ますます高まるユーザーインターフェースの重要性
2008年 07月 29日 (火曜日)
iPodがここまでの人気を博した背景には様々な理由があるだろうが、個人的には、その大きな理由の一つにユーザーインターフェース(以下UI)の優秀さがあったのではないかと感じている。
くるくる回すだけで大量の楽曲をスムーズに閲覧できるクリックホイールは、iPodの当初のキャッチコピー「1000 songs in your pocket」の利便性をユーザーに的確に伝えるのに大きく貢献した。いくら楽曲が多く入っても、目当ての曲を探すのが面倒だったら、ユーザーはそのメリットを感じる前に投げ出してしまっただろう。iPodだけではない。シンプルさを突き詰めたiTunesの使い勝手は、今なお他社製楽曲管理ソフトのそれを引き離している。
そしていま、iPodがタッチ操作という新たなUIへの移行をはじめ、その操作感覚が多くのファンを魅了しているのは周知の通り。操作すること自体をエンターテイメントにしてしまうという発想は、これまでのAV/モバイル機器にはほとんど見られなかったものだ。もしiPhoneが、従来通りの十字キーやテンキーによるUIを搭載していたら、ここまでの熱狂ぶりは望むべくもなかっただろう。
同じくUIを一新したことで世界的なヒット商品になったものに、任天堂の「Wii」と「ニンテンドーDS」がある。ファミコンやスーパーファミコンで一時代を築き、従来型のインターフェース=コントローラーの改良に二十年以上力を注いできた同社が、まったく新しいUIを世に問うた意味は非常に大きい。
任天堂が新たなUIを採用したのは、もしかすると「遊びを変える」という意気込みだけからではなく、プレイステーションの攻勢に押された上での苦渋の決断だったかもしれないが、同社のソフト開発力の高さもあり、結果的に多くのユーザーの支持を獲得。同時に、脳トレや様々な学習ツールなど、ゲーム以外のコンテンツを取り込むことにも成功した。
●AV機器のユーザーインターフェースには課題も多い
翻って、AV機器のUIはどうなっているだろう。最近では、三菱電機のBDレコーダーにタッチ操作のリモコンが同梱されて話題を呼んだ。惜しむらくは、せっかくのタッチ操作なのに、初心者向けのものとして企画されたため、操作できる機能が限定されていること。タッチ操作で全機能を操作できるリモコンの開発に期待したい。
また、ソニーのクロスメディアバー(XMB)は、少ないボタンで操作ができるほか、横軸にカテゴリ、縦軸にコンテンツや機能が配置されるというシンプルな構造なので、直感的に操作が行える。キビキビとした動作スピードのため、ストレスなく操作が行える点も評価できる。同社ではこのXMBを、現在のPS3やPSP、BDレコーダーだけでなく、AVアンプなどにも広げる(関連ニュース)計画のようだ。主要AV機器を統一されたインターフェースで操作できれば、ユーザーが操作に戸惑うことも少なくなる。まだまだ一部の製品にとどまってはいるが、全社的に統一されたUIを採用しようとする姿勢から、同社がUIを差別化要素として積極的にアピールしようとしていることが読み取れる。
このような取り組みはあるものの、日々、自宅や小社視聴室で機器を触っていると、AV機器のUIはまだまだ未熟と感じる。GUIやリモコンの使い勝手の悪さに辟易することはしばしばだ。
GUIでは、階層を辿るとまったく別の操作マナーに変わるものが多く、戸惑うことが多い。ページが切り替わると、情報が配意される場所まで大きく変わったりする場合もある。一貫した操作体系で迷わせないように、という配慮がほとんど感じられない製品も散見される。
特定の機能を探すときにも、手当たり次第にリモコンをいじるか、分厚い説明書を見るかしないと、どこに目当ての機能があるかがすぐに分からないことが多い。しかも、わざわざ探した機能は往々にして使用頻度が低く、次に操作するときにはすっかり操作方法を忘れてしまい、また一から探し直すということも起きがちだ。
リモコンについても不満が多い。一時、かんたんさをアピールするためにボタンの数を減らすことが流行ったが、逆に使用頻度の高いボタンが減らされることも多く、マニアには不評だった。そのためか、最近ではボタンの数は「多すぎず、少なすぎず」というところに落ち着いたようだ。
ただし、これでもレコーダーなど複雑な機能を持つAV機器の場合、その使い勝手はあまり良いとは言えない。一つのボタンに複数の機能が割り当てられてたりする場合、リモコンを凝視してどれを押せばいいのか考え込むことになる。初心者がある程度の機能を使いこなそうと思ったら、相当の修練を覚悟しなければならないだろう。
レコーダーの例ばかり挙げてしまったが、機能の充実ぶりが著しい薄型テレビも、操作していて戸惑うことが増えてきた。もちろん、テレビを付けてチャンネルを変える、音量を調整するなどの基本操作は非常に行いやすく設計されているが、録画機能やネットワーク機能が充実してきたいま、テレビのユーザーインターフェースやリモコンの使い勝手についても、さらなる向上が望まれる。
AV機器を使っていて、いっそのことWiiリモコンで操作できたら、と思ったことは一度や二度ではない。リモコンを画面に向け、必要な操作をポインタで選んだり、ドラッグ&ドロップでコンテンツを並べ替えたりすることができれば、これまでにない簡便な操作が実現しそうだ。また、画面に向けて操作するリモコンの特性を活かした、新たな機能が生まれる可能性もある。
また、音声認識という方法もある。カーナビ等ではすでに実用化されているものだし、操作を音声で行えたら便利と感じる場面は多い。
もちろん、実際にWiiリモコンや音声認識をAV機器の操作に使うのは、様々な制約があり難しいだろう。だが、そのくらいの発想の大きな転換を行い、真に使いやすく、わかりやすいインターフェースを開発すれば、AV機器はより身近なものになるはずだ。スペック競争ばかりに明け暮れるのではなく、世界一の使いやすさを目指した製品があってもいい。
人間が存在する限り、「もっと使いやすく」という欲求には限りがない。それゆえ、UIの進化・改良におそらくゴールはない。そこに本格的に踏み込むことには多大な労力とコストが必要になるだろうが、得られる果実もまた大きいはず。各社の今後の取り組みに期待したい。
(風間)
くるくる回すだけで大量の楽曲をスムーズに閲覧できるクリックホイールは、iPodの当初のキャッチコピー「1000 songs in your pocket」の利便性をユーザーに的確に伝えるのに大きく貢献した。いくら楽曲が多く入っても、目当ての曲を探すのが面倒だったら、ユーザーはそのメリットを感じる前に投げ出してしまっただろう。iPodだけではない。シンプルさを突き詰めたiTunesの使い勝手は、今なお他社製楽曲管理ソフトのそれを引き離している。
そしていま、iPodがタッチ操作という新たなUIへの移行をはじめ、その操作感覚が多くのファンを魅了しているのは周知の通り。操作すること自体をエンターテイメントにしてしまうという発想は、これまでのAV/モバイル機器にはほとんど見られなかったものだ。もしiPhoneが、従来通りの十字キーやテンキーによるUIを搭載していたら、ここまでの熱狂ぶりは望むべくもなかっただろう。
同じくUIを一新したことで世界的なヒット商品になったものに、任天堂の「Wii」と「ニンテンドーDS」がある。ファミコンやスーパーファミコンで一時代を築き、従来型のインターフェース=コントローラーの改良に二十年以上力を注いできた同社が、まったく新しいUIを世に問うた意味は非常に大きい。
任天堂が新たなUIを採用したのは、もしかすると「遊びを変える」という意気込みだけからではなく、プレイステーションの攻勢に押された上での苦渋の決断だったかもしれないが、同社のソフト開発力の高さもあり、結果的に多くのユーザーの支持を獲得。同時に、脳トレや様々な学習ツールなど、ゲーム以外のコンテンツを取り込むことにも成功した。
●AV機器のユーザーインターフェースには課題も多い
翻って、AV機器のUIはどうなっているだろう。最近では、三菱電機のBDレコーダーにタッチ操作のリモコンが同梱されて話題を呼んだ。惜しむらくは、せっかくのタッチ操作なのに、初心者向けのものとして企画されたため、操作できる機能が限定されていること。タッチ操作で全機能を操作できるリモコンの開発に期待したい。
また、ソニーのクロスメディアバー(XMB)は、少ないボタンで操作ができるほか、横軸にカテゴリ、縦軸にコンテンツや機能が配置されるというシンプルな構造なので、直感的に操作が行える。キビキビとした動作スピードのため、ストレスなく操作が行える点も評価できる。同社ではこのXMBを、現在のPS3やPSP、BDレコーダーだけでなく、AVアンプなどにも広げる(関連ニュース)計画のようだ。主要AV機器を統一されたインターフェースで操作できれば、ユーザーが操作に戸惑うことも少なくなる。まだまだ一部の製品にとどまってはいるが、全社的に統一されたUIを採用しようとする姿勢から、同社がUIを差別化要素として積極的にアピールしようとしていることが読み取れる。
このような取り組みはあるものの、日々、自宅や小社視聴室で機器を触っていると、AV機器のUIはまだまだ未熟と感じる。GUIやリモコンの使い勝手の悪さに辟易することはしばしばだ。
GUIでは、階層を辿るとまったく別の操作マナーに変わるものが多く、戸惑うことが多い。ページが切り替わると、情報が配意される場所まで大きく変わったりする場合もある。一貫した操作体系で迷わせないように、という配慮がほとんど感じられない製品も散見される。
特定の機能を探すときにも、手当たり次第にリモコンをいじるか、分厚い説明書を見るかしないと、どこに目当ての機能があるかがすぐに分からないことが多い。しかも、わざわざ探した機能は往々にして使用頻度が低く、次に操作するときにはすっかり操作方法を忘れてしまい、また一から探し直すということも起きがちだ。
リモコンについても不満が多い。一時、かんたんさをアピールするためにボタンの数を減らすことが流行ったが、逆に使用頻度の高いボタンが減らされることも多く、マニアには不評だった。そのためか、最近ではボタンの数は「多すぎず、少なすぎず」というところに落ち着いたようだ。
ただし、これでもレコーダーなど複雑な機能を持つAV機器の場合、その使い勝手はあまり良いとは言えない。一つのボタンに複数の機能が割り当てられてたりする場合、リモコンを凝視してどれを押せばいいのか考え込むことになる。初心者がある程度の機能を使いこなそうと思ったら、相当の修練を覚悟しなければならないだろう。
レコーダーの例ばかり挙げてしまったが、機能の充実ぶりが著しい薄型テレビも、操作していて戸惑うことが増えてきた。もちろん、テレビを付けてチャンネルを変える、音量を調整するなどの基本操作は非常に行いやすく設計されているが、録画機能やネットワーク機能が充実してきたいま、テレビのユーザーインターフェースやリモコンの使い勝手についても、さらなる向上が望まれる。
AV機器を使っていて、いっそのことWiiリモコンで操作できたら、と思ったことは一度や二度ではない。リモコンを画面に向け、必要な操作をポインタで選んだり、ドラッグ&ドロップでコンテンツを並べ替えたりすることができれば、これまでにない簡便な操作が実現しそうだ。また、画面に向けて操作するリモコンの特性を活かした、新たな機能が生まれる可能性もある。
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(風間)
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