公開日 2019/06/05 06:15
Jubilee 300B、AirForce Zeroなど
独HIGH ENDで聴いた「特別な音」<1> レコードプレーヤー/真空管アンプ注目新製品の音質をレポート
山之内 正
High Endが開催される時期のミュンヘンは爽やかな好天に恵まれることが多いのだが、10年に一度くらいの割合で冬に逆戻りしたかのような寒い日が続くことがある。今年はその寒さに見舞われ、特に後半は冷たい雨が降り続いてコートが手放せないほどだった。
その荒天にも関わらず、4日間の会期中に訪れた来場者は前年比6.5%ほど増えたという。会場を歩いた実感としてもなかなかの盛況ぶりで、ドイツにおけるハイエンドオーディオの健在をうかがわせた。
筆者がこのイベントを訪れる目的は主要ブランドの動向とハイエンドオーディオの潮流を探ることだが、もちろん個人的な興味もある。他のイベントに比べて平均水準の高い音が聴けるし、ここでなければ聴けない“特別な音”が体験できるから毎年足を運びたくなるのだ。
■OCTAVEが聴かせた、立ち去りがたくなるほどの「特別な音」
今年のHIGH ENDで聴いた特別な音の一例がOCTAVE(オクターブ)のシステムである。プリアンプ「HP-700」とモノラルパワーアンプの「Jubilee 300B」を組み合わせてフォーカルのスピーカーシステム「SCALA UTOPIA EVO」を鳴らしていたのだが、特に声のなめらかさと余韻の柔らかい質感はこれまで聴いたことのないもので、あまりの心地よさにその場から立ち去りがたくなるほどだった。
同社のAndreas Hoffmann氏によると、Jubilee 300Bは構想から10年を経て実現した渾身の作とのこと。プッシュプル回路を突き詰めてきたオクターブとしては、300Bシングルでトリプルアンプという回路構成自体が異例だし、ヒーター用に専用電源を設計する手法(7Hzの正弦波を発生)も斬新だ。同社が得意とするトランスはもちろん本機のためのカスタム設計で、20Hz以下の帯域まで特性を改善した純度の高い低音再生など、妥協することなく広帯域設計を貫いている。
300BのメーカーはElectro Harmonix(EH)とJJから選択できる。Hoffmannはそれぞれに良さがあると説明してくれたが、筆者が声のなめらかさに感心したモデルはEHの300Bを使っていた。Jubilee 300Bはペア600万円前後のフラグシップ機であり、ターンテーブルはクリアオーディオの「Master Innovation」を組み合わせていたので、総額は1000万円を軽く超える。贅沢なシステムではあるが、そこまで投資してもこれほどスムーズな音には到達しないのが普通なので、やはり特別感は半端ではない。
■言葉を交わさずとも伝わる「AirForce Zero」異次元サウンドの衝撃
HIGH ENDはレコード再生の殿堂というべきイベントで、その傾向は年々強まっている。真空管アンプでLPを鳴らしたオクターブもそうだが、ターンテーブルの領域で今年の頂点をきわめたのは「AirForce Zero」をドイツで初公開したTechDASである。同社の西川氏が秘蔵のレコードを再生しながら独自技術を紹介するプレゼンテーションはミュンヘンの会場でも大変な人気を呼び、関心の強さは日本以上かもしれない。
丸一日かけてセッティングしたというAirForce Zeroから出てくる音には微塵の揺らぎもない。盤に針を落とした瞬間から異次元の静寂が聴き手を釘付けにし、普通ならあり得ないほど音量を上げてもうるさく感じることがない。デューク・エリントン・オーケストラのライヴ録音は生演奏さながらの音圧でホーン楽器が飛び出し、オテロでデズデモーナが歌うアヴェ・マリアの消え入るような弱音に息を呑む。「LPレコードからここまで広いダイナミックレンジを引き出せるとは思ってもみなかった」。その場にいた全員がそう感じていることが表情から読み取れた。
その荒天にも関わらず、4日間の会期中に訪れた来場者は前年比6.5%ほど増えたという。会場を歩いた実感としてもなかなかの盛況ぶりで、ドイツにおけるハイエンドオーディオの健在をうかがわせた。
筆者がこのイベントを訪れる目的は主要ブランドの動向とハイエンドオーディオの潮流を探ることだが、もちろん個人的な興味もある。他のイベントに比べて平均水準の高い音が聴けるし、ここでなければ聴けない“特別な音”が体験できるから毎年足を運びたくなるのだ。
■OCTAVEが聴かせた、立ち去りがたくなるほどの「特別な音」
今年のHIGH ENDで聴いた特別な音の一例がOCTAVE(オクターブ)のシステムである。プリアンプ「HP-700」とモノラルパワーアンプの「Jubilee 300B」を組み合わせてフォーカルのスピーカーシステム「SCALA UTOPIA EVO」を鳴らしていたのだが、特に声のなめらかさと余韻の柔らかい質感はこれまで聴いたことのないもので、あまりの心地よさにその場から立ち去りがたくなるほどだった。
同社のAndreas Hoffmann氏によると、Jubilee 300Bは構想から10年を経て実現した渾身の作とのこと。プッシュプル回路を突き詰めてきたオクターブとしては、300Bシングルでトリプルアンプという回路構成自体が異例だし、ヒーター用に専用電源を設計する手法(7Hzの正弦波を発生)も斬新だ。同社が得意とするトランスはもちろん本機のためのカスタム設計で、20Hz以下の帯域まで特性を改善した純度の高い低音再生など、妥協することなく広帯域設計を貫いている。
300BのメーカーはElectro Harmonix(EH)とJJから選択できる。Hoffmannはそれぞれに良さがあると説明してくれたが、筆者が声のなめらかさに感心したモデルはEHの300Bを使っていた。Jubilee 300Bはペア600万円前後のフラグシップ機であり、ターンテーブルはクリアオーディオの「Master Innovation」を組み合わせていたので、総額は1000万円を軽く超える。贅沢なシステムではあるが、そこまで投資してもこれほどスムーズな音には到達しないのが普通なので、やはり特別感は半端ではない。
■言葉を交わさずとも伝わる「AirForce Zero」異次元サウンドの衝撃
HIGH ENDはレコード再生の殿堂というべきイベントで、その傾向は年々強まっている。真空管アンプでLPを鳴らしたオクターブもそうだが、ターンテーブルの領域で今年の頂点をきわめたのは「AirForce Zero」をドイツで初公開したTechDASである。同社の西川氏が秘蔵のレコードを再生しながら独自技術を紹介するプレゼンテーションはミュンヘンの会場でも大変な人気を呼び、関心の強さは日本以上かもしれない。
丸一日かけてセッティングしたというAirForce Zeroから出てくる音には微塵の揺らぎもない。盤に針を落とした瞬間から異次元の静寂が聴き手を釘付けにし、普通ならあり得ないほど音量を上げてもうるさく感じることがない。デューク・エリントン・オーケストラのライヴ録音は生演奏さながらの音圧でホーン楽器が飛び出し、オテロでデズデモーナが歌うアヴェ・マリアの消え入るような弱音に息を呑む。「LPレコードからここまで広いダイナミックレンジを引き出せるとは思ってもみなかった」。その場にいた全員がそう感じていることが表情から読み取れた。
- トピック
- オーディオレビュー
- HIGH END 2019