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公開日 2023/10/31 19:06
11月3日(金・祝)公開

「現実にゴジラが居るリアリティ」。山崎貴監督がドルビーシネマ版『ゴジラ-1.0』を語る

編集部:松永達矢
ドルビージャパンは本日10月31日、ドルビーシネマ上映作品として制作された『ゴジラ-1.0(ゴジラマイナスワン)』について、山崎貴監督(監督・脚本・VFX)・井上奈津子氏(音響効果)を招いた特別取材会を実施した。

『ゴジラ-1.0』は、2016年公開の『シン・ゴジラ』から7年ぶりとなるゴジラシリーズ国産実写長編作品。11月3日(金・祝)に公開を控える本作は、通常の上映フォーマットに加え、邦画初となる6つのラージフォーマット上映を実施する。今回の取材ではドルビージャパン主催の下、ドルビーシネマ版制作の経緯やその技術について語ってくれた。

本稿では映像・VFXについて監督である山崎貴氏が語った内容を中心に構成。記事内に作品に関するネタバレは無いため、公開を心待ちにしている読者の方も本記事を踏まえた上で作品を楽しんでいただければ幸いだ。

『ゴジラ-1.0』監督の山崎貴氏と音響効果の井上奈津子氏

>>音響効果・井上奈津子氏によるゴジラ-1.0アトモス音響制作秘話はこちらから<<


■現実にゴジラの居るリアリティを表現。ドルビーシネマ版「ゴジラ-1.0」


ドルビーシネマは、広色域で鮮明な色彩と幅広いコントラストを表現するハイダイナミックレンジ(HDR)映像「ドルビービジョン」と立体音響技術「ドルビーアトモス」、そしてこれらを活かすシアター設計までを含めたプレミアムシネマフォーマット。記事執筆時点で国内には10サイトの劇場に導入されている。

これまで数多くの作品を世に送り出してきた山崎監督にとっても、ゴジラ-1.0が初のドルビーシネマ作品ということもあり、「ずっとやりたかったので非常にうれしく思う」と素直に感情を吐露。ドルビーシネマ採用の経緯については、ラージフォーマット上映を全部やろうという流れがあり、その中でもドルビーシネマは上記の通りクリエイターとしての強い要望を抱いており、「必須だろう」と力強く応えてくれた。

念願のドルビーシネマ作品制作に喜びひとしお、という風な山崎貴監督

山崎監督は、ドルビーシネマにおけるHDRフォーマットの色数や階調表現が大きなアドバンテージだと語る。普通のフィルムではややグレー掛かってしまう黒色の締まりや、ただ白く映ってしまうような光の表現も見違えると指摘する。ドルビーシネマ館で流れるデモンストレーション映像にそれが顕著に表れていると説明し、「一般のお客さんは『やるな』となると思うんですけど、僕ら的には『超やるな』という感じ。映写機の前に映像があるのに真っ黒」とクリエイター目線でその凄みを語る。

光の表現もただ眩しいだけでなく、光の中に階調が保証されていると語り、これらすべてを統括して、「ドルビーシネマはスクリーンで切り取った先にもう一つ現実の世界があるという写実感を強く感じることができる」とベタ褒めだ。

作品内では“怖いゴジラ”を表現したかったとのことで、「現実にゴジラが居るんじゃないかという恐怖とリアリティを一番表現できたのがドルビーシネマ版」と大絶賛。映画で感情を揺さぶる際、恐怖は非常に効果的。自身の作品で初めてのドルビーシネマ作品がゴジラ-1.0になったことに「いい使い方ができた。非常にうれしく思う」とコメントした。

(C)2023 TOHO CO., LTD.

■「ドルビーシネマ化を運命付けられた作品」。VFXとHDRの関係性


本作は2K SDR撮影で行われているが、HDRグレーディング作業については完パケ後の処理ではなく、マスター素材を用いて専門スタジオのARTONE FILMにて実施。非常にハイスペックな状況で作業が行われたとのこと。

調布スタジオでCGや元素材を、ACES(Academy Color Encoding System)という異なる入力ソース間(カメラ、VFXなど)の色空間を標準化するために作られたフォーマットにて作業を行った。色空間のレンジが広く、表示デバイスに左右されないため、DIやCGを作っている段階で大きく色を変えても破綻がおきないとのこと。監督の実写作品では『アルキメデスの大戦』(2019年)から使用しているという。

(C)2023 TOHO CO., LTD.

完パケでなく、映画用に開発された規格で起こされた元素材からHDRグレーディングを行ったことで、「高い情報量をそのままドルビーシネマに落とし込めた」と山崎監督。普段の上映は元素材の一部しか表現できていない部分も、ドルビーシネマでは素材データが有する幅広い階調表現をそのまま映画にできる利点があるとのことだ。

実は、本作のドルビーシネマ化の話が舞い込んで来たのは「作品がほぼ出来上がってから」とのこと。ACESで素材を準備していたことで、何の問題もなく対応することができた。準備段階や制作の経緯を踏まえ、ゴジラ-1.0を「ドルビーシネマ化を運命付けられた作品だったんじゃないかな」と振り返った。

「そんなドルビーシネマ版でのHDR表現で、こだわった箇所はどこか」という質問に、「ゴジラが暗闇から現れる部分」と答えた。「今までのフォーマットでは再現できなかった“暗い中での色諧調”や、夜に肉眼で見ているような表現をスクリーン上で再現することができた」と訴えた。

そして、HDRの光の表現についてだが、作品の展開を気にしてか「詳しくは言えないんですけど…」と前置きした上で、「光物の表現や爆発の表現が目に眩しくても白飛びせずに階調表現を保持できている」とドルビーシネマの高い描画力を絶賛した。

ドルビーシネマが持つHDR表現の幅広さを手振りで表現する一幕も

「多くの映像素材が混在する中でのドルビーシネマ化で困難な部分はあったか」という質問に対して、もともとVFXクリエイターだった山崎監督は、作業フローを紹介しながら質問に回答。CGと実写のカットをVFXに混ぜていく上では、HDRI(High Dynamic Range Image)という広い階調情報を持った画像を用いてCGの照明を行うという。そこをしっかりクリアできていれば、外ロケで撮ったようにレンダリングが行うことができ、ACESを扱う色空間で作成することで階調情報も保たれるとのこと。

こういったフローを踏まえることで、複数素材を織り交ぜた映像のHDRグレーディングも「難しさどころか恩恵しかない」という。例として、これまでは海の中のシーンを作る上で青い方向に持っていくと、通常フォーマットだと階調が崩れバンディングノイズが発生するとのことだが、それが全く起きない。ACES色空間を用いたHDR作業と同じステータスをそのまま上映に持って行けるのは、CGにとっても非常に良いことだと力を込めた。

今作で初めてドルビーシネマで作品を手がけたが、「今後の作品においてどう技術を使っていきたいか」という質問に、「ジェラルミンですよね。照り返す金属表現のギラつきを再現したい」とコメント。CGでは難しい陽光に晒される金属表現も、ドルビーシネマではその光を表現できる利点を活かし、ジェラルミン無垢な兵器が多く登場する大戦記を撮りたいと意気込んだ。

改めてゴジラ-1.0のオススメポイントについて訊かれると、画については「現実にゴジラが居る。肉眼で見た時と同じような感覚をスクリーンで体感できる。ゴジラに本当に会いたい人はぜひドルビーシネマを選択いただければ」と締めくくった。

(C)2023 TOHO CO., LTD.



かなり余談ではあるのだが、記者は先日10月27日に開催された「『ゴジラ‐1.0』公開記念 山崎貴セレクション ゴジラ上映会」にプライベート参加。モノクロ版シン・ゴジラこと、『シン・ゴジラ:オルソ』の上映前に行われた庵野秀明監督と山崎監督のトークセッション内で、ゴジラ-1.0のラージフォーマット上映における「AIを使用したグレーディング」という話題が挙がった。そこがどうも気になったので、質疑応答の段でその詳細を伺ってみた。

先日のトークショーではどのフォーマットにおける処理とまでは語っていなかったが、“AIを使用したグレーディング”はIMAXで行われたと山崎監督。アップコンバート処理を行う際のボケをAIで処理し、IMAXカメラで撮ったような表現を提供してくれるとのこと。詳しい処理については監督をして「ブラックボックスになっているため、詳しいことはわからない」と前置きした上で、「あのアップコンバートはAIを使ったものと睨んでますね」と語ってくれた。

映画『ゴジラ-1.0』は2023年11月3日(金・祝)から全国東宝系にてロードショー。山崎監督の言うように“ゴジラに会いたい人”は、ぜひドルビーシネマ版での鑑賞をお勧めしたい。

(C)2023 TOHO CO., LTD.

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