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公開日 2013/03/05 10:00

【海上忍のAV注目キーワード辞典】ハイレゾにも対応の新ワイヤレスオーディオ技術「WiSA」

定番から期待の新技術までおさらい
海上 忍
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【第20回:ワイヤレススピーカー】

■ワイヤレススピーカーが「アクティブスピーカー」である理由

現在のところ「ワイヤレススピーカー」という言葉の定義は曖昧で、解釈の仕方はいろいろある。ここでは、現在流通している製品を念頭に、いくつかある形態を整理するところから始めよう。

まず、現在あるワイヤレススピーカーは必ず「アクティブスピーカー」(パワードスピーカー)であること。アクティブスピーカーとは、増幅器(アンプ)を内蔵したスピーカーであり、自ら電源を必要とする。対する「パッシブスピーカー」はアンプを内蔵せず、電源も必要としない。

なぜワイヤレススピーカーが必ずアクティブスピーカーかというと、スピーカーユニット以外にも電波を受信するための装置(レシーバー)が必須だからだ。レシーバーは電波をただ受信するだけではなく、一定の規則に従い符号化されたデータを元に戻す(復号化/デコード)役割を負うため、稼働中は常に一定の電力を必要とする。しかも復号化された信号は微弱で、増幅しないかぎりは満足にスピーカーを駆動できない。

それに、パッシブスピーカーはアンプとつないだケーブル経由で駆動力を得るが、ケーブルで繋いでしまってはワイヤレススピーカーにはならない。ただし、電力調達用のケーブルは例外として「ワイヤレス」にはカウントしない、という暗黙の了解はある。だからワイヤレスピーカーは、レシーバー内蔵のアクティブスピーカーであり、厳密にいえば内蔵バッテリーもしくは電池を電源とするもの、と定義できるだろう。

■音質に大きく影響する通信方式の違い

ワイヤレススピーカーの音質は、アクティブスピーカーとしての設計に加え、レシーバー部の通信方式や性能に左右される。アクティブスピーカーの歴史は古く、ここにいうワイヤレススピーカーとは分けて考えられるため、本稿ではレシーバー部にかぎって話を進めよう。

現在流通しているワイヤレススピーカーは、通信方式に「広く普及した技術」と「独自技術」のどちらを用いるかで二分できる。前者はBluetoothとAirPlay、DLNAが典型例といえる。後者はメーカー/製品単位で異なるが、最近の製品ではDYNAUDIOの「Xeo」が好例だろう。

DYNAUDIOの「Xeo」は独自規格でのワイヤレス通信を採用

Bluetoothは、A2DPというプロファイルで音声データを転送する。プロファイルとは、通信内容や機器の種類ごとに定義される通信規約で、A2DPはハイファイオーディオ用に規定された。ただし、ハイファイとはいってもビットレートの上限は512kbps(ステレオ音声の場合)であり、データ圧縮なしには帯域が厳しい。そのため、ロッシーなオーディオコーデックとして「SBC」のサポートが必須とされ、MP3やAACがオプションとされている。

AirPlayは、iPhoneなどのiOSデバイスが標準サポートしていることから、Bluetoothと並び多くのワイヤレススピーカーに採用されている。こちらは音声データをロスレスコーデックの「Apple Lossless(ALAC)」に変換したうえで転送するため、理論上はデータ転送における得失がない。無線LAN回線を利用するため、ビットレートにも余裕がある。

パイオニアのAirPlay対応スピーカー「XW-SMA3」

DLNAは、有線/無線の別を問わずTCP/IPネットワーク経由で音声データを転送できるため、対応するワイヤレスピーカーが多い通信方式だ。DLNAサーバ機能を備えるパソコンやタブレット、スマートフォンであれば、FLACやWAVといった音源をそのまま転送できるため、音質面においては現在ある方式の中で最有力といえる。ただし、ソフトウェア/アプリの扱いやすさという点では、iOSの一貫した操作性に基づくAirPlayに一歩譲る感がある。

オンキヨーのWi-Fi/DLNA対応スピーカー「GX-W70HV」

■期待の新ワイヤレス技術「WiSA」

独自方式を除けば、BluetoothとAirPlayの2強体制といえるワイヤレススピーカーの分野だが、注目の新技術が姿を現した。その名は「Wireless Speaker and Audio(WiSA)」、KlipschやAperion Audioといった米国のオーディオメーカーのほか、パイオニアやシャープなど日本のメーカーも参加しているワイヤレスオーディオ規格であり、2013年内の商品化が見込まれている。

WiSAアソシエーション公式サイトにはパイオニアやシャープの名前も登場

WiSAでは通信に5GHz帯(U-NII)を使用、96kHz/24ビットのロスレス伝送をサポートする。マルチチャンネル再生に対応し、最大7.1chまで拡張できる。スピーカーの位置確認をレシーバー側から行う機能もサポートしており、サラウンドシステムをワイヤレスで構築する用途に期待できそうだ。

オーディオ用ワイヤレス規格としては後発という事情も手伝ってか、WiSAには細かい点にも配慮が見られる。たとえば、音信号の遅延(レイテンシ)は5マイクロ秒で固定されるため、リップシンクの調整は不要になる。アクションゲームのように、タイミングにシビアなコンテンツも扱えるはず。スピーカー間の遅延も160ナノ秒以内とごくわずかだ。96kHz/24bit以上の高品質音源をサポートする計画もあることから、オーディオファイルにも期待のワイヤレスオーディオ規格といえるだろう。


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