30年にわたるデノンのディスクプレーヤーの歴史の集大成
デノン「DCD-SX1」はこうして誕生した! − 開発者1万字インタビュー
いち早く取り組んだビット拡張
ハイレゾ再生はデノンから始まった
Advanced AL32 Processingに至るデノンのサンプリング・ビット拡張の歴史は長い。言い換えれば、デノンは“ハイレゾ”にいち早く取り組んできたのだ。米田氏は「昔話をする必要がありますね」と前置きをして、サンプリング・ビット拡張という視点からデノンの歴史について話してくれた。
「デジタル録音のスタートの話から始まります。デノンは1972年、PCMレコーダーを使って世界初のデジタル録音を行いました。私自身、まだデノンに入社しておらず直接関わったわけではないですが、携わっていた人たちの苦労は知っています。録音技術に関わる人間も、再生機器を設計する人間も、デジタルオーディオというのは、まだやらなければいけないことがたくさんあるという事実に、最初の段階で直面したのです」(米田氏)
初のPCM録音における録音スペックは44.1kHz/16bitではなく、47.25kHz/13bitだった。当時は技術的にそれが限界だったのだ。1977年には14bit化が実現したが、CD自体も規格策定は44.1kHz/14bitで進んでいたのだという。
1982年にCDが登場したが、44.1kHz/16bitという規格が決まったのはその直前だった。よって、レコーディングの世界でも16bit録音の導入はぎりぎりのタイミングだった。米田氏によれば、CD登場前後では、業務用のレコーディング機器も14bitのDACを使っており、あとの2bitを追加処理で加えることで16bitを構成していたとのことだ。
「デジタルは便利なもので、一度データにすると同じ形で何度でも再現できます。しかし、特に音楽作品については、そもそもデジタル化した段階で多くの情報が失われてしまいます。失われたものを100%再現はできないかもしれないが、せめてそのイメージや雰囲気を再現して本来の音楽作品をリスナーに伝えられないのか、それはデジタルオーディオが最初にぶつかった壁でした。そして、それは未だに大きな壁なのです」(米田氏)
「究極の理想はビット数とサンプリング数が無限大になること」と米田氏は言う。それがアナログになるというわけである。しかし、アナログではできないことが多くあった。ノイズフローをあるレベルからさらに下げること、回転系の回転ムラをゼロにすること、それはデジタルを待たずしては実現できなかった。
「録音再生がデジタルになったときは、アナログの持つ問題が全て解決できたのかというと、決してそんなことはありませんでした。量子化したときに失われた情報、その裏返しである歪み、この2つをどこまで解決できるのかというテーマが生まれたのです。1972年にデジタル録音が始まって1982年にCDが発売されるまで10年間の時間がありましたが、録音技術に携わる人々も、なんとかしたいという想いの連続だったはずです。理想に近い形へビット拡張していくという発想は、デジタル録音が誕生した時点で自ずから出てきたのです」(米田氏)
デノンは、1983年にはゼロクロス歪みを極小化する「スーパーリニアコンバーター」技術を開発した。その後にはラムダプロセッサーを生み出した。これは、デジタル信号を+方向と−方向にビットシフトして差動とすることでゼロクロス歪みをなくす技術だ。このラムダプロセッサーのような処理は、現在では多くのDACチップに内蔵されている。その点からも、デノンの先見の明が窺える。
そして1992年、ALPHAプロセッサーが誕生した。16bitのCDに対して20bitの補間を行ってアナログ波形をつくり、自然界に近い音を再現するというものだ。
ALPHAプロセッサーは、録音の現場を同じ会社に持っていたからこそ出てきた発想だった。ハードウェアだけを作っているメーカーであれば、きっと違う思想をもっていたはずだと米田氏は言う。実際に最前線で録音を手がけてきたバックボーンが、ALPHAプロセッサーに大きな影響を与えたという。レコーディングに携わる彼らにしてみれば、録音時に失われた信号を確認する方法というのが、喉から手が出るほど欲しかったのだ。
米田氏はこうも語る。「デジタルソリューションとしての32bitを使うことは、それほど難しいことではなくなっています。しかし、デジタルである以上、根本的な問題は常に付きまといます。おこがましい言い方かもしれませんが、初めてデジタルを取り込んだからこそ知る痛みが、今も延々と続いているのです」
ハイレゾ再生はデノンから始まった
Advanced AL32 Processingに至るデノンのサンプリング・ビット拡張の歴史は長い。言い換えれば、デノンは“ハイレゾ”にいち早く取り組んできたのだ。米田氏は「昔話をする必要がありますね」と前置きをして、サンプリング・ビット拡張という視点からデノンの歴史について話してくれた。
「デジタル録音のスタートの話から始まります。デノンは1972年、PCMレコーダーを使って世界初のデジタル録音を行いました。私自身、まだデノンに入社しておらず直接関わったわけではないですが、携わっていた人たちの苦労は知っています。録音技術に関わる人間も、再生機器を設計する人間も、デジタルオーディオというのは、まだやらなければいけないことがたくさんあるという事実に、最初の段階で直面したのです」(米田氏)
初のPCM録音における録音スペックは44.1kHz/16bitではなく、47.25kHz/13bitだった。当時は技術的にそれが限界だったのだ。1977年には14bit化が実現したが、CD自体も規格策定は44.1kHz/14bitで進んでいたのだという。
1982年にCDが登場したが、44.1kHz/16bitという規格が決まったのはその直前だった。よって、レコーディングの世界でも16bit録音の導入はぎりぎりのタイミングだった。米田氏によれば、CD登場前後では、業務用のレコーディング機器も14bitのDACを使っており、あとの2bitを追加処理で加えることで16bitを構成していたとのことだ。
「デジタルは便利なもので、一度データにすると同じ形で何度でも再現できます。しかし、特に音楽作品については、そもそもデジタル化した段階で多くの情報が失われてしまいます。失われたものを100%再現はできないかもしれないが、せめてそのイメージや雰囲気を再現して本来の音楽作品をリスナーに伝えられないのか、それはデジタルオーディオが最初にぶつかった壁でした。そして、それは未だに大きな壁なのです」(米田氏)
「究極の理想はビット数とサンプリング数が無限大になること」と米田氏は言う。それがアナログになるというわけである。しかし、アナログではできないことが多くあった。ノイズフローをあるレベルからさらに下げること、回転系の回転ムラをゼロにすること、それはデジタルを待たずしては実現できなかった。
「録音再生がデジタルになったときは、アナログの持つ問題が全て解決できたのかというと、決してそんなことはありませんでした。量子化したときに失われた情報、その裏返しである歪み、この2つをどこまで解決できるのかというテーマが生まれたのです。1972年にデジタル録音が始まって1982年にCDが発売されるまで10年間の時間がありましたが、録音技術に携わる人々も、なんとかしたいという想いの連続だったはずです。理想に近い形へビット拡張していくという発想は、デジタル録音が誕生した時点で自ずから出てきたのです」(米田氏)
デノンは、1983年にはゼロクロス歪みを極小化する「スーパーリニアコンバーター」技術を開発した。その後にはラムダプロセッサーを生み出した。これは、デジタル信号を+方向と−方向にビットシフトして差動とすることでゼロクロス歪みをなくす技術だ。このラムダプロセッサーのような処理は、現在では多くのDACチップに内蔵されている。その点からも、デノンの先見の明が窺える。
そして1992年、ALPHAプロセッサーが誕生した。16bitのCDに対して20bitの補間を行ってアナログ波形をつくり、自然界に近い音を再現するというものだ。
ALPHAプロセッサーは、録音の現場を同じ会社に持っていたからこそ出てきた発想だった。ハードウェアだけを作っているメーカーであれば、きっと違う思想をもっていたはずだと米田氏は言う。実際に最前線で録音を手がけてきたバックボーンが、ALPHAプロセッサーに大きな影響を与えたという。レコーディングに携わる彼らにしてみれば、録音時に失われた信号を確認する方法というのが、喉から手が出るほど欲しかったのだ。
米田氏はこうも語る。「デジタルソリューションとしての32bitを使うことは、それほど難しいことではなくなっています。しかし、デジタルである以上、根本的な問題は常に付きまといます。おこがましい言い方かもしれませんが、初めてデジタルを取り込んだからこそ知る痛みが、今も延々と続いているのです」