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公開日 2024/11/22 12:31
【連載】佐野正弘のITインサイト 第135回

クレジットカードを携帯回線獲得の武器に、「dカード PLATINUM」提供の狙いを聞く

佐野正弘
携帯電話サービスの市場飽和で大きな成長が見込めなくなった携帯各社が、新たな成長領域として開拓に力を入れているものの1つに、金融・決済の分野が挙げられる。ごく最近でも、楽天グループ傘下の楽天カードがみずほ銀行から出資を受けたり、KDDIと三菱UFJフィナンシャルグループが「auじぶん銀行」「auカブコム証券」の資本関係を見直したりするなど、この分野を巡る大きな動きが相次いで起きている。

■NTTドコモが新たに発表した「dカード PLATINUM」。その経緯と狙いとは?



そうした中、NTTドコモも先日11月7日、新たに「dカード PLATINUM」の提供を発表し、大きな注目を集めている。これはNTTドコモが発行する新しいクレジットカードで、 “プラチナ” という名前の通り年会費は2万9,700円と高額だが、その分同社の料金プラン「eximoポイ活」でのポイント還元率がアップするなど、よりお得に利用できる仕組みが整えられている。

それに加えて、レストランでの優待サービスや、空港のラウンジなどが利用できる「プライオリティ・パス」など、充実したサービスが受けられる。同社が従来提供してきた「dカード GOLD」のさらに上に位置付けられるクレジットカードだ。

NTTドコモが2024年11月7日に発表した「dカード PLATINUM」。「dカード GOLD」の上位版となるプラチナカードだが、年会費はプラチナカードとしては安く設定されている

しかしなぜ、今NTTドコモは現在のタイミングで、最上位のクレジットカードを提供することになったのだろうか。その経緯と狙いについて、NTTドコモのコンシューマサービスカンパニー クレジットサービス部長の鈴木貴久彦氏と、スマートライフカンパニー クレジットサービス部 クレジットサービス戦略 戦略担当の稲村彩花氏に話を聞くことができた。

dカード PLATINUMの企画・開発に携わった、NTTドコモの鈴木氏(左)と稲村氏(右)

鈴木氏によると、そもそもNTTドコモとしては2、3年前からプラチナカードの検討はなされていたとのこと。なぜなら、これまでの最上位カード「dカード GOLD」を提供してかなりの年数が経過しており、会員数が既に1000万を超えている状況にあるからだ。それゆえユーザー側からも、よりステータスが高くサービスが充実したクレジットカードを求める声は多くあり、ノーマルカードの「dカード」と、dカード GOLDの2本立てではサービスに限界を感じていたようだ。

ただNTTドコモ、さらに言えばその販売拠点となるドコモショップは幅広い人が利用するため、扱う商材も必ずしも高額というわけではない。それゆえ年会費が10万円を超える、他のクレジットカード会社で一般的なプラチナカードをドコモショップで扱うことは、方向性が違うと考えていたという。

だがここ最近、もう少し年会費が安く、手が届きやすいプラチナカードが出てくるようになった。そこで低価格のプラチナカードの研究を進め、サービス内容に納得感があり、かつかゆい所に手が届くサービスを提供できるクレジットカードを目指して、dカード PLATINUMを提供するに至ったとのことだ。

NTTドコモの「dカード」会員数は1809万で、そのうち「dカード GOLD」の会員数は2024年10月末で1100万を突破。ゴールドカードの利用者が非常に多い状況にある

提供タイミングがeximoポイ活の開始と近く、しかもeximoポイ活で還元されるポイントがdカード GOLDの倍になる特典も用意されていることから、dカード PLATINUMはeximoポイ活の提供に合わせて設計されたようにも見える。だが鈴木氏は「そこに合わせたわけではない」と話し、eximoポイ活と直接結びつけて開発がなされたわけではないようだ。

では、dカード PLATINUMはどのような点にこだわったサービス設計がなされているのか。最も苦労し、なおかつこだわった点として稲村氏が挙げたのは、自社サービスの月額料金に対するポイント還元であるという。

dカード PLATINUMはeximoポイ活のほか、「eximo」「ドコモ光」「爆アゲセレクション」などの支払先にすることで、入会初年度は一律で利用料金の20%、2年目以降は毎月のショッピング利用額に応じて最大で20%還元する仕組みとなっている。ただ鈴木氏も「正直、元々10%(のポイント還元)でも大変で、それ以上還元するのは厳しかった」と話している。 実際dカード PLATINUMの設計段階では、その還元率は10%までだったとのこと。だがすでにdカード GOLDで通信料の10%還元を実現しており、それより上位のプラチナカードに一定のステータスを持たせるには、中途半端な還元額では納得してもらえないとして、一定の制約はあるが最大で20%還元する仕組みの導入に踏み切ったとのことだ。

そしてもう1つ、こだわったポイントとなっているのが、同社が子会社化したマネックス証券との連携であるという。実際dカード PLATINUMを用いてマネックス証券に投信積立をすると、積立額の最大3.1%が還元される。

dカード PLATINUMの券面デザイン。プラチナカードらしい高級感と落ち着きのあるデザインだが、dカード GOLDでも人気が高かったことから「ポインコ兄弟」のデザインが継続して取り入れられているとのこと

そこにはクレジットカード積立によるポイント還元を機として、マネックス証券の利用者をNTTドコモの回線契約へとつなげる狙いがあるようだ。鈴木氏は、「今までやってきた商売は、回線契約の顧客基盤の上にサービスを提供していくやり方だが、そうではなくクレジットカードをきっかけに、ドコモ回線を利用するきっかけを作る流れを作っていければ」と話しており、従来とは異なる発想で顧客拡大するという思惑も、dカード PLATINUMには込められているようだ。

もう1つ、鈴木氏が今後連携を深めて契約獲得へとつなげていきたいとしているのが、スポーツやエンタテインメントに関する優待だ。NTTドコモはdカード PLATINUMの会員に対して、プライオリティ・パスなど他のプラチナカードで一般的な特典だけでなく、NTTドコモが関連するエンタテインメントサービスへの優待施策も順次提供していく予定だとしている。

NTTドコモはマネックス証券を子会社化しているが、dカード PLATINUMは同社との連携を強化し、マネックス証券利用者をNTTドコモの回線契約に取り込む狙いもあるという

そして実は、NTTドコモはここ最近、スポーツやエンタテインメントに関する取り組みを強化している。同社はプロボクサーである井上尚弥選手のメインスポンサーであり、映像配信サービス「Lemino」で何度か同選手の試合を独占配信しているほか、IGアリーナ(愛知県新体育館)などの運営にも携わっており、さらには国立競技場の民営化に向けた優先交渉権も獲得している状況にある。

そうしたことから今後、NTTドコモはスポーツやライブエンタテインメントに大きな強みを持つ可能性が高まってきている。そしてdカード PLATINUMで、NTTドコモが関連する興行の優待が得られるとなれば、エンタテインメントを起点としてクレジットカード、そして携帯電話回線の契約へと結び付く可能性も考えられるだろう。

NTTドコモはプロボクサーの井上尚弥選手の試合を「Lemino」で何度か独占配信しているなど、スポーツやエンタテインメントの興行にも力を入れている

なお、同社の代表取締役社長である前田義晃氏は、dカード PLATINUMの発表に際して、その契約目標を「3桁万レベルに持っていきたい」と意気込んでいた。ただ鈴木氏によると、その達成時期は「ある程度中期的な話になる」と、あくまで5年前後での達成を見込むものだとしている。

ただ同社は、すでにdカード GOLDの契約数が1000万を超えるという大きな基盤が存在しており、上位のカードに対する確実なニーズも存在している。100万会員の達成も、そう難しくはないのではないかと筆者は感じている。

一方で、気になるのは若い世代に向けたサービスだ。NTTドコモは長く契約している年配者に強みを持ち、dカード PLATINUMの利用者もそうした世代が多いと想定される一方、以前から若い世代には弱いことから、オンライン専用の「ahamo」を提供するなどして若い世代の開拓にも力を入れるようになってきた。

その流れを強化する上でも、金融や決済の分野に関しても、若い世代の需要に合わせたサービス開拓は不可欠だろう。若い世代に向けた決済サービスとしては「d払い」などのスマートフォン決済が位置付けられることが多いが、スマートフォン決済では決済ができないサービスもまだ少なくないだけに、クレジットカードに関しても何らかの対応が求められるように思う。

鈴木氏は、若年層向けのクレジットカードが「あってもいいのかな、と個人的には考えている」と話すが、現時点では具体的な方針があるわけではないとのこと。ドコモショップに若い人が訪れる割合が低いということもあり、顧客接点の部分からサービス考える必要があることから、確実な需要が見込めるdカード PLATINUMと比べサービス設計に難しさがあるようだ。

ただ今後も顧客ニーズは一層多様化が進むことが考えられ、それはクレジットカードも同様だろう。dカード PLATINUMで確実にその穴の1つを埋めたことは確かだが、若い世代も含め多様化するニーズに対しスピーディーに応えることが、同社には今後一層求められることになるのではないだろうか。

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