spacious」をサウンドコンセプトに掲げた。
「生き生きとして鮮やか」=Vivid、「空間や広がり」=Spaciousを表わすのだが、それを“具現化した”SX1 LIMITEDのサウンドに心底感銘を受けて即決したのであった。
SX1のスペシャルチューンという位置付けのLIMITEDシリーズは、基板の書き換えや400点以上の内部パーツの変更(SYコンデンサーなど)をはじめとする山内氏ならではのチューニングに驚かされた。
S/Nや繊細さは著しく向上した。立体的な表現や圧倒的なスケール感、それにビビッドな質感やほぐれの良さなど、音楽に上質な潤いと感動を与えてくれた。『季刊・オーディオアクセサリー』でも“入れ替え導入記”を寄稿している。
そんなSX1 LIMITEDの設計で得たノウハウを活かし登場したのが、ミドルクラスの1700シリーズだ。2016年に発売された従来機1600シリーズは、山内氏がサウンドマスターを担当して初めてのモデルであった。オーディオ銘機賞では銅賞を獲得するなど、ベストセラーとなった1600シリーズの後継モデルだけに、開発陣は身のひきしまる想いで携わったはずだろう。
また、前述のSX1 LIMITEDシリーズや、110シリーズといった「Vivid & Spacious」が色濃く反映されたモデル発売後の投入だけに、1700シリーズにはそのエッセンスがどれくらい継承されているのか、今回の試聴で特に注目したいポイントである。
上位からのノウハウを継承しコスト度外視のパーツも採用
ここで私が注目する1700シリーズの技術や機能を解説しよう。音楽再生は、ストリーミングが主流となる中、熱心なCDリスナー向けにデノンが自信をもって送り出したSACDプレーヤー「DCD-1700NE」だ。
本機は1600NEの回路を継承しつつ、パーツの厳選と徹底的な音質チューンでワンクラス上のサウンドを目指して開発された。回路部にはあえてメスは入れず、SX1 LIMITEDシリーズと同じ手法で音質強化を図った。パーツ変更は実に80以上にも及び、コスト度外視のPPSC-Xコンデンサーまで採用したのは驚きだ。
抵抗やデジタル電源、デジタルボードのコンデンサーなども変更されたが、刮目すべきは新型のドライブメカの採用だろう。不要な部品を全て削ぎ落とし、1700NE専用メカとしてリファインしているのだ。このインパクトは大きい。
さらにオーディオ基板と電源基板も一新。これらによって内部がすっきりとしたうえ、トップカバーのビスを減らして解放感を引き出すなど、細部まで抜かりない。ミドル機でここまで徹底すれば申し分ないと言える。
一方、プリメインアンプ「PMA-1700NE」は、こちらも従来モデルPMA-1600NEから内容が大きくブラッシュアップされている。中でも、新型増幅回路、電子ボリュームコントロール、ミニマムシグナルパスの3つがポイントである。
「繊細さと力強さ」を両立すべく、パワーアンプにアドバンスドUHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路を搭載する。創立110周年のPMA−A110で採用した差動2段のアンプ回路で、前作の1600NEよりも位相回転が少なくスピーカーへの適応性が広くなった。
新型電子ボリュームもA110からの移植で、電子ボリュームと電子トーンコントロールによる「ミニマムシグナルパス」を実現した。DAC回路もブラッシュアップされ、SX1 LIMITEDに採用の高品位パーツが惜しげもなく投入されているのだ。
音楽の本質が引き出せてサイコーと言えるだろう
組み合わせたスピーカーは、本誌試聴室のレファレンススピーカー、Bowers & Wilkinsの「805 D4 Signature」である。ソースダイレクトで手持ちのCD音源を再生すると、一聴して音の純粋さとサウンドステージの広がりが実感できる。素晴らしい鮮度だ。
筆者のレファレンスである幸田浩子『ARIA 花から花へ〜オペラ・アリア名曲集』では、その声も木管などの楽器も、質感がキメ細やかで瑞々しく立体的だ。ただきれいなだけではなく感情がこもって心に届く。
クリス・ポッティは、トランペットのロングトーンが柔らかく響いた。録音の良さをストレートに引き出し、「ダニー・ボーイ」のような叙情的な曲がしっとり愉しめる。ピアノは立ち上がりが良く、生き生きとして鮮度が高い。ゆっくりとした間合いが気持ち良く、互いに共感し合うようだ。これぞ「Vivid & Spacious」にマッチしたサウンドであるなと実感した。
古楽器系を1枚。イ・ムジチ『ヴィヴァルディ:四季』だ。これは目が覚めるように鮮やかなサウンドだ。より高音域が伸び、中低域を含めた全体の音域まで抜けが良い。ピリオド楽器の素朴な質感がナチュラルに引き出されて、弦楽器はさらに微細に音数多く空間に広がる。そして何より、減衰の美しさに引き込まれてしまった。演奏能力の高さや録音の良さ、音楽への想いまでリアルに表現してくれる。1700シリーズの持ち味を存分に堪能できる。
フュージョン系のジャズやロック、ポップスも何枚か聴いたが、前に出るエネルギッシュなサウンドでありながら、音量を上げても聴感的なダイナミックレンジが広いためラウドに感じない。飽和が早い非力なアンプに比べ、さすがに1700は余裕しゃくしゃくだ。新旧録音や、ジャンルの異なる音源であっても弱点がなく、ベストコンディションで音楽を堪能できた。ここまで音楽の本質を引き出せばサイコーといえるだろう。
このように、「Vivid & Spacious」なサウンドが、ミドルクラスの1700シリーズで存分に楽しむことができて、SX1 LIMITEDユーザーとしてはこれ以上にない喜びだ。いかにして上位モデルのエッセンスをC/P良く落とし込めているかに注目をしていたが、そんな期待に1700シリーズは難なく応えただけでなく、デノンサウンドの新たな一面まで垣間見ることができた。
900や600シリーズといった、デノンのエントリークラスでオーディオに目覚めたユーザーにも、ミドルクラスの1700シリーズは有力候補であるだろう。引いては、ピュアオーディオの指標となり得る製品でもあるのだ。
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.193』からの転載です